掌蹠角化症は掌蹠を中心に紅斑や過角化を呈する疾患群です。遺伝性、先天性のタイプは掌蹠皮膚に発現する各種の関連遺伝子の変異により角質増生を生じます。皮膚症状以外に種々の他臓器の随伴症状(難聴、歯周炎、心筋症、易発がん性、外胚葉形成不全など)を伴う場合は症候性掌蹠角化症(掌蹠角化症症候群)と呼びます。
掌蹠角化症は遺伝性であり、手掌と足底に高度な過角化が生じます。これまで臨床像、病理所見、遺伝形式により分類されてきました。しかしそれらのみでは最終診断を決定することは困難な場合も多く、現在では遺伝子変異は大多数の疾患において同定されていますので遺伝子変異の同定が必要となることが多いです。
しかし、実臨床において掌蹠角化症の病型診断アルゴリズムが作成されています。
まず掌蹠の皮疹の分布パターンから3型に分類します。すなわち(1)びまん性 (2)限局性 (3)点状に分けます。
(1)のびまん性ではtransgrediens(掌蹠をこえて、指趾背側や手首、足首アキレス腱部にまで皮疹の拡大があること)の有無で細分類します。
日本人ではtransgrediensを認めればほぼ長島型掌蹠角化症、認められなければVōrner型掌蹠角化症の可能性が高いです。
(2)の限局性では線状の過角化の有無によって細分類します。
日本人では線状の過角化があれば、線状掌蹠角化症1型、線状の過角化がなければ先天性爪甲肥厚症の可能性が高いです。
(3)の点状では、四肢の脱色素斑の有無で細分類します。日本人では脱色素斑のない点状掌蹠角化症1型の可能性が高いです。
以下、本邦において重要なタイプについて述べていきます。
🔷長島型掌蹠角化症
常染色体潜性(劣性)遺伝。長島正治と三橋喜比古により独立した疾患概念として確立されました。SERPINB7遺伝子の変異によって発症します。アジア人で最も多く、日本人でも約1万人の患者さんがいると推定されます。病原性変異をおよそ日本人の50人に1人が持つために、罹患者が保因者と結婚する確率は1/50であり、その両親からは1/2の確率で罹患者が生まれます。一見優性遺伝形式のようにみえます。
2015年全国の500床以上の病院へのアンケート調査によれば、人口100万人当たり1人程度ですが、青森県では最も多く人口100万人当たり30人程度であったとのことです。
生後から1,2歳までに掌蹠の潮紅、軽度の過角化から気づかれることが多いです。皮疹は手首内側、アキレス腱部まで及び、いわゆるtransgrediensを呈すことが多いです。肘、膝にも潮紅、過角化を示す(progrediens)を呈することもあります。掌蹠多汗を伴い、悪臭を伴うことも多いです。足白癬を伴うことも多いです。10分程度の短時間の浸水で白色に浸軟することが特徴です(水浸試験)。
病理所見では過角化と表皮肥厚を認め、顆粒変性は認めません。角層最下層に軽度の不全角化を認めます。
アドリア海沿岸などに多いMeleda病に類似しますが、症状はやや軽度で、同症にみられる手指、足趾の絞扼輪は認めません。
🔷Vōrner型掌蹠角化症
Unna-Thost型掌蹠角化症は顆粒変性が見られないタイプで、Vōrner型では顆粒変性を認める型ですが、この両者は臨床症状はほぼ同一であり、現在では同一疾患と考えられています。
常染色体顕性(優性)遺伝。KRT1,KRT9遺伝子の変異によって発症しますが、Unna-Thost型ではその変異が軽度であるのに対し、Vōrner型では高度であるために有棘層から顆粒層にかけて顆粒変性を認めるとされます。
生下時から掌蹠に潮紅を伴う過角化を生じますが、transgrediensは認めません。指趾の拘縮や爪甲の変化、掌蹠の多汗を伴うこともあります。足白癬を伴うこともあります。
🔷線状・限局型掌蹠角化症
常染色体顕性(優性)遺伝。1~3型の3亜型があります。日本人では1型の可能性が高いです。デスモグレイン1(1型)、デスモプラキン(2型)、ケラチン1(3型)遺伝子変異が報告されています。
線状、帯状、円形の角化性病変が加重部、被刺激部位を中心に出現します。症状が完成するのは青春期以降のことが多いとされます。同一家系でも同一患者でも過角化の形態が異なることが多いです。
🔷先天性爪甲厚硬症
常染色体顕性(優性)遺伝。2つの亜型が存在します。生後1,2年までに掌蹠の刺激部、加重部に有痛性の過角化と爪甲の著明な肥厚を生じます。kRT6A,6B,6C,16,17遺伝子の変異によります。
口腔内白板症、多発性脂腺嚢腫などを伴うこともあるとされます。
🔷点状掌蹠角化症
常染色体顕性(優性)遺伝。点状1A型はAAGAB遺伝子、点状1B型はCOL14A1遺伝子の変異によって発症するとされます。発症は青年期以降でCowden様病の一症状として生じることもあります。
他の角化症(鶏眼、胼胝、ウイルス性疣贅)との鑑別を要します。
🔷症候性掌蹠角化症(掌蹠角化症症候群)
皮膚症状以外に種々の他臓器の随伴症状(難聴、歯周炎、心筋症、易発がん性、外胚葉形成不全など)を伴うものです。
・難聴を伴うもの・・・KID症候群、Vohwinkel症候群
・歯周炎を伴うもの・・・Papillon-Lefevre症候群 Haim-Munk症候群
・心筋症とwooly hairを伴うもの・・・Carvajal症候群 Naxos病
・外胚葉形成不全を伴うもの・・・Clouston症候群 皮膚脆弱症候群
・易発癌性を伴うもの・・・Howel-Evans症候群(食道がんの発生率が高い)
・爪甲肥厚、嚢腫、口腔内の白色角化性病変を伴うもの・・・先天性爪甲肥厚症
・高チロシン血症を伴うもの・・・Richner-Hanhart症候群
治療は根治療法はなく対症療法となります。
角化の強い場合はサリチル酸ワセリン、ビタミンD3製剤などが用いられ、尿素含有製剤、ヘパリン含有製剤などは汎用されます。
低用量のエトレチナートの内服も奏功する場合がありますが、催奇形性、骨発育障害、肝障害、口唇炎などの副作用に留意する必要があります。
高度な角化性病変に対してはコーンカッターやカミソリなどを用いて切削します。
参考文献
掌蹠角化症診療の手引き 掌蹠角化症診療の手引き作成委員会 日皮会誌:130(9), 2017-2029, 2020 (令和2)
皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 15章 角化症 pp341-377
標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃 医学書院 東京 2022
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285
今日の皮膚疾患治療指針 第5版 編集 佐藤伸一 藤本 学 門野岳史 椛島健治
須賀 康 8章 角化症 遺伝性掌蹠角化症 pp416-418
皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
乃村俊史 XIV 角化症 2 掌蹠角化症(先天性、後天性) pp169