EDDs(epidermal differentiation disorders)表皮分化疾患

最近にわかに、EDD(表皮分化疾患)という今まで聞きなれなかった言葉を聞くことが多くなりました。
近着のVisual Dermatologyにその特集号がありましたので、読んでみました。
EDDとは、2025年に魚鱗癬や掌蹠角化症などの遺伝性表皮角化異常症が「表皮分化疾患」という新しい概念にまとめられ、これに基づいた分類と新しい病名が提案されて、生まれてきた疾患群です。
たまたま一昨年当ブログでも(遺伝性)角化症を取り上げて、長々と調べておりました。その時もまだEDDという言葉は聞かなかったように思います。本当に医学の(皮膚科も含めて)進歩の速さに驚かされます。
これらが疾患原因遺伝子に基づいて再編成、再命名された訳です。それもあって、気になり調べてみました。
【EDDの分類】
 大きな枠組みとしてEDDは3群に分けられます。すなわち
➀病変が皮膚に限局する非症候性群(nonsyndromic EDD: nEDD) 53疾患 【主な旧病名:非症候性魚鱗癬】
➁皮膚以外の臓器にも症状が及ぶ症候性群(syndromic EDD: sEDD) 51疾患【主な旧病名:症候性魚鱗癬または魚鱗癬症候群】
➂主に掌蹠を侵す群(palmoplantar EDD: pEDD) 58疾患 【主な旧病名:掌蹠角化症】
【EDDの利点、意義】
EDDが提唱された主な要因は次のような事によるそうです。
1)ダイアディック命名法として、原因遺伝子名、表現型を組み合わせて命名することによって、遺伝型、表現型の関連解明が系統的に進み予後予測、適切な治療開発の進歩につながる。
標記方法は、「疾患関連遺伝子名-nEDD(-sEDD, -pEDD)」のように標記し、末尾に旧病名を想起させる記述子を付して標記される。
記述子の例:(-epidermolytic, -spiny, -annular, -mosaic, -cicatrical, -KID, -TTD, -PC, -EBSなど)
例 新病名: KRT1-nEDD-epidermolytic 旧病名:表皮融解性魚鱗癬、水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症
2)分子診断の進歩により疾患の病態生理への理解が飛躍的に進み、旧来の慣習的、記述的な病名のみでは、時代に対応できなくなってきた。
3)エポニム(人名病名)廃止の動き。例えばWegener肉芽腫症のWegenerはナチス・ドイツ時代の戦争犯罪に関与したとして排除された。このような近年の流れもあり、また人名は病気のメカニズムを表していないなどの点で、エポニム廃止の方向にある。しかし残念ながら長島型掌蹠角化症発見者の長島先生の名前も廃止されるなど先人の偉業が忘れ去られる危惧も指摘される。
4)旧来の魚鱗癬、道化師様、豪猪皮状などの名称は患者にとっては不快感を抱かせるものであり、人権に配慮した命名への転換が求められてきた。
【EDDの問題点】
上記のEDDを肯定的に捉える考えに対し、いくつかの問題点も指摘されています。(専門家及び患者サイドから)
1)単一遺伝子疾患といえども、遺伝子調節因子や環境因子の関与もありもっと融通を持たせた命名法にすべき。
2)遺伝性疾患のみの命名法を特別に変えることの一貫性のなさ。
3)遺伝子変異が見つからない疾患、あるいは検査を受けられない場合での不都合さ、不平等さ。
従来の臨床症状、病理組織で診断された疾患が、遺伝子変異解析ができないという理由だけで、unspecified-nEDDという意味不明な疾患名(?)に分類されうるという不都合さ。
4)病理組織的に特有なDarier病、Hailey-Hailey病、汗孔角化症などの旧病名も削除するのか。
例えば汗孔角化症はコレステロール生合成のメバロン酸経路遺伝子異常によりMVK-nEDD, PMVK-nEDD, MVD-nEDD, FDPS-nEDD, FDFT-nEDD と煩雑な長々とした疾患名に変えられているが、それが妥当なのだろうか。
5)EDDの中には旧来の水疱症や汗孔角化症、毛孔性好色粃糠疹など魚鱗癬、掌蹠角化症を越えた疾患群も含まれるが、それらの疾患群との従来の分類の整合性をどのようにつけるか。
6)症候性の中では皮膚科サイドと全身症候の発現サイドの表現型により同一疾患ながら別な分類名がなされている例もある。
7)厚労省の既存の指定難病制度、診療ガイドライン、診断基準と新病名(EDD)への変更への困難さ。
8)すでに臨床医や患者に浸透した病名をいまさら変えることの困難さ。折角浸透して認知されてきた病名がゼロスタートになってしまう。
9)患者としては魚鱗癬など実態が分かり易く、他人へも説明し易かったが、遺伝子名だと分かりづらく、他人へも説明できない。旧病名と併記の方が分かり易い。
10)魚鱗癬、掌蹠角化症の患者会があるが、肯定的、否定的両方の意見があるが、まだ否定的な意見の方が多いとのこと。それは新分類に対する不安があり、原因遺伝子が判明するまでの病名はどうなるのか、という現実的なもののようだという。色々なメリットもあるが、急な病名変更は望ましくなく、旧分類も併用するなどして、将来のよりよい分類に進展していけば、との専門家の意見もあった。
【nEDDの機能による細分類】
・フィラグリン関連疾患
・ケラチン関連疾患
・接着分子関連疾患
・セル・エンベロープ前駆タンパク質関連疾患
・コレステロール代謝酵素関連疾患
・メバロン酸経路の酵素関連疾患
・セラミド生成・輸送関連疾患
・セリンプロテアーゼ阻害分子関連疾患
・セル・エンベロープ形成酵素関連疾患
・その他の酵素関連疾患
・コネキシン関連疾患
・その他のチャネルタンパク質関連疾患
・その他の疾患
【sEDDの機能による細分類】
今回の新分類では、遺伝子変異に関連した機能的に共通した疾患グループが幾つか分けられた。表現型は多様ではあるが、同一機能的グループ内で共通点がみられる場合もある。
1)プロテアーゼおよびチャネルタンパク質の異常による疾患グループ
代表例:SPINK5-sEDD(旧病名:Netherton症候群)
2)脂質合成・輸送の障害による疾患グループ
代表例: STS-sEDD (旧病名:X連鎖性魚鱗癬)
3)転写因子およびDNA転写の異常による疾患グループ
このグループのsEDDでは、毛髪異常との関連がみられるものが多い。
4)membrane sorting,小胞輸送および糖鎖付加の異常による疾患グループ
重度の発達障害、成長障害、神経学的異常の原因となり、早期死亡に至る例がある。
【pEDDの機能による細分類】
・Keratin関連疾患
・接着タンパク質関連疾患
・その他の構造タンパク質関連疾患
・セリンプロテアーゼ阻害分子関連疾患
・プロテアーゼ関連疾患
・その他の酵素関連疾患
・コネキシン関連疾患
・その他のチャネルタンパク質関連疾患
・転写因子関連疾患
・シグナル分子とその他の分子

元々難しい分野で幾多の遺伝子が錯綜してとても理解しがたい疾患分野ですが、こうしてみると医学的、科学的に体系づけられて理解し易く、研究的にも臨床的にも発展して将来的には患者さんへも、治療を含め大きく還元されていくのでしょう。ただ、医師でも戸惑いがある中、患者さんはもっと戸惑いがあるかもしれません。
そしてこれからの若い医師は怒涛の医学の進歩にキャッチ・アップしていかなければならず大変だなー、と一老医は思うのでした。専門医試験も大変そう。

参考文献

秋山真志 山本明美 病因に基づいて改訂された、遺伝性表皮分化疾患の新しい国際分類・病名 日皮会誌:135(11),2287-2296.2025(令和7)

Visual Dermatology 特集 魚鱗癬や掌蹠角化症に代わる疾患概念:遺伝性表分化疾患EDDを知ろう 責任編集 山本明美 Vol.24 No.12 2025 秀潤社