ジカ熱とチクングニア熱も蚊によって媒介される感染症でデング熱と似ています。発熱と全身の発疹を特徴とし、同じ種類の蚊(やぶ蚊属)によって媒介される感染症です。いずれもアフリカを起源としますが、近年ではアジア、中南米を中心に流行しています。
国立感染症研究所作成の「蚊媒介感染症の診療ガイドライン(第5版)」と皮膚科学教本(第29章 C.輸入感染症としてのウイルス性発疹症 渡辺大輔)を参考にして書いてみました。
なお、蚊に媒介される感染症は他にも日本脳炎、ウエストナイル熱、黄熱、ウマ脳炎、マラリア、野兎病などがありますがここではとりあげません。
⓶ジカ熱
ジカウイルスはデングウイルスと同じフラビウイルス科に属し、感染源となる蚊及び感染形式もデングウイルス、チクングニアウイルスと同様です。
【疫学】
ジカウイルスは1947年にウガンダのジカ森林で黄熱の囮動物として使用されたアカゲザルから初めて分離されました。患者はアフリカとアジアで散発していましたが、2000年代に入ってから感染流行地が急速に南太平洋地域、中南米にまで拡大していました。2015年前後からポリネシア、チリ、中央、南アメリカ大陸、カリブ海、南太平洋地域で数万人規模の感染が報告され、日本でも輸入症例が報告されました。そして、2016年には感染症法上の4類感染症に指定されました。海外では経胎盤、経産道感染、輸血、性行為での感染の報告もあり、感染妊婦から生まれた児での小頭症症例の報告があります。
ジカウイルス感染症については、2016年2月に小頭症及びその他の神経障害の集団発生に関してWHOは「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC)」を宣言しました。その後の鎮静化に伴い、これは取り下げられました。しかしながらなお病態、流行の動態については不明な点も多く、引き続き注意を払う必要性があります。
【病態・症状】
ウイルスに感染した場合、約20%が2~12日(多くは2~7日)の潜伏期を経て発症します。全身に斑状丘疹性の発疹、関節痛、結膜充血を認めます。発疹は痒みを伴うことが多いとされます。時に、筋肉痛、頭痛、後眼窩痛がみられます。まためまい、種々の消化器症状(下痢、腹痛、嘔吐、便秘、食思不振など)を観ることもあります。発熱は38.5度以下で、ないことも多いです。ギランバレー症候群、胎児の小頭症がみられたとの報告があります。
【診断・検査】
PCR法によるジカウイルス遺伝子(RNA)検出、IgM抗体検査、ペア血清による中和抗体検査など。保健所を通じて、地域の地方衛生研究所、国立感染症研究所などに依頼します。ウイルス血症はおよそ1週間とされ、尿中ではより長く陽性であるとされています。IgM抗体は他のフラビウイルスとの交差反応を示すことがあり、注意を要します。
【治療・対応】
ジカウイルスに対する有効な抗ウイルス薬はなく、対症療法になります。飲水の励行、急性期にはアセトアミノフェンなどによる鎮痛解熱薬の使用などが勧められています。ジカ熱は4種感染症に指定されていますので、医師は保健所に届け出る必要性があります。
特殊例
*ギランバレー症候群発症患者への対応
4週以内に症状の極期を迎え、その後軽快しますが、軽症例からまれに重症例まであります。神経内科専門医への紹介が必要になります。
*先天性ジカウイルス感染症
母体から胎児への経胎盤感染により小頭症などの先天異常をきたした場合を「先天性ジカウイルス感染症」といいます。疑わしい妊婦は当該専門医療機関に紹介し検査、診断、届け出、臨床評価、マネージメントを行うとされています。
【予防】
現時点では有効な予防ワクチンはありません。流行地において蚊に刺されないような予防対策をとることが重要です。
皮膚が露出しないように長袖シャツ、長ズボンを履き、裸足でサンダルを履かないように努めます。薄手の繊維では洋服の上からでも吸血されることがあります。
足首、首筋、手の甲などの小さな露出面でも刺されることがあるので要注意。虫などの忌避剤の利用も勧められています。(DEET,イカリジン(ピカリジン)など)
医療従事者は患者血液、体液などからも感染の危険があるために手袋、ゴーグルなどを使用し、針刺し事故には気を付ける必要があります。
また本症は性行為でも感染するなど性感染症としての側面を持つために、流行地からの入国後は一定期間(6カ月)はコンドームの使用をするなど注意を払う必要があるとされます。
⓷チクングニア熱
チクングニア熱はデング熱と同様トガウイルス科アルファウイルス属のチクングニアウイルスにより起こる感染症です。血清型は単一です。感染源の蚊と感染様式もデング熱と同様です。
1952年タンザニアでデング熱様疾患として初めて確認され、アフリカ、アジアで散発していましたが、2004年から急速に拡大してきました。フランス、イタリアの発症に引き続き2013年にはメキシコ、ブラジルをはじめとしたアメリカ大陸に拡大し、太平洋諸国でも感染が相次ぎました。日本では2006年から輸入例報告例がみられるようになり、2011年1月には感染症法における4種感染症に指定されました。
【病態・症状】
ウイルスに感染した場合、約20-25%が2~12日(多くは3~7日)の潜伏期を経て発症します。発熱と関節痛は必発です。発疹は8割程度に認められます。四肢の関節痛の強いのが特徴的で、関節炎や腫脹を伴い、急性期を過ぎた後も数週間から数か月に亘って疼痛が続く場合もあります。関節リウマチ様症状を呈し、日常生活にも困難を伴うことも多々あります。また全身倦怠感、頭痛、筋肉痛、悪心、嘔吐、リンパ節腫脹、鼻血などの出血傾向があります。原則として重症化はしませんが、致死性の脳炎や重症心筋炎、多臓器不全をきたした報告例もあります。
【診断・検査】
チクングニア熱の臨床症状はデング熱やジカ熱ともよく似ており鑑別が困難です。さらに分布域も重なっており、確定診断のためには地方衛生研究所や国立感染症研究所などの専門機関での検査が必要となります。
チクングニアウイルスの分離・同定
RT-PCR
特異的IgM抗体、中和抗体
【治療・対応】
チクングニアウイルスに対する有効な抗ウイルス薬はなく、対症療法になります。飲水の励行、急性期にはアセトアミノフェンなどによる鎮痛解熱薬の使用などが勧められています。チクングニア熱は出血症状を呈することは稀であるために、確定診断がつき、関節痛の高度な成人例に対してはロキソプロフェンなどの菲ステロイド性抗炎症薬((NSAIDs)の使用は許容されます。
チクングニア熱は4種感染症に指定されていますので、医師は保健所に届け出る必要性があります。
【予防】
蚊媒介感染症全般に準じます。
参考文献
蚊媒介感染症のガイドライン(第5.1版) 2023年9月6日 第5.1版作成 国立感染症研究所
標準皮膚科学 第12版 編集 石河 晃・奥山隆平・阿部理一郎 医学書院 東京 2025
渡辺大輔 第29章 ウイルス性皮膚疾患、急性発疹症 C 輸入感染症としてのウイルス性発疹症 2.ジカ熱 3.チクングニア熱 pp497