原発性皮膚CD30陽性T細胞リンパ増殖異常症は、原発性皮膚未分化大細胞型リンパ腫(primary cutaneous anaplastic large cell lymphoma : pcALCL)とリンパ腫様丘疹症(lymphomatoid paplosis: LyP)を包括した概念です。前回はpcALCLについて書きましたので、今回はリンパ腫様丘疹症について調べてみました。
【臨床症状】
中年に多く、pcALCLよりは若年で発症する傾向にあります。小児発症の報告もあるそうです。
臨床的には、主に四肢に径1㎝までの紅色丘疹が新生し、びらん、痂皮化し自然消退を繰り返します。それぞれの発疹は数週から数か月続きます。pcALCLと異なり、左右対称性に分布し、新旧の発疹が混在します。
CD30陽性の異型細胞が増殖しますが、以下のように極めて多彩な病理組織像をとります。基本的には組織像ではなく、臨床症状・経過によって診断をつけます。新生・自然消退を繰り返す良性疾患で、LyP自体は生命予後には影響しませんが、時に他の悪性リンパ腫を併発します。菌状息肉症が最も多く、次いでpcALCLが多く報告されています。
【病理組織】
大きく、6つの亜型に分類されます。type Aが全体の8割強を占めます。A~Eに加え、TypeF(folliculotropic), TypeG(Granulomatous)なども加わり複雑です。ただ、この分類に当てはまらないことも多く、現在では別の分類も提唱されています。
type A: CD4+, CD8- 大型異型細胞と炎症細胞(小型の反応性リンパ球)の浸潤
type B: CD4+, CD8- 小型異型細胞(中型から小型の核にくびれを持つ細胞)が表皮向性を伴って浸潤
type C: CD4+, CD8- 大勝異型細胞のシート状の浸潤、pcALCL様
type D: CD4-, CD8+ 小型~中型異型細胞の強い表皮向性を伴う浸潤、原発性皮膚CD8陽性進行性表皮向性細胞傷害性T細胞リンパ腫様
type E: CD4-, CD8+ 小型~中型異型細胞の血管中心性、血管破壊性浸潤
subtype: LyP with DUSP22-IRF再構成 中型~大型異型細胞の真皮への浸潤
組織学的なタイプはLyPの経過・予後には影響を与えませんが、タイプB,C では悪性リンパ腫の併発が多く、タイプDで少ないとされています。
【治療】
基本的には良性疾患で自然消退するので、患者の希望がなければ治療の必要性はありません。ステロイド外用剤、紫外線照射療法はある程度奏功します。難治で掻痒などQOLの低下する場合は低用量のメトトレキサート内服、ベキサロテン内服、インターフェロンγ点滴静注などが考慮されます。
【鑑別疾患】
LyPはpcALCLとの一連の疾患スペクトラムと位置づけられた疾患ですが、一方苔癬状粃糠疹など類乾癬のスペクトラムに属するともいわれるやや混沌とした位置づけでもあります。したがって、これら周辺の疾患にも似た臨床症状を持ち注意深い鑑別診断を要します。
1)pcALCL
組織学的にはtype CのLyPとpcALCLとの鑑別は困難です。したがって、皮疹の大きさ、分布、出現頻度、出没の様子などによって鑑別します。大きさでは、径1cmを超える比較的大きな結節・腫瘤あるいは皮下結節時に潰瘍を形成する皮疹、分布でも一定の限局した部位にみられ、Lypの左右対称性と異なります。またLyPは新旧の皮疹が混在してみられ、皮疹が完全に無い時期は稀れとされます。それに対してpcALCLでは一旦自然消失しても、数か月から数年後に再発するとされ、完全消失の時期があります。
ボーダーラインの状態では1~2cm程度の紅色丘疹・結節が全身左右対称性に自然消退を繰り返しながら長期に続くケースです。この場合はいずれとも鑑別が困難です。
2)菌状息肉症(Mycosis Fungoides: MF)
LyPの15.5%に他のリンパ腫を併発するとされます。その多くはMF,pcALCLです。MFにtype CのLyPを伴った場合に、そう判断するか、MFのCD30陽性LCT(large cell transformation)と判断するか困難な例もあるそうです。
3)急性痘瘡状苔癬状粃糠疹(pityriasis lichenoides et varioliformis acuta: PLEVA)
類乾癬の一型である苔癬状粃糠疹は急性型と慢性型に分類されます。PLEVAは小児から比較的若い成人にみられ、躯幹、四肢に紅色丘疹、小水疱、膿疱、壊死を伴い、徐々に痂皮、潰瘍を形成し、新旧の皮疹が混在し、数週間から数か月の経過で自然消退する疾患で、その臨床像はLyPと非常によく似ています。組織像は基本的に血管周囲の細胞浸潤、血管内皮の腫大、フィブリノイド変性によるリンパ球性血管炎の像をとり、浸潤するリンパ球はCD8+、CD30-で異型性はなく、LyPとの鑑別は明白です。しかしなかには両者の異同が明確でないケースのもあるそうです。
その他には、その他の皮膚リンパ腫、小児では虫刺症、結節性痒疹なども鑑別すべき場合があります。
参考文献
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今日の皮膚疾患治療指針 第5版 編集 佐藤伸一 藤本 学 門野岳史 椛島健治 医学書院 東京 2022
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JDA eSchool eLecture特別講座
岩月啓氏 皮膚T細胞リンパ腫の病型と診断
皮膚疾患診療実践ガイド 第3版 監修 宮地良樹 編集 常深祐一郎 渡辺大輔 文光堂 東京 2022
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島内隆寿 特集 日常診療に潜むリンパ腫・リンパ増殖性疾患ーリンパ腫との鑑別が問題になる関連疾患ー
3.リンパ腫様丘疹症とその鑑別疾患 皮膚臨床 65(12);1769~1775,2023