蕁麻疹様血管炎

蕁麻疹性の病変を示す疾患は多数あります。皮疹の性状から、短時間で出没を繰り返す通常型の定型的蕁麻疹と個疹の持続が1〜3日とやや長期である蕁麻疹様紅斑に分けると理解しやすいと思われます。
蕁麻疹様紅斑は通常の蕁麻疹の5〜20%と数は少ないですが、種々の基礎疾患と関連することも多くそれを見出すことは重要です。組織学的に炎症性細胞浸潤を伴っています。その中で蕁麻疹様血管炎(urticarial vasculitis: UV)は約20%を占めており、多くはありませんが代表的な疾患であり、組織学的に白血球破砕性血管炎(leukocytoclastic vasculitis:LCV)を認めます。
UVには血清補体値の低下を伴う低補体血症性蕁麻疹様血管炎(hypocomplementemic UV: HUV)と補体の低下を伴わない正補体血症性蕁麻疹様血管炎(normocomplementemic UV: NUV)がありますが、HUVが7割以上を占めるとされます。
またHUVの最重症型として低補体血症性蕁麻疹様血管炎症候群(HUV syndrome: HUVS)があり、これには抗C1q自己抗体が関与します。HUVSはHUVの5%にも満たない稀な病態とされます。
【病因】
最も多いのが全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)に伴うものです。その他では、その他の膠原病、感染症、血液疾患、悪性腫瘍、薬剤などが原因となります。これらが抗原として免疫複合体(immune complex: IC)を形成しⅢ型アレルギーを起こすと考えられています。HUVSではC1qと結合してICを生じます。
NUVではⅢ型アレルギーではなく、Ⅰ型アレルギーの遅発反応やマスト細胞の活性化が関与すると考えられています。
【症状】
数日間続く蕁麻疹様紅斑が反復します。中に点状または斑状の紫斑を混在します。あとに色素沈着、落屑を残しえます。自覚症状はかゆいというよりピリピリした痛み、灼熱感や違和感があります。NUVは発熱などの全身症状は伴いませんが、HUVでは発熱、倦怠感、関節炎、筋肉痛などを伴い、約半数に肝腎症状をきたします。HUVSになると高度の低補体血症と臓器傷害を認め、閉塞性肺障害(COPD)、喘息などの肺症状や眼症状(上強膜炎、ブドウ膜炎)レイノー症状、腹痛、心膜炎、末梢・中枢神経症状を呈します。
【検査所見】
NUVでは非特異的な炎症マーカー(赤沈、CRP,白血球など)の上昇以外は異常を認めません。
HUVではさらに補体値の低下、循環免疫複合体陽性を認めます。また基礎疾患によってそれに伴う異常値を認めます。例えば膠原病ならば各種自己抗体陽性、ウイルス、細菌感染症ならばそれらのマーカー、肝腎心障害異常値など。
HUVSになると上記に加えて血清C1qの低下、抗C1q抗体の上昇、肺所見などです。
【病理組織】
蕁麻疹と同様に真皮に血管周囲と間質の浮腫が顕著にみられますが、さらに真皮上~中層の小血管の白血球破砕性血管炎(Leukocytoclassic Vasculitis)を認めます。すなわち血管壁とその周囲に核塵を伴う好中球浸潤、フィブリン沈着がみられます。蛍光抗体直接法では血管壁へのIgG,IgM,C3の沈着を認めSLEに続発する例では表皮基底膜にも陽性所見がみられます。これらの所見の程度はNUVでは軽く、HUV,HUVSでは高度になってきます。
【治療】
NUVでは一過性で予後がよく、通常の蕁麻疹治療に沿った治療、抗ヒスタミン薬が試みられ、さらにインドメタシン、DDS,コルヒチンなどを適宜組み合わせて治療されています。無効例では内服ステロイド剤も使われます。
HUVでは、基礎疾患の治療とともにステロイド剤の全身投与(PSL:0.5~1mg/day)が第一選択です。さらに重症度に応じて各種免疫抑制剤、血漿交換療法、免疫グロブリン、リツキシマブなどが考慮されます。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 医学書院 2012 からの抜粋 まとめによる

◆補遺
Chapel Hill Consensus Conference 2012(CHCC2012)での分類ではUVの中でHUVを、とりわけ抗C1q血管炎のみを取り上げて、免疫複合体性小血管炎の中の一つとして挙げてあります。これはHUVSに相当するものであり、UVの全体像をとらえていません。それで日皮会の血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版もそのことに言及しHUVのみではなく、NUVも取り上げて記載されています。
CHCC2012は国際基準の血管炎分類として確立されていますが、そもそもそこには皮膚科医は参画しておらず、皮膚血管炎の取り扱いは不十分であるとの皮膚科専門家の懸念がありました。そこで欧米日の皮膚科血管炎専門家からなる作業部会によって新たな皮膚血管炎の命名法であるNomenclature of cutaneous vasculitis:dermatological addendum to the CHCC2012(D-CHCC)が2018年に発表されました。それには日本から川名先生、陳先生が依頼参加されたそうです。

川名誠司 2012年Chapel Hill会議による血管炎の命名法を踏まえた新たな皮膚血管炎の命名法 日皮会誌 129:23-38,2019

D-CHCCでは血管炎の皮膚病変を詳述し、さらにCHCC2012に採用されていない皮膚のSOV(single organ vasculitis)も取り入れてあります。その中のひとつにNUVも入っています。
D-CHCCにおいてもCHCC2012をベースに小型血管炎をANCA関連血管炎(AAV)と免疫複合体性血管炎(ICV)の2つにわけて、IVCの中の4番目にHUVが入っています。
すなわちD-CHCCではUVは2つの別の項目で記載されて全体像をとらえています。
「NUVはHUVに類似した皮膚症状と病理所見を呈するが、臓器症状を認めない皮膚のSOVであり、低補体血症、抗C1q抗体も伴わない」
HUVについては、CHCC2012におけるHUV(anti-C1q vasculitis)の定義はまさにHUVSのことを記載していて、これでHUV全体像とするには合理性に欠けると思われ、HUVには症状も軽く、抗体陰性例もあることから「抗C1q抗体が陽性となることがある」という表現に改められています。
またHUVの診断にはneutrophilic urticarial dermatosis(NUD)との異同が問題になるとのことです。近年NUDは自己炎症性症候群やSLEの炎症様式として注目されています。皮膚症状は淡紅色斑、丘疹、あるいはわずかに隆起した斑でHUVとは異なるとされ、病理組織ではフィブリノイド壊死や白血球破砕像は認めない代わりに、好中球の上皮向性浸潤像が顕著とのことです。またHUV,NUVとNUDは共存あるいは相互に移行することから、いずれも好中球性皮膚症のスペクトラムにあるとの考えもあります。
なお、SLEに生じた血管炎は本来ならば全身性疾患関連血管炎の中のループス血管炎に分類されるべきでしょうが、SLE患者に蕁麻疹様紅斑主体の皮膚症状がみられ、病理組織学的に後毛細管静脈のLCVが確認された時にはHUVと診断されます。一方真皮下層~皮下脂肪組織までの小動脈炎が生じた場合はループス血管炎とされ、蕁麻疹様紅斑以外に紫斑、血水疱、浸潤性紅斑、網状皮斑、結節性紅斑などが混在してきます。