偽リンパ腫

皮膚偽リンパ腫(cutaneous pseudolymphoma:CPL)は、真の(悪性)リンパ腫ではないものの、臨床的、組織学的に皮膚リンパ腫と類似した良性、反応性のリンパ増殖性疾患の総称です。原因も多岐にわたり、臨床型も多彩ですので、確定した分類はありませんが、浸潤するリンパ球の数の優位性によってB細胞性、T細胞性に分け、さらにリンパ球の浸潤する様式によって帯状型、結節型に分ける分類法もあります。T細胞性CPLは帯状型が主体で、一方、B細胞性CPLは結節型のみで、従来皮膚良性リンパ線腫症(lymphadenosis benigna cutis)、皮膚リンパ球腫(lymphocytoma cutis)と称されてきました。このタイプは日常診療においても、時にみられるタイプです。しかしながら、B細胞性CPLと診断された症例のなかに低悪性度の皮膚B細胞リンパ腫、とくに原発性皮膚辺縁帯B細胞リンパ腫、MALTリンパ腫(PCMZL)が多数例含まれていたことが明らかになってきました。一方、患者の10~15%は、汎発性または多病巣の皮膚病変を呈しますが、先に述べたようにT細胞型となります。
 発症原因は多岐にわたり、虫刺、刺青、ワクチン、各種感染症(ボレリア、単純ヘルペス、梅毒、疥癬など)、薬剤、接触皮膚炎、光線過敏、IgG4関連疾患など様々ですがむしろ原因が特定できない場合も多々あります。

🔷B細胞型CPL
【臨床症状】
頭頚部、体幹に好発し、顔の病変が最も多くみられます。浸潤の強い紅色から紫紅色の丘疹、結節、腫瘤、局面を呈することが多く、多くは単発ですが、多数の丘疹や局面が散在することもあります。
【病理組織】
皮膚B細胞リンパ腫との鑑別が重要となってきますが、病理組織像、免疫組織染色、遺伝子解析などで鑑別されます。それでも中には鑑別の困難なケースもあるとのことで、その際は注意深く経過を観察することが必要となります。
表皮には著変はなく、表皮と浸潤するリンパ球との間には明らかな境界(grenz zone)を認めます。真皮浅層から深層にかけて大小さまざまな結節状、島状のリンパ球の稠密な細胞浸潤を認めます。浸潤はtop heavyといって上部がより稠密で、左右対称となる傾向があります。しっかりとしたリンパ濾胞を形成し、その内部にアポトーシス細胞を貪食したtingible body macrophageがみられます(反応性リンパ濾胞)。そのほかに形質細胞、好酸球、組織球など多彩な細胞が混在します。付属器上皮が侵されることはなく、通常は免疫グロブリン遺伝子のクローナルな再構成は認めません。先に述べたB細胞リンパ腫のうち、原発性皮膚辺縁帯B細胞リンパ腫(PCMZL)、原発性皮膚濾胞中心リンパ腫(PCFCL)が鑑別として重要です。
🔷T細胞型CPL
【臨床症状】
帯状型が主体で、光線性類細網症や薬剤性CPLなどが代表的です。T細胞型では病型ごとに異なる誘発、発症機序が明らかになりつつあります。例えば帯状型では薬剤性、疥癬、光線性類細網症など、また結節型では抗痙攣薬、虫刺、疥癬など。またアレルギー性接触皮膚炎ではほとんどの症例でT細胞優位の浸潤がみられます。薬剤は偽リンパ腫誘発のもっとも一般的な原因の一つとされています。薬剤性では男女差はなく、体幹、下肢に掻痒性の丘疹、結節、斑を呈します。偽リンパ腫を引き起こす薬剤として多い順にアンギオテンシン変換酵素阻害薬(降圧剤)、抗痙攣剤、モノクローナル抗体、抗うつ剤、フェニトイン、アムロジピン、フルオキセチン、カルバマゼピンが報告されています。多くは薬剤中止後2か月で皮疹は消退するとされています。
【病理組織】
主に真皮内にT細胞、またはT/B細胞混合の細胞浸潤がありCD4,CD8,CD30陽性の多クローン性T細胞リンパ球浸潤がみられます。
すべてのT細胞リンパ腫が鑑別の対象になりますが、一般的には最も注意すべきものは、菌状息肉症です。病理組織像、細胞異型などで鑑別しますが、異型性の乏しい場合は確定診断が難しいこともあります。その際は免疫組織化学による細胞表面マーカー、遺伝子再構成などで鑑別されます。それでも確定診断が難しい場合は注意深い経過観察が要求されます。
【治療】
一般方針として、原因が特定できればその除去を行うことがもっとも重要です。良性疾患ですし、自然に消退することもあり、特に生検後に消退ことがしばしば見られます。消退しない場合はステロイド外用療法、単発であれば外科的に切除を行うことも選択肢です。
広範囲や多発病変に対しては、ステロイド剤の内服を行うこともありますが、診断、治療効果について定期的に再検討する必要性があります。

🔷CPLの鑑別疾患(皮膚リンパ腫以外のもので)
CPLは、皮膚リンパ球増殖症(cutaneous lymphoid hyperplasia: CLH)ともよばれ、皮膚リンパ腫に類似するものの良性の反応性増殖である疾患群です。このようなカテゴリーに属する疾患は多く、どこまでをそれに含めるかは議論のあるところだそうです。希少疾患でありながら、CHLを伴う、あるいは類似する炎症性免疫疾患を文献(清原英司)より抜き書きしてみました。
1.偽リンパ腫性毛包炎
2.Zoon亀頭包皮炎および外陰炎
3.Castleman病
4.皮膚形質細胞増殖症
5.皮膚IgG関連疾患
6.Angiolymphoid hyperplasia with eosinophiliaと木村氏病
7.深在性エリテマトーデス
8.Rosai-Dorfman disease

参考文献

皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン改訂委員会 皮膚リンパ腫診療ガイドライングループ 委員長 菅谷 誠 日皮会誌 130(6),1347-1423,2020(令和2)

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃
戸倉新樹 第23章 皮膚悪性腫瘍 D 悪性リンパ腫とその類症 5 偽リンパ腫 pp396-398
清原英司 特集 日常診療に潜むリンパ腫・リンパ増殖性疾患ーーリンパ腫との鑑別が問題になる関連疾患ーー
2. 偽リンパ腫とリンパ腫 皮膚臨床 65(12)1762-2023

皮膚疾患 最新の治療 2021-2022 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2021 
宮垣朝光 XⅦ 腫瘍性疾患 Cリンパ腫 5 偽リンパ腫 pp264

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022 
河井一浩 XⅦ C リンパ腫 5 偽リンパ腫 pp259

今日の皮膚疾患治療指針 第5版 編集 佐藤伸一 藤本 学 門野岳史 椛島健治 医学書院 東京 2022
大松華子 25 リンパ・造血組織系皮膚腫瘍 A.良性腫瘍 皮膚良性リンパ線腫症 pp827-828

皮膚科臨床アセット 9 エキスパートに学ぶ皮膚病理診断学 総編集◎古江増隆 専門編集◎山元 修 中山書店 東京 2012
二神綾子 腫瘍性疾患100 偽リンパ腫の病理組織学的鑑別点 pp504-508