帯状疱疹ワクチンについては、国の定期接種も始まり、自治体広報、マスコミ、SNS他各方面で報道、周知されていることもあり、今更ブログにアップする話題でもないかとも思いますが、患者さんに時々質問を受けることもありますので、現状を書いてみたいと思います。
過去にアップした記事も参考にして下さい。内容はなるべく重複を避けたいとは思いますが、繰り返しになる部分も多くあります。ご容赦下さい。
今回の内容は主に 「帯状疱疹ワクチンファクトシート 第2版 国立感染症研究所(2024年6月20日改訂)」の資料を元にしました。
【帯状疱疹ワクチンの種類】
1)乾燥弱毒性水痘ワクチン
a.ビケン 阪大微生物研究会(阪大微研) 1974年大阪大学の高橋先生らにより開発されました。Oka株は患者さんの名前より取られたものです。水痘患児より、分離、継代された弱毒株です。1986年に水痘ワクチンとして国内製造販売承認をうけ、2004年に細胞性免疫の増強が認められることが添付文書に明記されました。またOka株を元に作成されたZOSTAVAXが多くの国で販売されていること、国内の臨床治験を受けて2016年3月から50歳以上の人に対する帯状疱疹の予防効果が効能として追加されました。ビケンワクチンは含まれるウイルス力価はZOSTAVAXと同程度とされています。
b. ZOSTAVAX Oka株を元にして、Merck社が開発した乾燥弱毒水痘ワクチンです。2006年に帯状疱疹及びPHN(post herpetic neuralgia)を予防する帯状疱疹ワクチンとして米国で製造販売承認されました。これは多くの国(60か国以上)で承認販売されています。
2)乾燥組み換え帯状疱疹ワクチン
グラクソ・スミスクライン(GSK)社が作成した帯状疱疹ワクチン(販売名;シングリックス筋注)でVZV(Varicella Zoster Virus)ウイルス粒子の表面たんぱく質の一つであるglycoprotein E(gE)とアジュバントASO1Bを組み合わせ、強い細胞性および液性免疫を誘導するように設計・開発された組換えサブユニットワクチンです。2018年3月、50歳以上の人に対する帯状疱疹の予防ワクチンとして製造販売承認されました。通常2か月間隔で2回筋注します。また帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる免疫抑制状態にある18歳以上のハイリスク患者へも適用が拡大されました。
2020年11月以降米国ではZOSTAVAXは使われなくなり、シングリックスのみが定期接種に使用されています。その後順次カナダ、オーストラリア、英国、ドイツなどもシングリックスに一本化されました。欧米をはじめ多くの国でその流れが進んでいるようです。
3)開発中のワクチン
生ワクチンのウイルス株を熱処理により不活化した不活化帯状疱疹ワクチンの研究開発が進行中とのことです。
【帯状疱疹の疫学】
帯状疱疹の発生には、先行して水痘帯状疱疹ウイルスの感染(水痘)を伴いますが、国内では2014年10月に水痘ワクチンの定期接種が導入されたことにより、小児の水痘患者数の減少が顕著にみられるようになりました。定点報告で、2000年から2011年では定点当たり平均81.4人/年でしたが、2015年では24.7人/年、2020年では10.6人/年にまで減少しました。
1)宮崎スタディにおいては、1997年以降の宮崎県下の皮膚科46施設を受診した患者の中での帯状疱疹患者割合を追跡しました。
1997~2006年代では、10歳代で小さなピークがあり、50歳代で急上昇し、70歳代で最も大きなピークがみられました。しかし2016年以降は10歳代のピークは見られず、50歳代から70歳代まで一貫して頻度が上昇していました。80 歳までに3人に1人が帯状疱疹を経験すると推定されます。
2)SHEZスタディは2009年から2012年にかけて香川県小豆島に住む50歳以上の人を対象とした研究です。帯状疱疹の罹患率は10.9/千人・年でした。罹患率は70歳代で最も高く(12.9)、次いで80歳代(12.6)でした。50歳代は9.2でした。また女性の罹患率が有意に高いでした。この研究では過去10年未満の帯状疱疹の既往は帯状疱疹の発症を減少させる可能性を示唆していました。
国内においては、2014年水痘ワクチンの定期接種導入によって、顕著な水痘患者発生数の減少があり、周辺の家族、大人がVZVに暴露して細胞性免疫を高めるいわゆるブースター効果が減少することによって帯状疱疹患者数の増加傾向がみられています。国内では90%以上の人がVZVに既感染で帯状疱疹の発症リスクを有しています。帯状疱疹と水痘の流行との関係については、宮崎スタディでは、水痘が冬に増加し、夏に減少するのに対して、帯状疱疹はその逆であたかも鏡像の関係にあるとされましたが、海外では季節的な変動はないとの報告もあります。
3)海外での疫学
多くの国での疫学データが報告されています。共通することは、年齢とともに罹患率が上昇すること、特に50歳代以上では顕著です。また一貫して女性の方が男性よりも罹患率が多い傾向があります。
【ワクチン接種の医療経済的観点】
帯状疱疹の疾病負荷の推計、ワクチン接種の有効性、安全性とともに費用対効果について試算がなされました。その結果、生ワクチン・組換えワクチンのいずれか一方は費用対効果が良好とされ、両方とも定期予防接種に用いてよいとされました。ただし、分析に用いたシナリオ、パラメーターによる違いはあるものの、若年者では組換えワクチンが、また高齢者では生ワクチンの方が費用対効果に優れる傾向がみられました。
【帯状疱疹ワクチン接種の概要】
2025年度から、65歳以上などの方などへの帯状疱疹ワクチンの予防接種が定期接種の対象になりました。
厚生労働省のホームページに接種の対象者、使用するワクチンのスケジュール、ワクチンの効果、安全性などの記事が書かれています。
またGSK(グラクソ・スミスクライン)や「ビケン」のホームページにも帯状疱疹ワクチンの種類、定期接種、自治体からの費用補助、などについての詳細な解説がありますので、それらを参照して下さい。自治体によって費用補助は異なり注意が必要です。
ここでは、2種類のワクチン、1)生ワクチン「ビケン」、2)組換えワクチン「シングリックス」について、その接種の概要、特徴、違いなどを簡単に説明したいと思います。
●一般での対象者
1)50歳以上の方
2)50歳以上の方または帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる18歳以上の方
1) 明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する人(先天性および後天性免疫不全状態の人:急性および慢性白血病、リンパ腫、骨髄やリンパ系に影響を与えるその他疾患、HIV感染またはAIDSによる免疫抑制状態、細胞性免疫不全など)および薬剤などによる治療を受けており、明らかに免疫抑制状態にある人は接種不能です。妊娠中の方も不能です。
●定期接種対象者
・65歳を迎える方
・60~64歳で対象となる方(*1)
・2025年度から2029年度までの5年間の経過措置として、その年度内に70,75,80,85,90,95,100歳(*2)となる方も対象となります。
*1:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
*2:100歳以上の方については、2025年度に限り全員対象となります。
上記以外でも基礎疾患、アレルギー、発熱状態の人などは接種を受けられない場合があります。(医師が判断する)
2025年4月から国による定期接種事業が始まりましたが、その対象者、国、自治体からの費用補助などは上記ホームページ、お住いの各自治体等でご確認下さい。
●使用するワクチンとそのスケジュール
1)皮下に1回接種します。
2)2か月以上の間隔をあけて2回筋肉内に接種します。(通常上腕の三角筋中央部に0.5mlを皮膚面に垂直に筋注)
●ワクチンの予防効果
1)接種後1年時点 6割程度 接種後5年時点 4割程度 接種後 10年時点 無し
2)接種後1年時点 9割以上 接種後5年時点 9割程度 接種後 10年時点 7割程度
●ワクチンの安全性
1)発赤(30%以上)、そう痒感、熱感、腫脹、疼痛、硬結(10%以上)、発疹、倦怠感(1%以上)、アナフィラキシー、血小板減少性紫斑病、無菌性髄膜炎(頻度不明)
2)疼痛(70%以上)、発赤、筋肉痛、疲労(30%以上)、頭痛、腫脹、悪寒、発熱、胃腸症状(10%以上)、そう痒感、倦怠感、その他の疼痛(1%以上)、ショック、アナフィラキシー(頻度不明)
●他のワクチン接種との間隔
1)他の生ワクチン接種との間隔は27日空ける必要性があります。それ以外のワクチンとの接種間隔の制限はありません。医師に相談のこと。
2)他のワクチンとの接種間隔の制限はありません。医師に相談のこと。
●どちらのワクチン接種がよいか
それぞれ接種回数、接種方法、接種条件、接種対象者、効果と持続期間、副作用、接種料金などが異なっています。お住まいの自治体、医師などに相談して決定するとよいでしょう。
●認知症に対する予防効果はあるか
2025年4月に科学雑誌Natureに帯状疱疹ワクチンによって認知症の発生への予防効果(20%低下)が期待できるという論文が掲載されました。使用したワクチンは弱毒生ワクチンです。厚生労働省など公的な機関やGSK,ビケンなどでは効能・効果として正式に取り上げていないので実証はこれからの課題でしょうが、今後の動向が気になる話題ではあります。各医療機関などが個別にこの記事を取り上げて書いていますが、「一之江駅前ひまわり医院(内科・皮膚科)」(伊藤大介先生)のホームページに書かれた記事は詳細に論文を紹介して、分かり易く解説してありましたのでチェックしてみるといいかと思われました。
【定期接種に係る課題】
2025年4月から国の定期接種が始まりました。これは2029年度までの経過措置です。2018年頃から帯状疱疹ワクチン接種を公費助成する自治体が現れました。しかし定期接種に伴い、この助成がどうなっていくかが注目されます。自治体の助成は50歳からのところが多いですが、国の定期接種は65歳からとなっています。そのためこの年齢になるまでのワクチンの接種控えが起きる可能性があります。一方、水痘罹患率の激減によって大人がVZVに暴露され、免疫活性化を受ける、いわゆるブースター効果が減少し、50歳代からの免疫低下も相まって帯状疱疹患者が増える危惧もあります。
ちなみに助成金がなければ、ビケン生ワクチン 1回 7000≁10000円程度、 不活化ワクチン「シングリックス」 40000~60000円程度(2回接種の合計)
将来的に国の定期接種時期、助成をどうするかが課題となります。
参考文献
帯状疱疹ワクチンファクトシート 第2版 国立感染症研究所(2024年6月20日改訂)
渡辺大輔 帯状疱疹ワクチンの定期接種化に向けての動向 臨床皮膚科 79巻5号 2025年増刊号:177-180