尋常性魚鱗癬、伴性遺伝性魚鱗癬

【尋常性魚鱗癬(Ichthyosis vulgaris)】
非症候性魚鱗癬の中で最も頻度が高い型です。罹患率は約250人に1人とされます。
常染色体半顕性(優性)遺伝(autosomal semidominant inheritance)でヘテロ接合体(異なる遺伝子型を持つ場合、片方のアレルに変異がある場合)とホモ接合体(同じ遺伝子型を持つ場合)で軽症、重症の表現型の差異を示します。
出生時には無症状ですが、生後数か月で発症します。10歳頃まで進行性で多くは青年期以降軽快します。
 症状は背部、四肢伸側の小型で白っぽい鱗屑を固着し、乾燥がみられますが、四肢屈側、胸腹部は避けます。頭顔部に軽度の粃糠様落屑を認めます。冬季には増悪しますが、夏季には軽快します。掌蹠皮膚紋理の増強が特徴的で、アトピー性皮膚炎の合併頻度が高いです。性差はありません。
一般的に四肢屈側には乾燥、角化は認めませんが、ホモ接合体などの遺伝子変異の患者さんなどでは四肢屈側が侵される場合もあります。
 病因はフィラグリン遺伝子の異常でプロフィラグリン合成機能低下により、ケラトヒアリン顆粒の形成異常、フィラグリン合成低下をきたし、角層形成不全、保湿機能低下をきたします。プロフィラグリンは約400kDaの分子量で有棘層上層で発現し始め、10~12個のフィラグリンリピート構造を有します。脱リン酸化しプロテアーゼの作用によって37kDaのフィラグリンモノマーとなり、ケラチンフィラメント同士を凝集させる線維間凝集物質として働きます。フィラグリンはさらにアミノ酸などの天然保湿因子に分解されて保湿機能を持ちますので、尋常性魚鱗癬では保湿機能が低下します。
 病理組織では、フィラグリンが主構成要素である顆粒層を欠如または減少します。角層は肥厚していますが、これは増生ではなく、角層脱落遅延(retention hyperkeratosis)によるものです。
【伴性遺伝性魚鱗癬(X連鎖性潜性魚鱗癬】
伴性潜性(劣性)遺伝で、X染色体に遺伝子変異があり、母親が保因者になります。男性2~6千人に1人で見られます(稀に女性発症)。出生直後あるいは幼少時期から発症し、尋常性魚鱗癬と比較して症状は高度です。手掌足底を除く全身に皮疹がみられ、黒褐色の大きな葉状の鱗屑が特徴です。冬期に悪化します。頭毛は疎で瘢痕性脱毛も生じます。また角膜混濁が高頻度に見られます。ただ臨床症状だけではこの両者の鑑別が困難な例もみられます。その際は以下の遺伝子検査などが必要となります。
 病因はステロイドスルファターゼ遺伝子(STS)の変異、欠損でFISH(Fluorescence in situ hybridization)法によって生前診断が可能です。STSの遺伝子座はX染色体短腕遠位側のXp22.31に存在し、同症ではこの遺伝子の完全欠失が多く、周囲の遺伝子を巻き込んで様々な随伴症状をきたすことがあります。(隣接遺伝子症候群 患児の5%程度)。STSの欠損の結果、硫酸コレステロールが角層細胞間に蓄積して剥離遅延を起こします。
Kallmann症候群(性腺発育障害、嗅覚障害)・点状軟骨異形成症・低身長・精神発育障害など。
また母体血清マーカーでエストリオール(uE3)が正常の1/10以下で子宮口開大不全による陣痛微弱がみられます。潜伏精巣(20%)、精巣癌が20~40歳で見られることがあるので成人に達したら一度泌尿器を受診し、精巣腫大の検査方法を習うべきとされます。
病理組織では、特徴的な所見は見られませんが、角質肥厚(retention hyperkeratosis)で顆粒層は尋常性魚鱗癬と異なり正常かまたは軽度肥厚、有棘層の肥厚を認めます。

治療は根本的な原因療法はなく、基本的には保湿などの対症療法や生活指導になります。伴性遺伝性魚鱗癬の重症例ではエトレチナートの内服も適応となりえますが、小児では骨端線の早期閉鎖を生じるために外用剤の治療が主体となります。
プロペト、ヘパリン製剤、尿素軟膏、サリチル酸ワセリン、ビタミンD3軟膏などが適宜使い分けられています。

参考文献

皮膚科学 第10版 大塚藤男 著 上野賢一 原著 金芳堂 京都 2017
15 角化症 pp329-364

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
須賀 康 XIV 角化症 1 魚鱗癬 pp167-168