ブイタマークリームという外用薬が発売になりました。
AhR調節薬でアトピー性皮膚炎と乾癬に効くとのこと、そして非ステロイド薬とのことです。
そもそもAhR調節薬など聞き慣れない言葉ですが、自分的には随分以前(2000年代の初め頃)に敬愛する九州大学皮膚科教授の古江先生(同郷出身ということもあり)の講演を聞いたのが初めてでした。
(2018.6.18「アトピー性皮膚炎と大気汚染」参照)。
多分その頃は殆どの皮膚科医が興味を示さなかったと思います。九州ではかつてカネミ油症事件というのがあって社会問題になりました。油にダイオキシンという有害物質が混入して多くの油症の患者さんを生んでしまったのでした。九州大学皮膚科では、その病因の解明に取り組みました。その後連綿と研究は続けられましたが、後を継いだ古江教授はダイオキシンの研究を続けられました。特にAhRの分野に絞って。しかしその頃は全くピンとこずに先生もまたダイオキシンがらみの随分とニッチな研究をしているもんだ、ぐらいにしか思っていませんでした。
時は流れ、TAMA(Therapeutic AhR-Modulating Agent)が脚光を浴びる時代となりました。
近年、アトピー性皮膚炎と乾癬の病態、免疫学的な機序の解明は長足の進歩を遂げてきました。とりわけ生物学的製剤の著効性は基礎的な免疫学の機序が実際の臨床にも応用、合致することによってより確固としたものとなってきています。すなわち乾癬においては炎症性サイトカインの中でIL23,IL17軸、アトピー性皮膚炎においてはIL4,IL13を中心とした2型炎症が中心的な役割を果たしていることが解ってきました。そしてこれらの多くのサイトカインは炎症性シグナルであるJAK-STAT経路の活性化を制御してその有効性を著しており、JAK阻害薬も開発されています。しかし、アトピー性皮膚炎や乾癬ではJAKの活性化に依存しない炎症性シグナルを機序とする薬剤も存在しています。例えば、ステロイド、タクロリムス、シクロスポリン、PDE4阻害薬(アプレミラスト)などはその1例です。今回新たに登場したブイタマー(タピナロフ)クリームもAhRを活性化、調節することによってその効果を発揮するという従来の薬剤とは異なった機序の薬剤です。
では、AhRとはどういったものか。基礎的なことは難しくよく判りませんが、次のように解説されています。
芳香族炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor: AhR)はダイオキシンの受容体と想定されていましたが、1992年にクローニングされ、リガンドが結合して活性化する転写因子であることが明らかにされました。
リガンドとは・・・特定の受容体(レセプター)に特異的に結合する分子のことで、ホルモン、神経伝達因子、薬物など種々の分子が該当する。
その後2008年にはAhRがリガンドに応じてナイーブT細胞から制御性T細胞(Treg細胞)とTh17細胞への分化を調節する役割を担っていることが報告され、これ以降免疫や炎症の観点から一気にAhRの研究が発展していきました。
AhRには大きく分けて、皮膚炎を増悪させるタイプと抑制するタイプがあります。前者の代表はダイオキシンで大気汚染物質、ベンゾピレンなどがあります。
後者のAhRリガンドが、今回のブイタマーも含まれるもので、コールタール、大豆由来タール(脱脂大豆乾留タール)、ケンフェロール(フラボノイド)などです。ブイタマーは洋名ではタピナロフといい、治療用AhR調節薬、Therapeutic AhR-Modulating Agent(TAMA) と呼ばれます。
この両者のAhR活性化物質が異なる生体反応を引き起こす仕組みについてはまだ解明されておらず、これからの研究課題とのことです。
ともあれ、タピナロフについては細胞内でAhRと結合し、核内に移行して、遺伝子発現して種々の薬理作用を発揮します。
・Th2サイトカインの抑制(IL-4) ➡アトピー性皮膚炎における炎症↓
・Th17サイトカインの抑制(IL-17A,IL-17F) ➡尋常性乾癬における炎症↓
・Nrf2経路の抗酸化分子の活性化 ➡酸化ストレス↓
・フィラグリン、ロリクリン、インボルクリン、ホルネリンの活性化 ➡皮膚バリア機能↑
実際の臨床効果はどうでしょうか。発売になったのが、2024年(2024年6月承認、10月発売開始)ですから、それ程の期間が経過しているわけではありません。しかし、最近各所でブイタマークリームの使用経験の講演会が開催されています。それらを見聞きすると、以下のような情報がみられます。
【用法及び用量】
アトピー性皮膚炎には成人及び12歳以上の小児に対して1日1回、適量を患部に塗布する。8週間以内に症状の改善が認められない場合は中止すること。
尋常性乾癬には成人に対して1日1回、適量を患部に塗布する。12週間以内に症状の改善が認められない場合は中止すること。
【患者背景など】
・皮膚感染症を伴うとき。感染部位を避けて使用する。あらかじめ感染症治療薬を併用して行うこと。
・妊婦、授乳婦は治療上の有益性が危険性を上回ると判断される際に使用すること。
・小児に対しては臨床試験は実地していないので、用法通りに使用すること。
【副作用】
毛包炎、頭痛、接触皮膚炎、ざ瘡、刺激感など
タピナロフクリームの臨床試験では、アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)、乾癬(psoriasis vulgaris:PV)ともに高い有効性が示されています。しかしその効果発現は、比較的緩徐で8~12週で徐々に効果が現れ、24週、さらに52週と効果は上昇していく傾向がみられます。
講演会での講師の先生方の印象もそのようです。小生のわずかながらの使用経験もなかなか良い感触があります。しかしながら、刺激感、かぶれ?、効果が感じられないという患者さんも見られます。講演会などでの先生方の意見、感触を列記してみます。
・ADに対してはEASI75達成率は16週で53.3%、24週で63.7%、52週で76.6%と経時的に有効性が上昇した。
・ADに対してはかゆみに対しても症状と共に長期的に改善する傾向を示した。
・ADに対する副作用として多いものは、毛包炎、ざ瘡、頭痛があげられる。
・PVではPASI75達成率は12週では50.4%、24週では77.5%、52週では79.9%と経時的に有効性が上昇した。
・PVに対し、海外データではかゆみを改善し、PGA スコア0を達成した患者の寛解期間が平均130.1日と長期であり、この薬剤が皮疹の再燃を抑制する効果がある可能性を示唆した。
・PVに対する副作用では接触皮膚炎の頻度が高い。
・この薬剤はクリームで伸びるので患部にやさしく塗布するのがコツであるが、擦りこんで塗布すると刺激、接触皮膚炎が多くみられるようである。
・頭痛については、前もって周知しておけば、自制可のことが多い。ただその発症機序についてはよくわかっていない。
・毛包炎・ざ瘡の発症機序についてもよくわかっていない。ダイオキシンでも生じるような瘢痕、色素沈着は残さないし、基礎研究でも塩素ざ瘡でみられるような脂腺細胞の萎縮や消失はみられず異なる機序が想定される。
・接触皮膚炎部位の乾癬病変が改善し、さらに塗布を続けていき、皮膚炎も改善したケースもある。
・塗布部以外の部位に皮膚炎がみられることもある。
アトランダムに講師の先生方のコメントを書きましたが、、まだ使用経験の浅い薬剤なのでこれから実地臨床研究が積み重なっていくものと思われます。
そして非ステロイド系の外用剤で原則使用部位、量の制限もない薬剤なので、これからの実地診療に期待がもてる薬剤です。ただ薬価が高い(300.8円/g 1本15g包装)のが難点ですが。
参考文献
辻 学 乾癬とアトピー性皮膚炎に対するタピナロフクリームによる外用治療 臨床皮膚科 79巻5号 101-105,2025年増刊号