原発性皮膚CD30 陽性T細胞リンパ増殖異常症(1)

原発性皮膚CD30陽性T細胞リンパ増殖異常症は
1. 原発性皮膚未分化大細胞型リンパ腫(primary cutaneous anaplastic large cell lymphoma, pcALCL)
2. リンパ腫様丘疹症(lymphomatoid papulosis, LyP)
1.2.の両者を包括した概念です。組織学的にともにCD30陽性の大型の異型リンパ球が真皮内に浸潤する像を取る事からこの両者は類縁疾患と考えられて一つのカテゴリーにまとめられてはいますが、臨床症状、経過は大きく異なります。pcALCLは悪性で、LyPは基本的には良性疾患ですが、ごく一部には菌状息肉症など他の悪性リンパ腫を併発することが知られています。また両者を区別できないようなボーダーライン病変もあります。
本邦の疫学調査によれば、皮膚リンパ腫に占める本疾患の割合は9.4%と菌状息肉症に次いで多く、そのうちpcALCLは6.0%, LyPは3.2%とされています。

ここでは、1.のpcALCLを取り上げます。
【臨床症状】
やや男性に多く、高齢者に好発しますが、小児例もあります。
臨床的には、単発、乃至は多発性の結節、腫瘤、浸潤局面、皮下結節を生じ、時に潰瘍化を伴います。環状あるいは馬蹄形、弧状の浸潤性紅斑を呈することもあります。多発する場合でもLyPのように左右対称性となることは少ないです。自然消退、新生・消退を繰り返すこともあります。孤発型(T1)、限局型(T2)、多発型(T3)に分けられます。
時に表皮増生が顕著で有棘細胞癌やケラトアカントーマとの鑑別が必要となる場合や、強い好中球浸潤を伴う場合は皮下膿瘍を形成しうるので細菌感染症との鑑別が必要となる場合があります。
【病理組織】
大型異型細胞が真皮上層から皮下脂肪織にかけてシート状に増殖し、表皮向性はないか、あっても軽度のことが多いとされます。異型細胞は大型の核を有し、細胞質が豊富で時に2核の鏡面像を示すReed-Sternberg細胞を混じます。好中球や好酸球などの炎症性細胞浸潤を伴う場合もあります。
腫瘍細胞はCD30陽性、CD8陰性、ALK(anaplastic lymphoma kinase)陰性、CLA(cutaneous lymphocyte antigen9陽性で、CD3は陽性、陰性いずれもあります。またCD25、細胞傷害性分子(perforin, TIA-1,granzyme B)、CCR4がしばしば陽性になります。
CD30陽性の皮膚リンパ腫は菌状息肉症をはじめ、セザリー症候群、ATLLでもみられますが、これらの疾患が前もって存在している場合はpcALCLとは診断せずに、元のリンパ腫の大細胞転化と診断します。
pcALCLやLyPの一部ではDUSP22を含む6p25.3における遺伝子再構成がみられる一方、その他のリンパ腫では陰性であるので、鑑別に有用であることもあります。
初診時に所属リンパ節に浸潤がある場合のpcALCLは定義上皮膚リンパ腫とは定義できませんが、pcALCLからのリンパ節浸潤としたほうが良いケースもあります。
【予後・経過】
一般的にpcALCLの予後は良好で(5年生存率95%)、比較的予後の悪い多発型でも5年生存率は77%とされており、また自然消退を示す例も報告されています。しかしながら下肢に生じたものは予後が悪いとされています。
【治療】
自然消退、生検後の消退もあるために、注意深い経過観察が肝要となります。また限局型に対して多剤併用化学療法を行った場合、局所放射線療法を行った例よりも病状の進行が速いとされるので、皮膚に限局している場合は強い治療法ではなく、局所療法を中心に行うというのが原則です。ステロイド(外用や局注)、それに抵抗性ならば外科的切除や放射線療法を行います。再発は比較的多くみられますが、それは予後の悪化には繋がらないので、すぐに治療強度を上げる必要はありません。多発型でも照射可能であれば、局所放射線療法が選択肢になります。(電子線照射8~20Gy,2~8回分割)。自然消退傾向のない場合には化学療法を考慮します。再発はほぼ必須のためにベキサロテンや低用量メトトレキセート(5~25mg/週)、エトポシド、インターフェロンγ点滴静注が考慮されます。
皮膚外病変を伴ってきた場合は全身型のALCLと判断してブレンツキシマブ・べドチン(抗CD30抗体)などを考慮します。

参考文献

皮膚悪性腫瘍ガイドライン第3版 皮膚リンパ腫診療ガイドライン2020
皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン改訂委員会 皮膚リンパ腫診療ガイドライングループ 委員長 菅谷 誠
日皮会誌:130(6),1347-1423,2020 (令和2)

皮膚疾患最新の治療 2023-2024 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
菅谷 誠 CD30陽性リンパ増殖異常症 pp157

今日の皮膚疾患治療指針 第5版 編集 佐藤伸一 藤本 学 門野岳史 椛島健治 医学書院 東京 2022
管 析 原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫 pp838-839

JDA eSchool eLecture特別講座
岩月啓氏 皮膚T細胞リンパ腫の病型と診断

皮膚疾患診療実践ガイド 第3版 監修 宮地良樹 編集 常深祐一郎 渡辺大輔 文光堂 東京 2022
濱田利久 26.皮膚悪性腫瘍 12.皮膚リンパ腫 pp691-696