しばらく、爪水虫についての記事は書いていませんでした。
新しい爪白癬外用薬として書いたのも、2016年ですから、もう10年近く前です。
久しぶりに爪白癬について現状を調べてみたいと思います。
前半は繰り返しになりますので一部以前の記事を再掲します。
「爪白癬の新しい外用薬 2014.12.7」
爪白癬は日本人のおよそ10%が罹患しているといわれ、年齢と共にその率は上昇します。
爪真菌症には下記の分類があります。
遠位側縁爪甲下爪真菌症 distal and lateral subungual onychomycosis: DLSO
表在性白色爪真菌症 superficial white onychomycosis: SWO
近位爪甲下爪真菌症 proximal subungual onychomycosis: PSO
カンジダ性爪真菌症 candidial onychomycosis
全異栄養性爪真菌症 total dystrophic onychomycosis: TDO
表在性白色型爪白癬(superficial white onychomycosis :SWO)
深在型白色型?爪白癬(proximal subungual onychomycosis : PSO)
遠位部および側縁部爪甲下爪白癬(distal-lateral subungual onychomycosis : DLSO)
全爪型爪白癬(total dystrophic onychomycosis : TDO)
DLSOの頻度が最も多いです。 95%
SWOは少ないですが、老人ホーム入居者などに多くみられます。爪は脆く、表面を削り鏡検することで、多数の真菌がみられます。
PSOは0.7%程度と稀ですが、HIV,糖尿病、免疫機能低下の患者さんでは多くみられます。
TDOは最重症型です。
カンジダ性の爪真菌症ではほとんどが手の爪です。
診断は顕微鏡検査、真菌培養によりますが、爪の先端部や爪の表面では陰性のことが多く、爪甲の下層や、爪切りで爪の基部に近いところ、深部(爪床に近い部位)を採取する必要があります。また培養陽性率は37%と成功率は低く、結果が出るまで2週間程度かかるために日常診療ではあまり用いられません。しかしながらカンジダ症などの白癬菌以外の爪真菌症もあることから決して無視することはできません。
爪は伸長と共に下層から上層、先端に押し上げられてきますが、それらの真菌は栄養状態が悪く、変性して陰性となりやすくなります。
各先生方が述べられたことは、発売後クレナフィンが多く使われましたが、皮膚科医でないドクターで、中には鏡検、培養を行わず、明らかに真菌症ではないケースにも用いられていることがあるとの指摘でした。やはりきちんと診断を行ってから使用すべきでしょう。(その後爪真菌症の治療を開始するためには真菌が陽性であることを確認することが必須条件となりました。)爪真菌鏡検では真菌要素との鑑別を要するものもあります。菌様モザイク、衣類・ガーゼなどの繊維、角質細胞の辺縁、真皮の弾力線維、KOHの結晶、油滴など。また臨床症状と併せて診断することも大切です。真菌鏡検の成功率を挙げるためにチューブ法という検査方法があります。爪の真菌要素は爪下の皮膚に近い爪床に多くみられるために単に先端部を削るだけでは検出率は低いです。ニッパーなどで混濁、肥厚した爪をしっかり挟み取り、細かく砕いてKOHの液に数日浸しておきます。その後鏡検すると爪の角質は解けて白癬菌がよく観察できるようになります。また近年(2022年)では白癬菌抗原キット(デルマクイック爪白癬)も保険適用となり、これは感度特異度共に高く、直接顕微鏡検査が陰性であった場合にも用いることが出き有用です。
鑑別すべき疾患としては、爪乾癬、爪扁平苔癬、爪異栄養症、肥厚爪などがあります。
爪白癬の原因菌はTrichophyton rubrumが最も多く、次いでTr. interdigitale (旧病名 Tr. mentagrophytes)がみられます。
【治療】
爪白癬の治療は原則として、経口内服薬となります。しかし、肝腎障害などの合併症、併用薬、患者さんの希望などにより、内服できない場合は外用薬を選択します。またSWO(表在性白色爪真菌症)の場合は外用液が第1選択肢となりますが、それでも内服できるならばホスラブコナゾールがより効果があり、早く治癒します。
1)ホスラブコナゾール(ネイリン)
アゾール系の経口抗真菌薬でプロドラッグにすることでイトラコナゾールよりも安定した経口吸収が期待できます。カンジダなどにも有効ですが、適用は爪白癬のみで注意が必要です。
ネイリン(100mg):1錠 朝食後内服、12週間 48週間後の完全治癒率は60-70%と高いです。ただし無効例、再発例に対しては投与終了後数か月(半年程度)待って追加投与を試みるか、他剤に変更します。ネイリンは75歳以上の高齢者にも対しても有効性、安全性は劣らないそうです。時に肝障害がみられますが、γGTPのみの上昇は薬剤の酵素誘導であって、同時にAST,ALTの上昇がなければ肝障害とは考えずそのまま継続投与できます。ただしgradeⅡ以上の肝障害(AST,ALTが正常上限3~5倍以上または100U以上)の場合は投与中止しますが、その頻度は多くはありません。ネイリンは肝代謝なので腎機能に対してはほぼ問題はありませんが、血清クレアチニンの増加量が0.3mg/dl以上、eGFRの減少率が30%以上(急性腎炎の診断基準)の場合は再検査するなり、腎臓専門医にコンサルトを受けることが推奨されます。ただ、ネイリンは透析患者にも使用されますし、eGFRが30-40の患者さんにも使用可能です。血液検査は使用前と使用後4-8週間後が推奨されます。高齢者では一般に腎機能の低下があり脱水によって悪化しますので水分補給の指示、抗生剤、鎮痛剤等の併用での増悪に留意し、検査は尿酸も併せてチェックすることにより、脱水の影響をみることが可能です。
あと、ネイリンは日常診療で薬代が高い、といわれることがあります。確かに薬価は1カプセル814.80円ですから3割負担でも1か月7000円を超えます。しかし、物は考えようで、3か月で治療が終了し、しかも他の内服薬、ましては外用薬より治癒率がずっと高く、治療期間が短いですから、いわゆるコスパはずっと優れているといえます。
2)テルビナフィン(ラミシール)
皮膚糸状菌への殺菌力、MICともにアゾール系よりも優れています。従って起因菌が白癬菌という確証があれば、テルビナフィンが第1選択肢になります。しかし本剤への耐性菌や皮膚糸状菌以外の真菌感染症が疑われる場合はアゾール系などの抗真菌薬を考慮します。
テルビナフィン(125mg):1錠 1日1回内服 時に肝障害などの副作用がみられることより、4~6週後を目安に肝機能のチェックを行うことが必要です。
内服期間は通常24週(6か月)ですが、それでも完治しない場合はより長期に内服する場合もありますが、耐性菌の存在なども考慮する必要性もあります。
3)イトラコナゾール(イトリゾール)
イトリゾールパルス療法 イトリゾール400mg 分2を1週間内服し、3週間休薬します。これを1クールとし、合計3クール施行します。しかしイトリゾールは併用禁忌薬が多く、薬剤吸収が安定し、より効果のあるホスラブコナゾールの登場によって、この療法の選択の理由はほぼなくなったともいえます。しかし爪白癬以外の爪真菌症の存在、ネイリン、ラミシールが使用できない場合の選択肢としてはなお有用です。この薬剤についてはジェネリック薬も存在しますが、先発薬と比べると吸収効率が劣るとされており、使用にあたって注意が必要です。
【爪白癬の外用療法】
先に述べたように爪白癬の治療は内服療法が基本ですが、外用薬を選択する場合もあります。内服薬、外用薬両者の併用はできません。
肝腎障害、併用禁忌などで内服できない場合、妊婦、授乳婦などの場合、小児の場合、高齢者などですでに多剤を内服していてさらなる内服を希望しない場合など。
またSWO(表在性白色爪真菌症)では外用薬が第1選択肢となります。
さらに、近年くさび型またはスパイクを有する爪白癬にエフィナコナゾールが有効であるという報告があります。これはデルマトファイトーマといい、難治性の爪白癬です。爪甲が融解し病変部は空洞を形成し、空洞内に角質と菌糸や分生子が集塊をなしており、臨床的には白色から黄褐色の楔形を含む斑状あるいは線状となります。難治性の原因は空洞を形成しているために十分な濃度の薬剤が菌に到達しないため、また菌塊がバイオフィルムを形成することや胞子形菌要素が休眠状態であるためと考えられています。治療には外用だけではなく、ルーターで削る、ニッパーで開窓するなどの処置を加えることで治癒率が上がります。またこの型に対してもネイリンが有効であるという報告もでています。
・ルリコナゾール爪外用液5%(ルコナック) 1日1回罹患爪全体に塗布する
・エフィナコナゾール爪外用液10%(クレナフィン)1日1回罹患爪全体に塗布する
これらの外用液も病型によっては有効ですが、内服薬と比較して治癒率は低く(10%程度)、外用継続率も低く(アドヒアランスが悪い)、長期間かかります。それで爪の混濁減少率が6か月で30%、1年で50%以下の場合は漫然と継続せず内服への切り替えを考慮すべきとの意見もあります。また外用液は強く押し出すと、爪周囲へもこぼれ、接触皮膚炎(かぶれ)を起こすこともありますので、マニキュアのように横向きに爪のみに塗布するのがよいです。
参考文献
皮膚疾患 最新の治療 2025-2026 編集 高橋健造 佐伯 秀久 南江堂 東京 2024
五十樓 健 XV 感染症 C 真菌 2 爪白癬 pp215-216
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