麻疹(はしか)

*急告
2025.8.1付け 神奈川県保健医療局保険医療部より 日本皮膚科学会東京支部宛 メール
下記情報提供依頼がありました。周知させていただきます。

神奈川県内で麻しんの報告が増加しています。(県衛生研究所HP)
2025年第9週から海外渡航歴のある麻しんの届け出があり、第24週からは、渡航歴のない国内感染例が急増しています。第28週(7月7日~7月13日)は報告はありませんでした。2025年の県内の累計報告数(第1~28週)は39件となりました。以下 略
麻しん患者(疑いを含む)を診察した場合は、直ちに最寄りの保健所にご報告をお願いします。

麻疹(はしか)は古くて新しい疾患です。かつては麻疹は日本国内に蔓延していて、アメリカをはじめ諸外国からは、日本は麻疹輸出国といわれた時期もありました。しかしワクチンの普及によって新規患者数は激減し2017年には絶滅宣言も行われる程となりました。しかしながら海外からウイルスが持ち込まれ、その感染力の強さから、国内での集団感染も散見するなど、まだまだ注意してかからないといけない疾患です。
麻疹はRNAウイルスである麻疹ウイルスによって引き起こされる全身感染症で、発熱、全身性の発疹、咳、鼻水、目の充血など風邪様症状を伴い一度発症すると一生免疫が持続するとされます。
空気感染、飛沫感染、接触感染などで伝染し、その感染力は極めて強く、感染症法の5類感染症に指定されており、全例把握疾患となり、診断した医師はただちに保健所に届ける義務があります。
そもそも麻疹の診断は難しいこと、たまに海外から持ち込まれたりすると集団発生したり、社会的な問題にもなる重要な疾患です。

【症状】
1歳以下と、20~50歳代の成人の発症が多いです。
1)カタル期
10~12日の潜伏期の後、38度前後の発熱、全身倦怠感、全身のリンパ節腫脹、咳、くしゃみ、鼻水、などの風邪様の症状に加えて目の充血、眼脂が出現します。それが3~4日続きます。乳幼児では下痢や腹痛を伴うこともあります。この時期をカタル期と呼び、最も感染力が強くなります。一旦解熱しますが、その際頬粘膜に1㎜程度の中心部に白色で周囲に紅暈を伴う小丘疹(Koplik斑)が数日見られますがすぐに消失します。(Koplik斑は麻疹に特徴的とされますが、風疹、バルボウイルス感染症でも見られることもあり、また修飾麻疹など軽症の場合は認められない場合もあります。)
2)発疹期
解熱後すぐに39~40度の高熱が再出現します(二峰性発熱)。このとき麻疹に特徴的な発疹を生じます。皮疹は耳後部・頸部から始まり、顔面、躯幹、四肢へと急速に拡大します。個疹は爪甲大までの浮腫性紅斑、丘疹で一部は紫色を呈します。融合傾向を示しますが健常部も残存します。これが3~5日続きます。
3)回復期
皮疹は解熱とともに落屑や色素沈着を残しながら消退していきます。7~9日程度。
【合併症】
中耳炎、肺炎、脳炎、クループ症候群、心筋炎等を生じることがあります。患者1000人に1人程度の割合で脳炎を発症するとされ、時に致死的になります。また細菌の二次感染による症状も起こしやすいです。
また10万人に1人程度と頻度は高くはないものの、麻疹感染後、数年から十数年後に亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE)と呼ばれる知能障害や運動障害などが進行した後、数年以内に死に至る中枢神経疾患を発症することもあります。
【診断と検査】
麻疹の診断は、ごく典型例を除いて臨床診断のみでは困難です。急性ウイルス性発疹症や薬疹が鑑別にあがりますが、患者周囲の感染状況、ワクチン接種歴、発熱、発疹など症状の経過などを参考にします。臨床診断で麻疹を疑ったら、速やかに、血液、咽頭ぬぐい液、尿の3点セットを保健所に提出します。PCR法によってウイルス遺伝子を検出します。また平行して麻疹特異的IgM抗体血液検査(EIA法)を行ないます。但し、これは、発症3日以内は偽陰性になり易く、逆にヒトパルボウイルス感染症などでもIgM抗体価が上昇することもありますので、判定には注意が必要です。また急性期と回復期のペア血清で麻疹特異的抗体価の有意な上昇を確認すれば診断はより正確になりますが、急性期診断には役立ちません。
【通知・事務連絡】
感染症法の5類感染症に指定されており、2008年1月から全数把握疾患に指定され届け出義務がある。
医師は臨床症状の3つ(ア、麻疹に特徴的な発疹 イ、発熱 ウ、咳嗽、膿汁、結膜充血などのカタル症状)のすべてを満たした場合は、必要な病原体診断(咽頭拭い液、血液、髄液、尿など)と共に、直ちに最寄りの保健所への届け出が必要である。
(修飾麻疹の場合は必要な臨床症状の1つ以上を満たすもの、とする)
・その結果について、麻疹でないと判断された場合は届け出の取り下げ等を行う。
【治療の一般方針】
麻疹に対する特異的な治療法はなく対症療法が基本で、安静とともに解熱薬投与や補液などを行います。肺炎、中耳炎などの細菌感染症を合併した場合は抗菌薬の投与を行ないます。入院の際は陰圧室の管理が望ましく、対応管理は抗体陽性者を充てる、N95マスクの着用などが必要です。患者と接触したハイリスク者に対しては、接触後72時間以内であればワクチン接種、接触後4日以上6日以内であればヒト免疫グロブリン筋肉注射で発症を予防できる可能性があります。
【発生状況】
平成19・20年(2007、2008年)に10~20代を中心に大きな流行がみられましたが、2008年より5年間中学1年、高校3年年代の人に2回目の麻疹ワクチン接種を施行したことより、10~20代の患者数は激減しました。そして平成27年(2015年)3月WHOより日本は麻疹の排除状態であると認定されました。しかしながらその後も海外からの旅行者を発端とした集団発生はなお発生しており、その伝染力の強さより社会問題にもなっています。
令和2年から令和4年(2020~2022)は新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に伴う国内外の人の往来制限から、年間届け出数は6~10例と大きく減少しました。
その後は、往来制限解除、国外における麻疹流行に伴い、海外からの輸入症例が増えつつあります。また海外渡航歴のない人の発症も散見されます。
【予防と対策】
ワクチン接種(MRワクチン:麻疹、風疹混合ワクチン)による予防が最も重要です。現在、2回の定期接種(1歳児、小学校入学前1年間の幼児)が施行されています。定期接種の機会がなかった人や1回のみのワクチン接種の人で、麻疹にかかるリスクのある人(医療機関、児童福祉施設、学校などの職員、流行国に渡航の予定の人など)は2回目の予防接種が推奨されます。但し、生ワクチンであるために、妊婦、免疫不全の人などは接種はできません。

*修飾麻疹・・・麻疹に対する免疫は有するものの不十分な人が麻疹に感染した場合、軽症で非典型的な麻疹を発症することがあり、このような場合を修飾麻疹と呼びます。例えば、潜伏期が長い、高熱が出ない、発熱期間が短い、コプリック斑が出ない、発疹が四肢のみで全身に出ないなどで、風疹など他のウイルス性発疹症や薬疹、中毒疹などと誤診されることもあります。しかしながら、感染力は弱いものの周囲の人への感染源になりますので、注意が必要です。最近は麻疹ワクチン既接種者がその後麻疹ウイルスに暴露せず、ブースター効果(免疫増強効果)が得られないままに抗体価が減弱して麻疹に罹患するケースが増えてきました。
このようなケースをsecondaray vaccine failure(SVF)と呼びます。これに対し、麻疹の生ワクチンを接種しても十分な免疫が得られない場合をprimariy vaccine failure(PVF)と呼びます。

*異型麻疹・・・本邦では1966年から麻疹予防に不活化ワクチンと弱毒生ワクチンが用いられてきました。この不活化ワクチンを接種された人が後に麻疹に感染すると、通常の麻疹と異なる症状を呈することがあります。カタル症状は軽度でコプリック斑も見られず、頭痛、関節痛、高熱を発し、四肢末端から体幹へと拡大する皮疹、さらに大葉性肺炎などを生じます。皮疹は紅斑、丘疹、紫斑、水疱など多彩な皮疹が混在します。麻疹ウイルス抗体価は著しく上昇します。このために1971年以降は不活化ワクチンは中止となり、弱毒生ワクチン単独となりました。異型麻疹は1971年以前にワクチン接種をした成人にみられました。現在ではみられません。しかしながら現在でも非典型的な麻疹例の報告は散見されます。

参考文献

厚生労働省 ホームページ 麻しん

国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト 麻しん

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋建造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
木村有太子 8 麻疹 XVI 感染症 [B]ウイルス pp212

皮膚疾患 最新の治療 2025-2026 編集 高橋建造 佐伯秀久 南江堂 東京 2024
仁木真理子 8 麻疹 XV 感染症 [B]ウイルス pp207

皮膚科臨床アセット 3 ウイルス性皮膚疾患ハンドブック 総編集◎古江増隆 専門編集◎浅田秀夫 2011 東京 中山書店
日野治子 急性発疹症とウイルス 25 麻疹 pp163-167

Koplik斑

麻疹 紅斑