ケラチン症性魚鱗癬

従来の病名では、水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症(Bullous congenital ichthyosiform erythroderma:BCIE)とよばれていました。
2009年の新分類では、(1)表皮融解性魚鱗癬(epidermolytic ichthyosis)と(2)軽症型(Siemens型)の表在性表皮融解性魚鱗癬(superficial epidermolytic ichthyosis)に分けられています。
いずれも、細胞骨格を形成するケラチン遺伝子の変異が原因となって生じます。

(1)表皮融解性魚鱗癬
常染色体顕性(優性)遺伝で罹患率は1人/10万~20万人。ケラチン1またはケラチン10の遺伝子変異によって発症します。(稀に潜性(劣性)遺伝の報告あり)
出生時より全身に潮紅がみられ、水疱、びらん形成を反復し、次第に鱗屑が厚くなってきます。臨床症状はあたかもSSSS(stafilococcal scalded skin syndrome)と類似することがあります。学童期より厚い角化は固定し全身におよび、紅皮症状態は継続しますが、水疱形成は次第に軽快してきます。関節屈面では洗濯板状・煉瓦状になります。ケラチン1変異例では掌蹠に高度の角化をきたし、ケラチン10変異例では掌蹠の角化はほぼみられません。重症例では特有の臭気がみられます。毛・歯はほぼ正常です。
稀に鱗屑を有する環状紅斑が体幹・四肢近位部に多発することがあります。
 ケラチン線維はⅠ型とⅡ型が特定のペアを組みヘテロダイマーを形成し、これが重合して成り立っていますが、角化細胞では基底層ではK5/14を発現していますが、有棘層に分化・移動するとK5/14の発現はなくなり、代わってK1/10が発現します。本症ではK1,K10のいずれかの遺伝子の変異によって発症しますが、遺伝子変異は主に点突然変異でK1のロッドドメインのカルボキシル基末端、K10のアミノ基末端で生じるとされます。
 病理組織では、著明な表皮肥厚と過角化がみられます。有棘層上層から顆粒層にかけて表皮細胞の細胞質内の核周囲に空胞と粗大なケラトヒアリン顆粒が認められます。(顆粒変性granular degeneration)、表皮内水疱を形成します。(epidermolytic hyperkeratosis)。顆粒層は肥厚します。真皮上層では慢性の炎症細胞浸潤を認めます。
電顕ではトノフィラメントの過形成や未熟なケラトヒアリン顆粒の凝集塊(clumped keratin filaments)を認めます。

(2)表在型表皮融解性魚鱗癬
(1)よりも軽症な型で、主にケラチン2eの遺伝子変異が病因となります。ケラチン2eは表皮上層のみで発現するために病変は表皮上層に限局するために(1)と比較すると潮紅、鱗屑、水疱のいずれもが軽症となります。幼少時期では四肢を中心に水疱形成と角層剥離(軽い外力で脱皮(molting phenomenon)をきたし成人期では四肢屈側に角化局面がみられます。

根本的な治療方法はなく、対症療法や生活指導が中心となります。角質溶解剤、保湿剤、ビタミンD3軟膏の外用を主体とし、重症例ではレチノイドの全身療法も行われています。魚鱗癬を専門とする医療機関へのコンサルトが必要となります。

参考文献

皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 15章 角化症 pp341-377

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
須賀 康 XIV 角化症 1 魚鱗癬 pp167-168