ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome: SSSS;4S)は黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥脱毒素(exfoliative toxin:ET)によって全身に表皮剥離、びらんが生じる疾患です。
細菌の産生する毒度によって生じる全身性疾患を細菌毒素関連感染症と呼び、SSSSの他にはトキシックショック症候群(黄色ブドウ球菌)、トキシックショック様症候群(溶連菌)、猩紅熱などがあります。この中で頻度の最も高いものがSSSSです。
主に乳児から幼児期に見られ、発熱を伴って顔面の特に眼瞼周囲、鼻、口囲に紅斑、水疱、ビラン、痂皮を生じ口囲に放射状の亀裂、眼脂が見られます。次いで頚部、腋窩、鼠蹊部などの間擦部に潮紅が見られ、数日内に躯幹、次いで四肢と下降性に熱傷様、猩紅熱様の紅斑が広がり、小水疱、表皮剥離を生じてきます。接触痛があります。表皮は一見正常でも摩擦によって容易に剥がれます(Nikolsky現象)。体幹部は米糠様、小葉状ですが、手足では膜様の落屑を生じます。5、6日目を極期として数週間内には治癒に向かいます。全身性に紅斑が拡がる典型例の他に限局性の表皮剥離に留まる型もあります。一般的には適切な治療を行えば予後は良好ですが、一部新生児、免疫低下の成人などでは重篤になる事もあります。
黄色ブドウ球菌は顔面のビラン、痂皮部位では陽性ですが、躯幹四肢の紅斑、水疱、落屑部では基本的に陰性です。これは皮疹が細菌感染そのものによるものではなく血中から全身に波及した表皮剥脱毒素(ET)によるものだからです。ETはデスモグレインIに特異的に作用するセリンプロテアーゼで、この酵素作用により落葉状天疱瘡と同様に表皮角化細胞の顆粒層レベルで棘融解が生じ浅い水疱を形成します。
治療は軽症例を除いて、原則的に入院治療を行います。黄色ブドウ球菌に有効な抗生剤を用いますが、近年MRSA(多くはCA-MRSA)によるものの割合が増加傾向にあるので、培養結果、あるいは治療効果をみて、数日後に薬剤変更も考慮します。軽症ならば第一世代のせフェム系抗菌剤などを使用しますが、重症のMRSAではバンコマイシンの点滴静注などが用いられます。外用は特に必要はありませんが、皮膚の保護のために顔面はワセリン、アズノールなど、びらん、痂皮、水疱にはアクアチム、ゲーベンなどが用いられる事もあります。また同時に脱水などに対し、補液などの全身管理も重要となります。
診断は顔面体幹の典型疹や黄色ブドウ球菌の検出でできますが、時には薬疹、中毒疹、Stevens-Johnson症候群、TEN(中毒性表皮壊死症)などとの鑑別が難しいケースもあります。それらの場合は、薬剤使用歴、臨床症状、検査所見、組織所見などを総合して判断します。
近着の皮膚科雑誌に、高齢者でTENとの鑑別が困難なSSSS患者の症例報告が出ていて、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン療法、MRSAに対する抗菌剤の治療など懸命な入院治療を行ったにも拘らず不幸な転帰をとったとの事でした。やはり高齢者では薬疹などの可能性も多く、免疫力は低下していて、典型的でないコースをとることもあり、十分な検討が必要であること、それでもなお予後の悪いことを認識し、家族へも重篤な事を十分に丁寧に説明しておくことが重要だと認識させられました。
さらに、初期治療としては両者の鑑別が困難な例では、両者に対して共通の治療になりうる血漿交換療法を出来るだけ早く導入する事が、治療の選択肢であると述べられていました。
壊死性筋膜炎・劇症型A群溶連菌感染症
皮下組織深部の浅筋膜(深層筋膜)に広範囲に細菌感染が波及して、筋膜上を急速、広範囲に水平方向に拡大して組織壊死を生じる重症の軟部組織感染症です。起因菌は問いませんが、化膿レンサ球菌単独または黄色ブドウ球菌の混合感染して生じる型と、糖尿病や肝障害などの基礎疾患の人に発症する嫌気性菌、腸内細菌などによる型があります。ちなみに浅層筋膜は皮下脂肪織の筋膜のことで浅筋膜とは異なります。
またガス壊疽はガス産生性の細菌感染症で、クロストリジウム性ガス壊疽と、非クロストリジウム性ガス壊疽に分けられます。非クロストリジウム性ガス壊疽は主として筋膜を侵すのでガス産生のある壊死性筋膜炎と捉えることができます。一方クロストリジウム性ガス壊疽は主として筋肉を侵しますので、壊死性筋膜炎とは分けて考えられます。また外陰部に生じた壊死性筋膜炎は特異な臨床型からFournier壊疽(フルニエ壊疽)と呼ばれますが、外陰部の壊死性筋膜炎そのものです。
【症状】
最も多いのは、糖尿病などの基礎疾患のある人の軽微な傷(擦り傷、足白癬、魚の目など)や糖尿病性壊疽からの細菌の侵入ですが、基礎疾患のない健康成人に突然生じる事もあります。主に下肢に疼痛を伴って発赤、腫脹が見られます。先に述べた蜂窩織炎との鑑別が最も重要になります。両者の鑑別は時に困難ですが、激烈な痛み、著明な全身症状(高熱、血圧低下、過呼吸などの呼吸障害)、局所の水疱、壊死、血疱などの出現では壊死性筋膜炎を疑い迅速な対処が必須です。
ガス壊疽の場合は、病変部を掴むとプチプチとした捻髪音と雪を掴むような感触(握雪感)があります。
初期の皮膚症状は病巣が深部にあるために、局所は冷たく淡い紅斑、腫脹を認めるのみでそれだけでは却って軽症と見誤る恐れもあり、白血球数やCRP高値との乖離に気づくことが重要です(沢田泰之 第86回東京支部学術大会 SY7-2 壊死性筋膜炎・ガス壊疽などの重症皮膚軟部感染症の診断と治療)。
劇症型A群溶連菌感染症では初期から血行性に播種された細菌が皮下に到達して壊死性筋膜炎を生じる事もあります。これをトキシックショック様症候群(TSLS:toxic shock-like syndrome)あるいはレンサ球菌性トキシックショック症候群とよび、全身に猩紅熱様の紅斑を生じ、急速に多臓器不全を起こし致死率の高い疾患です。俗に「人食いバクテリア」と呼ばれメディアでも取り上げられました。外傷、病巣感染(う歯、扁桃炎など)、手術後の発症もありますが、基礎疾患のない成人にも咽頭炎などの風邪症状から突然発症することもあり、その機序はなお明らかではありません。A群以外のレンサ球菌、C,G群が起因菌となる事もあります。また稀ではありますが、糖尿病や肝障害の人の生食などの後、血行性にVibrio vulnificusが感染して、壊死性筋膜炎を起こすケースもあります。
【診断】
上記の臨床症状で、同症を疑うことがまず前提ですが、更にWBC20,000/μl以上、CRP25mG/dlの高値では本症を疑います。冷汗、過呼吸、血圧低下などの全身症状の急速な悪化では緊急の対応が必須です。LRINEC scoreも参考になりますが、参考に止めるべきとの意見もあります。初診時に皮疹の部位をマーキングしておくとその後の広がりが可視化でき有用です。
診断に有用なのは超音波、X線、CT,MRIなどの画像診断です。病巣の深さ、広がり、ガスの有無などが明らかにできます。最も確実な治療を兼ねた診断は創部の試験切開とデブリードマンです。壊死性筋膜炎では筋膜の壊死によって筋膜上での用手的な剥離は容易であり、変性組織や膿の貯留が確認されます。レンサ球菌の場合は漿液性浸出液(米のとぎ汁様)、混合感染の場合は膿の排出をみます。
【治療】
創部の切開の上、デブリードマン、洗浄を繰り返します。同時に大量の抗生剤を投与します。エンピリックな治療を開始、細菌培養の結果で内容を再検討します。また敗血症性ショック、DIC(播種性血管内凝固症候群)、多臓器不全への対処など、関係各科による迅速な救急救命治療が要求されます。
デブリードマンが行われない場合の死亡率は極めて高く、通常の治療が行われても、壊死性筋膜炎の死亡率は15~30%、劇症型A群溶連菌感染症では30~70%、更に敗血症型Vibrio vulnificus感染症では60~80%とされ、予後不良です。
🔹Vibrio vulnificus 感染症
Vibrio vulnificus は至適NaCl濃度が1〜3%で、低度好塩基性グラム陰性桿菌です。8%では発育は阻止されます。従って河口や湾岸の薄い塩分の汽水域を好み、海水温が20度を越えると著明に増加します。この菌は健常者にはほぼ無害ですが、肝硬変や糖尿病患者などでは傷からの感染、または経口感染を起こし、壊死性筋膜炎を発症します。肝臓のKupper細胞の細菌貪食能の低下や動静脈シャント形成による菌の体循環への侵入、血清鉄濃度の上昇による菌の増殖などが関与しているとされています。外傷による創傷感染型、経口感染による胃腸型、原発敗血症型に分けられます。汽水域での受傷、生の魚介類の食事後に発症します。急激な発症、重症化、病変の多発に前記の既往がある肝障害の人では同症を強く疑います。集中的な治療を行ってもなお予後は極めて悪いです。
肝硬変や糖尿病の人は極力生の魚介類を食べないように、また汽水域に近づかない様に努めることが大切です。
🔹Aeromonas壊死性軟部組織感染症
Aeromonasspp.は河川、湖、土壌、魚介類に広く分布する嫌気性グラム陰性桿菌です。経口感染(食中毒)による場合と、創傷からの経皮感染があります。菌株は18種以上ありますが、皮膚の軟部感染症を起こすのはAeromonas hydrophiliaが主です。ほとんどの例が肝硬変など易感染性の基礎疾患があります。前記のVibrio vulnificus との違いは、A.spp.は水のあるところならどこでも生息すること(市販食品、野菜、冷凍食品なども)、低温増殖性であり、夏でなくても季節性の変動なく発症することです。本症は壊死性筋膜炎として報告されてもいますが、実際の臨床はかなり異なる様です。ある部位の一次的な感染巣が形成され、敗血症となって、四肢などに壊死性軟部組織感染が波及するケースが典型です。病巣は皮下軟部組織、筋膜を越えて筋肉そのものも侵されます。そして「死んだ魚のような」あるいは「ドブ水のような」と形容される悪臭を伴います。またガスを産生する株もあります。また病変部での炎症像の欠如と末梢白血球の減少が特徴とされています。生体防御機構の破綻が重症化に関与していると想定されています。予後は極めて悪いです。
蜂窩織炎
蜂巣炎ともよびます。
真皮深層から皮下脂肪織を病変の主座とする急性びまん性深在性の細菌感染症です。起因菌は化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌が主ですが、その他の菌が原因となる場合もあります。
四肢、特に下腿が好発部位ですが、顔面、頚部、臀部などにも生じます。足白癬、湿疹などのわずかな傷、亀裂、切り傷、刺し傷、皮膚付属器などの他の皮膚感染症からの波及が誘因となります。狭義には真皮深層から皮下脂肪織のブドウ球菌、化膿レンサ球菌などを起因菌とするものを指しますが、広義には骨髄炎など深部感染症に続発するもの、丹毒なども含まれることもあります。また壊死性筋膜炎は同じスペクトラムに入る皮膚・軟部組織感染症ですが、極めて重症な全身細菌感染症であり、時に鑑別が困難なことがあり、この見極めは臨床上極めて重要です。
突然局所に発赤、腫脹、熱感、疼痛が出現し、浮腫を伴った潮紅は急速に拡大していきます。丹毒と比べると境界は不明瞭です。時に皮下膿瘍を伴うこともあります。発熱、頭痛、倦怠感などの全身症状を伴います。通常は関節部などの障壁で進行は止まります。ただ、皮膚の発赤に比べて激烈な痛み、著明な全身症状(高熱、血圧低下、過呼吸などの呼吸障害)を呈するとき、または逆に局所の水疱、血疱、壊死などがみられる場合は壊死性筋膜炎を疑い、迅速な対応が必要となります。
エコー、CT,MRIなどの画像診断が有用ですが、簡易的に見分けるLRINEC score(laboratory risk indicator for necrotizing fasciitis) scoreの有用性が報告されています。
項目……….検査価………. スコア
CRP………. ≧15mg/dl………. 4
WBC………. ≧15,000/μl……….1
…………. ≧25,000/μl……….1
Hb……….. <13.5g/dl…………1
Hb……….. <11g/dl…………..2
血清Na…….. <135mEq/l………..2
血清Ca…….. >1.58mg/dl……….2
血糖………. >180mg/dl………..1
low risk: <5 ………. intermediate risk 6~7 ………. high risk >8
但し、これは陰性的中率は高いものの(97.8%)陽性的中率は低い(15.4%)との報告(盛山吉弘 臨床皮膚科 69:163-167,2015)もありますし、有用性に批判的な意見もありますのであくまでも病院紹介などへの参考に留めるべきかもしれません。
【鑑別】
急性期に鑑別すべき疾患は上記の壊死性筋膜炎ですが、それ以外に深在性皮膚真菌症、皮膚抗酸菌症、深部感染症からの波及、接触皮膚炎、虫刺、膠原病、好酸球性筋膜炎、硬結性紅斑、血管炎、皮膚リンパ腫など多岐に亘ります。
【治療】
軽症か重症によって変わってきますが、まず安静、患部の冷却の上、下肢なら挙上を指示します。そのうえで黄色ブドウ球菌、化膿レンサ球菌を念頭に抗生剤の治療を開始します。数日でも反応の悪い場合は診断、治療の再検討が必要になってきます。
血液培養では検出率が低く、局所の細菌培養ではコンタミネーションが多いとの報告があります。従って一般的に当初は第一世代セフェム系の抗菌剤が用いられます。近年は世界的にはCA-MRSAの増加もいわれていますので注意を要します。
丹毒
真皮の浅層を主座とするA群β溶連菌による感染症です。一部には黄色ブドウ球菌、肺炎球菌が起因菌になることもあります。
顔面・四肢特に下腿が好発部位です。
特別な傷、誘因がなくても、あるいは軽微な傷から細菌が皮膚に侵入し突然悪寒・発熱・頭痛などを伴って発症します。
主として顔面の片側性に(時には両側性に)、下腿に境界明瞭な潮紅、腫脹、浮腫性紅斑を生じます。表面は緊張して光沢があり、浸潤を触れ、局所の熱感、圧痛があります。急速に拡大して時には表面に水疱を生じます。発熱・倦怠感・頭痛などの他にめまいや悪心・嘔吐を伴うこともあります。全身性には高齢者、幼児、免疫抑制状態(ステロイド投与、糖尿病、全身衰弱など)、局所的にはリンパ管うっ滞(リンパ節廓清など)、静脈瘤、扁桃炎、副鼻腔炎、齲歯などの病巣感染などがあると再発を繰り返しやすくなります(習慣性丹毒)。また時に溶連菌感染後の腎炎を併発することもありますので、検尿などの経過観察は必要です。血液検査で白血球数の増加、赤沈の亢進、CRPの上昇、ASO価の上昇などが診断、病勢の参考になりますが、超音波によるエコー検査は病巣の主座を確認するのに有用とされます。深部の感染症、病巣感染を疑う場合はCT,MRIなどの画像検査を行います。
治療はA群溶連菌をターゲットとして、ペニシリン系の抗生剤(サワシリン、ビクシリンなど)を投与します。再発を避けるため十分な期間(10日~2週間程度)使用します。重症の場合は入院のうえ、点滴静注を行います。数日投与でも反応が悪ければ、黄色ブ菌なども考慮して第一世代セフェム系などを使用します。
蜂窩織炎はより真皮深層の細菌感染症ですが、丹毒との境界、鑑別は難しく一連のスペクトラムの疾患です。ただ病巣が深くなるに従って紅斑の境界は不明瞭になり、光沢を伴った紅斑も鮮明ではなくなる傾向にあります。
癤(せつ)・廱(よう)
毛包炎や伝染性膿痂疹(とびひ)が、皮膚の表在性の細菌感染症であるのに対し、癤(せつ)や廱(よう)はもっと深い皮膚真皮から皮下脂肪織にかけての深在性で毛包性の細菌性膿皮症です。
🔷癤(せつ)
【病因・症状】
1つの毛包を中心とした黄色ブドウ球菌による深在性毛包性膿皮症です(俗称おでき)。毛包を取り巻いて膿瘍が形成されます。症状は毛包一致性に尖型の紅色結節、腫脹がみられ、周囲にはびまん性の潮紅を伴います。自発痛、圧痛を伴い熱感があります。頂点に膿疱を生じ、次第に軟化し膿瘍を形成し時に波動を触れ、膿点から排膿し始めて、膿の排出とともに治癒に向かいます。
顔、項部、臀部が好発部位で、青年期の成人、または糖尿病、免疫不全などの基礎疾患がある中高年にも好発します。
顔面にできたものは以前は面疔とよばれ恐れられていましたが、適切な治療が行われれば治癒に向かいます。
炎症性粉瘤、化膿性粉瘤との鑑別が難しいこともありますが、粉瘤では臍がみられ、また切開、排膿で粥状内容物の排出がみられます。癤が同時に複数個できたものを癤腫症とよび、アトピー性皮膚炎、糖尿病、免疫不全などの人にみられることがあります。
【治療】
起因菌は黄色ブドウ球菌ですから第一世代の経口セフェム系抗菌剤を使用します。第三世代セフェム系抗生剤は生体内利用率が低く、また組織移行が悪く、耐性菌を増やすきっかけともなりますので推奨されません。近年は市中感染型MRSA(CA-MRSA)が増えてきており、従来のHA-MRSAと異なるメチシリン耐性領域(typeIV SCCmec)を持ち、PVL(Panton-Valentine leukocidin;白血球破壊毒素)を持つ割合も増えつつあります。
膿瘍が波動を触れる程に大きくなった場合は局麻下に切開、排膿を行うことが必要です。また切開後もドレナージ、洗浄を行うことも必要です。
🔷廱(よう)
癤よりもより皮膚の深部から始まる毛包性膿皮症で起因菌はやはり黄色ブドウ球菌です。複数の毛包が侵され、半球状に皮膚から隆起し強い疼痛があります。大きさは鶏卵大、更にはそれ以上の大型の隆起性局面を形成することもあります。重症なものはPVL陽性のMRSAが関与することが多いとされ、健康成人でも壊死性肺炎などを起こすことがあり注意を要します。
治療は癤と同様ですが、細菌培養で原因菌を同定し、症状が強い場合は入院の上、外科的療法、抗菌薬の点滴静注などを行います。MRSAが原因の時はバンコマイシンなどの抗MRSA薬を使用しますが、CA-MRSAではクリンダマイシン(ダラシン)、ビブラマイシン、ミノマイシン、ホスミシン、バクタ等にも感受性がみられることもあります。
伝染性膿痂疹(とびひ)
表在性の膿皮症ですが、毛包性のものは毛包炎とよび、毛包一致性の膿疱を作りますが、伝染性膿痂疹はびまん性の表在性膿皮症で毛包や汗孔一致性(化膿性汗孔周囲炎)でないものを指します。
起因菌の種類によって大きく、水疱性膿痂疹(黄色ブドウ球菌による)と痂皮性膿痂疹(化膿レンサ球菌による)に分けます。
🔷水疱性膿痂疹
【病因・症状】
乳幼児、小児に多くみられ夏季によくみられますが、成人にも発症します。
黄色ブドウ球菌の感染によります。擦り傷、虫刺され、湿疹、アトピーの掻把痕などの傷、亀裂部などに菌が定着、増えて感染します。黄色ブドウ球菌は表皮剥脱毒素(exfoliative toxin; ET)を持ち、表皮上層の細胞接着因子であるデスモグレイン1(Dsg1)を融解して、表皮角化細胞がばらばらになる棘融解を生じて表皮内の水疱を形成します。これはセリンプロテアーゼの機能を介して生じます。弛緩性水疱は容易に破れて辺縁に拡大して、びらん、痂皮を形成し、感染力が強いために接触により他部位に”飛び火”し、(いわゆるとびひ)あるいは他の小児などへも伝染します。全身どこにでも生じますが、特に鼻孔部、口囲、四肢、腋窩などに好発します。鼻腔内には特にMRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus;メチシリン耐性ブドウ球菌)などブ菌の持続し易いので鼻いじりなどはやめさせることが必要です。乳幼児などで水疱性膿痂疹が広範囲、全身に拡大し、ETの産生する毒素により中毒反応を起こし、発熱、全身皮膚の潮紅と水疱、表皮剥離をきたしたものをブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome:SSSS)とよびます。原則入院治療が必要になる全身感染症です。
【治療】
病変が小範囲に限局している場合は外用抗菌薬で治癒しますが、広範囲に散発すると原則内服抗生剤を使用します。黄色ブドウ球菌では薬剤耐性菌の存在が問題になっています。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は近年増加傾向にあり、ペニシリン系、ゲンタマイシンに耐性であることが多く、外用ではフシジン酸軟膏、テトラサイクリン軟膏、ナジフロキサシン軟膏などが使用されます。内服では第一世代セフェム系、ホスホマイシンなどが使用されます。成人ではミノサイクリンやニューキノロンが使用されますが、小児では副作用のため原則用いません。重症ではバンコマイシンの点滴静注が用いられます。
第三世代のセフェム系抗菌剤は腸管からの吸収が悪く、皮膚への移行も低いので皮膚感染症では使用をひかえるべきとされます。
最近は従来の院内感染型MRSA(HA-MRSA: hospital-acquired MRSA)と由来が異なる市中感染型MRSA(community-acquired MRSA:CA-MRSA)が増えてきています。このタイプは白血球破壊毒素PVLが陽性のことが多いです。PVL陽性黄色ブドウ球菌は癤、廱などから壊死性肺炎、骨髄炎、敗血症などの重症感染症を起こすことがあり、問題視されています。家族内での複数感染例も問題です。院内でもこのタイプが増加傾向にあります。但し、HA-MRSAと比べると薬剤の感受性は比較的保たれています。
上記薬剤の治療とともに、生活面では浸出液や水疱内容から次々に伝染するので、皮膚の清浄を保つことが重要です。鼻周りは原因菌が多いために鼻いじりをしないように指導します。石鹸を用いて優しく丁寧に洗い、シャワー浴を行います。入浴する際は最後にして、タオルを共用しないなど他の兄弟姉妹などにうつらないように配慮することが必要です。登園、登校は全身状態が良く、ガーゼ等で病変部を被覆できれば休む必要はないとされています。ただし、プールや水泳は治癒までは禁止です。
🔷痂皮性膿痂疹
【病因・症状】
化膿レンサ球菌の感染によります。年齢、季節を問わず突然発症することが多いです。溶連菌によるものでは咽頭炎、発熱、リンパ節腫脹を伴うものが多いですが、これ単独のものは稀で、ほとんどが黄色ブドウ球菌が混在して検出されます。小豆大の膿疱から厚く堆積する痂皮性病変が急速に拡大して、さらに大型の病変に進展する場合もあります。手や足では角層が厚いために痂皮形成は少なく、膿疱、水疱のまま留まることが多いです。特にコントロールされていないアトピー性皮膚炎患者では顔面全体が厚い痂皮に覆われたり、広範囲、重症になる場合もあります。こういった症例は日本で1990年代に多くみられました。この時期はステロイドバッシングの時代と重なり、アトピー性皮膚炎の不適切治療、あるいは未治療の例に多くみられた報告が多いです。
痂皮性膿痂疹は明治時代など100年前は多かったのですが、近年は減少傾向にありました。しかし、近年諸外国で増加がみられ、本邦でも増加傾向があるために注意が必要です。全身性に紅斑が拡大したものを猩紅熱とよびますが、現在はほとんどみられません。しかし世界的には増加の兆候があり、また毒性が10倍強の株も英国でみつかっているそうで今後の注意が必要です。それとこれと臨床的に酷似する川崎病との鑑別が必要とのことです。目が充血する、口唇は口紅を塗ったように赤くなる、手がパンパンに腫れる、熱が5日以上続く、周りにうつらないなどが鑑別になります。
【治療】
溶連菌単独であれば、ペニシリン系抗生剤の内服でよいですが、多くが黄色ブドウ球菌との混合感染によりますので、上記の水疱性膿痂疹と同様の薬剤を用います。但し溶連菌感染症では10%程度に糸球体腎炎を発症するといわれますので、10日から2週間の長めの投与を行い、溶連菌感染後腎炎(post-streptococcal glomerulonephritis)の発症に注意が必要になります。但し、リウマチ熱と異なり、抗生剤の治療によって腎炎の発症を予防できるというエビデンスは無いそうです。
細菌感染症
索引を作ってみて、感染症、特に細菌感染症についてほとんど取り上げていないことに気づきました。実は当初ブログに感染症ばかりを書いていたせいもあるかもしれません。しかしホームページの終了とともにそれらの記事もなくなりました。
日常診療で細菌感染症のない日はまずありません。とびひ、毛包炎、せつは日常茶飯事で、時に蜂窩織炎、丹毒も見られます。皮膚科の病気は治らないけど、死なないと揶揄する人もありますが、そんなことはありません。しっかり治る病気も多いし、救急から死に至る病気もあります。
壊死性筋膜炎、ガス壊疽、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome:STSS,toxic shock-like syndrome:TSLS)などは後者のその最たるものでしょう。
細菌感染症では、薬剤耐性の問題、とくにMRSA,とびひにおける溶連菌の関与の増加、輸入感染症の増加、梅毒の増加などの諸問題も提起されてきています。
今年のはじめはそれらを取り上げてみたいと思います。どれほど本題に切り込めるかはわかりませんが。
索引を作ってみて
昨年末思い立って、ブログの索引を作り始めました。
今まで思いつくままに、いろんなジャンルの皮膚病について書いてきたのですが、まるで自分の机の上や頭の中を見ているようで、あっちに飛び、こっちに飛び、とり散らかって全然整頓されていません。流石に何とかできないだろうかと、索引作りを始めました。最初は項目別に分けて、記事を書いた日時だけを並べようとしましたが上手くいきませんでした。記事の最初の部分が表出されてしまい、やたら分量が膨大になるのです。それで項目別に分けてブログにアップすることにしました。変則的ではありますが、このほうが項目別にみて、記事の内容をチラ見することができ、便利です。怪我の功名というか我田引水かもしれませんが、大分記事を分類して見易くなったかと思います。
一方で、今回色々なことに気付かされました。
まず、索引と銘打って並べましたが、穴だらけでまるで疾患の索引の体をなしていません。索引ではなく、記事の分類、区分けとでもしたほうが実態にあっています。でもピンと来るのはやはり“索引”という目立った2文字です。それでやはり索引としました。
また、当ブログは過去に何らかの理由で破損し、修復した経緯があります。修復して貰ったものの、ある期間のものは修復できず、また画像は回復できませんでした。それで過去のブログを見るとある期間が抜け、画像はブランクです。しかし今更修復する元気はなく、謝るのみです。
それと記事の偏りの大きい事を今更ながら気付かされました。同じような事を繰り返しアップしているかと思う一方、全く触れていない分野も多数です。これも今更ながら全部埋めるパワーはありません。
あと、過去の記事を見直してみると、全く書いた内容を覚えていないものが多々あり自分でも驚いています。その時は本など調べて一生懸命書いたものでしょう。これが老化というものか、と思い知らされました。フレイルは進むし、皮膚科はセミリタイアしてすっかり時代遅れの医師になりました。
これからどうするか? 未定です。 体力、気力と相談しながら少しずつ落ち穂拾いをしていこうかと思案中です。