「アトピー性皮膚炎治療薬デュピクセントのインパクト」という題で記事を書いたのが、2021年3月でした。
それからのデュピクセントの皮膚科における重要性、浸透性はまさに快進撃ともいえるような目覚ましさに思われます。
いきなり下世話な言い方で恐縮ですが、デュピクセントの総売り上げは1000億円に迫り、単一薬剤の売り上げで第4位につけたとのことです。(不確実情報なので弱冠の誤りがあるかもしれませんが、・・・)上位には現代日本人の最も脅威となる悪性腫瘍に対する薬剤がズラーと並びます。その中にあって抗アレルギー剤がその一角を占めるのは異例のことだとのことです。(全世界的には糖尿病薬が上位を占めるそうですが。)
前年度は第10位とありましたので、売り上げ高が顕著に伸びていることがわかります。
アレルギー性疾患における効能・効果の範囲も広く、アトピー性皮膚炎をはじめ気管支喘息、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎をはじめとし、皮膚科領域での適応疾患の追加・拡大が相次いでみられます。
結節性痒疹・特発性の慢性蕁麻疹にも適応が拡大されましたが、研究上ながら水疱性類天疱瘡や遺伝性角化症の一部にも有効性が示されているとのことで期待が持てます。
その中で、やはり最も患者数が多く、長年患者も医師も治療に難渋し悩まされてきた小児から成人までの難治性アトピー性皮膚炎治療はデュピクセントの登場によってドラマチックその治療概念を一変させました。最近それらを総括するような全国講演会がありましたので、それについてとりあげてみたいと思います。
(1)Dupixent Professional Forum 2024.11.24
2018年4月承認後6年を経過したデュピルマブによるアトピー性皮膚炎の開業医向けの全国講演会
2024.11.24 東京で現地参加
特別講演として上出良一先生の「アトピー性皮膚炎の新治療戦略」があり、その後分科会(1ー3)が催されました。
(2)デュピクセント小児適応拡大1周年記念講演会 2024.12.01
Web参加
複数の講師の先生方が講演されましたので、全体像を示すことはできませんが、その中で気になった重要なポイントを箇条書きにしてみました。
(講師 敬称: 略)
(1)
(上出良一)
・最新の(2024年版)のアトピー性皮膚炎(AD:Atopic Dermatitis)のガイドラインで強調されていることは治療方針の説明・共有(SDM:shered decision making)の考えを取り入れて、患者主体の治療を行っていくことの重要性。
・デュピクセントは2018年4月に承認され、6年目を迎え実臨床においても有効性と安全性が検討されて、多数の難治性アトピー性皮膚炎患者を治すという夢に一歩近づいた。
・入口戦略として、早期介入を行って、アレルギー感作を予防し、ステロイドからの離脱を図り、自然寛解へと導いていく。それが困難な例では全身療法を行う。
・ADの全身治療薬として、JAK阻害薬やネモリズマブなど他の生物学的製剤もある。ただ、デュピクセントで長期寛解を維持できている患者さんは安定してTARCも低い。これは安定した寛解の指標となりうる。JAKではギザギザの上下動の多い不安定な動きになる。
・出口戦略として、デュピクセントなどで寛解に持ち込めた人をどのように「安定した寛解」を維持していくかは今後の問題だ。
・今でも脱ステロイドの患者さんがある。これらの人に対しては頭ごなしの否定はせずに傾聴的な問診が重要だ。これらの人は経験的に長期ステロイドを使用してきた患者さんよりデュピクセントによる治りが早い。脱ステロイドが無駄ではなかったんだよ、という肯定的なメッセージも必要だ。演者は定期的にアトピーカフェを開催し、ネット上からも参加を呼び掛けている。
・治りにくい人は好酸球の高い人、不安定な人。なぞの顔面紅斑の人。(3群に分けて考えている。1.ステロイド酒さの人、ダーモスコピーで判断。2.発赤、カサカサのある人、掻破していることが多い。3.デュピクセントによって紅斑がもたらされたかと思える人➡IL-13など他剤への切り替えを考慮する。)
(竹岡伸太郎)
・ADに対しては、まず外用療法をしっかり行うことが基本だが、それでも十分にコントロールできない例ではシクロスポリン、内服JAK阻害薬などの免疫抑制薬や光線療法、デュピクセントなどがある。シクロスポリンは使用期間の制限や副作用、また内服JAK阻害薬は安全性を担保するための検査が必須であり、クリニックでの長期使用には使いにくい。その点デュピクセントは重篤な副作用もなく、特別な内科的検査も必須ではなく、クリニックで使い易い薬剤だ。
・自施設で導入する、しないにかかわらず、デュピクセントなどの新たな治療があることを患者さんに伝えていきたい。看護師、事務、薬剤師の皆さんとともに体制を整えて導入した達成感は大きなものがある。
(米田明弘)
・AD治療において十分な外用療法、紫外線療法、シクロスポリン内服療法などを行ってもコントロールできない難治性の患者さんが一定数いて、この点が臨床的アンメットニーズのひとつであり、AD治療の限界点だった。これを超えることを可能にしたのがデュピクセントの登場だった。今までは難治性の患者さんは大学病院などへ紹介していたが、今ではクリニックでも十分にコントロールができるようになった。生物学的製剤というと基幹病院で使用するというイメージがあるが、デュピクセントは適正使用のもとクリニックでも安全に使用できる薬剤である。
(2)
(常深祐一郎)
・ADのガイドラインは2024年に新しく改訂されたが、治療目標(ゴール)は川島先生らが作成された当初からの「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない」と記載してあり、これは一貫して変更がない。
ただ、以前は治療方法が限られており、なかなかこの目標に到達できず、いってみれば努力目標だった。しかし、近年は各種外用薬(非ステロイド剤など)、各種全身治療薬(生物学的製剤、低分子治療薬など)が開発されてこの目標が現実に到達できるような時代になってきたことが大きな違いだ。
また、大きな違いは「疾患と治療目標(ゴール)の説明・共有という項目が追加された点で、いわゆるSDM(shared disease making)という概念が導入され、適当な治療や疾患概念の説明や患者教育を具体的に行い、それを患者と共有していく、という患者目線にたった治療の必要性をうたっている点だ。
またアトピー性皮膚炎の病態図において好塩基球が重要な働きを持つとして追加された。
・難治性のADの小児に対しても生後6か月からデュピクセントが使用できるようになり、患児のみならず、家族のQOLもあがった。治療を担当する医師もAD治療の成功体験を通して使命感、やる気を高めることができる。
・注射の打ち方一つとっても工夫が必要である。真摯に向き合って痛い注射だけど頑張ったね、と褒める、シールをあげる、など工夫して治療している。
急に動かれて危なくないように座らせて大腿の上から下方へ垂直にできるだけゆっくり打つ。
(福家辰樹)
・治療の早期介入によって食物アレルギー、AD、喘息、花粉症、鼻炎などのアレルギーマーチを抑制していくことが重要だ。
・デュピクセント治療によって確実にIgEが下がっていく。
(工藤恭子)
小児への注射の打ち方の工夫として、ペンレスを使用、プニュプニュで軽く冷却して行う。ペンよりシリンジの方が(調節し易く?)打ちやすい。
小児の皮膚は薄いのでそのまま指で挟んで摘まみ上げると打ちにくい、周りの皮膚を寄せるようにして厚みを作るとよい。シリンジは早く打ったほうがよい。
・注射の方法は各担当医が個々の患者さんと相談しながらやりやすい方法を工夫していくのがいいのかな、と感じました。
・寛解した後の出口戦略は?との質問には、寛解が得られて調子よければ、徐々に注射間隔をあけていく、との回答でしたが、なかなか統一したコンセンサスは得られていないような印象を受けました。
まだまだ究極の治療ゴールには至っていないものの、デュピクセントの登場によってアトピー性皮膚炎の治療は確実にブレイクスルーを遂げてきていると感じました。