風疹(三日はしか)

風疹は、トガウイルス科に属するRNAウイルス、風疹ウイルスによる感染症で、発熱、発疹、リンパ節腫脹を3大特徴とします。飛沫感染、接触感染により感染拡大します。インフルエンザ(基本再生産数 R0=2~2.4)より伝染力は強い(R0=5~7)ですが、水痘(R0=10~12)、麻疹(R0=12~18)ほど強くはありません。
初感染のあと、不顕性感染で終わる例から、合併症を生じる例まで様々あります。以前は小児例が多かったものの、ワクチン接種の導入により成人、特にワクチン未接種の成人男性例が増える傾向にあります。
妊娠早期の女性が感染すると、胎児に重篤な影響を及ぼす先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome: CRS)を発症するリスクがあり、妊婦は特に注意を要する疾患です。

【症状】
14~21日の潜伏期のあと、軽度の発熱とともに顔面、頸部からはじまり、全身に粟粒大の紅色丘疹が多発します。個々の発疹は麻疹のようには融合傾向はありません。発症後2,3日で色素沈着を残さず軽快することより俗に「三日はしか」といわれます。発疹と同時に眼球結膜の充血、また多くの例で口腔内の出血斑(Forshheimer`s spot)がみられることもあります。項部、頸部を主体とするリンパ節腫脹は高頻度にみられます。
【合併症】
免疫のない女性が妊娠20週までの妊娠初期に感染した場合は、経胎盤感染して児に白内障、難聴、心疾患などを伴うCRSをきたすリスクがあります。難聴は妊娠6カ月までの感染でも出現し、しかも高度難聴であることが多いとされます。これら三大症状以外に、網膜症、肝脾腫、血小板減少、糖尿病、関節炎、発育遅滞、精神遅滞、小眼球など多岐にわたる症状を伴うこともあります。
【診断・検査】
項頚部を中心とするリンパ節腫脹、皮疹、発熱、眼、口腔内の粘膜症状などから臨床的に判断しますが、似た症状を呈する疾患は多くあるために、地域における感染情報は重要です。また疑ったならば、周囲の発疹のある人との接触、海外旅行、風疹ワクチン接種歴などの問診も重要です。確定診断のためには抗体価測定などの検査を行います。EIA法のIgM抗体価の上昇で判断しますが、偽陽性のこともあり、ペア血清でHI法で4倍以上、EIA法で2倍以上の上昇で確定診断できます。咽頭拭い液、血液、尿をサンプルとしたRT-PCR法による風疹ウイルス遺伝子検出は地方衛生研究所で解析可能です。
【治療】
風疹ウイルスに対する特異的な治療薬はありませんが、一般的に治療を要することは稀であり、安静、カロナールなどの解熱薬などで十分なことがほとんどです。
【鑑別診断】
麻疹、川崎病、しょう紅熱、伝染性単核球症、突発性発疹、薬疹など様々あります。やはり地域の感染情報、三大症状をはじめとした臨床経過が重要となります。
なお最近散発する修飾麻疹との鑑別は特段重要ですが、時に臨床診断はほぼ困難で、抗体価、PCR検査などの確定診断に頼らざるを得ないこともあり誤診例もあります。(麻疹ブログ参照)
【予防と対策】
風疹含有ワクチンの接種が、最も有効な予防方法といえます。2006年から麻疹風疹(MR)混合ワクチンとして、1歳時に第1期、小学校入学前に第2期の定期接種が行われています。これによって95%程度の人が麻疹ウイルス、風疹ウイルスに対する免疫を獲得することができるといわれています。但し、CRSは再感染でも発症することがあるので、妊娠前に女性とその家族のワクチン接種が望ましいとされます。その際、風疹抗体価がHI法で8倍未満、EIA法で8.0未満、CLEIA法で14.0未満が対象となります。なお、妊娠中の女性はワクチン接種は受けられないので、抗体価の低い妊婦は風疹流行時は可能な限り不要不急の外出は避け、特に人混みは避けるようにすることが肝要です。また家族も風疹に罹らないようにする努力が必要です。
【発生状況】
本邦での流行は2~3年の周期を有し、10年ごとに大流行がみられていました。1964~65年に沖縄で大流行があり、この時多数のCRSが発症しました。その後は1976,1982,1987,1992年に大きな流行がありました。1999年以降は次第に発生数は少なくなり散発例程度となってきています。2008年1月から感染症法で5類全数把握疾患に分類されています。また学校感染症法の2種感染症に分類され、発疹が消失するまで出席停止とされています。
但し、近年では2011年から海外で感染し帰国後発症する輸入例が散見され、2012~2013年にかけて大流行があり、累計14344例となり、多数のCRSが報告されました。その後は2018年に関東地方で流行があったものの、それ以降は散発例に留まっていますが、時にワクチン接種を受けず抗体保有率の低い成人男性での流行がみられています(自然免疫を獲得した中高年と2回接種した若年者の谷間世代)。

参考文献

厚生労働省 ホームページ 風しん

国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト 風しん

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋建造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
古村南夫 9 風疹 XVI 感染症 [B]ウイルス pp213

皮膚疾患 最新の治療 2025-2026 編集 高橋建造 佐伯秀久 南江堂 東京 2024
加藤雪彦 9 風疹 XV 感染症 [B]ウイルス pp208

皮膚科臨床アセット 3 ウイルス性皮膚疾患ハンドブック 総編集◎古江増隆 専門編集◎浅田秀夫 2011 東京 中山書店
馬場直子 急性発疹症とウイルス 26 風疹 pp168~173