リポイド類壊死症

リポイド類壊死症(Necrobiosiss lipoidica)は、糖尿病のデルマドロームと考えられており、従来は糖尿病性リポイド類壊死症と呼称されていましたが、その関連もないことも多く、現在では単に「リポイド類壊死症」と呼ばれています。ちなみに糖尿病の合併率は約半数程度とされています。
発症要因の一つには下肢の血流うっ滞など微小血管障害が考えられています。
【臨床】
主として、下腿伸側に生じ、赤褐色から黄褐色調で光沢のある境界明瞭な環状局面を呈します。中央部は黄色調の萎縮局面で、辺縁部は紫紅色調を呈します。進行すると潰瘍化する場合もあり、疼痛をきたします。ときに大腿、前腕などに生じることもあります。
【病理所見】
真皮全層あるいは中下層3分の2に、層状に変性した膠原線維を挟み込むように柵状肉芽腫を形成します。これが交互に層状にいわゆるミルフィーユ状にみられるのが特徴とされます。
肉芽腫では、組織球主体で、類上皮細胞、多核巨細胞、リンパ球と形質細胞を混じる比較的稠密な細胞浸潤が真皮血管叢に沿って、表皮に平行に層状に認められ、間質の繊維化を伴います。小動脈、細小動脈の内膜肥厚・線維化・血管壁の狭小化など微小血管障害を示唆する所見を認めます。陳旧性病変では線維化が著明になり硬化し、細胞浸潤は目立たなくなり、毛細血管拡張、表皮は萎縮しまれに潰瘍化することもあります。柵状肉芽腫を呈する環状肉芽腫、リウマチ結節との鑑別が重要ですが、結合織の変化の本体は、本症では膠原線維の変性、環状肉芽腫ではムチン沈着、リウマチ結節ではフィブリン沈着です。
 時に、サルコイドーシスなど他の類上皮性肉芽腫の組織所見を呈し鑑別が難しいケースも見られます。ただし、サルコイドーシスはニキビ菌、非定型性抗酸菌など微小なものに対して肉芽腫が形成されるのに対して、リポイド類壊死症は変性した膠原線維のまわりに柵状肉芽腫が形成されるというように肉芽腫の形成機序、過程、パターンが異なります。
【治療】
確立された治療法はありません。ただ、疾患の病因の一因として微小血管循環が関与していると考えられることより、糖尿病の他、微小血管障害の要因となる疾患、関節リウマチ、高血圧などを検索、コントロールすることは必要です。但し、糖尿病のコントロールが良好でもリポイド類壊死症のコントロールには繋がらないとされます。炎症制御、末梢循環改善、さらに皮膚潰瘍を形成すれば、それに対する治療が必要になります。
🔷炎症制御
ステロイド外用剤、局注などが用いられます。但し、ステロイドによる皮膚萎縮、毛細血管拡張、皮膚潰瘍リスクなどを勘案しながらの使用となります。タクロリムス外用剤も一定の効果は期待できます。様々なレーザー、光治療、PUVA療法などの有効との報告もみられます。またシクロスポリン、TNF阻害薬、JAK阻害薬の有効との報告もみられます。
🔷末梢循環改善
血管拡張、抗血小板作用を有する薬剤、チクロビジン、プロスタグランジンE1製剤、ビタミンE製剤など。高圧酸素療法など。
🔷皮膚潰瘍治療
一創傷治癒ガイドラインに応じた治療を行い、また外傷を生じないような指導。また長期の皮膚潰瘍は有棘細胞癌の発生母地となりうることの周知。

❖ 類壊死(necrobiosis)についての斎田先生の詳細な解説、コメントがありましたので転載します。

そもそもnecrobiosis(類壊死)という用語がどういう所見、状態を指すのか不明である。不完全な壊死ということだろうか。Ackermanは壊死necrosisとは細胞死cell deathの形態学的表出であるから、結合織の所見に用いるべきではないとしている。結合織(主体は線維性の高分子蛋白)には変性degenerationは起こりうるが、壊死(細胞死)は起こらないからである。この立場からは、necrobiosis(結合織の不完全な壊死)という言葉は意味をなさない、ということになる。Necrobiosis lipoideca という病名は一般に流布しているので、用いることを認めるが、組織学的所見の用語としてnecrobiosisを使うべきではない、というのがAckermanの主張である。

参考文献

標準皮膚科学 第12版 編集 石河 晃、奥山隆平、阿部理一郎 医学書院 東京 2025
澤田雄宇 第20章 真皮の疾患と肉芽腫症 E 非感染性肉芽腫症 C リポイド類壊死症 pp326

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
植木理恵 X 肉芽腫 4.リポイド類壊死症 pp137

皮膚疾患 最新の治療 2025-2026 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2024
渡邉 玲 IX 肉芽腫、真皮の変性疾患 4.リポイド類壊死症 pp131

岡本祐之 マルホ皮膚科セミナー 2018年5月3日放送
「第81回日本皮膚科学会東部支部学術大会➁ 教育講演3-2 サルコイドーシスとリポイド類壊死症の鑑別」

皮膚病理組織診断学入門 改訂第3版 斎田俊明・著 南江堂 東京 2017
各論113 Necrobiosis lipoidica 脂肪類壊死症、リポイド類壊死症、類脂肪仮性壊死症 pp173