アトピー性皮膚炎の新たな治療薬(抗IL-13抗体製剤)

先日、金沢で日本臨床皮膚科医会総会が開催されました。
コロナもいつの間にか収束というか世間の特にマスコミの注目をひかなくなって、全くといっていいほど話題にもなりません。完全制圧されたわけではないはずなのに。本学会も現地開催のみとなりました。 ちょうど桜の開花の時期でよい観光にはなりましたが。
 
 近年の難治性のアトピー性皮膚炎の治療を牽引しているのは抗IL4/13抗体製剤のデュピクセントに異論はないと思われ、当ブログでも数回にわたって取り上げています。
これ以外にも種々の抗体製剤やJAK阻害剤がありますが、個人的に最も注目したのは最近上市された抗IL-13モノクローナル抗体で、それによるアトピー性皮膚炎(AD)に対する有効性、有用性を検証する講演がいくつかありました。それで、今回はそれについて取り上げてみたいと思います。

 ADの病因・病態は複雑ですが、慢性的なかゆみ、免疫学的側面(2型炎症)、皮膚バリア障害の三位一体論がADの病態の全体像をよく顕すものとして認知されています。
近年のADの治療はTh2サイトカインの2型炎症をターゲットにした生物学的製剤やJAK阻害薬の開発によって従来のステロイド外用、タクロリムス外用や保湿剤を主体とした治療では難治であった中等から重症のADのコントロールも可能になってきました。ADで活性化する種々のサイトカインの治験がなされてきましたが、現在のところ急性期ADで有効なものはIL-4,IL-13,IL-31をターゲットにした薬剤です。(IL-33,TSLP,IL-5などの効果はあまりみられず、治験から脱落)
 先に述べたように抗IL4/13抗体製剤の有効性は実地診療で確認され、長期にわたる検証も続いています。この中でIL-13単独をターゲットにした抗体製剤の効果、その登場の存在意義が解説されました。

 現在上市されている抗IL-13抗体製剤は2種類(アドトラーザとイブグリース)があります。
 結論からいうと、両者ともデュピクセントと同等か患者さんによってはそれ以上の効果がみられました。安全性、副作用についても良好な結果が示されました。
特にデュピクセントにみられる結膜炎の副作用の発現頻度は少なめでした。まだ発売後間もない製剤なので今後の使用経験の蓄積が必要でしょうが、期待できる薬剤と思われます。
 どのような患者さんに好適かというと
・デュピクセントで結膜炎のでた人、顔面、頸部の紅斑がでた人
・バイオナイーブで安全性を重視する人
・投与間隔の延長も可能なのでその利便性を重視する人
・IL-13のみをターゲットにしているので副作用の出方も少ないかもしれない(長期安全性)
(アトピー性皮膚の皮疹部では、よりIL-13が強く発現しており、IL-4の発現量は少ないとされており、IL-13のみをターゲットとしてもいいのではないかとも考えられています。)

などとは解説されていましたが、実際には今後の実績をみる必要性はあるでしょう。

それではアドトラーザとイブグリースの違いは?
専門用語が出てきてよく理解できませんでしたが、いろいろと調べたうちでの情報を書いてみます。

アドトラーザ(tralokinumab): ヒト抗ヒトIL-13モノクローナル抗体 皮下注300mgペン 皮下注150mgシリンジ  レオファーマ(株)
IL13に直接結合して中和する。結膜炎の副作用はより少ない可能性あり。
初回600mg皮下注、継続 2週ごとに300mg皮下注

イブグリース(lebrikizumab): 抗ヒトIL-13モノクローナル抗体 皮下注250mgオートインジェクター、シリンジ 日本イーライリリー(株)
IL-13が受容体に結合するのを防ぐ(IL-13α1との結合を阻害)。IL-13受容体との相互作用を妨げる
より強いIL-13シグナルの遮断を目指して設計されており、やや速効性がある。
初回500mg皮下注 継続 4週ごとに250mg皮下注

両者ともIL-13をブロックしますが、作用機序にやや差があります。IL-13には2つの受容体があります。IL-13Rα1とIL-13Rα2です。IL-13Rα1はIL-4Rαと複合体を形成してシグナル伝達を起こします。一方IL-13Rα2はシグナルを伝えないデコイ(おとり)受容体として作用します。
アドトラーザはIL-13のα1,α2共に作用して直接中和します。イブグリースはIL-13がIL-13Rα2には結合できるが、IL-13Rα1には結合できないようにします。
つまり生体内にも存在する生理的なデコイであるIL-23Rα2のデコイ作用を活かしつつ、炎症性シグナルだけを遮断します。いわばIL-13抗体+生体デコイの協調作戦ともいえます。現時点では両者の差はそれほどありませんが、アドトラーザがIL-13自体を完全に中和する一方、イブグリースは自然デコイ作用を活かすスマート遮断型とされ、臨床的にも差異がでてくるかもしれないそうです。

なおデュピクセントに表れやすい結膜炎の原因は次のように考えられています。IL4/(13)が眼の杯細胞の増殖やムチンの分泌を促す作用があり、IL-4は杯細胞の「生存サポーター」と呼ばれるほどです。従ってデュピクセントによってIL-4をブロックすると杯細胞の数の減少➡ムチン分泌減少➡ドライアイ・結膜炎の発症のリスクが高まります。