乾癬の内服療法

乾癬の治療薬の進歩は目覚ましく、生物学的製剤はなんと11製剤が上市されPASI クリアーの時代になってきました。最初の頃は逐一フォローしていましたが、もうとてもついていけず、ブログ記事も脱落してしまいました。それに、使用施設、医師要件は大分緩和されて開業医の先生がたの中にも積極的に導入、参入されている方もいらっしゃいますが、内科病院との連携、協力を必要とするなどやはり敷居は高いです。
前回のオテズラの講演会でも患者アンケートで、外用は面倒、治らない、注射薬は高くて、痛いなどとの不満もあり、結構内服薬の評価が高いことがあげられていて驚きでした。
それだけではありませんが、タイムリーに乾癬の研究、臨床では今や若手のリーダー格とも目される帝京大学の多田弥生先生の皮膚科学会総会での内服療法の講演がありましたので、E-learningを聴講してみました。
「乾癬の内服療法」  帝京大学 多田 弥生
従来から使用されてきた乾癬の内服薬剤についての解説の講演の骨子をまとめてみました。

◆シクロスポリン(ネオーラル)
免疫抑制剤で、過去一時期は乾癬に最も有効な薬剤として多く使用されていました。凡そ1ヶ月で著効を呈し(PASI60~80%)、痒みにも効果があります。2〜5mg/kg/日で使用されます。難治部位の爪、陰部、軽度の乾癬性関節炎にも有効で、爪病変も2mg/kg/日、1年でかなり軽快します。効果は血中濃度のピークに比例し、副作用は血中の作用面積の積分に比例するので、分割投与よりも、朝食前の1回投与が良いとされます。しかし、血中濃度が急速に上昇する分、気持ち悪さ、頭痛、動悸、ふらつき、血圧上昇には注意が必要です。また50mgカプセルは大きく飲みにくいという欠点もあります。副作用として、腎障害、血圧上昇がありますので、腎機能がベースラインから10%悪化なら減量し、GFR 50ml/分以下の腎機能障害では使用中止です。また急に薬剤を中止するとflare upすることがあるので、徐々に中止したり、他剤との併用療法などを行います。高齢者では副作用が出やすいので使いづらい薬です。長期連用は不適ですが、1ヶ月後イベントがある時などには良い薬剤です。以前は妊娠中は禁忌でしたが、現在では使用可能とされています。
◆レチノイド(チガソン)
ビタミンA酸製剤です。最も注意すべきは催奇形性があることです。それで女性は2年間、男性も6ヶ月間の避妊が必須です。膿疱性病変、角化性病変に有効で、紫外線療法との併用が良いとされます。免疫抑制剤ではないのでそれらとの併用も可能です。高齢者にもよく使われます。副作用として、口唇炎、粘膜ビラン、手指のひび割れ、脱毛、肝機能障害、脂質異常などがあります。通常10〜30mg/日を使用しますが、副作用も勘案して特に高齢者は10mgなどの少量から始めるのが良いです。
◆アプレミラスト(オテズラ)
PDE4阻害剤です。細胞中のcAMP濃度を上昇させることにより、炎症性サイトカインの働きを抑制して効果を発揮します。また逆に制御性サイトカインのIL-10は上昇させます。痒みに効果があり、難治部位の頭部、爪、軽度の関節炎(付着部炎)にも効果があります。爪病変の改善は生物学的製剤のアダリムマブに近似するとのことです。但し臨床効果は限定的で3、4割の人にはよく効くとのことです。下痢、悪心、頭痛などの副作用はありますが、概して軽度で対応可能なことが多いです。
◆メトトレキサート(MTX,リウマトレックス)
細胞増殖を抑えて効果を発揮します。古くからある薬剤で関節リウマチにはよく使われてきました。但し、本邦では乾癬への適応はなく、一部関節炎に対してしか使われてきませんでした。最近日本皮膚科学会からの要望で公知申請が厚労省に認められて、2019年から乾癬にも使用できるようになりました。(これには自治医科大学の大槻マミ太郎先生などの働きが大きいと思います。—当ブログ2019.1.24参照)。リウマチ領域では、従来は連日投与が行われていましたが、これは血球減少など副作用が多く見られていました。皮膚科では表皮細胞のturn overが37.5時間であることから細胞合成期にだけ効けばよいとの考え方から週1回の投与方法でした。現在では内科領域でもそのような投与方法に変わってきています。
治療効果はMTXの使用量を制限しなければ16週間でシクロスポリンとほぼ同等とされます。但し15mg以下だとやや劣性です。MTXが脚光を浴びてきたのは近年のTNF阻害剤との併用で関節症状に著効を示してきたことも大きいです。皮膚科では6〜10mg/週と症状、病勢を見ながら漸増していきます。また内服24-48時間後に葉酸(フォリアミン)を投与します。副作用は骨髄抑制の他、口内炎、肝腎障害があり、GFR 30ml/分以下は使用不可です。HBVの再活性化にも注意が必要です。また妊婦には使用禁忌です。ただ安価な薬なので上手く使えれば効果的です。
◆JAK/STAT Tyk2阻害剤
最近、JAK阻害剤も乾癬領域で使われるようになってきました。JAK阻害剤のウバタシチニブ(リンヴォック)は乾癬性関節炎に適応がありますが、乾癬そのものには適応がありません。
Tyk2阻害剤のDeucravacitinib(ソーテイクツ)は第II相試験で3mg/日2回投与16週間で生物学的製剤のステラーラとほぼ同等の効果があるそうです。またJAK1,2,3はほぼ阻害せず、Tyk2のみの阻害なので大きな副作用は出ていないそうです。
毛嚢炎がややでるが、今のところ他のJAK阻害剤のような帯状疱疹の副作用の増加も無さそうです。またオテズラよりも有効とのデータも出ているそうです。

ごく最近Deucravacitinibが乾癬治療薬として米国FDAより承認されました。(2022.9.16)
その内本邦でも承認されるでしょう。内服薬で、効果が高く、副作用が少ないとなればかなり期待がもてますが、治療効果、副作用はもとより、この薬剤の薬価、使用施設基準、要件などがどのように設定されるか気になるところです。