輸入感染症(ウイルス性発疹症 ①デング熱 )

普段、国内ではお目にかからないものの、海外旅行者、インバウンドによる外国人旅行者の増加によって、輸入感染症も増加傾向にあります。ウイルス、細菌、原虫など様々ありその一部はneglected tropical diseases (NTDs)として一括され、その中でもskinNTDsと呼ばれる一群があります。
これについては過去に書きました。

Neglected tropical disease


今回は輸入感染症の中でウイルス発疹症に絞って記載してみたいと思います。
皮膚科教本(標準皮膚科学)の中で、渡辺大輔先生による記載では、⓵デング熱 ⓶ジカ熱 ⓷チクングニア熱 ⓸重症熱性血小板減少症候群(SFTS) ⓹新型コロナウイルス感染症
NOTE エムポックス(サル痘)として記載があります。

デング熱、重症熱性血小板減少症候群、新型コロナウイルス感染症については過去のブログにも書きましたので、それらも参照して下さい。

デング熱

虫による皮膚疾患(3)マダニ(SFTS)

マダニによるウイルス感染症(SFTS)

⓵ デング熱

ネッタイシマカなどの蚊によって媒介するデングウイルスによって発症するウイルス感染症です。デングウイルスはフラビウイルス科に属し、4種の亜型があります。
【疫学】
媒介する蚊は主にネッタイシマカとヒトスジシマカです。前者は緯度が25度以内の熱帯に、後者は35度以内の亜熱帯に生息しています。従って、同症が見られるのは、熱帯、亜熱帯地域で、東南アジア、南アジア、中南米、カリブ諸国に好発します。しかし、アフリカ、オーストラリア、中国、台湾などでも発症が認められています。日本にはネッタイシマカは常在していませんが、ヒトスジシマカは本州から四国、九州、沖縄、小笠原諸島まで広く分布しています。活動は5~10月で、冬季には成虫は存在しません。
全世界で年間約1億人がデング熱を発症し、約25万人がデング出血熱を発症すると考えられています。
基本的には日本国内での発症はなく、海外旅行者による持ち込み例の報告ですが、2014年には70数年ぶりで海外渡航歴のない人での国内での多発例があり(代々木公園を中心に150例余り)マスコミでも報道され、社会問題となったことは記憶に新しい事象です。この時二次感染を避けるために、代々木公園に立ち入った人は4週間は献血を避けるよう通達がありました。感染者は複数の都道府県に及び患者追跡も困難を極めました。
近年の著しい地球温暖化、インバウンドの増加を考えれば、将来また再び国内発生が生じてもおかしくありません。
【症状】
ウイルスを保有する蚊に刺されると3-7日の潜伏期経て発症しますが約50~80%は不顕性感染とされます。突然の高熱をきたし、頭痛、全身の筋肉痛、関節痛、頭痛、嘔吐などを伴うこともあります。2~7日で解熱しますが、約半数の例で痒みを伴う紅斑が体幹から四肢へと拡大していきます。皮疹は毛孔一致性の紅斑や紫斑で、紅斑の中に正常皮膚が散在する(white island in red sea)ことが特徴とされます。関節痛が強いことより、海外ではBreak bone feverとも呼ばれます。皮疹は麻疹様の色素沈着を残して治癒しますが、一部の患者では解熱後に急速に血漿漏出や血小板減少が進行し、DIC(播種性血管内凝固症候群)を起こして死に至る場合もあります。(デング出血熱、デングショック症候群)。異なる型に再感染すると免疫が過剰に発動して重症化するとされます。但し、頻度は非常に低く、インフルエンザより致死率は低いとされます。
重症化サイン
1.腹痛、腹部圧痛
2.持続的な嘔吐
3.腹水、胸水
4.粘膜出血
5.無気力、不穏
6.肝腫大(2cm以上)
7.ヘマトクリット値の増加(同時に急速な血小板減少を伴う)
上記のサインが認められた場合は入院加療とする。

https://www.mhlw.go.jp/content/000477538.pdf

(患者臨床写真は厚労省「蚊媒介感染症の診療ガイドライン 第5版」より見ることができます。)
【診断・検査】
流行地域への渡航歴があり、発熱をはじめとして上記症状があれば、デング熱を疑います。ターニケット試験(収縮期血圧と拡張期血圧の中間で5分間圧迫後の点状出血を観察し、解除後に1インチ四方に10個以上見られれば陽性と判定する)は診断の補助になります。
確定診断のためには、RT-PCR法によるウイルス遺伝子の検出や特異蛋白(NSI)抗原の検出、IGM抗体の測定などになりますが、国立感染症研究所などに依頼します。
【治療】
本症は4類感染症に指定されており、診断した医師は直ちに保健所に届ける必要があります。
ただ、似たような蚊による輸入感染症(チクングニア熱、ジカ熱)の他麻疹、風疹、伝染性単核球症などとの鑑別が必要となってきます。
治療は対症療法であり、アセトアミノフェンや輸液などが行われます。解熱鎮痛薬としてサリチル酸系統の薬剤は出血傾向やアシドーシスを助長するために禁忌です。
予防では、流行地では蚊に刺されない工夫が大切で、長袖、長ズボンの着用、虫除け剤、昆虫忌避剤、スプレーなどを使用します。
参考文献

厚生労働省検疫所HP デング熱 「蚊媒介感染症の診療ガイドライン 第5版」

国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト デング熱(詳細版)

あたらしい皮膚科学 第3版 清水 宏 著 中山書店 東京 2018
23章 ウイルス感染症 8. デング熱 pp508-509

標準皮膚科学 第12版 編集 石河 晃・奥山隆平・阿部理一郎 医学書院 東京 2025
渡辺大輔 第29章 ウイルス性皮膚疾患、急性発疹症 C 輸入感染症としてのウイルス性発疹症 1. デング熱 pp496-497