皮膚B細胞リンパ腫(高悪性度群)

皮膚B細胞リンパ腫のなかで、予後の悪い群(aggressive)な群があります。
原発性皮膚びまん性大細胞B細胞リンパ腫、下肢型(Primary cutaneous diffuse large B-cell lymphoma, leg type)と血管内大細胞型B細胞リンパ腫(Intravascular large B-cell lymphoma)がそれに該当します。

🔷原発性皮膚びまん性大細胞B細胞リンパ腫、下肢型(Primary cutaneous diffuse large B-cell lymphoma, leg type: PCDLBCL)
高齢者女性の下肢に好発します。ほとんどが70歳以上です。片側ないしは両側の下肢にドーム状の紅色結節を形成します。単発もありますが、多くは多発性ないし集簇性に見られます。急速に増大して潰瘍を形成することもあります。ほとんどが下肢に発生しますが、躯幹など他部位にもみられることがあります。進行が早く皮膚以外の臓器に進展し易いとされます。初期治療によく反応しますが、しばしば再発し5年生存率は50~55%, 節性のPCDLBCLは予後が悪く高度悪性とされます。皮疹は紅色結節、腫瘤の報告が多いですが、中には丹毒様の潮紅をきたしたり、蜂窩織炎や深部静脈血栓症、うっ滞性皮膚炎の二次感染に似た臨床症状の報告もあります。
 組織像では、表皮向性はなく、表皮直下にGrenz zone(clear zone)を認め、真皮内に中型から大型の腫瘍細胞がシート状ないしびまん性に腫瘍蜂巣を形成します。個々の腫瘍細胞は切れ込みのない大型核を有し、複数個の核小体が核膜と接するようにcentroblast様細胞、空胞状核の中心に1個の明瞭な核小体を有するimmunoblast様細胞から成り立っています。
B細胞マーカーであるCD19, CD20, CD22, CD79aなどが陽性を示します。bcl-2の強発現と、MUM-1/IRF4陽性が診断を補強します。
治療は、アグレッシブなタイプであり、リツキシマブ併用CHOP(R-CHOP)療法(シクロホスファマイド、ビンクリスチン、ドキソルビシン、プレドニゾロン)が選択されます。しかし、高齢者、超高齢者に生じることが多く、認知機能、治療費、副作用なども勘案され、多剤併用化学療法が不適切な場合は、放射線療法、外科的切除、リツキシマブ単剤療法などが検討されます。

🔷血管内大細胞型B細胞リンパ腫(Intravascular large B-cell lymphoma: IVLBCL)
1959年にオーストリアの皮膚科医PflegerとTappeinerによって報告された疾患です。当初はangioendotheliomatosis proliferans systemisataと記載され、血管内皮由来の疾患とされていました。2001年のWHO血管腫瘍分類で独立疾患とされ、2008年にIVLとして再分類されました。節外性B細胞リンパ腫の中でも1%に満たない稀なタイプです。
 血管内腔で腫瘍細胞がクローン性に増殖します。病変のみられる血管のサイズは毛細血管、小血管レベルでそれ以上大きな血管サイズでは認めません。免疫組織化学所見では、CD20, IRF4/MUM1, bcl-2が陽性です。
 中高年に好発し、男女差はありません。地域による差があり、Asian variantとcutaneous variantがあります。Asian variantでは肝脾腫、血球減少、血球貪食症候群を起こしやすく、多臓器不全から急激な臨床経過をたどります。cutaneous variantは欧州の女性に多く、皮膚のみにとどまり比較的予後は良好とされます。
 臨床症状は、B症状(不明熱、易疲労感など)を伴い、腫瘍の浸潤する部位によって多彩な症状を呈します。部位では骨髄、肝臓、脾臓、皮膚、肺の順に多く、また認知症様、麻痺症状など脳への浸潤があり、神経内科、脳外科などで診られているケースもあるとのことです。ほぼ全例でLDH上昇、可溶性IL-2レセプターは7割近くが5000U/ml以上の高値を示します。
 診断に必要な腫瘍細胞の確認が困難な場合が多く、皮膚からの生検は他臓器より侵襲が少ないという点で有利です。皮膚症状は15%程度と低く、また症状も多彩で紅斑、水疱、紫斑、潰瘍を伴う結節などと一定しませんが、皮疹の無い部位でもランダム皮膚生検で脂肪織まで深く生検すると血管内病変が確認でき易いとされます。特に老人性血管腫を認める場合は病変の素地となり易く、皮膚生検の候補となります。同症の診断のために、皮膚科は他科から皮膚生検を依頼されることもあり、皮膚科医が本疾患を知っておくことは重要な役目となります。
 IVLBCLもアグレッシブなタイプのリンパ腫なので、リツキシマブ併用CHOP(R-CHOP)療法が選択されます。

参考文献

皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン改訂委員会 皮膚リンパ腫診療ガイドライングループ 委員長 菅谷 誠 日皮会誌 130(6),1347-1423,2020 (令和2)

今日の皮膚疾患治療指針 第5版 編集 佐藤伸一 藤本 学 門野岳史 椛島健治 医学書院 東京 2022
宮垣朝光 皮膚B細胞リンパ腫 pp842-843

皮膚科臨床アセット 13 皮膚のリンパ腫 最新分類に基づく診療ガイド 総編集◎古江増隆 専門編集◎岩月啓氏 中山書店 東京 2012
谷 守 39 血管内大細胞型B細胞リンパ腫(intravascular large B-cell lymphoma) pp169-172

遠藤麻衣ほか 右下肢の蜂巣炎様の臨床像を呈したびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の1例:皮膚臨床65(12);1831~1834,2023

中谷眞理子ほか 胸部巨大腫瘤を呈した原発性皮膚びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、下肢型の1例:皮膚臨床65(12);1835~1838,2023

西野温奈ほか メトトレキサート内服関節リウマチ患者にみられた蜂窩織炎様の臨床を呈したびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の2例:
皮膚臨床65(12);1839~1843,2023

玉木 毅 Intravascular large B-cell lymphomaのランダム皮膚生検による診断:臨皮64(5増):86-89,2010

池田 彩ほか 老人性血管腫の皮膚生検が診断に有用であった血管内大細胞型B細胞リンパ腫の1例:臨皮67:792-796,2013