帯状疱疹(herpes zoster:HZ)は、水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の再活性化で発症する皮膚疾患です。VZVは初感染では水痘(水ぼうそう)を生じます。その後、生涯にわたって脊髄後根神経節(知覚神経節)、脳神経節に潜伏感染します。そのVZVが、加齢、疲労、ストレス、悪性腫瘍、免疫抑制状態などをきっかけとして再活性化してHZを引き起こします。これには、vzvに対する特異的な細胞性免疫が関与するとされています。水痘に罹ったことのある人の約10~30%が生涯に一度は帯状疱疹を発症します。50歳以上では細胞性免疫が低下し、発症頻度が高くなり、80歳までに3人に1人が、また85歳では約半数が発症するとされています。
一般的にはHZは高齢者の疾患ですが、1歳未満で水痘に罹患した場合は、小児期のHZ発症に関与する事が指摘されています。また妊娠中に妊婦が水痘を発症すると経胎盤経路で胎児がVZVに感染することがあり、生後水痘の罹患歴が無くても、乳幼児期にHZを発症することもあります。
【症状】
HZの特徴は、片側性の神経支配領域(デルマトーム)に、疼痛を伴う集簇した丘疹、水疱を形成することです。通常は片惻性で中心線を跨ぎませんが、時に重症例では、播種性(汎発性)帯状疱疹となり、全身に水痘様の発疹をきたすこともあります。
通常、痒み、痛みが皮疹出現2-3日前から、時には1週間以上前から出現します。新規の皮疹は3~5日間続き、痂皮化には10~15日間かかり、皮膚が色素沈着など正常に戻るまでには1ヶ月程度を要します。稀に神経痛のみで皮疹が出現しない、無疱疹性帯状疱疹(zoster sine herpete)も存在します。第3胸髄〜第2腰髄(T3~L2)レベルの神経支配領域の頻度が高いとされています。
疼痛の消失には4〜6週間程度を要します。この急性期の疼痛は組織の損傷による侵害受容性疼痛に分類されますが、一部(5〜10%)では、3ヶ月以上の長期に亘って疼痛が続く場合もあります。これは前記とは発症機序が異なり、帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia:PHN)と呼び、治療に難渋することがあります。これらを合わせて帯状疱疹関連疼痛と呼びます。
【合併症】
・皮膚細菌性二次感染・・・溶連菌、ブドウ球菌
・PHN・・・「焼けるような」「締め付けられるような」持続性の痛みが3か月以上に亘って続く場合をいいます。触っただけでも強い痛みを訴えることがあり、アロディニアと呼ばれます。加齢、発症時の疼痛がリスク因子とされます。疼痛は数年にわたる場合もありますが、時間の経過とともに減少していきます。
・眼合併症・・・角膜炎、上強膜炎、虹彩炎、結膜炎、ブドウ膜炎、急性網膜壊死、視神経炎、緑内障
三叉神経の第1枝:顔神経は眼合併症を伴うことが多く1~4%に見られます。、稀に失明に到ることもあります。鼻尖部、鼻背部に皮疹を認めた場合は眼合併症を伴うことが多いために早期に眼科専門医を受診することが求められます。
・無菌性髄膜炎・・・中枢神経合併症としては最も多く、脳炎は比較的稀です。
・血管炎(脳炎)・・・脳脊髄炎、髄膜炎の多くは血管炎を伴います。脳梗塞と一過性脳虚血性発作(TIA)を起こすこともあります。低頻度ながら動脈瘤や脳出血、動脈解離などを起こすこともあります。
・Bell麻痺・・・末梢性顔面神経麻痺で多くの場合HSV(herpes simplex virus)の再活性化が関与するとされていますが、一部VZVが関与するともいわれています。Bell麻痺の予後は比較的に良く、多くの例が完全回復します。Ramsay Hunt症候群の顔面神経麻痺ははBell麻痺と比べてより重症であり、後遺症を残し易いとされています。ウイルス学的検討ではBell麻痺の中には皮疹のないRamsay Hunt症候群が少なからず存在するとされています。
・Ramsay Hunt症候群・・・顔面神経(第7脳神経)膝神経節領域のHZにより、耳介、外耳道のHZに加えて、片側の末梢性顔面神経麻痺、聴神経症状(聴力低下、めまいなど)を伴う場合をいいます。舌前2/3領域に水疱を認める場合もあります。
・聴覚障害
・運動神経炎・・・顔面神経麻痺、横隔膜麻痺、上下肢の麻痺、尿閉、排尿麻痺、排便障害がみられることがあります。
・横断性脊髄炎・・・VZVの脊髄への直接感染によって急性期に生じる場合と、慢性期に発症する場合があります。HIV感染、免疫抑制状態では痙性麻痺を起こして致命的になる場合もあります。
・内臓播種性VZV感染症・・・白血病、造血幹細胞移植、悪性腫瘍、ネフローゼ症候群、膠原病など免疫不全状態では体内臓器に感染が及び、播種状に拡大し致命的になる場合があります。
【感染性】
水痘の場合と比べると低いものの、家族内感染の割合は約20%といわれています。一般的に接触感染とされていますが、顔面、播種状VZVなどでは空気感染もありうるとのことです。従って病変部が乾燥・痂皮化するまでは妊娠中の女性、乳幼児、免疫不全の人との接触は避けるべきとされています。
【鑑別疾患】
一般的に特徴的な臨床症状から診断は比較的容易です。しかし中には単純ヘルペス、接触皮膚炎、虫刺症、丹毒などとの鑑別が困難な場合もあります。その際はウイルス学的な検査を要する場合もあります。
【検査法】
1)ウイルス分離・DNA検出・・・水疱内容物を検体とします。PCR法、LAMP法などが用いられます。近年VZV患者の唾液中にもVZVのDNAが検出されることが明らかになってきました。
2)ウイルス抗原検出・・・FITC標識モノクローナル抗体を用いた直接蛍光抗体法はHSVと区別してVZVを検出できます。但し、上記PCR法と比べると感度は落ちます。
水疱擦過物スメア(Tzanck smear)の染色標本で多核巨細胞を検出する方法(Tzanck test)でウイルス感染症を検出でします。しかし、この方法では単純ヘルペス(herpes simplex virus:HSV)とVZVとの鑑別はできません。また尋常性天疱瘡との鑑別も必要となります。
2018年に、より迅速簡便な検出法であるイムノクロマト法を用いたVZV抗原検出キットが市販され、保険適用されています。またHSV抗原キットも市販され、実臨床の現場で活用されています。
3)血清学的検査・・・抗体価の測定による検査法も診断の一助となります。発症初期のIgM抗体の有意な上昇、IgG抗体の推移などは判断の役にたちますが、既感染でも陽性となりますので、ペア血清での推移が重要であり、結果の判断は慎重にすべきです。
4)細胞性免疫検査・・・HZの発症にはVZVに対する細胞性免疫が重要な役割を果たしています。それを評価する方法としては、インターフェロンγ(IFN-γ)を測定する方法、ELISPOT法が用いられています。また本邦では水痘皮内抗原を用いた皮内テストが活用されています。接種24~48時間後に出現する発赤が径5mm以上であれば陽性と判定されます。高齢者、免疫不全ではこれが低下します。
【治療】
1)抗ウイルス薬
ウイルス由来のチミジンリン酸化酵素でリン酸化されることにより抗ウイルス活性を発揮する核酸アナログ製剤【アシクロビル:ゾビラックス、バラシクロビル:バルトレックス(アシクロビルのプロドラッグ)、ファムシクロビル:ファムビル(ペンシクロビルのプロドラッグ)、ビダラビン:アラセナ】に加え近年(2017年)開発されたプライマーゼ複合体阻害薬(アメナビル:アメナリーフ)があります。一般的に軽症から中等症では外来での内服薬治療を行います。しかしながら重症例や合併症を伴う例、免疫低下を伴う例などでは入院して点滴治療を考慮します。
核酸アナログ製剤は通常成人には、アシクロビル:ゾビラックス(800mg/回、1日5回経口投与、7日間)、バラシクロビル:バルトレックス(1000mg/回、1日3回経口投与、7日間)、ファムシクロビル:ファムビル(500mg/回、1日3回経口投与、7日間)で治療します。核酸アナログ製剤では吸収効率のよいプロドラッグが望ましいです。また同製剤は腎排出性のため、クレアチニンクレアランスに応じた減量を行わないと急性腎障害や脳症といった副作用を引き起こす恐れがありますので特に腎機能の低下した高齢者などでは注意が必要です。
小児に対しては体重当たりの相当量を投与します。
アメナビルは、ヘリカーゼ/プライマー複合体の酵素活性を阻害することにより、二本鎖DNAの巻き戻し及びRNAプライマーの合成を抑制し、抗ウイルス作用を示します。(200mg1回2錠、1日1回投与)。アメナビルは主に糞便中に排泄され、腎障害が無く腎機能の低下した高齢者にも使い易い薬剤ですが、CYP3Aで代謝されるために、それを誘導するリファンピシン(抗結核薬)との併用は禁忌です。なお小児は服用対象とはなっていません。
抗ウイルス薬によってウイルス排出期間の短縮、新規皮疹抑制、治癒促進が見られます。また疼痛期間の短縮、重症度の軽減にも役立つことが実証されています。ただ、治療効果を高めるためには、できるだけ早期の投与開始が必要で皮疹出現後72時間以内が望ましく、遅くとも5日以内に開始することが必要です。PHNは知覚神経の損傷によって引き起こされることから、発症リスクが高い場合はより早期に抗ウイルス薬の投与が肝要となります。
重症帯状疱疹に対しては、入院の上、アシクロビル、ビダラビン:アラセナAの点滴静注療法が行われます。通常、成人にはアシクロビル1回体重1㎏あたり5mgを1日3回、8時間ごとに1時間以上かけて7日間点滴静注します。脳炎・髄膜炎などの最重症例に対しては期間延長・増量しますが、上限は1㎏あたり10mgまでです。またアラセナAは1回5~10mg/kg、1日1回点滴静注を2~4時間かけて5日間投与します。
2)補助療法
・コルチコステロイドの経口投与
抗ウイルス薬と併用して投与すると症状の低減効果があるとされますが、高齢者や糖尿病患者に対してはより慎重さが必要です。
・鎮痛剤投与
初期からアセトアミノフェンや非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)を投与します。NSAIDsは胃潰瘍などの副作用があり慎重に投与擦ろことが必要です。
・三環系抗うつ薬
PHNの軽減効果のあるものもあります。
・タリージェ、リリカ、トラムセット、ノイロトロピンなどが用いられています。タリージェ、リリカは眠気、ふらつきなどを伴いますので徐々に増量し、高齢者などは転倒に注意が必要です。トラムセットは強い鎮痛効果がありますが、吐き気、嘔吐、眠気、便秘、めまいなどの副作用がありますから少量から徐々に増量します。
・神経ブロック
急性期から睡眠障害などの強い疼痛を訴える例では、早期からペインクリニックでの神経ブロックを考慮します。PHNを軽減する効果は得られますが、薬物療法の補助的療法と位置付けられます。
3)外用療法
抗ウイルス薬、鎮痛外用薬の直接の効果のエビデンスはないので、これらは原則使用しません。患部にびらん、潰瘍がある際は白色ワセリンや抗菌外用剤を補助的に使用することもあります。
4)ワクチンによる予防
生ワクチンとサブユニットワクチンの2種類があります。
基本的に50歳以上が対象ですが、サブユニットワクチンは高リスクと考えられる18歳以上も対象となります。
65歳以上は2025年4月より定期接種の対象となりました。(詳細は前のブログ参照)

三叉神経第1枝、眼神経では眼合併症を伴うことがあります

四肢の帯状疱疹では運動神経麻痺を伴うことがあります

イムノクロマトグラフィーによるVZV抗原迅速検出キット(デルマクイックVZV)
5~15分程で検査結果が完了します
参考文献
帯状疱疹ワクチンファクトシート 第2版 令和6(2024)年6月20日改訂 国立感染症研究所
皮膚疾患 最新の治療 2025-2026 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2024
渡辺大輔 XV 感染症 [B]ウイルス 3 帯状疱疹 pp200-201