真皮の主成分である間質成分(細胞外マトリックス)のうち、大部分が膠原線維(Ⅰ/ Ⅲ型コラーゲン)から構成されています。
そこで、真皮における重要構成要素である膠原線維について調べてみました。
膠原線維は真皮における主な線維成分であり、真皮乾燥重量の70%を占めます。(『あたらしい皮膚科学:第3版』 清水 宏 著 より)
肉眼的には白色にみえ、煮ると膠(ゼラチン)を生じるために膠原線維と名付けられています。きわめて強靭な線維であり、線維走行に対する引っ張り張力には抵抗力が強く、進展性に乏しいです。
細い細線維(fibril)が集まって束状に長くなって走り、電子顕微鏡では、直径100~500nm,60~70nm周期の横紋を有したきわめて長い構造をとります(膠原線維束)。
これが糖蛋白と結合することによって膠原線維となります。
膠原線維の分子(コラーゲン分子)は、3本のポリペプチド鎖(α鎖)が絡み合って三重らせん構造をしています。各鎖は、グリシン(Gly)-X-Yというアミノ酸配列を繰り返しており、XとYにはプロリン(Pro)やヒドロキシプロリン(HyP)が入ることが多いです。線維芽細胞の粗面小胞体で作られ、プロコラーゲンが細胞外に分泌されます。分子末端がプロコラーゲンペプチダーゼの作用で切断され、トロポコラーゲンとなります。これらの分子間に一定のずれをもって架橋ができ、重合するので縞模様のある膠原線維が形成されます。
α鎖の分子構造の違いによって、現在のところコラーゲン分子は28種類のサブタイプに分類されていますが、真皮を構成する大部分の膠原線維はI型コラーゲンです。
主に皮膚に発現するコラーゲン
●I型コラーゲン (2本のα1鎖+1本のα2鎖)
真皮を構成する膠原線維の大部分を占めます(70~80%)。
皮膚、骨、腱、角膜、歯などに含まれます。引っ張り強度が高く、皮膚のハリや骨の強さに関与します。
●Ⅱ型コラーゲン (3本のα1(Ⅱ)鎖)
軟骨、硝子体
弾力性があり、関節のクッションとして機能し、摩耗を防ぎます。従って関節の健康にとって重要なコラーゲンです。
●Ⅲ型コラーゲン (3本のα1(Ⅲ)鎖)
血管、皮膚、内臓
Ⅰ型と共に皮膚や血管の構造を支えます。血管周囲に好銀性の細い線維として存在し、太い線維束は形成しないので細網線維(reticular fiber)と呼ばれます。真皮膠原線維の約15%を占めます。柔軟性に関与します。
●Ⅳ型コラーゲン (複数のα鎖、α1~α6)
基底膜(皮膚や腎臓など臓器の細胞の基底膜)
皮膚などの基底膜の構造を形成します。フィルター機能も持ちます。
●Ⅴ型コラーゲン
胎盤、毛髪、角膜
他のコラーゲンと協力して細胞の構造を安定化します。
●Ⅶ型コラーゲン
表皮と真皮の接合部
皮膚の表皮と真皮を繋いで皮膚の強度と安定性に関与します。
Ⅶ型コラーゲンは表皮基底板と真皮を結合する係留線維(anchoring fibril)を構成し、先天的にこのコラーゲンが欠損すると栄養障害型先天性表皮水疱症になります。後天的にこれに対する自己抗体ができると後天性表皮水疱症を発症します。
●ⅩⅦ型コラーゲン
別名BP180抗原
表皮貫通型のコラーゲンでヘミデスモゾームを構成し、先天的に欠損すると接合部型表皮水疱症を発症し、後天的にこれに対する自己抗体ができると、水疱性類天疱瘡を発症します。
Ⅰ型、Ⅲ型コラーゲンは年齢とともに減少し、しわやたるみの原因になります。
Ⅰ、Ⅲ、Ⅴ型コラーゲン遺伝子などの変異によって皮膚の過伸展、脆弱性、易出血性、靭帯や関節の可動性亢進を示すEhlers-Danlos症候群を発症します。
コラーゲンはタンパク質で、食品から摂取しても、ペプチド、アミノ酸に分解され、そのままの形で各臓器に吸収されるわけではありません。従って以前は、コラーゲンをいくら摂取してもお肌の美容効果はない、と教わりました。
基本的にはそうです。しかしながら近年では加水分解コラーゲン(コラーゲンペプチド)など分子量が小さく、Pro-Hyp(プロリンーヒドロキシプロリン)やHyp-Gly(ヒドロキシプロリンーグリシン)などのジペプチド・トリペプチドがそのまま血中に吸収されることが確認されています。従って体内で吸収されやすい形のものはサプリメントとして流通しています。またビタミンCはコラーゲンの合成に不可欠であり、同時に摂取することで体内でのコラーゲン合成は促進されます。現在では「コラーゲンは分解されて意味がない」という説は古い常識といえます。ただし、コラーゲンサプリが劇的な効果を示すエビデンスはなく、大規模な二重盲検法などに基づいた臨床試験もありません。従って劇的な効果を期待するのではなく、継続的なお肌や関節のケアの一環として取り入れるのが現実的といえるようです。
コラーゲンの効果を高める食事に関しては、コラーゲン合成に必須なビタミンCを摂り、コラーゲンの材料となる良質なたんぱく質を摂る、またコラーゲンの分解を防ぐトマト、ブルーベリー、緑茶などの抗酸化物質を摂るということが現実的です。また紫外線はコラーゲンを破壊し、光老化を促進しますので紫外線対策も必要です。
美容医療におけるコラーゲンによる治療法は、注入療法、熱刺激によるコラーゲン生成(サーマクール、ハイフ)、皮膚再生剤注入療法、PRP療法、幹細胞治療など多岐に亘り、進歩も急速のようです。しかしながらコラーゲンサプリ同様EBMに即したデータの検証は今後の課題といえます。コラーゲンの外用については、角質のバリアがありますので、コラーゲンのような高分子量の物質は通常の状態では皮膚バリアを通過しません。従って、いくらコラーゲンを塗布しても真皮のコラーゲンを増やしたり、再生したりする効果はありません。但し、皮膚の保湿など潤いを与えたり、ツヤやハリをだしたりする効果はあるかとは思います。
参考文献
「あたらしい皮膚科学:第3版」 清水 宏 著 中山書店 2018