先日久しぶりに乾癬の生物学的製剤のweb講演を聴講しました。近年この分野の新規薬剤の上市は凄まじく、もうほとんどスルーしていましたが、今回の講演内容は良かったです。
「病態から考える乾癬の薬剤選択」浜松医科大学 本田哲也先生
「IL-23阻害剤による乾癬治療ー長期寛解を目指して」京都医療センター 十一英子先生
共催がトレムフィア(グセルクマブ:ヒト型抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体製剤)を提供する会社でしたので、それにちなんだ内容もありましたが乾癬の治療のトレンドや将来への展望が示された講演でした。
本田先生の話は基礎的な乾癬の病態を中心とした話でした。
乾癬には、局面型、関節症、パラドックス、膿疱性乾癬など種々の病態がある。かかわる細胞もサイトカインも種々あるが、中でもIL-17, IFN, IL36の関与の大きさがこれらの病態の違いに関係してくる。
PASI100(PASIクリアー)も達成できるようになった現在では寛解に到達しえたが、将来は皮疹がなくなるだけではなく、いかに再発を防ぐか、寛解の維持を続けられるか、が目標となるだろう。皮膚にはresident memory T細胞(TRM)が存在していて、組織へ移行せず皮膚に留まり続けている。この細胞は本来は感染防御など生体にとって有益に働くが、過剰な活性化では炎症を生じる。そしてTRMが同じ部位に炎症、再発を繰り返すことに関連している。最も代表的な臨床例は固定薬疹で、抗原となる薬剤が投与される度に以前出現した同じ場所に皮疹(紅斑、水疱)を繰り返す。これは同部位に住み着いたTRMの働きによる。乾癬でも同様のことが生じていることが想定される。マウスでの動物実験からもそれは検証されてきている。将来はこのTRMを除去したり、機能調整することでより長期に寛解を維持することが期待される。
十一先生の話は実臨床においてIL-23阻害剤の乾癬に対する効果のお話でしたが、留学時自ら初期のIL-12/IL-23製剤、ステラーラの世界初めての治験に関わり、その臨床効果や、サイトカインの動きをつぶさに観察、研究されただけあって、講演内容には説得力を感じました。
ステラーラの治験においては、/kg当たり、0.1mg, 0.3mg, 1.0mg, 5mgを設定した。そしてIFN-γ,IL-8,IL-10, IP-10, MCP-1, IL-18の経時変動を測定した。興味深かったのは0.1mg/kg投与群の中に1回注射しただけで16週でPASI75をクリアーした人が1人いたことだった。これ程少量(実臨床では45~90mg投与なので1/10量以下)でも効果があるケースがあるということは驚きだった。ステラーラはTIP-DC-IL23-IL17軸の上流のDC活性化を抑制していた。ステラーラはヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体製剤である。(IL-23はIL12ファミリーに属し、ヘテロ2量体からなる。IL12A(IL-23p19)とIL12B(IL-12p40)、そしてIL12はIL-12p40とIL-12p35のヘテロ2量体からなる。すなわちp40は共通している。IL-12はTh1細胞の分化に必要であり、当初はステラーラの効果はむしろIL-12を抑制することによるものと考えられていたが、乾癬にはむしろIL-23を阻害して効いていることが明らかになった。)
IL-23阻害薬はその後p19をターゲットにして数種類上市されている。グセルクマブ(トレムフィア2018.5発売)、リサンキズマブ(スキリージ2019.5発売)、チルドラキズマブ(イルミア2020.9発売)。
本講演ではトレムフィアの臨床効果について紹介された。100mgを0,4週 以後12週間隔で投与する。PASI100が16週で27%、52週で47.6%と非常に効果が高い。効果は体重に依存して、安全性はステラーラに似る。二次無効は少ないなどの特徴がある。
尋常性乾癬における各生物学的製剤の選択方法として、世界的に確された基準は存在しない。(乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス、2022年版より)。
但し、IL23p19製剤によい適応の人は関節症状のない人、あまり大柄でない人が当てはまりそう。
乾癬の長期寛解のために重要で留意すべきことは
・経済的であること
・休薬の是非
・患者の理解・・・治療は完治ではなく寛解であることの認識
・治療医師の知識、スキル
休薬ではなく、それぞれの患者さんに合った治療の継続が必要
本講演を機会に乾癬の使用ガイダンスを読んでみました。着実に治療方法、成績が進んでいること、それでもなおかつ各種製剤の使用法については実際の使用経験を重ねながら軌道修正していく分野だと感じました。
尋常性乾癬に対するPASI 75/90改善率 (海外及び国内の試験)
TNF阻害薬 PASI 75/90改善率
インフリキシマブ(レミケード)(2010.1承認) 69~80%/45~57%(10週後)
アダリムマブ(ヒュミラ)(2010.1承認)* 63~81%/39~62%(16週後)
セルトリズマブペゴル(シムジア)(2019.12承認)* 76~87%/44~76%(16週後)
IL-12/23阻害薬(p40モノクローナル抗体製剤)
ウステキヌマブ(ステラーラ)(2011.1承認) 59~76%/33~51%(12週後)
IL-23阻害薬(p19モノクローナル抗体製剤)
グセルクマブ(トレムフィア)(2018.3承認) 84~91%/70~73%(16週後)
リサンキズマブ(スキリージ)(2019.3承認) 87~95%/72~75%(16週後)
チルドラキズマブ(イルミア)(2020.6承認) 61~64%/35~39%(12週後)
IL-17阻害薬
セクキヌマブ(コセンティクス)(IL-17A)(2014.12承認)* 77~83%/54~62%(12週後)
イキセキズマブ(トルツ)(IL-17A)(2016.7承認)* 87~90%/68~71%(12週後)
ブロダルマブ(ルミセフ)(IL-17受容体A)(2016.6承認)* 83~95%/69~92%(12週後)
ビメキズマブ(ビンゼレックス(IL-17A/F)(2022.1承認) 92~95%/85~91%(16週後)
*印 自己注射可能
・関節破壊の進展抑制効果はTNF阻害薬のエビデンスが最も高い
・乾癬性関節炎ではTNF阻害薬=or>IL-17阻害薬>IL-23阻害薬と考えられる。特に体軸関節炎でのIL-23阻害薬の有効性のエビデンスは低い。
・1年を越える長期寛解なら薬剤中止は検討されうるが長期のバイオフリー(薬剤中止)のエビデンスはまだ示されていない。
・多くの薬剤は長期中断や休薬のあと再開できるが、インフリキシマブでは重篤なinfusion reactionの頻度が高くなるので注意が必要。
・副作用及び、そのチェックについての記載がされているが、詳細は省略。
*活動性結核を含む重篤な感染症(B型肝炎、細菌性肺炎、カンジダ症、ニューモシスチス肺炎など)
*脱髄疾患(TNF阻害薬)
*間質性肺炎(インフリキシマブ、アダリムマブ、ウステキヌマブ)
*炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)(IL-17阻害薬)
*血液疾患(汎血球減少、再生不良性貧血)
*悪性腫瘍のリスク(リスク、ベネフィットを考慮して使用)
*抗核抗体。ループス様症候群(TNF阻害薬)
*進行性多巣性白質脳症(リスクは少ないが注意)
*免疫抑制、免疫力の低下
*自殺念慮
*高齢者
*小児(適応はセクキヌマブのみ、インフリキシマブは緊急時使用)
*妊婦。産婦、授乳婦(セルトリズマブ ペゴルは胎盤通過性が少ない)
*手術患者(中~高リスクの患者は術前、術後の休薬)