サル痘(R5/5/26からはエムポックス)はポックスウイルスによる感染症です。現在では地球上から絶滅したとされる天然痘ウイルスの仲間です。
このウイルスは1958年に研究用に飼育されていたサルの集団で初めて確認されたために当初は「サル痘」とよばれていましたが、差別的な表現などがみられたことよりWHOは”mpox”へと変更しました。国内でもこれを受けて令和5年5月からはエムポックスとの疾患名に変更、統一されました。
1970年にアフリカ ザイール(コンゴ民主共和国)でヒト感染が初めて報告されました。
その後、2022年からは世界各地での報告が相次ぎ、東アジア、東南アジアでもみられ、国内感染例も報告されています。
MSM(Men who have Sex with Men)間での接触感染例も多く、性感染症の一面も持っています。WHOをはじめ国内でも世界での流行が危惧されています。
エムポックスの患者の減少に伴い、社会の関心も薄れつつありますが、MSM間の性接触だけではなく、男女間、家族内での伝搬の危険性もあり、低レベルでの感染は持続していますし、将来のアウトブレイクに備える意味でも、この疾患も念頭におくことが医療関係者のみならず社会全般に求められています。
厚労省HP、下記の国立健康危機管理研究機構、エムポックス診療の手引き等を引用、まとめてみました。
【病原体】
オルソポックスウイルス属のエムポックスによります。
コンゴ盆地系統群(クレードI)・・・・致死率10%と重症になり易い型
西アフリカ系統群(クレードIIa及びIIb)・・・・致死率1%と比較的軽症型
【感染経路】
リスなどの齧歯類、サル、ウサギなどとの接触、感染した人、動物の皮膚、体液、血液、性感染による接触感染
飛沫への長時間の暴露(prolonged face-to-face contact)による感染
感染者の寝具からの感染
空気感染は無いとされています。
【疫学】
1970年代は中央、西アフリカでの報告でしたが、2022年5月世界各地での報告が相次ぎました。さらにMSM間での感染者が相次ぎ流行がみられました。そこでは主にクレードIIの感染者でした。2023年の感染者が最も多く、東アジア、東南アジアではクレードIの感染者もみられました。2024年にはアフリカ大陸を中心にクレードIの流行がありましたが、性感染の例もあるものの家族内感染もあり、病態の詳細は不明です。各地での流行を受けてWHOは2022年、2024年にエムポックスに対し、国際的な公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern: PHEIC)を宣言しました。しかしその後の鎮静化を受けて現在は取り下げられています。しかしながらWHOはその後のエムポックスの流行の動態に危機感を持ちつつ注視しています。
2022.1.1以降世界中での感染者は15万人に上ります。
国内では2022.7に第1例が報告されました。現在(2025.9.12)までに254例の報告があります。但し、すべてクレードIIであり、クレードIの亜型の報告はありません。(つい最近、アフリカから帰国した女性がクレードIのエムポックスを発症したとの報道がありました。日本での第1例になります。)
【潜伏期】
通常6~13日(Max 5~21日)
【臨床症状】
発熱、頭痛、リンパ節(顎下、頸部、鼠径部)腫脹、発疹(発熱1~3日後) 顔、四肢に水疱、膿疱、痂皮を散発。水疱は手掌、足底には生じなく、これが水痘との鑑別に役立ちます。
2~4週間で自然治癒しますが、小児や免疫低下の人などは重症化し、合併症などで死の転帰をとる場合もあります。合併症には二次感染、気管支肺炎、敗血症、脳炎、角膜炎などがあります。
欧米では全身症状が無く、口腔内、外陰部、肛門周囲などに発疹が集中し、異なる段階の皮疹が認められる例が多くみられ、MSMの患者に多くクレードIIが多いとされます。
【診断】
診断においては、皮膚病変が類似する水痘や手足口病、梅毒、麻疹に加え、同じオルソポックスウイルス感染症である天然痘(自然界には存在しない)、牛痘(主に欧州から中央アジアに存在)、野生に分布するワクシニアウイルス感染症(インド、南アメリカに存在)などとの鑑別が必要となってきます。
水疱、膿疱の擦過物からのPCR検査、ウイルス分離、同定、電顕、蛍光抗体法
検査は近隣の保健所を通じて地方衛生研究所や国立感染症研究所などに依頼します。
4種感染症ですので診断した医師は保健所に届け出の義務があります。
【治療】
抗ウイルス薬のテコビリマット(tecovirimat)が国内でも使用できます。(特定臨床研究)
【予防】
天然痘ワクチンは85%の予防効果があるとされます。1976年以前生まれで、幼少時に天然痘ワクチンを打った世代では、免疫力を保有している可能性はありますが、個人差が大きくその効果は不定です。
2022年日本で開発されたLC16m株由来の弱毒化生ワクチンがエムポックス予防に対する効能・効果が追加承認されました。WHOはこれを2024年緊急使用リストに追加。
感染動物、感染者との接触を避けることです。特にMSM間での接触はHIV,梅毒などとの混合感染もありますので注意を要します。
さらに詳しくは国立健康危機管理研究機構
エムポックス(詳細版)
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/a/mpox/010/index.html
エムポックス 診療の手引き 第2版
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/a/mpox/010/001183682.pdf
を参照して下さい。