Darier病、Hailey-Hailey病は皮膚カルシウムポンプ病として分類される遺伝性角化症で、細胞のカルシウムポンプの機能不全により、病理組織学的に棘融解をきたす難治性疾患です。
🔷Darier病
常染色体顕性(優性)遺伝で家族性に発症しますが、突然変異でも発症します。やや男子に多いです。
細胞内カルシウム濃度を調節するSERC A2(sarco-endoplasmic reticulum calcium ATPase type 2 isoform)をコードする遺伝子ATP2A2に変異があり発症します。
一般に小児期に発症しますが、青年期に発症する例もあります。主として脂漏部位、発汗性間擦部位(頭頚部、胸背部、腹部、乳房下、腋窩、鼠径部など)に好発します。数mmの暗褐色角化性丘疹が多発、集簇して表面に鱗屑や痂皮を伴います。しばしば湿潤して悪臭、痒みを伴います。腋窩、陰股部などの湿潤した間擦部では個疹は融合して乳頭状、コンジローマ様の増殖をきたし、時に水疱を形成します。時に手足にイボ状角化性局面を形成します。爪甲の変化、口腔粘膜の白色丘疹、舌の絨毛化、食道壁肥厚、精神神経症状(発達遅滞、てんかん、統合失調症など)を伴うこともあります。
夏季に悪化します。紫外線、発汗、機械的刺激などが悪化因子となります。真菌、細菌、ウイルス感染などに罹りやすいので注意が必要です。
病理組織所見では、異常角化(dyskeratosis):円形体(corps ronds),顆粒(grains)と表皮基底層から上方の棘融解、表皮内裂隙形成がみられ、真皮乳頭が上方に伸び間隙中に突出して絨毛(villi)を形成します。
難治性ですが、レチノイド、ビタミンD3,サリチル酸ワセリン、尿素軟膏などが用いられています。また各種感染症に対する治療も必要ですが、炎症部位にはステロイド剤の外用も用いられています。
🔷Hailey-Hailey病
別名で家族性良性慢性天疱瘡とも呼称され、先天性水疱症の一群として分類されることもありますが、Golgi装置のカルシウムポンプ遺伝子であるATP2C1(遺伝子産物SPCA1)の変異であることが判明し、カルシウムポンプ病である先のDarier病と近縁の疾患とされています。
思春期から青年期に発症します。主として頸部、腋窩、陰股部、肛門周囲など汗をかき易く刺激を受けやすい間擦部に発症します。紅斑上に水疱を生じ、痂皮、膿疱、びらん、色素沈着をきたし一見膿痂疹様の外観を呈します。軽快、増悪を繰り返しますが慢性に経過します。高温、発汗、紫外線、機械的刺激、感染などが悪化因子となります。
病理組織上では基底層直上で表皮内間隙を形成し、裂隙内で棘融解細胞が緩く結合し、崩れかけた煉瓦の壁状(dilapidated brick wall)と形容されます。その間隙に延長した真皮乳頭が突出し、絨毛(villi)を形成します。まれに異常角化細胞をみますが、Darier病ほど著明ではありません。
治療はDarier病に準じます。
🔷Transient acantholytic dermatosis
一過性に上記に似た病態をとる疾患に対してつけられた病名です。(Grover 1971)
一過性に(数週~数年)丘疹・小水疱が体幹・四肢近位に生じ、掻痒があります。時にびらん、痂皮を伴います。限局性の棘融解を伴います。
臨床型、病型により、天疱瘡型、Darier型、Hailey-Hailey型、落葉状天疱瘡型、海綿状態型に分けられます。
参考文献
皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 15章 角化症 pp341-377
標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285
皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
秋山真志 XIV 角化症 4 Darier病, Hailey-Hailey病 pp171