動物咬傷

犬や猫による咬傷を時々外来でみます。それ以外にペットや野生動物、またヒトによる咬傷もあります。
これらによる感染症の起因菌に決まったものはありませんが、いずれも種々の雑菌を持っており、混合感染を生じます。
罹患率は小児でより高い傾向があり、イヌ咬傷は男児に多く、一方ネコ咬傷は女児や成人女性に多い傾向があります。イヌ、ネコ咬傷は軟部組織・骨感染症に発展することもあり、特にネコの歯は鋭く皮膚を深く貫き骨に達することがあり、骨髄炎の注意を要します。またヒト咬傷では喧嘩中に握りこぶしを傷めて起こることが最も多く、やはり皮膚が薄いために骨や腱に及ぶことがあるために骨髄炎にも注意が必要です。
起因菌はイヌ、ネコではPasteurella属が最も多く、その他に黄色ブドウ球菌、溶連菌、嫌気性菌などもみられます。ヒトの口腔内からは多くの好気性菌、嫌気性菌が検出されますので、ヒト咬傷では多くは複数菌感染がみられます。
【治療】
まずは、傷の洗浄、デブリードマンを十分に行うこと。その上で抗生剤の投与となりますが、症状の重症度、感染がすでに成立しているかにより、内服、点滴などの抗菌薬治療の選択となります。培養結果が出る前はエンピリック(経験的)治療を開始します。複合感染の可能性が高いために動物咬傷では一次閉鎖は行いません。抗菌剤に加えて破傷風トキソイド、破傷風免疫グロブリンの投与も考慮します。狂犬病は国内発生はありませんが、東南アジアなど海外でイヌに咬まれ、帰国後発症死亡例はありますので、咬まれた地域の確認は必要です。
推奨される抗菌薬としては、アンピシリン・スルバクタム(ユナシンS静注)、アモキシシリンクラブラン酸(オーグメンチン)+アモキシシリン(サワシリン)(オグ・サワ経口:クラブラン酸の下痢のリスクヘッジ)などがあります。ペニシリンアレルギーの際はクリンダマイシン(ダラシン)+レボフロキサシン(クラビット)またはシプロフロキサシン(シプロキサン)などの組み合わせ、小児の場合はキノロン系の代わりにST合剤(バクタ)などが推奨されています。
静注、経口抗菌薬治療の選択・期間は治療に対する反応、組織障害の程度、骨・関節感染症の可能性などによります。
オグ・サワについて
オーグメンチンはクラブラン酸カリウムとアモキシシリン水和物の複合抗生剤製剤です。AMPCはグラム陽性菌にもグラム陰性菌にも効く広域ペニシリン製剤です。しかしβラクタマーゼ産生菌に対してはその効果が減少します。そのβラクタマーゼを阻害するのがクラブラン酸です。オーグメンチン250RS錠はアモキシシリンを250mgとクラブラン酸カリウム125mgの複合抗生剤製剤です。通常量では1日1錠を3回内服しますが、この量ではアモキシシリンが750mgで一部の菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌など)では量が不足で1000〜1500mg/日が必要です。これを倍量投与するとクラブラン酸の量も倍量になり色々な消化器症状(下痢、悪心、嘔吐など)が出やすくなり不適です。それでこの副作用を減らすために考えられたのが、オーグメンチンとサワシリンを合わせた使用法です。具体的には下記のような処方がなされています。保険上の問題もないようですが薬剤師、レセプト上では疑義照会があることもあるようです。その際はコメントが必要かもしれません。
処方例
オーグメンチン250RS 2T+ サワシリン250 4cap 分2/日

オーグメンチン250RS 3T+ サワシリン250 3cap 分3/日

参考文献

マップでわかる抗菌薬ポケットブック 藤田浩二 著 南江堂
32 軟部組織の感染症(1):蜂窩織炎・丹毒、壊死性筋膜炎、糖尿病性足疾患、動物・人咬傷 pp357-368

感染症診療 スタンダードマニュアル 第2版 羊土社
Edited by Frederick Southwick
監修=青木 眞 編集=源河いくみ/本郷偉元 監訳=柳 秀高/成田 雅
第10章 皮膚および軟部組織感染症 pp318-336

抗菌薬の考え方、使いかた ver.4 魔弾よ、ふたたび・・・ 岩田健太郎 中外医学社

動物咬傷とは少し、外れますが過去にマムシ咬傷、マダニ刺咬傷についても書きましたので参考までに

マダニによるウイルス感染症(SFTS)

虫による皮膚疾患(3)マダニ

マムシ咬傷