汗孔角化症

四肢、顔面時に外陰部に円形から楕円形の環状隆起を示す角化性堤防状皮疹を認めます。但し、体幹部などにもみられることもあります。中央部皮膚は萎縮性でわずかに陥凹し、黒褐色丘疹として始まり、次第に遠心性に拡大し、自覚症はないか、軽度の痒みがあります。単発することも多発することもあり、その形状、数などによって臨床的に数種類に分類されますが、根本的な差異についてはあまりないとの考えもあります。
臨床分類
1)古典型 Mibelli型: 四肢、体幹、時に顔面に皮疹が散在する型。掌蹠では点状角化。口唇、口腔、亀頭にも生じます。幼少時より生じ、単発または数個です。
2)限局型: 限局性に少数個を生じます。臀部、下肢に好発します。時に5㎝以上の単発巨大な皮疹を呈する場合もあります。
3)線状型; 生下時から幼少期に生じます。下肢に好発します。線状ないし帯状に生じますが、時に融合して局面を形成します。
4)表在播種型; 全身に播種状に生じます。融合して巨大な局面を形成することもあります。
5)日光表在播種型: 30歳以降の成人の日光露光部に比較的小型の皮疹が播種状に多発します。紫外線によって誘発されるものと考えられています。
6)掌蹠播種型:掌蹠に播種状に多発する小角化性丘疹を認めます。

時に(約10%)が有棘細胞癌、ボーエン病、基底細胞癌などの悪性腫瘍を続発します。日光、放射線、外傷などの刺激、熱傷などが誘因になり得ます。表在播種型(29%)、限局型(20%)、線状型(17%)などは高率に悪性腫瘍を発症するとされます。
 このように汗孔角化症は高発癌性遺伝性疾患といえます。
 病理組織所見では辺縁隆起部に表皮肥厚、角質増生があり、その間に周囲角層より明るい不全角化円柱(cornoid lamella)が介在します。その下の顆粒層は欠落し、核濃縮、核周囲浮腫、好酸性原形質などの角化異常がみられます。また真皮にはリンパ球浸潤を認めます。皮疹辺縁部をマーカーペンで塗りつぶし、アルコールで拭き取ると、皮疹辺縁部から中央に向かって斜めに聳えるcornoid lamellaの部分にたまったインクが残りダーモスコピーなどで可視化できるそうです。
 治療は最も確実なのは外科的に切除する方法ですが、多発性の場合などは適用できません。その際にはビタミンD3、サリチル酸ワセリン、イミキモド、ステロイドの外用などを行いますが効果は不定です。またエトレチネートの内服療法も古くから行われてきていますが、催奇形性などの副作用に注意が必要です。
 近年はレーザー療法も試みられています。

 汗孔角化症の原因については近年神戸大学、久保らの精力的な研究成果があります。すなわち、同症はメバロン酸経路の膜貫通蛋白をコードする遺伝子(MVK, PMVK, MVD, FDPS)とSLC17A9の遺伝子変異がみつかっています。遺伝例は常染色体顕性(優性)遺伝で限局的に異常角化をきたす表皮クローンが存在し、前記の生後様々な誘因によるセカンドヒットによって発症することが示されました。(原因遺伝子の1つが生まれつき欠失していても、もう一つの相同遺伝子が働いているために汗孔角化症を発症しまっせん。ちなみにこれらの遺伝子異常は日本人では400人に一人が持っているとされそれ程稀れな頻度ではありません。)
 また昨年(2024年)、前記原因の他に胎生期に生じたエピゲノム異常により(DNA変異はない)遺伝子の働きのスイッチがオフになり、遺伝子FDFT1の発現が消失した皮膚に強い炎症と過角化をともなう汗孔角化症の病変が生じることが発見されました。またこの皮疹はスタチン外用治療により軽快しました。
 久保らは胎生期に生じたエピゲノム異常によって生じる皮膚病を初めて発見しました。同じ仕組みで起こる病気としては他に、大腸がんを引き起こすリンチ症候群が知られている程度です。

参考文献

皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 15章 角化症 3 その他の角化症 5.汗孔角化症 pp360

皮膚疾患 最新の治療 2025-2026 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2024
多田弥生 XVII 腫瘍性疾患 A 上皮性腫瘍 8 汗孔角化症 pp243

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
伊藤明子 XVII 腫瘍性疾患 A 上皮性腫瘍 9 汗孔角化症 pp245

皮膚病の要因となるエピゲノム異常を初めて発見ー汗孔角化症の新しい発症メカニズムと原因遺伝子を解明ー
久保亮治、中林一彦、齋藤苑子 ほか 神戸大学、慶應義塾大学、国立成育医療センター Press Release 2024年4月17日