常染色体潜性(劣性)先天性魚鱗癬で、葉状魚鱗癬、先天性魚鱗癬様紅皮症、道化師様魚鱗癬の3種類があります。全身の潮紅と微細白色鱗屑が特徴で、これらは病変の程度や重症度のみの違いのみとの考えもありますが、症状・病因・遺伝ともに多彩で単一の疾患ではないとの考えもあります。
大部分は潜性遺伝ですが、中には顕性(優性)遺伝を示すものもあるとされます。
頻度は常染色体顕性遺伝性の魚鱗癬(尋常性魚鱗癬は約250人に1人、伴性遺伝性魚鱗癬は男性2000≁6000人に1人、表皮融解性魚鱗癬は10万≁20万人に1人)と比べると低く、常染色体潜性先天性魚鱗癬では20~30万人に1人、葉状魚鱗癬では50万人に1人、道化師様魚鱗癬では30万人に1人といわれています。ちなみに症候性の魚鱗癬では非常に稀少であり、例えばNetherton症候群では100万人に1人といわれています。
(1)葉状魚鱗癬
出生時にはコロジオン児(膜性の厚い角化物質に覆われた状態で出生し、2,3日うちに乾燥し剥がれ落ちる)として出生することも多く、生下時から暗褐色調で大きく厚い板状、葉状の鱗屑が全身にみられますが、潮紅は目立ちません。眼瞼外反、手指関節の拘縮がしばしばみられます。爪甲肥厚、鉤彎、爪下角質増殖がみられます。顔面、掌蹠も軽度ながら侵されます。症状に軽重があるものの難治性で症状の軽快傾向は通常みられません。
病因としてTGM1(transglutaminase 1)遺伝子変異によることが多いとされますが、その他にも多数の遺伝子変異の関与が報告されています。
ABCA12, NIPAL4, ALOX12B, ALOXE3, CYP4F22, SDR9C7, PNPLA1, CERS3, LIPN
病理組織は非特異的ですが、不全角化を伴う角質肥厚、表皮肥厚、顆粒層の肥厚が認められます。
(2)先天性魚鱗癬様紅皮症
コロジオン児として出生することもしばしばみられます。皮膚の潮紅および白色から明るい灰色の細かい鱗屑を広範囲に認めます。紅皮症から鱗屑の範囲、程度は様々です。新生児期には軽度の眼瞼外反、口唇の突出開口を認めることもあります。掌蹠の角化も伴います。
病因として、TGM1, ABCA12, NIPAL4, ALOX12Bが同定されています。
様々な程度の不全角化を伴う角質の肥厚を認めます。
(3)道化師様魚鱗癬
魚鱗癬の中で最も重篤な病型です。出生時には、全身が厚い板状の角質に覆われていて、眼瞼外反、口唇突出、開口、耳介の変形は高度です。皮膚が乾燥するにつれて皮膚表面の引きつれは亀裂を生じます。新生児期の死亡例も稀ではなく、死亡率は30%に達するともいわれます。近年はレチノイドの使用により長期生存例もみられます。
病因は皮膚の細胞間脂質輸送に重要な役割を持つ(transporter)ABCA12遺伝子の重篤な機能障害によるとされます。
ABCAの1アミノ酸置換をきたすミスセンス変異では、葉状魚鱗癬に、frameshiftなどのtruncationを呈するナンセンス変異では道化師様魚鱗癬を生じるとされます。
光顕では著明な角化細胞の堆積を認め、電顕では角化細胞内の異常な脂肪滴と顆粒構造、異常な層板顆粒の形成ないし欠損がみられます。
根本的治療法はありませんが、新生児期には保湿剤を中心に輸液管理や感染のコントロールになどの全身管理を行います。
重症例ではレチノイドの全身投与も行われますが、口唇炎、肝機能障害、催奇形性や骨発育障害への注意が必要です。
参考文献
皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 15章 角化症 pp341-377
標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285
皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
須賀 康 XIV 角化症 1 魚鱗癬 pp167-168
秋山真志 道化師様魚鱗癬の原因蛋白ABCA12について 臨皮 60(5増):49-54,2005
滝沢佐和、他 TGM1遺伝子変異が同定された葉状魚鱗癬の姉弟症例 臨皮 69:917-922,2015
江川貞恵、他 エトレチネートが著効を示した道化師様魚鱗癬の1例 臨皮 59:1049-1052,2005
中野さち子、他 道化師様魚鱗癬の兄弟例 臨皮 63:356-361,2009
【補遺】
角層(角質細胞層)は約10層からなり、脱核し死んだ角化細胞は膜状になり、落ち葉を敷きつめたように重層化する。
角層細胞は扁平で、細胞質内は凝集したケラチン線維で満たされている。顆粒層の直上で細胞形態が消失し、好酸性の層状構造をとるようになる。さらに上層では膜状構造へと変化する。電子顕微鏡観察では、高電子蜜な線維間物質と低電子密なケラチン線維のコントラストが明瞭で、これをケラチン模様(keratin pattern)と呼ぶ。
また角層細胞には通常よりも厚い細胞膜が存在し、その内側には周辺帯(cornified cell envelope, marginal band)と呼ばれる裏打ち構造が観察される。周辺帯を構成する蛋白は物理的および化学的刺激に対して非常に安定であり、細胞膜を補強する役割を果たしている。(新しい皮膚科 第3版 清水 宏 著 より)
常染色体潜性先天性魚鱗癬の病因遺伝子(JDA eSchool –魚鱗癬 ichthyosis 秋山真志 より)
角層細胞の内側から
1)ケラチン、フィラグリンとその分解産物
2)cornified cell envelope:CCE(周辺帯)
3)corneocyte lipid envelope :CLE
4)角層細胞間脂質層
角層細胞間脂質層の形成に働く遺伝子
①アシルセラミドの合成、輸送 CYP4F22, PNPLA1, CERS3, ABCA12
②cholesterolからcholesterol sulfateへの変換 SULT2B1
CLE形成に働く遺伝子
アシルセラミドをCCEタンパクと結合させる ALOX12B, ALOXE3, CDR9C7
CCE形成に働く遺伝子
CCE前駆タンパクをクロスリンクさせる TGM1