今までに挙げてきた角化症以外にも、教科書には様々な角化症が記載されています。比較的に多くみられるものから滅多にみられないものまで多々ありますが、アトランダムにそのいくつかを取り上げてみたいと思います。
🔷紅斑角皮症
従来、紅斑性角化性局面が短時間で形を変える変動性紅斑角皮症と、形を変えない進行性対側性紅斑角皮症に分けられていましたが、現在ではそれらは同一疾患群のバリエーションであることがわかり、変動性進行性紅斑角皮症に統一されています。なお進行性対側性紅斑角皮症のうち、ロリクリンの変異によるものは、ロリクリン角皮症に含まれます。
皮疹は、短時間で刻々と形を変え、数日以内に消退する地図状の紅斑と、形をあまり変えない暗赤色から褐色の不規則な形の角化性局面からなります。鱗屑は角化性、粃糠様、小葉状で暗赤色から黄褐色の不規則な形状をとります。ほぼ半数の例で掌蹠の過角化を伴っています。原因はコネキシン31,30.3,43をコードする遺伝子の変異によります。
🔷黒色表皮腫
種々の分類がありますが、悪性型、肥満関連型、症候型、遺伝性の型などに分類されます。
頸部・腋窩・乳暈・・臍窩・外陰部・鼠経・肛囲などに黒褐色調色素沈着、角質増殖、乳頭状隆起をきたしざらざらした粗造な外観を呈します。一般的に悪性型の方が症状は高度とされます。
1)悪性型・・・内臓悪性腫瘍に伴う型で、主に腺癌で胃癌が最も多いとされます。腫瘍細胞がEGF,TGF-αなどを産生して乳頭腫、角質増殖などをきたすと考えられています。
2)肥満関連型・・・間擦部の色素沈着と粗造化が主で肥満者に多く見られます。以前は仮性黒色表皮腫と呼ばれていました。
3)症候型・・・インスリン抵抗性、高アンドロゲン血症、糖尿病、SLE,甲状腺機能低下、薬剤誘発性(ニコチン酸、経口避妊薬、葉酸拮抗薬)などが含まれます。
4)遺伝性・・・FGFR3の遺伝子変異により家族性に発症
組織所見としては、乳頭腫腫症、角質増殖、色素沈着を3主徴とします。表皮肥厚(acanthosis)は認めず、病名のacanthosis nigricaansは不定切といえます。
🔷悪性腫瘍と関連する後天性角化症
1)後天性魚鱗癬
悪性リンパ腫(特にホジキン病)、白血病など、癌、肉腫に伴って生じます。膠原病(SLE,皮膚筋炎)、サルコイドーシス、甲状腺機能低下、ハンセン病、AIDSに伴うもの、また薬剤性(コレステロール形成阻害薬、シメチジン、レチノイド、クロファジミン、アロプリノールなど)でも生じます。
原病の治療によって症状が改善することもあります。
2)後天性掌蹠角化症
内臓悪性腫瘍、菌状息肉症、セザリー症候群などに伴って発生します。
3)バゼー(Bazex)症候群
消化管・上気道・肝などの内臓悪性腫瘍(主に扁平上皮癌)に関連して四肢末端、顔面に乾癬様の紅斑・角化性の局面を生じます。
病勢が進行すると皮疹も手足の指から進展し、四肢、顔面(鼻・口唇・耳介)、頭部、体幹にも皮疹が拡大することがあります。頭部、顔面では脂漏性皮膚炎様の皮疹となります。
🔷鱗状毛包性角化症 Keratosis follicularis squammosa (Dohi 1903)
腹部、臀部、次いで躯幹、下肢に面皰様の毛包性黒色小角化点を生じ、これを中心に約1㎝程の灰白色葉状鱗屑を生じます。辺縁はわずかに皮面より剥離します。皮疹は左右対称性に散在、多発します。自覚症状はなく、10-30歳代に多く、東洋人に多いとされます。原因は不明ですが、内分泌、機械的刺激、毛包内細菌感染などが想定されています。また時に他の角化症(毛孔性苔癬、棘状苔癬)を合併します。
🔷連圏状粃糠疹 Pityriasis circinata(Toyama 1906)
腰腹部、臀部に爪甲大から手掌大までのほぼ正円形の淡褐色の魚鱗癬様の局面が単発、あるいは多発します。個疹は互いに融合して連圏状となります。東洋人に多いが白人での報告もあります。原因は明らかではありません。悪性腫瘍、妊娠、結核、栄養不良が関与する例もあります。
これらの角化症の治療では、特効的なものはありません。背景、原因因子があればその治療、一般的にサリチル酸ワセリン、尿素軟膏、ビタミンD3軟膏などが試みられています。重症例では、エトレチナートやシクロスポリン、ミノマイシンなどの内服、ステロイドなども使用される場合もあります。
参考文献
皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
15章 角化症(大塚藤男) pp341-377
標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃 医学書院 東京 2020
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285