乾癬治療は今(3)

前回、乾癬の治療について書きました。治療法は進歩してきているとはいえ、その中でも様々な問題があることも付記しました。今回はそれらのことを踏まえて、乾癬専門医の工夫、治療のノウハウ、tipsについて記してみたいと思います。

実際に乾癬治療の第一線で活躍されている専門医の治療の要諦については「公的保険や医療費助成制度を意識した乾癬治療がまずキモだ」との多くの意見を聞きます。
その前提としてSDM(shered decision making)の考えが重要で医師が患者さんと情報や気持ちを共有しながら、治療を進めていくというやり方です。そうはいっても、患者さん自身が担当医の説明が良く分からない、自分の考えがまとまらない、病気のことがよくわからない、どうしていいか分からない、といった状況は多いと思います。そういった場合には全国各地の乾癬患者さんの会に直接あるいはネットで尋ねてみるのも一つの手立てかと思います。
【医療費助成制度】
🔷まず、保険証の確認(5つの種類)
・国民健康保険
・協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)
・組合管掌健康保険
・共済組合
・後期高齢者医療制度
🔷高額医療費制度
医療機関や薬局の窓口で支払った額が、1か月間で一定額(自己負担限度額)を超えた場合に、その超えた金額が高額医療費として支給される制度。
家族で同じ健康保険に加入している場合は、合算した金額が自己負担限度額を超えれば、高額医療費の支給を受けることができます。
自己限度額は年齢、所得区分によって異なります。
所得区分……………………….ひと月当たりの自己負担限度額 1~3回目……………….4回目以降
ア、年収約1160万円~の方…………252600円+(総医療費-842000円)x1%………………………140100円  
イ、年収約770万円~1160万円の方……167400円+(総医療費-558000円)x1%………………………93000円
ウ、年収約370万円~約770万円の方……80100円+(総医療費-267000円)x1%………………………44400円
エ、~年収約370万円の方…………..57600円…………………………………………….44400円
オ、住民税非課税の方……………..35400円…………………………………………….24600円
@70歳以上の方の場合は若干変わってきますが、省略。
@高額医療制度を利用するには、認定証により窓口での支払いを自己負担限度額までにする。
一旦窓口で支払った後に支給申請を行う。
という、2通りの方法がありますが、マイナ保険証の導入により認定証の取得が不要となりました。70 歳以上は認定証不要(非課税の方を除く)。
多数回該当や世帯合算による負担の軽減を受けたい場合などは支給申請が必要となります。
🔷高額医療制度ーーさらに負担を軽減する仕組み
@多数回該当
直近12か月で高額医療費の支給をすでに3回以上受けている場合・・・多数回該当として、4回目以降の自己負担額がさらに低くなる。
@付加給付制度
一部の健康保険組合や共済組合による独自の制度で、各々が独自に定める限度額(例:一か月間に2万円以上)を超えた金額を付加給付する制度。
@医療費控除
1年間(1/1~12/31)に支払った医療費の負担額が一定額を超えた場合、確定申告をすることによって所得控除が受けられる制度。
@難病医療費助成制度
指定難病の患者さんで、1か月に支払った医療費が自己負担限度額を超えた場合に特定医療費として支給する制度。
37 膿疱性乾癬(汎発型)
@その他医療費負担が軽減される場合(自治体による医療費助成制度(公費負担)・・・省略

これらの制度を活用することによって高額な生物学的製剤ももっと上手に利用できる可能性があります。
但し、注意すべき事項もあります。
・多数回該当は直近の12か月に適用されるので、症状が寛解して、注射の間隔を開けると、該当を外れることもあり得ます。
・月初に始める(特に5週ある月)ことで医療費を軽減し得えます。
・年収の区分によって、生物学的製剤の注射量を減らすことが支払いの軽減につながる場合と、そうでない場合があります。

【実際の生物学的製剤治療】
外用療法、光線療法などが奏功しない、中等から重症の乾癬患者さんに対しては、上記の事項を考慮して、生物学的製剤が繁用されています。そして(CLCI: cumulative life course impairment) ,(PsD: Psoriatic disease),(PsA: Psoriatic arthritis)なども勘案し、近年は積極的に治療を加えるべき患者さんを見極め、早期治療介入の重要性が強調されています。
それでは、多数ある生物学的製剤をどのように選択するかについては絶対的な指標はないようです。患者さんの希望を取り入れつつ、関節症などの合併症の有無、自己注射の可否、通院期間、安全性なども選択の判断基準となってきます。また注射製剤がイヤな患者さんの場合は内服薬が考慮されますが、近年はオテズラ、ソーティクツなどの比較的副作用が少なく効果のある薬剤もでてきました。
・TNF阻害薬:レミケード、ヒュミラ、シムジア。TNF阻害薬は関節炎に関する有効性を示すエビデンスが蓄積されていて、広範囲の炎症に関する分子であるために乾癬内での適応範囲は広く心血管イベント抑制の報告も多くあります。バイオシミラーも認可されて、より使い易くなりました。但し、レミケードは抗体の発現により、二次無効や、長期中断の後の重篤な投与時反応に注意が必要です。
・IL-12/23p40阻害薬:ステラーラ。後に認可されたIL-17阻害薬、IL-23p19阻害薬と比べると、やや効果は劣りますが、長期使用でも比較的安全に使用できる薬剤で、継続率も高いです。2023年にはウステキヌマブBSも認可され、さらに使い易くなりました。
・IL-17阻害薬:IL-17Aを阻害するコセンティクス、トルツ、ルミセフとIL-17A/Fを阻害するビンゼレックスがあります。IL-17阻害薬は比較的効果の発現が早いい薬剤が多く、また乾癬性関節炎への効果も高く、体軸病変への効果もあり、TNF阻害薬と同列の位置づけとなっています。但し、カンジダ症や炎症性腸疾患を誘発ないし、増悪させるリスクへの注意が必要です。ビンゼレックスはIL-17Fも阻害することより、現在のところ腸疾患の副作用の有意な上昇はみられていません。
・IL-23p19阻害薬:トレムフィア、スキリージ、イルミア。IL-17阻害薬と比べると効果の発現は緩徐ですが、皮膚に対する効果は非常に高く、PASI90、100も目指せる薬剤です。投与頻度も2,3か月ごとと少なく、安全性も高い薬剤です。進行期の関節症への効果は期待できず、TNF阻害薬、IL-17阻害薬より下位に置かれていますが、predominal psoriasisなど予防という点ではPsAのTNF-α,IL-17より外側縁に位置するIL-23を抑えることが将来のPsAへの進展を抑制するのではないかという報告もあります。

【生物学的製剤の使用においての問題点】
・薬代が高い。
・注射が痛くて苦痛。
・強い薬の副作用への不安。
・いつまで注射が続くのか不安。
・主に開業医の声として。高額な薬の管理、バイオの副作用への対応などへの不安。そもそも使ったことがない。
・このまま高額な薬剤が増えていけば国の医療費が高騰して、医療財政が逼迫し、将来は国民皆保険制度の維持も危ぶまれる。
などの点が指摘されています。

【これらの問題点への対応】
必ずしも生物学的製剤を取り入れなくても、従来のより安価な内服治療薬でも、薬剤の特性、副作用などを熟知した医師ならば例えば、シクロスポリン、MTX,チガソン、オテズラ、ソーティクツなどを駆使して十分に中等度以上の乾癬患者さんをコントロールできると指摘する専門医もいます。
また生物学的製剤に通暁していない開業医についても、生物学的製剤使用承認施設の条件は逐次改訂され、導入がし易くなってきています。しかしながらクリニックの医師の副作用等の緊急時の対応への不安の声はつとに聞かれます。やはり大学病院など承認施設医師からの安心できるバックアップ体制の充実が病診連携の拡大へ向けて重要かと思われます。
また高額医療費は、個人としても、国全体の医療財政的にも放置できない問題です。生物学的製剤は遺伝子組み換え技術や細胞培養技術を用いて製造されるために莫大な開発費がかかり、その結果薬価も高額です。国としても限りある医療財源を考慮して、先行生物学的製剤(バイオ医薬品)と比べると、低価格の後続品(バイオシミラー:BS)の普及促進に努めています。厚生労働省は2029年度末までにBSに「数量ベースで80%以上置き換わった成分数が全体の成分数の60%以上にする」ことを目指しているそうです。実際レミケードBS(2014年)、ヒュミラBS(2020年)、ステラーラBS(2023年)と発売され、薬価は半額以下で効果、安全性についても先行バイオ医薬品と同等/同質であることが確認されています。(保険、収入などによりBSを使用しても自己負担額が必ずしも下がらない場合があります。)

【将来を見据えての治療戦略】
最近、上記の事柄等を踏まえ、将来の乾癬治療に対しての提言について述べる論文、講演も散見されるようになってきました。
その中で、個人的に注目した文献からの提言をいくつか取り上げてみたいと思います。

@バイオシミラーの導入とその使用拡大への国の方針。
@乾癬の治療方針は、患者さんの疾患に対する思い、負担を思いやる治療法を目指すべきで、大きく分けて高コスト、高リターン群と中コスト、中リターン群に二分されていくだろう。
@バイオが高額のイメージがあるが、費用対効果を考えると必ずしも高くない。ビンゼレックスはIL-17A/Fの両者を抑制するためか、腸での有害事象も見られず、治療効果も優れていて、費用対効果も優れている薬剤である。
@ソーティクツを始めとしてTyk2阻害薬の効果はバイオにも匹敵するほど高く(俗に飲むステラーラとよばれる)、関節症にも効果がありそうとの報告もでてきている。現時点では他のJAK阻害薬にみられる免疫抑制などの副作用がみられていない。注射薬の嫌いな方や内服薬の簡便さを好む患者さんで高額な治療費を容認できる方にはよい適応になると思われる。
@外用剤、光線療法と一部の内服薬剤の併用をすると却ってバイオよりも高額になることもある。
@バイオで寛解に至った患者さんの治療満足度は非常に高いものの、悩みは治療費の高いことと、いつまで注射を続けなければならないか、ということ。
@バイオ寛解患者さんの中でIL-17製剤は7~8週、IL-23製剤は4~6か月に投与間隔を延長してもまったく再燃傾向のないsuper responderがある。それらの患者さんのなかでは1年以上バイオフリーの人も見られた。禁煙や肥満改善などの悪化因子の対策も寛解延長に重要。
@乾癬は同じ部位に再発してくることが多く、これには乾癬病変部表皮内の記憶をつかさどる固有のT細胞分画(resident memory T細胞:TREM)が皮膚に長くとどまることが関係しているとされている。これをターゲットにして、再発を抑制する治療戦略も研究されている。