BCG接種後の副反応

BCG(Bacille de Calmette et Guerin:カルメット・ゲラン桿菌)ワクチンは乳幼児の結核予防や結核の重篤化リスク軽減のために、本邦では12か月未満児への接種が行われています。従来4歳未満の児童を対象に行われていましたが、WHOの勧告を受け、2005年には法改正により、ツベルクリン反応の有無にかかわらず生後6ヶ月未満の児への接種が定期化されました。しかし骨炎などの副反応の報告が見られたため、2014年より接種時期は生後12か月未満(生後5ヶ月以降8カ月未満を推奨)と変更されています。日本の結核患者の発生率は米国の4倍程あるにも関わらず、小児に限ると米国の小児の患者発生率を下回っており、その原因は日本で定期接種されているBCG接種の効果ではないかといわれています。
 本邦でのワクチンは弱毒化ウシ型結核菌(Mycobacterium bovis)BCG Tokyo No.172で諸外国のものより毒力が弱く副反応は少ないとされますが、ワクチン接種増加に伴って、副反応の数も増加してきています。
1%以下の割合で、接種後に局所の潰瘍やリンパ節の腫脹がみられ、頻度は不明ですが、接種後に「アナフィラキシー」、「全身播種性BCG感染症」、「骨炎・骨髄炎」、「皮膚結核様病変」が発生したとの報告があります。
(H25では約90万人に接種され、副反応報告は174件、うちリンパ節の腫れが74件、皮膚症状が40件、骨炎が10件、全身性BCG感染症が2件となっています。)
 BCG接種後、接種部位に1週間から10日程度で発赤が出現し丘疹や膿疱を生じます。4-6週間後に皮疹はピークとなり、約2か月後に痂皮化、約3か月後に瘢痕治癒します。これから逸脱したものを副反応と呼びます。
🔷腋窩リンパ節腫脹
BCG接種後、生ワクチンの生菌は皮膚からリンパの流れに乗って所属リンパ節(腋窩)に運ばれて、反応を起こします。摂取後約1カ月後に所属リンパ節が腫脹するBCGリンパ節炎を起こすことがあります。2cm以下であれば自然消退することが多く、穿孔、排膿を伴う場合でも清潔にしていれば自然消退するとされます。WHOは局所的治療のみで経過観察を推奨しています。但し、3cmを越えるような大きなものや炎症の治まらないものに対しては外科的切除やINHの投与を必要とするとの報告もありますが、その期間にもばらつきがあります。膿や切開内容物からのBCG菌の陽性率は50%とされます。INH投与に際しては、年長児では稀に末梢神経炎を生じたり、フェニトイン(アレビアチン)内服中ではてんかん発作を誘発したり、肝障害をきたすこともあるので、慎重に投与することが必要です。
🔷皮膚結核
皮膚の副反応は大きく分けて、真正皮膚結核と、Ⅳ型アレルギー反応である結核疹に分けられます。真正皮膚結核では、尋常性狼瘡、皮膚腺病、BCG肉芽腫などの報告があります。
 結核疹としては腺病性苔癬、壊疽性丘疹状結核疹、丘疹状結核疹などがあります。また乾癬様皮疹を呈し、病理学的に類上皮細胞性肉芽腫を伴う結核疹に合致するものと、伴わない例の報告もあります。
治療については明確に定められたものはありません。結核疹の場合は数か月で自然消退するので経過観察のみとする場合が通例です。一方、真正皮膚結核では、数か月の経過観察の後、増大傾向かつ結核菌陽性であれば抗結核薬の投与が推奨されています。イソニアジド4~10mg/kg/day 8~16週程度の治療が多いようです。
🔷全身型播種状BCG感染症
稀に、皮膚だけではなく、肺、肝臓、脾臓、リンパ節、髄液、骨など全身性にBCGによる結核病変を生じ、致死的にさえ進行しうる重篤な副作用があります。多くの症例は重症複合型免疫不全症候群や慢性肉芽腫症、後天性免疫不全症候群などの基礎疾患を有しています。これらの基礎疾患が診断される前にBCGワクチンが接種されてしまうことによると考えられています。皮膚症状は播種状の皮下結節を呈することが多く、接種部位の炎症反応は少ないとされます。組織像は皮内から皮下にかけて組織球や好中球の浸潤を認めますが、肉芽腫形成や乾酪壊死を見ることは少なく、抗酸菌染色で非常に多くの結核菌がみられます。治療は抗結核薬の多剤併用療法が施行されるものの難治とのことです。その意味では生後4か月未満での接種には慎重であるべきとされます。

参考文献

厚生労働省 ホームページ 健康・医療結核(BCGワクチン)

向川 早紀 他 BCG接種後に生じた丘疹状結核疹の1例 臨床皮膚科 73:536-540,2019

西田 圭吾 他 BCG接種後に生じた皮膚腺病の1例 臨床皮膚科 66:1005-1008,2012

高山かおる BCG接種による副反応 臨床皮膚科 65:30-35,2011

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃 医学書院
福田 知雄 第25章 皮膚結核および皮膚非結核性抗酸菌症 426-428