遺伝性早老症の代表的疾患で、報告者(ドイツ人眼科医 Otto Werner 1904年)の名前にちなんで、名付けられました。
日本人に特に多く、全世界の患者の6~8割は日本人が占めています。それで同症のガイドラインも本邦から出され、英文化もされています。
【病因】
常染色体潜性遺伝。RecQ3ヘリカーゼをコードする遺伝子(WRN,8p12)のホモ接合体変異によって発症します。RecQヘリカーゼはDNAの複製や転写翻訳、修復など染色体の安定性に必須の蛋白とされますが、特にWRN蛋白はテロメアの維持にも関与し、その変異によって線維芽細胞の継代低下、テロメア短縮、DNA修復遅延にもつながると考えられています。近親婚による発症も多いですが、近年はそれ以外の発症も増加傾向にあります。日本人のWRN遺伝子変異は100人に1人と推定されています。推定患者数は約2000~3000人程度とされます。
【症状】
・思春期前後で成長が止まり、低身長で留まり、早老性顔貌(白髪、脱毛、老人様顔貌)を呈するようになります。顔面では皮膚の萎縮のために口囲に放射線状の皺を作り、鼻は細く尖り鳥様顔貌を呈します。全身の皮膚は萎縮し、毛細血管拡張を伴い、足底では難治性潰瘍、鶏眼や胼胝、石灰化、扁平足などをきたします。
その他の症状
・低身長、低体重でビヤ樽型体型をとり、四肢は細い。
・白内障(両側)
・音声の異常、嗄声(high pitched voice)(かん高いしわがれ声)
・骨の変形などの異常(骨粗鬆症)
・糖代謝異常、脂肪肝、高血圧、早期動脈硬化、狭心症、脳梗塞、脳出血
・性腺機能低下
・アキレス腱の石灰化(火焔様石灰化)
・悪性腫瘍の好発・・・足底の悪性黒色腫、線維肉腫、肝癌、肺癌、白血病など
【治療・対応】
疾患に対する根本的な治療方法はないために、もっぱら合併症に対する対症療法が主体となります。主なものは糖尿病や脂質異常症とこれらによって促進される動脈硬化症、四肢の皮膚潰瘍、また悪性腫瘍などです。個別の対応は専門書に譲るとして、皮膚科的には皮膚潰瘍への対応が重要です。
Werner症候群において皮膚潰瘍が難治な理由としては、結合織成分の代謝異常が関連していること、皮膚が萎縮して真皮、皮下脂肪織も薄いこと、四肢が細く痩せているために末端部への負荷がかかり易いこと、骨、関節変形、石灰化、胼胝、鶏眼などの影響、創傷治癒の遅延、糖尿病や動脈硬化の合併などによる血流障害など様々な要因が挙げられます。潰瘍の好発部位はアキレス腱部、足関節、肘関節、足底部など圧のかかりやすい部です。また鶏眼、胼胝、外傷などが前駆症状となることがあります。糖尿病などの治療も並行しながら、治癒を妨げている原因除去に役立つ外用療法や、治癒過程を促進する外用薬、ドレッシング材などを選択して保存的治療を行います。ただ、保存的治療で改善がみられない場合は、デブリドマンさらに人工真皮貼付や皮弁形成など外科的な治療も考慮します。なお皮膚潰瘍の原因として皮膚悪性腫瘍が混在していることもあり、病理組織検査などで鑑別することは重要です。
Werner症候群には根本的治療法はありませんが、近年、老化に対する研究でサーチュイン遺伝子がみいだされました。これは長寿遺伝子とも抗老化遺伝子とも呼ばれ、活性化によって寿命が延びるとされています。この活性化にはNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオシド)が重要とされますが、同症ではそれが低下しており、その補充が有効である可能性があると考えられています。千葉大学ではその前駆物質の補充療法の治験を行っています。
参考文献
皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 19章 皮膚形成異常・萎縮症 3 早老症候群 pp496-499
あたらしい皮膚科学 第3版 清水 宏 著 中山書店 東京 2018
18章 真皮、皮下脂肪織の疾患 A.皮膚萎縮症 pp337-341
横手幸太郎 早老症Werner症候群の診療ガイドライン 日本老年医学会雑誌 50巻4号(2013:7)
ウェルナー症候群の診療ガイドライン 2020年版
茂木精一郎 6.ウェルナー症候群の皮膚科的治療 pp34-37
窪田吉孝 7.ウェルナー症候群の皮膚潰瘍の外科的治療 pp38-52