魚鱗癬症候群

魚鱗癬の皮膚症状に加えて、神経、眼症状や骨病変などの様々な臓器病変を伴ったものを魚鱗癬症候群(症候性魚鱗癬)と呼びます。いずれも極めて稀な疾患です。
(1)Netherton症候群
常染色体潜性(劣性)遺伝で1人/100万人の発症頻度です。欧米では1人/10万人とされています。本邦で少ないのはアトピー性皮膚炎と誤診されている例もあるとの説もあります。1)魚鱗癬様紅皮症 2)アトピー素因 3)竹節状裂毛を3主徴とします。
1958年にNethertonが A unique case of trichorrhexis nodosa-“bamboo hairs” +congenital ichthyosiform erythrodermaの症例報告をし、1964年にWilkinsonがILC(Ichthyisis linealis congenita)にbamboo hairとアトピー素因を伴ったものをNetherton症候群と名付けることを提唱しました。
病因、原因遺伝子: セリンプロテアーゼインヒビターであるLEKTI蛋白をコードするSPINK5遺伝子の変異により角層のセリンプロテアーゼ活性が異常亢進した結果、角層の過剰剥離が生じ、表皮のバリア破綻を生じます。本来角層で働くべきセリンプロテアーゼが有棘層でも活性化し、デスモグレイン蛋白が有棘層上層でも分解され角層近傍での角層剥離へと発展するとされます。
遺伝子変異はexon 5,9,18,25で多く(non sense変異、stop codon)上流の変異では重症型、下流では軽症型を生じるとされます。
LEKTI: lympho-epithelial Kazal-type related inhibitor
上記の3主徴に加えて、成長障害、精神発達遅延、再発性感染、てんかんなどを生じます。皮疹は辺縁部に2重の鱗屑縁を持つ曲折線状魚鱗癬の像を呈することもあります。成長障害はSPINK5の抑制機構が働かず、セリンプロテアーゼ活性が上昇し下垂体でGrowth hormoneが過剰に分解されるためとの仮説もあります。
Netherton症候群では角層バリアが高度に破綻しているために長期ステロイド外用によるCushing症候群を生じる危険性に注意が必要であり、またプロトピック軟膏やサリチル酸ワセリンの過剰吸収による腎障害やサリチル酸中毒の恐れがあるためにこれらの薬剤の多くの使用は原則禁忌となっています。

(2)Sjögren-Larsson症候群
常染色体潜性(劣性)遺伝で約10~20万人に1人の発症頻度です。1)先天性魚鱗癬様紅皮症または黒色表皮腫様皮疹 2)四肢の痙性麻痺 3)精神遅滞 を3主徴とします。
病因、原因遺伝子:長鎖脂肪族アルデヒドを脂肪酸に酸化する際に働く脂肪アルデハイド脱水素酵素の遺伝子ALDH3A2の変異により活性低下をきたすことに因ります。
四肢の痙性麻痺を伴い、精神遅滞は高度で視力障害もみられる症例もあるために日常生活が大きく障害されます。また皮膚バリア障害による感染症、うつ熱、脱水症、熱中症などにも注意が必要です。
患者の大部分は呼吸器疾患で亡くなることが多いとのことです。平均寿命は22歳と報告されています。

(3)Dorfman-Chanarin 症候群(neutral lipid storage disease)
esterase/lipase/thioesteraseサブファミリーに属する蛋白をコードするCGI-58(別名ABHD5)の遺伝子異常によります。表皮内で層板顆粒の形成不全と角層細胞間脂質の異常を生じて先天性魚鱗癬様紅皮症様の症状を呈します。種々の臓器に中性脂肪が蓄積して、肝障害、肝硬変、白内障、斜視、眼振、難聴、精神発達遅延、成長障害、筋力低下、運動失調などの症状を合併します。末梢血の塗抹標本で顆粒球の細胞質内脂肪滴(Jordan’s anomaly)がみられることは診断的価値があります。皮膚バリア障害による感染症、眼、難聴、運動失調などにより日常生活が大きく障害されます。

(4)KID症候群(keratitis-ichthyosis-deafness syndrome)
常染色体顕性(優性)遺伝性疾患です。1)先天性魚鱗癬、2)血管新生を伴う角膜炎、3)感音性難聴を3主徴とします。
細胞間チャンネルであるギャップ結合の構成成分であるコネキシン26をコードする遺伝子GJB2またはGJB6の遺伝子変異によります。
角化性病変は乳頭腫状の過角化を伴い、細かい粒状、棘状の形態をとります。手掌、足底に目立ちますが、皮疹の範囲は限局されたものから、広範囲に及ぶ例もあります。爪の変形もしばしばみられ、口腔内に角化性、紅斑性病変、歯の異常を認めることもあります。皮膚の易感染症は高度であり、細菌、真菌ウイルス感染症を繰り返す例が多いです。感染症状、疼痛、難聴、角膜炎などによって日常生活が大きく障害されます。

(5)CHILD症候群 CHILD: congenital hemidysplasia with ichthyosiform erythroderma and limb defect
主に伴性顕性(優性)遺伝。片側性の魚鱗癬様紅皮症、長管骨の形成異常(四肢の欠損・短縮)、爪の肥厚や変形、また時に側弯症、中枢神経系、心血管系の異常、精神遅延、患側の難聴などを認めます。コレステロール生合成過程の遺伝子であるNSDHL機能欠失性変異による遺伝性疾患です。
この疾患で特筆すべきことは、HMGCoA還元酵素剤であるスタチンの外用で著明な皮疹の改善を認めることです。2011年ノースウエスタン大学のAmy Pallerらは皮疹部にコレステロールを外用しても効果がなく、NSDHLの活性低下で蓄積する中間代謝産物が皮疹を形成するとの予想のもとにコレステロール生合成を上流で止めるスタチンの外用を行ったところ皮疹は大幅に改善しました。脂溶性かつ分子量の小さいロバスタチン、アトルバスタチン(日本)が有効とのことです。

(6)Conradi-Hunermann-Happle syndrome
1914年にConradiが、X線上骨端軟骨の異常な点状石灰化をきたし、頸部、四肢の短縮、魚鱗癬症状を有し眼、中枢神経、心血管系に異常を伴う症例をChondrodystrophia foetalis hypoplasiaとして報告しました。
その後種々の名称で報告され、1969年にはChondrodysplasia puncutataと統一されましたが、1992年の国際会議で名称が再統一され、細分化されました。1)rhyizomelic type 2)Chonradi-Hunermann type 3) X-linked recessive type 4) MT-type 5) Others。この中で1)2)の型が皮膚病変がしばしばみられ、Conradi症候群として扱われているそうです。
出生時にみられる魚鱗癬様変化は生後数か月で自然消退し、後に毛包性萎縮や色素失調症様色素沈着、脱毛などを残します。1)の型は生後1年以内に死亡する例が多いとのことです。
Conradi-Hunermann型は伴性顕性(優性)遺伝形式をとり、△⁸ー△⁷sterol isomeraseに変異が病因とされています。

魚鱗癬症候群は小児期から成人になって初めて遅発性に他臓器障害が現れて診断がつく症例が少なからず存在すると予想され、診断が確定するまでは、未確定診断の魚鱗癬症候群とみなされ、関連各科(小児科、皮膚科、眼科、耳鼻科、整形外科、精神科など多くの関連科)の連携が必要とされます。
皮膚の角化に対する治療としては従来は保湿剤、ビタミンD3製剤、レチノイド剤などしかありませんでしたが、近年デュピクセントなどの生物学的製剤の効果の報告もみられ、新たなステージに入ってきているようです。

上記以外にも報告された魚鱗癬症候群はありますが、割愛します。

参考文献

皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 15章 角化症 pp341-377

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
須賀 康 XIV 角化症 1 魚鱗癬 pp167-168

米田耕造 マルホ皮膚科セミナー 2009年11月12日放送 第108回日本皮膚科学会総会➆ 教育講演4より 「症候群に伴う魚鱗癬」

小松奈保子 Netherton症候群とSPINKS 臨皮57(5増):51-58,2003

広瀬弘嗣 ほか Netherton症候群の成人例 臨皮 62:438-441,2008

久保亮治 CHILD症候群の病態と治療 臨皮 70(5増):53-56,2016

服部尚生 ほか Conradi症候群の1例 臨皮 58:813-815,2004

角田 梨沙 ほか KID症候群の1例 臨皮 70:347-352,2016

常染色体潜性先天性魚鱗癬

常染色体潜性(劣性)先天性魚鱗癬で、葉状魚鱗癬、先天性魚鱗癬様紅皮症、道化師様魚鱗癬の3種類があります。全身の潮紅と微細白色鱗屑が特徴で、これらは病変の程度や重症度のみの違いのみとの考えもありますが、症状・病因・遺伝ともに多彩で単一の疾患ではないとの考えもあります。
大部分は潜性遺伝ですが、中には顕性(優性)遺伝を示すものもあるとされます。
 頻度は常染色体顕性遺伝性の魚鱗癬(尋常性魚鱗癬は約250人に1人、伴性遺伝性魚鱗癬は男性2000≁6000人に1人、表皮融解性魚鱗癬は10万≁20万人に1人)と比べると低く、常染色体潜性先天性魚鱗癬では20~30万人に1人、葉状魚鱗癬では50万人に1人、道化師様魚鱗癬では30万人に1人といわれています。ちなみに症候性の魚鱗癬では非常に稀少であり、例えばNetherton症候群では100万人に1人といわれています。

(1)葉状魚鱗癬
出生時にはコロジオン児(膜性の厚い角化物質に覆われた状態で出生し、2,3日うちに乾燥し剥がれ落ちる)として出生することも多く、生下時から暗褐色調で大きく厚い板状、葉状の鱗屑が全身にみられますが、潮紅は目立ちません。眼瞼外反、手指関節の拘縮がしばしばみられます。爪甲肥厚、鉤彎、爪下角質増殖がみられます。顔面、掌蹠も軽度ながら侵されます。症状に軽重があるものの難治性で症状の軽快傾向は通常みられません。
 病因としてTGM1(transglutaminase 1)遺伝子変異によることが多いとされますが、その他にも多数の遺伝子変異の関与が報告されています。
ABCA12, NIPAL4, ALOX12B, ALOXE3, CYP4F22, SDR9C7, PNPLA1, CERS3, LIPN
 病理組織は非特異的ですが、不全角化を伴う角質肥厚、表皮肥厚、顆粒層の肥厚が認められます。
(2)先天性魚鱗癬様紅皮症
コロジオン児として出生することもしばしばみられます。皮膚の潮紅および白色から明るい灰色の細かい鱗屑を広範囲に認めます。紅皮症から鱗屑の範囲、程度は様々です。新生児期には軽度の眼瞼外反、口唇の突出開口を認めることもあります。掌蹠の角化も伴います。
 病因として、TGM1, ABCA12, NIPAL4, ALOX12Bが同定されています。
 様々な程度の不全角化を伴う角質の肥厚を認めます。
(3)道化師様魚鱗癬
魚鱗癬の中で最も重篤な病型です。出生時には、全身が厚い板状の角質に覆われていて、眼瞼外反、口唇突出、開口、耳介の変形は高度です。皮膚が乾燥するにつれて皮膚表面の引きつれは亀裂を生じます。新生児期の死亡例も稀ではなく、死亡率は30%に達するともいわれます。近年はレチノイドの使用により長期生存例もみられます。
 病因は皮膚の細胞間脂質輸送に重要な役割を持つ(transporter)ABCA12遺伝子の重篤な機能障害によるとされます。
ABCAの1アミノ酸置換をきたすミスセンス変異では、葉状魚鱗癬に、frameshiftなどのtruncationを呈するナンセンス変異では道化師様魚鱗癬を生じるとされます。
光顕では著明な角化細胞の堆積を認め、電顕では角化細胞内の異常な脂肪滴と顆粒構造、異常な層板顆粒の形成ないし欠損がみられます。

根本的治療法はありませんが、新生児期には保湿剤を中心に輸液管理や感染のコントロールになどの全身管理を行います。
重症例ではレチノイドの全身投与も行われますが、口唇炎、肝機能障害、催奇形性や骨発育障害への注意が必要です。

参考文献

皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 15章 角化症 pp341-377

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
須賀 康 XIV 角化症 1 魚鱗癬 pp167-168

秋山真志 道化師様魚鱗癬の原因蛋白ABCA12について 臨皮 60(5増):49-54,2005

滝沢佐和、他 TGM1遺伝子変異が同定された葉状魚鱗癬の姉弟症例 臨皮 69:917-922,2015

江川貞恵、他 エトレチネートが著効を示した道化師様魚鱗癬の1例 臨皮 59:1049-1052,2005

中野さち子、他 道化師様魚鱗癬の兄弟例 臨皮 63:356-361,2009

【補遺】

角層(角質細胞層)は約10層からなり、脱核し死んだ角化細胞は膜状になり、落ち葉を敷きつめたように重層化する。
角層細胞は扁平で、細胞質内は凝集したケラチン線維で満たされている。顆粒層の直上で細胞形態が消失し、好酸性の層状構造をとるようになる。さらに上層では膜状構造へと変化する。電子顕微鏡観察では、高電子蜜な線維間物質と低電子密なケラチン線維のコントラストが明瞭で、これをケラチン模様(keratin pattern)と呼ぶ。 
 また角層細胞には通常よりも厚い細胞膜が存在し、その内側には周辺帯(cornified cell envelope, marginal band)と呼ばれる裏打ち構造が観察される。周辺帯を構成する蛋白は物理的および化学的刺激に対して非常に安定であり、細胞膜を補強する役割を果たしている。(新しい皮膚科 第3版 清水 宏 著 より)

常染色体潜性先天性魚鱗癬の病因遺伝子(JDA eSchool –魚鱗癬 ichthyosis 秋山真志 より)
角層細胞の内側から
1)ケラチン、フィラグリンとその分解産物
2)cornified cell envelope:CCE(周辺帯)
3)corneocyte lipid envelope :CLE
4)角層細胞間脂質層

角層細胞間脂質層の形成に働く遺伝子
 ①アシルセラミドの合成、輸送 CYP4F22, PNPLA1, CERS3, ABCA12
 ②cholesterolからcholesterol sulfateへの変換 SULT2B1
CLE形成に働く遺伝子
 アシルセラミドをCCEタンパクと結合させる ALOX12B, ALOXE3, CDR9C7
CCE形成に働く遺伝子
 CCE前駆タンパクをクロスリンクさせる TGM1

宿縁 十二月号 中原寺

        [いつでも他人事で過ごす]

 暖冬に油断してか、久しぶりに風邪をひいて喉をやられました。声が出ないというのは本当に困ったもので人とのコミュニケーションが通じない苛立ちを経験しました。
 しかし、今年は周囲でも亡くなられた方が多くあり、また体調を崩されたりしたことを聞いて淋しい思いをしました。
 また不思議なことに、普段と違って自らの体調が悪く臥せっているときには、先に人生を終えた方々との改めての宿縁を深く想うことがあります。
 時の流れはいつも変わらないのでしょうが、体調が良いときはかえって世事に流されてしまっているかも知れません。
 私たちが師と仰ぐ親鸞聖人の九十年のご生涯で、聖人が六十才を過ぎて関東から京都に帰られてご往生されるまでに関東各地の門弟に与えられたお手紙が四十三通あり「御消息」と呼ばれています。その第十六通は特に人間の領域から離れられぬ私たち凡夫の身ですが、阿弥陀如来の広く平等な領域を気づかされ、間違いなく今救われる身となる「信心決定(しんじんけつじょう)のことを述べられていられます。
 『なによりも、去年・今年、老若男女おおくのひとびとの、死にあいて候らんことこそ、あわれに候へ。ただし生死無常のことわり、くわしく如来の説きおかせおわしまして候ふうえは、おどろきおぼしめすべからず候ふ。まづ親鸞が身には、臨終の善悪をば申さず、信心決定のひとは、疑いなければ正定聚に住することにて候ふなり。さればこそ愚痴無智の人も、おわりもめでたく候へ。如来の御はからいにて往生するよし、ひとびとに申され候いける、すこしもたがわず候ふなり。』

 右(上)は、正元元年から文応元年にかけて、全国的な大飢饉と悪疫におそわれ、死者がはなはだ多かったようです。その悲惨な姿に動揺する人たちに送られたお手紙で、信心の行者は、臨終の善悪にかかわらず救われると説かれています。
 当時の人も、科学的な思考に統御された現代人にあっても、変わらぬこの世のありさまは「諸行無常」(万物は常に変化して少しもとどまらないこと。)と「諸法無我」(いかなる存在も永遠不変の実体を有しないこと。)の真理です。それをしっかりと認識できずに絶えず人間の見方考え方を優先する領域から出られないところに私たちの大きな動揺が生じます。
 一寸先を見通せないこの私に執着して、人間の考えの領域で過ごす限り、私の迷いと苦しみはどこまでも続いていきます。
 人間の領域とは、何でも対象とするものを分けて考えどちらかを選択する思考です。多少、自他、善悪といった分別する心の領域から出られないのが人間の理性です。常に色眼鏡を通してしか見られない自己中心の見方です。
 さとりの領域とはそうした見方を超えてすべては一つであると知ることです。それを「一如(いちにょ)」と言いますが、一は絶対不二のことで、さとりの智慧によってとらえられたあり方で、すべての存在の本性が、あらゆる差別の相を超えた絶対の一であることをいいます。だから生も死も一つの世界であり、分断した世界ではありません。
 浄土真宗の信心を死後浄土に往く期待のように理解している人がおりますが、往生浄土は決まったということは、とりもなおさずこの現世が明るくなったいうことなのです。浄土は明るいけれども、この世にいる間はまだ明るくないというのは、親鸞聖人が批判された過去の浄土教です。そうではなく、阿弥陀如来を信じた人は現世において正定聚(しょうじょうじゅ)に入ります。つまり仏にならせていただく身に、この世において定まるのです。人は死に臨むときに仏さまが迎えに来る「来迎」を期待するというのは「いまだ真実の信心をえざるがゆえなり」と、聖人は批判されています。
 どこまでも自分自身の考え(領域)に固執して何とかそこに落ち着こうとするのは他人事のことではありませんね。「大往生」とか、「安らかに息を引き取った」などの言葉が口をついて出てくるのも如来さまの「大慈悲心」の領域に目覚められない表れです。親鸞聖人のお手紙には、続けて法然さまの「浄土宗の人は愚者になりて往生す」と、したためておられます。「愚者」とは、自らの愚かさ、罪深さに自力が打ち砕かれたところに仰がれる救い(往生)です。
 以前、聞いた地方のあるご住職の話です。葬場勤行の折のお経は「正信偈」で、「帰命無量寿如来で始まり〜超発希有大弘誓」でいったん声を切ります。そして一呼吸の後、導師が「五劫思惟之攝受」と声を高く発するところなのですが、いつもそのご住職は、ここにくると感極まって声がかすれてしまい、その後の声が出なくなるのだそうです。列集の僧侶はそれを心得ていて「重誓名声聞十万」と声を続けるとのことです。
 この救われ難き私一人のために、「はかり知れない時をかけて如来の思案がめぐらされたのだ!」といただいた感歎の極まりの姿と言えましょう。お経は常に新鮮なのです。

最近のデュピクセントのインパクト

「アトピー性皮膚炎治療薬デュピクセントのインパクト」という題で記事を書いたのが、2021年3月でした。
それからのデュピクセントの皮膚科における重要性、浸透性はまさに快進撃ともいえるような目覚ましさに思われます。
 いきなり下世話な言い方で恐縮ですが、デュピクセントの総売り上げは1000億円に迫り、単一薬剤の売り上げで第4位につけたとのことです。(不確実情報なので弱冠の誤りがあるかもしれませんが、・・・)上位には現代日本人の最も脅威となる悪性腫瘍に対する薬剤がズラーと並びます。その中にあって抗アレルギー剤がその一角を占めるのは異例のことだとのことです。(全世界的には糖尿病薬が上位を占めるそうですが。)
前年度は第10位とありましたので、売り上げ高が顕著に伸びていることがわかります。
アレルギー性疾患における効能・効果の範囲も広く、アトピー性皮膚炎をはじめ気管支喘息、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎をはじめとし、皮膚科領域での適応疾患の追加・拡大が相次いでみられます。
結節性痒疹・特発性の慢性蕁麻疹にも適応が拡大されましたが、研究上ながら水疱性類天疱瘡や遺伝性角化症の一部にも有効性が示されているとのことで期待が持てます。
その中で、やはり最も患者数が多く、長年患者も医師も治療に難渋し悩まされてきた小児から成人までの難治性アトピー性皮膚炎治療はデュピクセントの登場によってドラマチックその治療概念を一変させました。最近それらを総括するような全国講演会がありましたので、それについてとりあげてみたいと思います。

(1)Dupixent Professional Forum 2024.11.24
2018年4月承認後6年を経過したデュピルマブによるアトピー性皮膚炎の開業医向けの全国講演会
2024.11.24 東京で現地参加
特別講演として上出良一先生の「アトピー性皮膚炎の新治療戦略」があり、その後分科会(1ー3)が催されました。
(2)デュピクセント小児適応拡大1周年記念講演会 2024.12.01
Web参加

複数の講師の先生方が講演されましたので、全体像を示すことはできませんが、その中で気になった重要なポイントを箇条書きにしてみました。
(講師 敬称: 略)

(1)
(上出良一)
・最新の(2024年版)のアトピー性皮膚炎(AD:Atopic Dermatitis)のガイドラインで強調されていることは治療方針の説明・共有(SDM:shered decision making)の考えを取り入れて、患者主体の治療を行っていくことの重要性。
・デュピクセントは2018年4月に承認され、6年目を迎え実臨床においても有効性と安全性が検討されて、多数の難治性アトピー性皮膚炎患者を治すという夢に一歩近づいた。
・入口戦略として、早期介入を行って、アレルギー感作を予防し、ステロイドからの離脱を図り、自然寛解へと導いていく。それが困難な例では全身療法を行う。
・ADの全身治療薬として、JAK阻害薬やネモリズマブなど他の生物学的製剤もある。ただ、デュピクセントで長期寛解を維持できている患者さんは安定してTARCも低い。これは安定した寛解の指標となりうる。JAKではギザギザの上下動の多い不安定な動きになる。
・出口戦略として、デュピクセントなどで寛解に持ち込めた人をどのように「安定した寛解」を維持していくかは今後の問題だ。
・今でも脱ステロイドの患者さんがある。これらの人に対しては頭ごなしの否定はせずに傾聴的な問診が重要だ。これらの人は経験的に長期ステロイドを使用してきた患者さんよりデュピクセントによる治りが早い。脱ステロイドが無駄ではなかったんだよ、という肯定的なメッセージも必要だ。演者は定期的にアトピーカフェを開催し、ネット上からも参加を呼び掛けている。
・治りにくい人は好酸球の高い人、不安定な人。なぞの顔面紅斑の人。(3群に分けて考えている。1.ステロイド酒さの人、ダーモスコピーで判断。2.発赤、カサカサのある人、掻破していることが多い。3.デュピクセントによって紅斑がもたらされたかと思える人➡IL-13など他剤への切り替えを考慮する。)
(竹岡伸太郎)
・ADに対しては、まず外用療法をしっかり行うことが基本だが、それでも十分にコントロールできない例ではシクロスポリン、内服JAK阻害薬などの免疫抑制薬や光線療法、デュピクセントなどがある。シクロスポリンは使用期間の制限や副作用、また内服JAK阻害薬は安全性を担保するための検査が必須であり、クリニックでの長期使用には使いにくい。その点デュピクセントは重篤な副作用もなく、特別な内科的検査も必須ではなく、クリニックで使い易い薬剤だ。
・自施設で導入する、しないにかかわらず、デュピクセントなどの新たな治療があることを患者さんに伝えていきたい。看護師、事務、薬剤師の皆さんとともに体制を整えて導入した達成感は大きなものがある。
(米田明弘)
・AD治療において十分な外用療法、紫外線療法、シクロスポリン内服療法などを行ってもコントロールできない難治性の患者さんが一定数いて、この点が臨床的アンメットニーズのひとつであり、AD治療の限界点だった。これを超えることを可能にしたのがデュピクセントの登場だった。今までは難治性の患者さんは大学病院などへ紹介していたが、今ではクリニックでも十分にコントロールができるようになった。生物学的製剤というと基幹病院で使用するというイメージがあるが、デュピクセントは適正使用のもとクリニックでも安全に使用できる薬剤である。
(2)
(常深祐一郎)
・ADのガイドラインは2024年に新しく改訂されたが、治療目標(ゴール)は川島先生らが作成された当初からの「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない」と記載してあり、これは一貫して変更がない。
ただ、以前は治療方法が限られており、なかなかこの目標に到達できず、いってみれば努力目標だった。しかし、近年は各種外用薬(非ステロイド剤など)、各種全身治療薬(生物学的製剤、低分子治療薬など)が開発されてこの目標が現実に到達できるような時代になってきたことが大きな違いだ。
また、大きな違いは「疾患と治療目標(ゴール)の説明・共有という項目が追加された点で、いわゆるSDM(shared disease making)という概念が導入され、適当な治療や疾患概念の説明や患者教育を具体的に行い、それを患者と共有していく、という患者目線にたった治療の必要性をうたっている点だ。
またアトピー性皮膚炎の病態図において好塩基球が重要な働きを持つとして追加された。
・難治性のADの小児に対しても生後6か月からデュピクセントが使用できるようになり、患児のみならず、家族のQOLもあがった。治療を担当する医師もAD治療の成功体験を通して使命感、やる気を高めることができる。
・注射の打ち方一つとっても工夫が必要である。真摯に向き合って痛い注射だけど頑張ったね、と褒める、シールをあげる、など工夫して治療している。
急に動かれて危なくないように座らせて大腿の上から下方へ垂直にできるだけゆっくり打つ。
(福家辰樹)
・治療の早期介入によって食物アレルギー、AD、喘息、花粉症、鼻炎などのアレルギーマーチを抑制していくことが重要だ。
・デュピクセント治療によって確実にIgEが下がっていく。
(工藤恭子)
小児への注射の打ち方の工夫として、ペンレスを使用、プニュプニュで軽く冷却して行う。ペンよりシリンジの方が(調節し易く?)打ちやすい。
小児の皮膚は薄いのでそのまま指で挟んで摘まみ上げると打ちにくい、周りの皮膚を寄せるようにして厚みを作るとよい。シリンジは早く打ったほうがよい。

・注射の方法は各担当医が個々の患者さんと相談しながらやりやすい方法を工夫していくのがいいのかな、と感じました。
・寛解した後の出口戦略は?との質問には、寛解が得られて調子よければ、徐々に注射間隔をあけていく、との回答でしたが、なかなか統一したコンセンサスは得られていないような印象を受けました。

まだまだ究極の治療ゴールには至っていないものの、デュピクセントの登場によってアトピー性皮膚炎の治療は確実にブレイクスルーを遂げてきていると感じました。

ケラチン症性魚鱗癬

従来の病名では、水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症(Bullous congenital ichthyosiform erythroderma:BCIE)とよばれていました。
2009年の新分類では、(1)表皮融解性魚鱗癬(epidermolytic ichthyosis)と(2)軽症型(Siemens型)の表在性表皮融解性魚鱗癬(superficial epidermolytic ichthyosis)に分けられています。
いずれも、細胞骨格を形成するケラチン遺伝子の変異が原因となって生じます。

(1)表皮融解性魚鱗癬
常染色体顕性(優性)遺伝で罹患率は1人/10万~20万人。ケラチン1またはケラチン10の遺伝子変異によって発症します。(稀に潜性(劣性)遺伝の報告あり)
出生時より全身に潮紅がみられ、水疱、びらん形成を反復し、次第に鱗屑が厚くなってきます。臨床症状はあたかもSSSS(stafilococcal scalded skin syndrome)と類似することがあります。学童期より厚い角化は固定し全身におよび、紅皮症状態は継続しますが、水疱形成は次第に軽快してきます。関節屈面では洗濯板状・煉瓦状になります。ケラチン1変異例では掌蹠に高度の角化をきたし、ケラチン10変異例では掌蹠の角化はほぼみられません。重症例では特有の臭気がみられます。毛・歯はほぼ正常です。
稀に鱗屑を有する環状紅斑が体幹・四肢近位部に多発することがあります。
 ケラチン線維はⅠ型とⅡ型が特定のペアを組みヘテロダイマーを形成し、これが重合して成り立っていますが、角化細胞では基底層ではK5/14を発現していますが、有棘層に分化・移動するとK5/14の発現はなくなり、代わってK1/10が発現します。本症ではK1,K10のいずれかの遺伝子の変異によって発症しますが、遺伝子変異は主に点突然変異でK1のロッドドメインのカルボキシル基末端、K10のアミノ基末端で生じるとされます。
 病理組織では、著明な表皮肥厚と過角化がみられます。有棘層上層から顆粒層にかけて表皮細胞の細胞質内の核周囲に空胞と粗大なケラトヒアリン顆粒が認められます。(顆粒変性granular degeneration)、表皮内水疱を形成します。(epidermolytic hyperkeratosis)。顆粒層は肥厚します。真皮上層では慢性の炎症細胞浸潤を認めます。
電顕ではトノフィラメントの過形成や未熟なケラトヒアリン顆粒の凝集塊(clumped keratin filaments)を認めます。

(2)表在型表皮融解性魚鱗癬
(1)よりも軽症な型で、主にケラチン2eの遺伝子変異が病因となります。ケラチン2eは表皮上層のみで発現するために病変は表皮上層に限局するために(1)と比較すると潮紅、鱗屑、水疱のいずれもが軽症となります。幼少時期では四肢を中心に水疱形成と角層剥離(軽い外力で脱皮(molting phenomenon)をきたし成人期では四肢屈側に角化局面がみられます。

根本的な治療方法はなく、対症療法や生活指導が中心となります。角質溶解剤、保湿剤、ビタミンD3軟膏の外用を主体とし、重症例ではレチノイドの全身療法も行われています。魚鱗癬を専門とする医療機関へのコンサルトが必要となります。

参考文献

皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 15章 角化症 pp341-377

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
須賀 康 XIV 角化症 1 魚鱗癬 pp167-168

尋常性魚鱗癬、伴性遺伝性魚鱗癬

【尋常性魚鱗癬(Ichthyosis vulgaris)】
非症候性魚鱗癬の中で最も頻度が高い型です。罹患率は約250人に1人とされます。
常染色体半顕性(優性)遺伝(autosomal semidominant inheritance)でヘテロ接合体(異なる遺伝子型を持つ場合、片方のアレルに変異がある場合)とホモ接合体(同じ遺伝子型を持つ場合)で軽症、重症の表現型の差異を示します。
出生時には無症状ですが、生後数か月で発症します。10歳頃まで進行性で多くは青年期以降軽快します。
 症状は背部、四肢伸側の小型で白っぽい鱗屑を固着し、乾燥がみられますが、四肢屈側、胸腹部は避けます。頭顔部に軽度の粃糠様落屑を認めます。冬季には増悪しますが、夏季には軽快します。掌蹠皮膚紋理の増強が特徴的で、アトピー性皮膚炎の合併頻度が高いです。性差はありません。
一般的に四肢屈側には乾燥、角化は認めませんが、ホモ接合体などの遺伝子変異の患者さんなどでは四肢屈側が侵される場合もあります。
 病因はフィラグリン遺伝子の異常でプロフィラグリン合成機能低下により、ケラトヒアリン顆粒の形成異常、フィラグリン合成低下をきたし、角層形成不全、保湿機能低下をきたします。プロフィラグリンは約400kDaの分子量で有棘層上層で発現し始め、10~12個のフィラグリンリピート構造を有します。脱リン酸化しプロテアーゼの作用によって37kDaのフィラグリンモノマーとなり、ケラチンフィラメント同士を凝集させる線維間凝集物質として働きます。フィラグリンはさらにアミノ酸などの天然保湿因子に分解されて保湿機能を持ちますので、尋常性魚鱗癬では保湿機能が低下します。
 病理組織では、フィラグリンが主構成要素である顆粒層を欠如または減少します。角層は肥厚していますが、これは増生ではなく、角層脱落遅延(retention hyperkeratosis)によるものです。
【伴性遺伝性魚鱗癬(X連鎖性潜性魚鱗癬】
伴性潜性(劣性)遺伝で、X染色体に遺伝子変異があり、母親が保因者になります。男性2~6千人に1人で見られます(稀に女性発症)。出生直後あるいは幼少時期から発症し、尋常性魚鱗癬と比較して症状は高度です。手掌足底を除く全身に皮疹がみられ、黒褐色の大きな葉状の鱗屑が特徴です。冬期に悪化します。頭毛は疎で瘢痕性脱毛も生じます。また角膜混濁が高頻度に見られます。ただ臨床症状だけではこの両者の鑑別が困難な例もみられます。その際は以下の遺伝子検査などが必要となります。
 病因はステロイドスルファターゼ遺伝子(STS)の変異、欠損でFISH(Fluorescence in situ hybridization)法によって生前診断が可能です。STSの遺伝子座はX染色体短腕遠位側のXp22.31に存在し、同症ではこの遺伝子の完全欠失が多く、周囲の遺伝子を巻き込んで様々な随伴症状をきたすことがあります。(隣接遺伝子症候群 患児の5%程度)。STSの欠損の結果、硫酸コレステロールが角層細胞間に蓄積して剥離遅延を起こします。
Kallmann症候群(性腺発育障害、嗅覚障害)・点状軟骨異形成症・低身長・精神発育障害など。
また母体血清マーカーでエストリオール(uE3)が正常の1/10以下で子宮口開大不全による陣痛微弱がみられます。潜伏精巣(20%)、精巣癌が20~40歳で見られることがあるので成人に達したら一度泌尿器を受診し、精巣腫大の検査方法を習うべきとされます。
病理組織では、特徴的な所見は見られませんが、角質肥厚(retention hyperkeratosis)で顆粒層は尋常性魚鱗癬と異なり正常かまたは軽度肥厚、有棘層の肥厚を認めます。

治療は根本的な原因療法はなく、基本的には保湿などの対症療法や生活指導になります。伴性遺伝性魚鱗癬の重症例ではエトレチナートの内服も適応となりえますが、小児では骨端線の早期閉鎖を生じるために外用剤の治療が主体となります。
プロペト、ヘパリン製剤、尿素軟膏、サリチル酸ワセリン、ビタミンD3軟膏などが適宜使い分けられています。

参考文献

皮膚科学 第10版 大塚藤男 著 上野賢一 原著 金芳堂 京都 2017
15 角化症 pp329-364

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
須賀 康 XIV 角化症 1 魚鱗癬 pp167-168

角化症(魚鱗癬、掌蹠角化症、その他の角化症)

遺伝性角化症もなかなか複雑で病名も多く、しかも症例数は少なくcommon diseaseとは言えず、とりつきにくい疾患分野です。近年責任遺伝子も次々に発見されてきて、ますます覚えるのも大変で敬遠してしまう分野になってしまいました。
 しかしながら、皮膚の最表面の疾患群ですので直接眼にふれますし、勿論重要な疾患も含まれていますし、角化はアトピー性皮膚炎や乾癬などの重要な疾患でも密接に関連します。
近年明らかにされた希少疾患の遺伝子変異などはとても手に負えませんが、下記の分類の中から代表的と思われる疾患をとりあげて調べてみることにしました。
また日常外来でみられる角化症としては胼胝(タコ)、鶏眼(魚の目)など日常診療では重要な疾患があり、これら後天的な角化症についても取り上げてみます。
(主に(※)印について調べてみたいと思います、)

【遺伝性角化症】
1.遺伝性魚鱗癬
1)尋常性魚鱗癬(※)
2)X連鎖性劣性魚鱗癬(※)
3)道化師様魚鱗癬(※)
4)葉状魚鱗癬(※)
5)先天性魚鱗癬様紅皮症(※)
6)self-improving collodion ichthyosis
7)ケラチン症性魚鱗癬
・表皮融解性魚鱗癬(※)
・表在性表皮融解性魚鱗癬(※)
8)ロリクリン角皮症

2.魚鱗癬症候群
1)Dorfman-Chanarin症候群(※)
2)Netherton症候群(※)
3)Sjogren-Larsson症候群(※)
4)keratitis-ichthyosis-deafness(KID)症候群
5)ichthyosis follicularis, atrichia photophobia(IFAP)症候群
6)peeling skin syndrome(PSS)
7) Ichthyosis prematurity 症候群
8)Conradi-Hunermann-Happle症候群
9)Gaucher病2型
10)血小板減少症を伴う角化異常症

3.掌蹠角化症
1)長島型掌蹠角化症(※)
2)長島型以外のびまん性掌蹠角化症(※)
3)線状掌蹠角化症、点状掌蹠角化症、限局性掌蹠角化症(※)

4、先天性厚硬爪甲症(※)

5,Darier病(※)

6,変動性進行性紅斑角皮症

7,毛孔性過角化症(毛孔性苔癬)(※)

8,顔面毛包性紅斑黒皮症(※)

9,汗孔角化症(※)

【その他の角化症】
1.胼胝(※)

2.鶏眼(※)

3.更年期角化症

4.黒色表皮腫(※)

5.鱗状毛包性角化症(※)

6.連圏状粃糠疹

7.融合性細網状乳頭腫症

8.後天性魚鱗癬(※)

9.固定性扁豆状角化症

【炎症性角化症】一般的には角化症とは別項として扱われる

(標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃  医学書院 東京 2020
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285による。)

分類は専門家によって細かい差異がありますが、一例として上記を挙げました。

乾癬治療は今(3)

前回、乾癬の治療について書きました。治療法は進歩してきているとはいえ、その中でも様々な問題があることも付記しました。今回はそれらのことを踏まえて、乾癬専門医の工夫、治療のノウハウ、tipsについて記してみたいと思います。

実際に乾癬治療の第一線で活躍されている専門医の治療の要諦については「公的保険や医療費助成制度を意識した乾癬治療がまずキモだ」との多くの意見を聞きます。
その前提としてSDM(shered decision making)の考えが重要で医師が患者さんと情報や気持ちを共有しながら、治療を進めていくというやり方です。そうはいっても、患者さん自身が担当医の説明が良く分からない、自分の考えがまとまらない、病気のことがよくわからない、どうしていいか分からない、といった状況は多いと思います。そういった場合には全国各地の乾癬患者さんの会に直接あるいはネットで尋ねてみるのも一つの手立てかと思います。
【医療費助成制度】
🔷まず、保険証の確認(5つの種類)
・国民健康保険
・協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)
・組合管掌健康保険
・共済組合
・後期高齢者医療制度
🔷高額医療費制度
医療機関や薬局の窓口で支払った額が、1か月間で一定額(自己負担限度額)を超えた場合に、その超えた金額が高額医療費として支給される制度。
家族で同じ健康保険に加入している場合は、合算した金額が自己負担限度額を超えれば、高額医療費の支給を受けることができます。
自己限度額は年齢、所得区分によって異なります。
所得区分……………………….ひと月当たりの自己負担限度額 1~3回目……………….4回目以降
ア、年収約1160万円~の方…………252600円+(総医療費-842000円)x1%………………………140100円  
イ、年収約770万円~1160万円の方……167400円+(総医療費-558000円)x1%………………………93000円
ウ、年収約370万円~約770万円の方……80100円+(総医療費-267000円)x1%………………………44400円
エ、~年収約370万円の方…………..57600円…………………………………………….44400円
オ、住民税非課税の方……………..35400円…………………………………………….24600円
@70歳以上の方の場合は若干変わってきますが、省略。
@高額医療制度を利用するには、認定証により窓口での支払いを自己負担限度額までにする。
一旦窓口で支払った後に支給申請を行う。
という、2通りの方法がありますが、マイナ保険証の導入により認定証の取得が不要となりました。70 歳以上は認定証不要(非課税の方を除く)。
多数回該当や世帯合算による負担の軽減を受けたい場合などは支給申請が必要となります。
🔷高額医療制度ーーさらに負担を軽減する仕組み
@多数回該当
直近12か月で高額医療費の支給をすでに3回以上受けている場合・・・多数回該当として、4回目以降の自己負担額がさらに低くなる。
@付加給付制度
一部の健康保険組合や共済組合による独自の制度で、各々が独自に定める限度額(例:一か月間に2万円以上)を超えた金額を付加給付する制度。
@医療費控除
1年間(1/1~12/31)に支払った医療費の負担額が一定額を超えた場合、確定申告をすることによって所得控除が受けられる制度。
@難病医療費助成制度
指定難病の患者さんで、1か月に支払った医療費が自己負担限度額を超えた場合に特定医療費として支給する制度。
37 膿疱性乾癬(汎発型)
@その他医療費負担が軽減される場合(自治体による医療費助成制度(公費負担)・・・省略

これらの制度を活用することによって高額な生物学的製剤ももっと上手に利用できる可能性があります。
但し、注意すべき事項もあります。
・多数回該当は直近の12か月に適用されるので、症状が寛解して、注射の間隔を開けると、該当を外れることもあり得ます。
・月初に始める(特に5週ある月)ことで医療費を軽減し得えます。
・年収の区分によって、生物学的製剤の注射量を減らすことが支払いの軽減につながる場合と、そうでない場合があります。

【実際の生物学的製剤治療】
外用療法、光線療法などが奏功しない、中等から重症の乾癬患者さんに対しては、上記の事項を考慮して、生物学的製剤が繁用されています。そして(CLCI: cumulative life course impairment) ,(PsD: Psoriatic disease),(PsA: Psoriatic arthritis)なども勘案し、近年は積極的に治療を加えるべき患者さんを見極め、早期治療介入の重要性が強調されています。
それでは、多数ある生物学的製剤をどのように選択するかについては絶対的な指標はないようです。患者さんの希望を取り入れつつ、関節症などの合併症の有無、自己注射の可否、通院期間、安全性なども選択の判断基準となってきます。また注射製剤がイヤな患者さんの場合は内服薬が考慮されますが、近年はオテズラ、ソーティクツなどの比較的副作用が少なく効果のある薬剤もでてきました。
・TNF阻害薬:レミケード、ヒュミラ、シムジア。TNF阻害薬は関節炎に関する有効性を示すエビデンスが蓄積されていて、広範囲の炎症に関する分子であるために乾癬内での適応範囲は広く心血管イベント抑制の報告も多くあります。バイオシミラーも認可されて、より使い易くなりました。但し、レミケードは抗体の発現により、二次無効や、長期中断の後の重篤な投与時反応に注意が必要です。
・IL-12/23p40阻害薬:ステラーラ。後に認可されたIL-17阻害薬、IL-23p19阻害薬と比べると、やや効果は劣りますが、長期使用でも比較的安全に使用できる薬剤で、継続率も高いです。2023年にはウステキヌマブBSも認可され、さらに使い易くなりました。
・IL-17阻害薬:IL-17Aを阻害するコセンティクス、トルツ、ルミセフとIL-17A/Fを阻害するビンゼレックスがあります。IL-17阻害薬は比較的効果の発現が早いい薬剤が多く、また乾癬性関節炎への効果も高く、体軸病変への効果もあり、TNF阻害薬と同列の位置づけとなっています。但し、カンジダ症や炎症性腸疾患を誘発ないし、増悪させるリスクへの注意が必要です。ビンゼレックスはIL-17Fも阻害することより、現在のところ腸疾患の副作用の有意な上昇はみられていません。
・IL-23p19阻害薬:トレムフィア、スキリージ、イルミア。IL-17阻害薬と比べると効果の発現は緩徐ですが、皮膚に対する効果は非常に高く、PASI90、100も目指せる薬剤です。投与頻度も2,3か月ごとと少なく、安全性も高い薬剤です。進行期の関節症への効果は期待できず、TNF阻害薬、IL-17阻害薬より下位に置かれていますが、predominal psoriasisなど予防という点ではPsAのTNF-α,IL-17より外側縁に位置するIL-23を抑えることが将来のPsAへの進展を抑制するのではないかという報告もあります。

【生物学的製剤の使用においての問題点】
・薬代が高い。
・注射が痛くて苦痛。
・強い薬の副作用への不安。
・いつまで注射が続くのか不安。
・主に開業医の声として。高額な薬の管理、バイオの副作用への対応などへの不安。そもそも使ったことがない。
・このまま高額な薬剤が増えていけば国の医療費が高騰して、医療財政が逼迫し、将来は国民皆保険制度の維持も危ぶまれる。
などの点が指摘されています。

【これらの問題点への対応】
必ずしも生物学的製剤を取り入れなくても、従来のより安価な内服治療薬でも、薬剤の特性、副作用などを熟知した医師ならば例えば、シクロスポリン、MTX,チガソン、オテズラ、ソーティクツなどを駆使して十分に中等度以上の乾癬患者さんをコントロールできると指摘する専門医もいます。
また生物学的製剤に通暁していない開業医についても、生物学的製剤使用承認施設の条件は逐次改訂され、導入がし易くなってきています。しかしながらクリニックの医師の副作用等の緊急時の対応への不安の声はつとに聞かれます。やはり大学病院など承認施設医師からの安心できるバックアップ体制の充実が病診連携の拡大へ向けて重要かと思われます。
また高額医療費は、個人としても、国全体の医療財政的にも放置できない問題です。生物学的製剤は遺伝子組み換え技術や細胞培養技術を用いて製造されるために莫大な開発費がかかり、その結果薬価も高額です。国としても限りある医療財源を考慮して、先行生物学的製剤(バイオ医薬品)と比べると、低価格の後続品(バイオシミラー:BS)の普及促進に努めています。厚生労働省は2029年度末までにBSに「数量ベースで80%以上置き換わった成分数が全体の成分数の60%以上にする」ことを目指しているそうです。実際レミケードBS(2014年)、ヒュミラBS(2020年)、ステラーラBS(2023年)と発売され、薬価は半額以下で効果、安全性についても先行バイオ医薬品と同等/同質であることが確認されています。(保険、収入などによりBSを使用しても自己負担額が必ずしも下がらない場合があります。)

【将来を見据えての治療戦略】
最近、上記の事柄等を踏まえ、将来の乾癬治療に対しての提言について述べる論文、講演も散見されるようになってきました。
その中で、個人的に注目した文献からの提言をいくつか取り上げてみたいと思います。

@バイオシミラーの導入とその使用拡大への国の方針。
@乾癬の治療方針は、患者さんの疾患に対する思い、負担を思いやる治療法を目指すべきで、大きく分けて高コスト、高リターン群と中コスト、中リターン群に二分されていくだろう。
@バイオが高額のイメージがあるが、費用対効果を考えると必ずしも高くない。ビンゼレックスはIL-17A/Fの両者を抑制するためか、腸での有害事象も見られず、治療効果も優れていて、費用対効果も優れている薬剤である。
@ソーティクツを始めとしてTyk2阻害薬の効果はバイオにも匹敵するほど高く(俗に飲むステラーラとよばれる)、関節症にも効果がありそうとの報告もでてきている。現時点では他のJAK阻害薬にみられる免疫抑制などの副作用がみられていない。注射薬の嫌いな方や内服薬の簡便さを好む患者さんで高額な治療費を容認できる方にはよい適応になると思われる。
@外用剤、光線療法と一部の内服薬剤の併用をすると却ってバイオよりも高額になることもある。
@バイオで寛解に至った患者さんの治療満足度は非常に高いものの、悩みは治療費の高いことと、いつまで注射を続けなければならないか、ということ。
@バイオ寛解患者さんの中でIL-17製剤は7~8週、IL-23製剤は4~6か月に投与間隔を延長してもまったく再燃傾向のないsuper responderがある。それらの患者さんのなかでは1年以上バイオフリーの人も見られた。禁煙や肥満改善などの悪化因子の対策も寛解延長に重要。
@乾癬は同じ部位に再発してくることが多く、これには乾癬病変部表皮内の記憶をつかさどる固有のT細胞分画(resident memory T細胞:TREM)が皮膚に長くとどまることが関係しているとされている。これをターゲットにして、再発を抑制する治療戦略も研究されている。

乾癬治療は今(2)

軽症例では外用療法が中心となります。中等症では光線療法や内服療法を追加します。難治性の中等症や重症例では、生物学的製剤が使用されます。
🔷外用療法
ステロイド外用薬とビタミンD3外用薬、ステロイド・ビタミンD3配合剤が基本の治療薬です。ステロイド外用薬は即効性がありますが、長期使用による皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用を軽減し、なお効果を高めるために最近は、ステロイド・ビタミンD3配合剤が多用される傾向にあります。ビタミンD3外用薬には刺激性があり、広い面積に、特に萎縮した皮膚への使用、腎機能低下などにより、高カルシウム血症をきたすことに注意を要します。タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)は保険適用外ではありますが、顔面、陰部などステロイド外用剤が使用しにくい部位には有効性が示されています。また新規のブイタマークリーム(タピナロフ)は今後の有効性の評価が期待されるところです。
🔷光線療法
ナローバンドUVB療法は広く使用されており、外用剤(ビタミンD3、ステロイド・ビタミンD3配合剤)、(内服療法(チガソン、オテズラ)との併用の有効性も示されています。一方シクロスポリン、MTXとの併用は禁忌です。難治部位にはエキシマライトの照射も有効です。またPUVA療法、PUVAバス療法も有効です。ただ、水銀灯の製造禁止、規制等に伴い、将来はLED化を進めていかなければならないそうです。
🔷内服療法
◎エトレチネート(チガソン)
・・・ビタミンA酸の誘導体。催奇形性があるために、若年者には使いづらい薬剤です。(女性は2年間、男性でも1年間の避妊が必要)。しかし一方で、免疫抑制が無いために高齢者にも比較的安全に使用可能です。膿疱や角化の強い病変(膿疱性乾癬を含む)に高い効果が期待できるとされます。また光線療法との相乗効果も期待できます。皮膚の菲薄化をきたし易く、口唇、手指の荒れを訴えることが多いです。それで、10mg/日などの低用量から開始します。また骨硬化、脱毛、肝機能障害、高脂血症などにも注意が必要です。
◎シクロスポリン(ネオーラル)
・・・T細胞を標的とした免疫抑制薬です。T細胞活性化に必須なカルシニューリンを阻害することにより効果を発揮します。乾癬の病態に免疫機序が関与することを実証するきっかけを作った薬剤でもあります。当初は5mg/kg/日で投与開始されていましたが、副作用として高血圧や腎機能障害などが高頻度にみられ、現在では比較的低用量2.5mg~5mg/kg/日で開始されています。低用量の1.5~2mg/kg/日朝食前投与する方法も好まれています。欧米では投与期間は1,2年と限定されていますが、低用量で副作用をチェックして、適宜増減、休薬などで調整していけば、より長期にも使用可能という考えもあります。比較的安価で有効な薬剤です。
◎アプレミラスト(オテズラ)
・・・PDE4阻害剤です。cAMPを上昇させ、活性化した免疫細胞・表皮細胞のバランスをとる免疫調整薬です。臨床効果は個人差が大きいですが、免疫抑制作用が無く比較的安全で、内服中の血液検査も必須ではありません。それで、クリニックなどでも使い易い薬剤です。指趾炎などの関節症状にも有効です。内服初期に下痢、吐気、頭痛などの副作用が生じやすくその周知が必要です。

以下の全身療法は、免疫抑制などによる副作用が生じる可能性があるために日本皮膚科学会の生物学的製剤使用承認施設での使用が求められています。しかし、最近は施設要件が緩和され、病診連携が図られて、緊急時の対応が確立できれば、クリニックなどでも使用できるようになってきています。

◎メトトレキサート(リウマトレックス)
・・・葉酸代謝を阻害することで核酸合成を抑制する免疫阻害薬です。関節リウマチのアンカードラッグとなっていますが、乾癬ではアンカードラッグにはなりえません。TNFαと併用して乾癬性関節炎に使用されることが多いです。末梢関節炎には有効ですが、体軸型には効果は期待できません。安価で内服薬剤もあり使い易い薬剤ですが、重篤な副作用の生じることもあり、薬剤に精通した医師が使用すべきです。6mg/週から開始し、適宜増量します(6~16mg)。誤った過量投与によって重篤な骨髄抑制をきたしますので、特に認知機能の低下した高齢者には使用すべきではありません。また腎機能障害者、妊婦、授乳婦への使用は禁忌です。間質性肺炎、肝線維症にも注意が必要です。葉酸併用は必須ですし、骨髄抑制の緊急時にはロイコポリンレスキュー(ロイコポリン救済療法)を施行します。
◎デュークラバシチニブ(ソーティクツ)
・・・経口Tyk2(チロシンキナーゼ)阻害薬です。Tyk2は細胞外の刺激シグナルを細胞内に伝達するために働くリン酸化酵素群の一つであるヤヌスキナーゼ(JAK)ファミリーで、JAK1,2,3とTyk2の4種類のうちの1つです。他のJAK阻害薬と異なり、pseudo-domeinに結合してアロステリック阻害で効果を発現するために他のJAK-SATAT経路を阻害せず、選択的にTyk2のみを阻害します。従って、他のJAK阻害剤に見られる血球系の副作用はほぼ認めず、ステラーラなどの生物学的製剤とほぼ同等の臨床効果をきたします。それで、飲むステラーラとも俗称されることもあるそうです。
新規薬剤ですので、副作用、PsAに対する効果など、今後の症例の集積が待たれるところです。
@ウパダシチニブ(リンヴォック)
・・・JAK1阻害薬です。csDMARD,PDE-4阻害薬で効果不十分な乾癬性関節炎(PsA)に適用になります。15mg/日 1回経口投与します。他の生物学的製剤と同様の結核、肝炎等の予防措置をとります。帯状疱疹の発生頻度が上昇することに対しても注意が必要です。ウパダシチニブには、副作用の懸念はありますが、心血管リスクの高い人、高齢者などを避けるなどの高リスク因子の人を除外すれば、即効性はあり、生物学的製剤匹敵する有用性を示します。催奇形性があるために妊婦には禁忌です。

🔷生物学的製剤
この製剤の利点は特定の標的分子に対する高い特異性にあります。ピンポイントで作用するためにコルチコステロイドのような広範囲の作用、副作用は避けられます。副作用は標的分子に対する直接作用に限られます。
<TNF阻害薬>・・・広範囲の炎症に関与する分子であるために適応範囲も広く、心血管イベント抑制の報告も多いです。他の生物学的製剤に比較すると感染症のリスクはやや高めです。脱髄疾患がある場合は禁忌です。市販後調査でニューモシスチス肺炎の発生もみられており特段の注意が必要です。
@インフリキシマブ(レミケード)。キメラ型抗体。静脈注射(点滴)。0,2,6週以後8週間隔。5mg/kg(効果不十分な場合は10mg/kgまで増量あるいは4週間隔まで期間短縮可能。)膿疱性乾癬、紅皮症、関節症性乾癬など重症型にも有効率が高く即効性です。一方、キメラ型抗体であるために抗インフリキシマブ抗体の発現による二次無効例、特に再投与時にアナフィラキシー様症状などを含む重篤な投与時反応が起こる可能性があります。
@アダリムマブ(ヒュミラ)。完全ヒト型抗体。皮下注射、在宅自己注射が可能。2週間隔。40mg(初回は80mg,効果不十分な場合は80mgまで増量可能。レミケードの二次無効例にも効果が期待でき、長期投与でも、最投与でも安定した効果が期待できます。
尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬
@セルトリズマブペゴル(シムジア)。ペグ化、ヒト化型抗体。皮下注射、在宅自己注射可能。2週間隔。400mg、症状安定後は200mg2週あるいは400mg4週間隔も可能。ペゴルはFc領域を持たないために、胎児性Fc受容体を介した経胎盤移行が行われず、乳汁への移行性も少ないために妊婦、産婦、授乳婦への投与がし易い薬剤です。
尋常性乾癬、関節症性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬
<IL-12/23阻害薬>
@ウステキヌマブ(ステラーラ)。ヒト型IL-12/23p40抗体。皮下注射。自己注射は不可。0,4週以降12週間隔。45mg、90mgへの増量可能。IL-12/23p40抗体であり、当初はTh0からTh1へ誘導するIL-12を抑制することが乾癬の治療につながることが期待されましたが、その後2000年にIL-23が発見され、これがp19サブユニットやIL-12と共通のp40サブユニットからなるヘテロダイマーであることが明らかになり、むしろIL-23を抑制することによって効果を発揮することが明らかになってきました。有効性はやや劣るものの、長期使用に耐え、治療継続率も高く、高齢者にも比較的使い易い薬剤です。
尋常性乾癬、関節症性乾癬
<IL-17阻害薬>
IL-17製剤はCrohn病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の症状を増悪ないし発症させる危険性があります。また真菌感染症特にカンジダ症、細菌感染症などへの注意が必要です。IL-17シグナルを受容体レベルで広く阻害するブロダルマブではカンジダ症が最も高頻度にみられます。
@セクキヌマブ(コセンティクス)。ヒト型IL-17A抗体。皮下注射。在宅自己注射可能。0,1,2,3,4週、以後4週間隔。300mg(体重60㎏以下の患者は150mg可能)。IL-17は乾癬病巣形成に直接関与するエフェクターサイトカインであり皮膚への有効性は高いです。またIL-17AはRANKLの発現誘導を介して破骨細胞の形成促進に関与し、また炎症性サイトカインと協同して骨、軟骨の破壊にも関与しています。従ってそれを抑制する同剤は関節症性乾癬への有効性も高いです。
2021年9月からセクキヌマブの6歳以上の小児に対する適応拡大が承認されました。
尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬
@イキセキズマブ(トルツ)。ヒト化型IL-17A抗体。皮下注射。在宅自己注射可能。12週まで2週間隔。それ以後4週間隔。(効果不十分なら2週間隔継続)。
80mg、初回は160mg。オートインジェクターを用いた投与時の疼痛がみられやすいですが、冷却すること、投与部位を変える事で軽快することも多いです。
他の製剤より早期に効果がみられます。
尋常性乾癬、関節症性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬
@ブロダルマブ(ルミセフ)。ヒト型抗IL-17受容体(R)A抗体。皮下注射。在宅自己注射可能。1回210mg。0,1,2週以後2週間隔。ブロダルマブはIL-17A,F,Cの働きも抑制します。従って効果は高く速効性があります。
尋常性乾癬、関節症性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬
@ビメキズマブ(ビンゼレックス)。ヒト化抗IL-17A,IL-17F抗体。皮下注射。在宅自己注射は不可。1回320mg。初回から16週までは4週間隔、以後8週間隔。状態に応じて16週以降も4週間隔可能。
尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症
アダリムマブ、ウステキヌマブ、セクキヌマブとの直接比較試験により、ビメキズマブの非劣性、優越性が認められています。Armstrongらのネットワークメタ解析によると10週から16週でのPASI90、PASI100達成率においてすべての生物学的製剤に比べ統計学的に優位性を示した、とのことです。また抗IL-17製剤で懸念される炎症性腸疾患悪化についてもビメキズマブの臨床試験で有害事象の有意な増加はみとめられなかったとのことです。腸管においてはIL-17Fを抑制すると制御性T細胞の誘導能を持つ細菌が増加し、結果Tregが誘導され大腸炎を抑制することがマウスで報告されていて、大腸ではIL-17Aと17Fが異なる働きを持つとされています。このことがdual inhibitorであるビメキズマブの腸での有害事象の増加がなかったことの要因と考えられています。
<IL-23阻害薬>
@グセルクマブ(トレムフィア)。ヒト型抗IL-23p19抗体。皮下注射。在宅自己注射不可。1回100mg、初回、4週後、以降8週間隔。尋常性乾癬でのアダリムマブ、ウステキヌマブとの直接比較では高い有効率を示しました。
尋常性乾癬、関節症性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬
@リサンキズマブ(スキリージ)。ヒト化型抗IL-23p19抗体。皮下注射。在宅自己注射不可。1回150mg、初回、4週後、以降12週間隔。状態に応じ75mgも可能。
尋常性乾癬、関節症性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬
@チルドラキズマブ(イルミア)。ヒト化型抗IL-23p19抗体。皮下注射。在宅自己注射不可。1回100mgを初回、4週後、以降12週間隔。
尋常性乾癬
<IL-36阻害薬>
@スペソリマブ(スぺビゴ>ヒト化型抗ヒトIL-36抗体。1回900mg、90分かけて点滴静注。急性症状持続時は初回投与1週間後に900mg追加可。
膿疱性乾癬(急性症状の改善)

 乾癬の治療方針は、重症度、合併症の有無などにより異なってきます。飯塚 一 先生による「乾癬治療のピラミッド計画」は視覚的に分かり易く患者さんへの説明もし易いツールです。
軽症例ではステロイド外用薬とビタミンD3外用薬が中心となり、中等症には内服療法や光線療法を追加します。難治性の中等症や重症例では生物学的製剤も使用されます。数多い全身療法の中でどのような薬剤を選択するか、は大凡の基準はありますが、生物学的製剤にしても、現在は12種類、バイオシミラーも含めると18種類もの多さになります。有効性、安全性、利便性、患者さんの希望など個別の要因を勘案しながら、選択されている現状かと思われます。
 近年では乾癬は全身性炎症性炎症性疾患として認識されるようになり、罹病期間が長期に及ぶにつれて疾患負荷が蓄積します(生涯累積障害(CLCI:cumulative life course impairment)ので、より早期から積極的に治療を行って疾患をコントロールしていくことが重要だとする考え方が有力になってきています。
特に不可逆的な関節変形をきたす関節症性乾癬、メタボから心血管イベントを来し易い患者群ではそのことが重要視されています。
関節症性乾癬(乾癬性関節炎:Psoriatic arthritis:PsA)、膿疱性乾癬では診療ガイドライン、乾癬の光線療法ガイドラインが作成され、また乾癬における生物学的製剤、JAK,Tyk2阻害薬の使用ガイダンスも作成されています。以下に乾癬の中にあって特段の注意を要する乾癬性関節炎、膿疱性乾癬についての治療法概略を記してみます。
【関節症性乾癬(乾癬性関節炎:Psoriatic arthritis:PsA)】
PsAの治療は、皮膚科医、リウマチ医のみならず、理学療法士など多職種の協同作業が必要とされています。従来型の抗リウマチ薬(csDMARDs)では最小疾患活動性(minimal disease activity (MDA))基準に達しない場合にはPDE4製剤(oligo~polyarthritis抑制効果,末梢関節炎や指趾炎),MTX,JAK阻害薬、生物学的製剤などが考慮されます。当初はTNF-α阻害薬が第一選択肢でしたが、現在ではIL-17阻害薬も同等の位置付けです。IL-23p19製剤については、予防的にPsAに対してその進行を抑制する効果が示されていますが、進行期、関節破壊の炎症期についてはやはりやや劣る(特に体軸型)と考えられています。ウパダシチニブは即効性の高い薬剤ですが、安全性への懸念があります。心血管イベントハイリスク群、高齢者などを避ける群を選択すればTNF-α群と同等のリスクとされます。Tyk2阻害薬については効果はやや劣るものの、内服薬という簡便さ、安全性から期待されています。PsAの中でもクラスターが3群に分ける考えもあり、治療効果も分かれるそうで、それによる治療法も分かれてくるかもしれません。
【膿疱性乾癬】
急性期は心・循環不全が多いのでARDS/capillary leak症候群と心・循環不全への対応、全身管理が重要です。その上で薬物療法を選択します。
・エトレチネート・・・0.5~1.0mg/kg/日から開始します。催奇形性、小児の骨端線早期閉鎖のため若年者には使いづらい薬ですし口唇炎、、肝障害、視力障害への注意も必要です。尋常性乾癬よりも効果が高いとされます。
・シクロスポリン・・・2.5~5.0mg/kg/日から開始します。小児、妊婦にも使用されることがありますが、本人、保護者の同意を必要とします。高血圧、腎障害に注意が必要です。
・メトトレキサート・・・上記薬剤に抵抗性の場合、関節症状の激しい例に使用されます。妊婦には禁忌ですし、肝腎障害、骨髄抑制に注意が必要です。
・副腎皮質ステロイド・・・そもそも膿疱化を誘発する薬剤でもありますから第一選択にはなりませんが、全身症状や関節症状が激しい場合に一時的に考慮されます。プレドニン1mg/kg/日程度。
・生物学的製剤・・・TNF-α、IL-17,IL-23p19阻害薬で保険適用を有する薬剤を使用します。2022年からは急性期症状の緩和のためにIL-36阻害薬(スペソリマブ)も認可され、著効を呈することが報告されてきています。どのような症例に対しての使用が適切かはこれからの検討課題かと思われます。
・顆粒球単球吸着除去療法・・・酢酸セルロースビーズの入ったカラムを通して30ml/分の流速で60分血液を循環させます。活性化した顆粒球と単球を吸着除去することで炎症を抑制します。週に1~2回、合計5~10回施行。体重25kg以上の小児、妊婦にも使用可能です。

治療の概要は概ね上記のようです。これで、成書を繋ぎ合わせて調べてみた乾癬治療の全体像は以上ですし、小生が敢えてここに調べて列記するまでもなく、乾癬の専門家の解説書や診療ガイドラインを読んだ方がずっと正確かつ明快なことは分かりきったことです。
しかし、実地医療の現場ではここには(解説書には)出てこない様々な声を漏れ聞きます。
その一旦をあげると。

#私はそんな高い薬代を払う余裕はありません。

#収入が減ったから高い注射はやめたい。

#病診連携でバイオもクリニックで使えると言うけど、何十万円もする薬を職員が間違って落としたらどうするの、地震、停電で薬がダメになったらどうするの。受診をドタキャンされたら、等などのリスク。

#バイオ使用中の患者さんが週末に突然、蜂窩織炎になった、高熱をだしたとして来院したらどうするの。

#良くなって来たから注射を止めたいと希望する患者さんも結構多いらしい。

このほかにも現場では医師も患者さんも色々な悩みを抱えているようです。
次回は乾癬診療に日々携わっている専門の先生方の成書にはあまり出ない工夫の一端を講演内容などを参考にしながら取り上げてみたいと思います。
特に高額医療費、医療経済の問題、病診連携、バイオフリーへ向けての問題に焦点を当ててみたいと思います。

乾癬治療は今(1)

 先日、久しぶりに日本乾癬学会に出席してきました。
乾癬の治療は近年目覚ましい進歩を遂げ、次々と上市される新薬にはもうついていけない感じがあります。
ここに乾癬治療について書くのも講演の聞きかじりにも似て、躊躇するほどです。
そうはいっても、かつては乾癬を主研究課題としていた小生としては、過去との隔世の感を抱きつつ、最近の病態の解明や治療の進歩の速さに戸惑いながらも時代遅れにならないようにと、講演会などに出席して知識をアップデートしている状態です。
それで、講演記録を接ぎ合わせながら、乾癬治療の現況を調べてみました。

 乾癬の治療は長らくステロイド外用剤がその中心でした。光線療法(PUVA,narrow band UVB)も長い歴史があり、現在も治療手段の一端を担っています。種々の内服療法がありますが、治療の一大革命を起こしたのは何といっても2010年の生物学的製剤の登場でしょう。
過去からの乾癬治療の歴史を経年的に辿ると、以下のようでしょうか。

1950年代 ステロイド外用
1970年代 PUVA療法、MTX内服(海外)
1985年 エトレチネート(チガソン)
1992年 免疫抑制薬 シクロスポリン
1990年代 ビタミンD3外用剤 1993年 タカルシトール(ボンアルファ)、 2000年カルシポトリオール(ドボネックス)
2000年代 ナローバンドUVB(NB-UVB)、UVA1、ターゲット型光線療法、エキシマライト、レーザー
2010年 生物学的製剤の登場 TNF-α阻害薬 インフリキシマブ(レミケード)、アダリムマブ(ヒュミラ)
2011年 IL-12/23阻害薬 ウステキヌマブ(ステラーラ)
2014年 ビタミンD3・ステロイド混合外用剤 ドボベット マーデュオックス(2016年)
2015年 IL-17A阻害薬 セクキヌマブ(コセンティクス)
2016年 IL-17A阻害薬 イキセキズマブ(トルツ)、IL-17A受容体A ブロダルマブ(ルミセフ)
2017年 PDE4阻害薬 アプレミラスト(オテズラ)、インフリキシマブBS
2018年 IL-23p19阻害薬 PASI90~100の時代へ グセルクマブ(トレムフィア)
2019年 MTX(リウマトレックス)公知申請が承認、保険適用へ IL-23p19阻害薬 リサンキズマブ(スキリージ)
TNF-α阻害薬 セルトリズマブペゴル(シムジア)
2020年 IL-23p19阻害薬 チルドラキズマブ(イルミア)
2021年 JAK1阻害薬 ウパダシチニブ(リンヴォック)関節症性乾癬、ヒュミラBS
2022年 TYK2阻害薬 デュークラバシチニブ(ソーティクツ)、 IL-17A/F阻害薬 ビメキズマブ(ビンゼレックス) IL-36阻害薬(スペソリマブ)膿疱性乾癬
2024年 ウステキヌマブBS TAMA, タピナロフ(ブイタマークリーム)

乾癬という単一疾患にこれ程までに多くの薬剤、治療法が必要なのか、と一寸疑問に思ってしまいますが、翻って考えると乾癬という疾患が単なる皮膚表面の疾患ではなく全身性の疾患という側面をもつこと、最近の素晴らしい病態の解明の成果にも関わらず、まだ分からないことが多くあることの証左なのかもしれません。

次回はこれ程の多くの薬剤がどのように使い分けされているのか、また使い分けされるべきなのかを専門家の意見を聞きながら、個人的な感想も交えて述べてみたいと思います。