痒疹については、過去にブログに書きましたが、最近大分病態、治療が変わってきました。とはいっても、長年、皮膚科の研究者達が築き上げてきたものが変わるわけではなく、その上に最近の新規薬剤、知見が加わったわけですが。
先日の皮膚科学会総会で、結節性痒疹の講演がありましたので聴講してみました。
演者は、端本宇志先生と石氏陽三先生でした。このご両人は、かゆみの研究では大御所といえるGil Yosipovitch教授(現マイアミ大学)の処に留学、師事されたことで、座長の戸倉先生から『現在のかゆみ研究の若手のトップランナーと目され、かゆみブラザーズと呼ばれている』と紹介されました。
まず、端本先生が「結節性痒疹の病態解体新書」と題して痒疹の病態の解説をされました。
そもそも、痒疹(Prurigo)とは、ラテン語でかゆい病気(prurio+igo)のことで、すでに紀元前後のローマの学者ケルズスによって命名されたそうです。
中年以降に好発し、女性のほうが男性より多く、また人種差もあります。黒人>アジア人>白人と黒人に多く、これはケロイドになり易い体質とも関係していると考えられています。また糖尿病、肝腎疾患、悪性腫瘍などの内臓疾患やHIV,脊髄疾患など異常感覚を生じる疾患などでも多くみられます。手の届きやすい場所(上背、四肢伸側、手背)などに好発し、掻破によって病変が悪化します。痒疹には以下にあげるような類似疾患が多数ありますので注意を要します(疥癬、結節性類天疱瘡、痒疹型先天性表皮水疱症、リンパ腫、汗疹 など)。
病理組織では真皮へのリンパ球、好酸球、好塩基球、組織球を中心とした2型炎症にかかわる細胞浸潤に加えて、表皮の肥厚、真皮の線維化が目立ちます。結節性痒疹では、2型炎症、表皮の肥厚、真皮の線維化、痒みの4要素が重要で、特に2型炎症が起発点で、これが痒みを起こし、掻破による表皮肥厚、真皮の線維化、ペリオスチンの産生へと繋がっていく、従ってこれを制御することが治療に重要であると解説されました。
石氏陽三先生は「結節性痒疹の病態メカニズムから考える治療戦略」という演題で、実際のタイプ2炎症にかかわるサイトカイン、IL-4,13,31などを抑える治療について解説されました。デュピクセントを主体に、ミチーガについても解説されました。
以下は、サノフィ、マルホ株式会社の参考資料からとったものです。
アトピー性皮膚炎にはすでに実績のあるデュピクセントが、2023年6月に「既存治療で効果不十分な結節性痒疹」に追加効能が承認されました。これはIL-4,IL-13の両方のシグナル伝達を阻害するヒト型抗ヒトIL-4/13受容体抗体製剤です。国際共同第Ⅲ相試験では、投与24週時点で痒みスコアー(WI-NRS)が半減していました。また皮膚病変(IGA PN-S)が、約半数の患者さんで、ほぼ消失以下に改善しました。
ミチーガは、中外製薬が創薬したIL-31受容体Aを標的にした抗体医薬品ですが、マルホ株式会社が国内ライセンス契約を結び、2022年3月「アトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)」を効能・効果として発売しました。2024年3月、結節性痒疹(成人及び13歳以上の小児)への追加効能も承認されました。
ミチーガはヒト化抗ヒトIL-31受容体モノクローナル抗体であるネモリズマブを有効成分とする皮下注射製剤です。IL-31 は痒みを誘発するサイトカインであり、結節性痒疹のかゆみや病態形成への関与も示されています。
本剤は発売まもなく、治療効果などは徐々に蓄積されていくでしょうが、石氏先生は注意点として、IL-31は他のサイトカインへの影響もあり、タイプ2炎症を抑えている可能性もあり喘息を惹起するかもしれず、喘息患者への使用は注意を要すると述べられました。
この両者の薬剤の使い分けなどはこれから知見が重ねられていくと思いますが、現在の痒疹診療ガイドライン2020では、治療推奨度は局所外用ステロイドとナルフラフィン(血液透析、慢性肝疾患)がわずかにBランクで、Aランクはなし、他の治療は行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がないというC1ランクに留まっています。それを考えると痒疹の治療は今後飛躍的な進歩を遂げていくのではないかと思いました。