小麦アレルギー

マイオピニオン  低アレルゲン小麦「しまね夢こむぎ」の実用化で小麦アレルギーを予防!
森田 栄伸: 臨床皮膚科 76巻12号 2022年11月

森田先生は島根大学で長年に渡り、小麦アレルギーの研究に携わり、同分野の日本の第一人者として活躍されてきた先生です。教授定年前に職を辞して、小麦アレルギー患者さんにも食べられる「しまね夢こむぎ」の普及、安全情報提供を担うべく、製造現場へ転職されました。自分史を振り返りながらの講演は、以前皮膚科学会総会で聴講し、感銘を受けたのでE-learningでも聴講したのですが、時間が経過したために消去されてしまい再び閲覧できなくなり、残念に思っていました。今回マイオピニオンとして寄稿されたので読んでみました。以下はその内容の抄録、抜粋です。

1.小児期の体験から
1957年広島県北部の山あいの無医地区に生まれた。隣町の開業医がたまに往診するほどの僻地だった。「医者いうもんは偉いもんじゃ」との両親の言葉を聞いて育ち、自然とその道を志すようになった。広島大学に入学し、地域医療を担う家庭医が目標であった。ところが3年次の生化学特別講義で米国Paul Berg博士(1980年ノーベル生化学賞受賞)の遺伝子改変技術の講演を聞き、それに魅せられて、すっかり研究志向に変わってしまった。熱心にアレルギー研究を行っていた山本昇壮教授の主宰する広島大学皮膚科へ入局した。
2.研究生活の始まり
臨床が終わってから夜遅くまでヒスタミン分解酵素の動物実験を繰り返した。1986年にはドイツKiel大学に留学し、IL-8やアラキドン酸代謝産物などの分析技術を磨いた。帰国後は肥満脂肪増殖因子の単離同定などを行った。
3.島根大学に赴任して
2002年に島根大学に赴任した。今までは基礎研究だったが今後は患者さんに役立つ臨床研究だけをしようと決心した。以前から興味を持っていた小麦依存性運動誘発アナフィラキシーWDEIA(wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis)の抗原同定に取り組んだ。そして薬学部の協力もあり、4年後にその主要抗原がオメガ5-グリアジンであること、その遺伝子より作成したリコンビナントオメガ5-グリアジンを利用したImmunoCAPは従来型のものより高い精度でWDEIAを診断できることが明らかになった。現在ではWDEIAはomega5-gliadin allergyとよばれるようになった。
4.退職後の取り組み
臨床研究のかたわら、ふと故郷を思い、過疎や田畑の荒廃が進み、人々の暮らしが決して便利にはなった訳ではないことを憂に感じていた。
島根大学河野先生と京都大学遠藤先生が開発したオメガ5グリアジン含量が極少量である1BS-18小麦系統(同遺伝子がある1B染色体短腕の一部が欠損したもの)が実用化できるようになった。(株)メディカル工笑の松本正人社長がそれを担当してくれるようになった。「島根県西部の耕作放棄棚田で低アレルゲン小麦の栽培」を謳い文句に「しまね夢こむぎ」の商標登録で販売されることになった。大部分の患者さんがアレルギー症状なく、食パン一枚を食べることができた。しかしそれでもオメガ5-グリアジンを微量含んでいるので安全な管理の必要性を感じており、現在は「しまね夢こむぎ」の普及と安全情報提供に向けて研鑽を積んでいる。

総会の講演でも、自分史を振り返りながら、様々な困難を乗り越えて、小麦アレルギーの臨床研究一筋に努めてきたことを話されました。その中に安来節同好会などの挿話もありました。少年の頃の夢を追い続けて、退官後もなおそれを追い続ける心に畏敬の念をおぼえ、夢がかなうように応援する気持ちが湧いてきました。
このような話は、単なる成功物語ではなく、少年の夢を追い続ける大切さを教えてくれ、将来の医師を目指す若者にも読んでもらいたいと思いました。

なお、小麦アレルギーについては当ブログでも島根大学の千貫先生の話を始め、いくつか取り上げています。ご参考までに。

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