先日の日本皮膚科学会東京支部学術大会は、会長が順天堂大学の須賀 康 教授で専門が、角化症と美容皮膚科ということもあり、美容皮膚科のセッションも充実していました。それで、久しぶりにそれらのセッションを重点的に聴講してみました。
今、真皮コラーゲンなどについて書いているところなので、美容皮膚科の中でも真皮の部門で聴講したことについて書いてみたいと思います。
ただ、内容はその方面の専門家の宮田成章先生の著書を参考に補填して書いています。
🔷しわの治療法
初期のものには乾燥じわ、ちりめんじわがある。それらは基本保湿からスタートする。
表情じわなどで力を抜いてもだんだん線がとれなくなってきたらボトックスを使っていく。(眉間、目尻)
それでも取れないたるみ、皮膚全層の折れ曲がった大きなしわ(大じわ)になると注入や機器に移る。
ボトックスは4カ月位は持つ。フィラー(充填材)は1年半持つ。
🔷たるみの治療法
(大)じわ、たるみは皮膚、皮下脂肪、SMAS(Superficial Muscular Aponeurotic System)筋膜、表情筋、骨などが弛緩(下垂)、萎縮を生じることで現れる。
古くなってゴムが伸びてしまった風船に例えると分かり易い。充填材で全体を膨らましても妙に膨らむ。伸びた部分は、機器などを用いて強い熱を加えて組織を熱変性させて、その創傷治癒機転による引き締め治療を行う。萎縮した部分はフィラーによる充填を行う。この両者のバランスをとることがしわ、たるみの治療のキモとなる。しかしこれは若返りの治療ではなく、効果は一過性であることは大前提として認識しておく必要がある。
(1)Neuromodulator(神経調整・制御剤)
A型ボツリヌス毒素製剤。神経筋接合部でアセチルコリン受容体に結合して、注入部位の筋肉の動きを止める。神経が麻痺、変性しても約4カ月かけて徐々に再生されるので効果は期間限定。眉間と目尻の表情ジワに対して厚労省の承認を得ている。額,噛みしめの力の緩和、腋窩多汗症にも用いられている。額など効きすぎると瞼、眉が上がらないなどのトラブルがある。
(2)フィラー(充填材)
最も使われているのはヒアルロン酸製剤。関節に注入するものと異なり、加工によって短時間で吸収されないようになっている。BDDEという蛋白でヒアルロン酸分子に架橋してつなぎ合わせてある。その他にコラーゲン、ハイドロキシアパタイト、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸系などがある。ほとんどのものがその製剤のボリュームで窪んだ部分の充填による効果を目的としているが、保水力を高めたり、自己線維を増加させる効果をうたうものもある。多くは吸収性で1年程でなくなっていくが、中には免疫(アレルギー)反応、線維形成を起こすこともある。また血管へ注入すると圧迫、塞栓などを起こし、眼動脈では最悪失明、頭蓋内では脳梗塞の恐れもありうる。術者は顔面の血管走行を熟知し、血管内誤注入は避けるべきである。特に注意すべき鼻、眼の周囲の血流のdanger pointが示されてはいるが、個人的な変異、バリエーションはあるとのこと。また神経走行への配慮も必要。
(3)機器
*単極型高周波(ジュール熱方式と誘電加熱方式がある)。
モノポーラRFを使った治療法で、皮膚に当てて真皮から皮下脂肪の浅い層の温度を上げ、軽いやけど状態にして肌のたるみを引き締める。かなり疼痛があるが、耐えられるレベルで痛みの程度で表面のやけど防止になる。加熱はマイルドなので、皮膚のハリ、引き締め効果はあるが、リフトアップまでの効果はない。
*高密度焦点式超音波(High Intensity Focused Ultrasound :HIFU)
超音波の音響エネルギーを1点に集中させることで組織を焼灼する。虫眼鏡で太陽光線を1点に集めて焼灼するイメージである。音響レンズは凹面鏡のようなものであり、その焼灼点は1mm程度。皮膚表面からの深さは1.5~4.5mmに調節される。すなわち真皮から皮下脂肪、SMAS(Superficial Muscular Aponeurotic System)までがターゲットとなる。集束点は50~70度に加熱されるので蛋白変性に十分な温度になる。機種によってはモーターによってレンズが移動して連続発振して線状の焼灼ができるものもあれば、フリーハンドで移動させる機器もある。真皮には1.5ないし2mm、皮下脂肪浅層は3mm、SMASでは4.5mmを標的とする。それより深い層では顔面神経、血管などを損傷する恐れがあるので注意を要する。温度上昇がしっかり行われて線維組織、脂肪組織の破壊、再構築が行われれば、たるみの引き締め、リフトアップの効果が生じ、半年から1年間は持続する。HIFUは組織を非選択的に破壊し、深達するので、顔面神経、三叉神経の損傷は絶対に避ける必要がある。狙った層をきちんと照射できているか確認しながら施行できる超音波画像付きの機器もある。
*同期平行超音波ビーム(Synchronous Ultrasound Parallel Beam: SUPERB)
強力なエネルギー(HIFUの約20倍)の超音波(7本の超音波ビーム)を平行に発振し、真皮浅層(真皮0.5~2mm)を限局的にかつ広範囲に加熱する。そのため表皮は常に冷却して、表面麻酔をして施行する。コラーゲン、エラスチンの破壊、再構築が起こるので、小ジワやタルミに対してハリや引き締め効果が良好である。またニキビ跡にも有効である。60-70度に加熱されるが、皮下への影響がないために神経の損傷の恐れはない。対象としては皮下脂肪の少ない人向き。麻酔はリドカイン、神経ブロック、冷風機などの併用などが用いられる。皮膚表面は冷却されるので火傷はしないが、機器を浮かしすぎると火傷、色素沈着の恐れもある。
2-3週で効果が現れ、半年以上継続する。ダウンタイムが少なく、皮膚のハリ、ニキビ跡にも有効なので比較的若年者にも満足度が高い。
上記以外にも美容業界ではスレッド、エレクトロポレーション(電気的穿孔)によって薬剤を経皮的に注入する方法、多血小板血漿(Platelet-Rich Plasma :PRP)、エクソソーム製剤注入その他が行われているとのことでしたが、あまり細部にわたり評価もまちまちのようで割愛します。
皮膚科医でありながら世の中の美容医療事情に疎く、久しぶりに聴講し、調べた現況はまるで別世界の事のようでした。皮膚科医、形成外科医に限らず様々な医師が参入する美容医療の現状は、今問題となっている我が国の『直美』に限らず、この分野で先行している台湾、韓国しかり、全世界的な傾向のようだとのことです。現在の日本の美容医療は様々な問題を抱えていることも覗い知ることができました。一番の問題はこの分野の系統だった専門医育医療機関がないということでしょう。現在の大学では美容医療の勉強などはとてもできる環境ではありません。むしろ大手の美容クリニックチェーンが一部似たようなことを行っているかもしれません。ではそこが医育機関に成りうるか、到底それは無理筋でしょう。仮にほぼ保険診療の経験すらない直美の医師が美容医療に行きづまり患者から見捨てられたら将来どうなるのでしょう。また日本の美容医療の成り立ちとして、形成外科系、非形成外科系、皮膚科系などの出自の違いからそれぞれの専門医制度も異なり、複雑なうえに取得してもメリットも感じにくく、それらを嫌った若手医師の大手美容チェーンによる青田買いに拍車がかかる状況があるようです。
さらに現在の美容医療での問題は技術の優劣もさりながら、一部で誇大広告、高額な料金システム、カウンセラー、インフルエンサーなどによる不適切な誘導なども問題になっているとのことです。
将来的には美容医療に対して科学、エビデンスに基づいた教育、情報共有のための公益性のある機構の構築が持たれるべきとの識者の意見にはまさにそうだと思いました。
参考文献
第89回日本皮膚科学会東京支部学術大会 会長 須賀 康 2025.11.15-16
特別講演3 川島 眞が直言する:美容皮膚科・アンチエイジングは前進しているか? 川島 眞
アフタヌーンセミナー7【薬事承認された超音波照射器”Sofwave”~真皮へのアプローチによるスキンリジェネレーション治療~】
同期平行型超音波ビームSUPERBによるたるみ治療の臨床報告 西川礼華
同期平行型超音波器による治療の実際:熱特性の観点から 奥 謙太郎
シンポジウム4【美容皮膚科の”今”を識る】
進化を続けるデバイス治療ー主にしわ、たるみ治療についてー 宮田成章
ゼロからはじめる Non-Surgical 美容医療 宮田成章 著 全日本病因出版会 東京 2024
*一言コメント:これから美容医療をはじめるすべての若手医師、開業医、医療関係者におくる!と副題にうたってあるようにこれから美容医療をはじめる医師のみならずすでに美容医療を行っている医師にも是非一読、いや熟読していただきたい本だと思います。分かり易くかつ内容は濃いです。これに沿って研鑽を重ねて名医になっていただきたいものです。
受診前に読みたい 美容医療 ほんとのホント ーー 専門医のありていトーク 宮地良樹 宮田成章 著 中山書店 東京 2023
*一言コメント:宮田医師は前述の本でも分かるようにこの分野のスペシャリストです。一方宮地医師は京都大学皮膚科名誉教授で皮膚科の分野では、知らない人はいない程の著名人であり、その著書、編著は100冊をも超えるかと思える程、全ての皮膚科学の分野に通暁されている方です。この本は「受診前に読まないと後悔する美容医療の現実」についてディスカッションした内容を対談集としてまとめたものだそうです。美容医療の専門家の宮田先生に宮地先生が問いかけて、宮田先生が答えるという体裁を取っており、一般の人、医療知識のない患者さんでも理解できるような平易な文言が軽妙洒脱な語り口で語られています。しかしながら宮地先生は無政府状態の美容医療をなんとかまっとうな方向に軌道修正したいという信念から「日本美容皮膚科学会」「美容皮膚科・レーザー指導専門医制度」の設立を推し進めた功労者です。いわば二人の専門家が素人にも分かり易いように対談したものです。平易な文章の中に珠玉のチップスがちりばめられています。
美容医療を受けようという人には真のアドバイスが得られるかと思います。手にとって一読することをお勧めします。