MTX乾癬への治療効果と副作用

乾癬に対するMTX(メトトレキサート)単独の治療の用法、容量の推奨ガイドラインは全世界的にも定まっていません。ただ、欧米では、一般的に7.5mgから15mg/週を1回ないし12時間おきに3回投与、最大30mg/週が行われているようです。
国内においても定型治療法はありませんが、自治医大(大槻先生)では関節リウマチ治療におけるMTX治療ガイドラインなどを参考に以下のように処方しているとのことです。
【MTX治療の実際】
「まず、処方前に問診やスクリーニングの採血などで投与可能か検討する。処方は6~8mg/週から始め、効果をみながら2~4週ごとに2mg/週増量している。関節リウマチでの本邦の最大承認用量である16mg/週まで増量する症例はほとんどなく、多くの症例は6~12mg/週で内服している。1週間あたりの投与量を12時間間隔で2~3分割にして、原則全例で葉酸(フォリアミン)5mgの内服をMTX内服終了後24~48時間で併用している。・・・」
ただ、関節リウマチにおけるMTXガイドラインでも副作用危険因子のある症例では2~4mg/週で開始し、慎重に漸増するとしています。
◆危険因子とは・・・高齢者/低体重、 腎機能低下、 肺病変、 アルコール常飲、 NSAIDsなどの複数薬物の内服
【治療効果】
各医療機関ごとにいろいろと工夫し処方されているようですが、上記の使い方が標準とみてよいかと思われます。
明確なガイドラインがないために明確な治療エビデンスはなくMTXの乾癬に対する治療効果もまちまちですが、シクロスポリンとほぼ同等に効くが、効果発現には時間がかかり、安全性(副作用発現)ではやや劣る、末梢関節炎には有効という傾向はみてとれます。また、インフリキシマブなどのTNF阻害剤との併用で治療効果は高まり、抗薬剤抗体出現も抑制され治療継続率も高まることが報告されています。
【副作用】
大きく分けると、血液障害、肺障害、感染症、肝障害、消化管障害、新生物となります。個別にみていきます。
◆血液障害
重篤な血液障害(血球減少)例の多くは腎機能障害がみられるのでeGFR値などを参考に慎重投与する。また高齢、脱水、多剤併用などのリスクファクターも考慮すべきである。葉酸製剤を当初より併用し、高用量のMTXは避ける。GFR<30ml/分、透析患者では使用を控える。骨髄障害発生時には直ちにMTXを中止し、活性型葉酸であるロイコポリンレスキューと十分な輸液、支持療法を行う。(専門医療機関にて)
低用量使用時にも、患者、家族などの不注意で間違って多量に内服するケースも見受けるので注意が必要であるし、頻回の血液検査、薬剤確認など日頃からのチェックが重要である。
◆肺障害
既存のリウマチ性肺障害、高齢者ではリスクファクターとなる。肺障害の初期症状がみられた場合は直ちにMTXを中止し、専門医療機関で精査する。MTX肺炎、感染症(カリニ肺炎、ウイルス性、細菌性、真菌性など)、RAに伴う肺病変の鑑別治療が必要となる。                        
◆感染症
重篤な感染症では細菌性肺炎、カリニ肺炎、敗血症などが多くみられる。しかし近年は真菌症、結核、非定型抗酸菌症、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス感染症などの日和見感染症が多くみられる。また近年の生物学的製剤、JAK阻害薬、ステロイド等の免疫抑制剤の併用例が多くみられることに注意が必要である。
◆肝障害
歴史的に肝障害については米国で肝線維化、肝硬変などのリスクが挙げられ、MTXガイドラインでは肝生検の推奨が求められていた。しかしながら現在ではアルコール多飲、肝疾患、糖尿病などのハイリスク群を除けばそのリスクは少なく、むしろde novo肝炎などのB型肝炎ウイルスの再活性化の方がより重要であると考えられている。
したがって、MTX投与前は肝炎ウイルスのスクリーニング(HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体のチェック)を行い、ハイリスク群は使用を避けるか、継続的な専門医によるモニタリングが必要となる。特にHBV再活性化の際には免疫再構築症候群を惹起させる場合もあり、肝臓専門医による適切な治療、対処が必須となる。このような場合には安易にMTXは休薬せずに核酸アナログによる治療も必要になってくる。
◆消化管障害
アフタ性口内炎、吐気、食思不振、などがみられることがある。葉酸製剤の併用で幾分症状は緩和されるとされる。各症状については対症的に対応する。アフタ性口内炎にはマレイン酸イルソグラジンが、吐気にはラニセトロン、ドンペリドン、メトクロプラミドが有効であるとされる。
◆新生物
MTXを使用しているRA治療中の患者にリンパ増殖性疾患(lymphoproliferative disorders: LPD)が発症することが注目されている。2001年のWHO分類ではMTX関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)という分類があったが、RA以外の自己免疫疾患患者や、MTX以外の免疫抑制薬で治療中のRA患者にもLPDの発生が報告されるようになり、2008年版ではMTX-LPDという文言は削除された。かわりに「他の医原性免疫不全症関連LPDあるいは免疫抑制薬関連LPD」と分類されるようになった。臨床像は結節、腫瘤で潰瘍壊死をともなうことが多く、口腔発症が多い。MTXの中止によって消退するものが多く、一般的に予後は良いとされるが一方真のリンパ腫となり予後不良もケースもある。免疫抑制、免疫機構異常を背景に、加齢、慢性炎症、遺伝的要素(日本人、東洋人の発症が多い)、EBウイルス感染との関連も推定されている。
病理組織学的にはほとんどが瀰漫性大細胞性B細胞リンパ腫(diffuse large B cell lymphoma: DLBCL)の組織型をとる。一部にはリンパ増殖性肉芽腫(lymphomatoid gramulomatosis: LyG)の組織型もとる。

【乾癬治療におけるMTXの位置づけ】
今般MTXは乾癬治療薬として保険診療が承認されました。今後重症乾癬特に関節症性乾癬に対し使用されるケースが増えていくと思われます。現在RA領域ではMTXは治療の標準薬、第1選択薬、アンカードラッグとして広く世界中に使用されています。では乾癬治療においてはどういう位置づけとなるでしょうか。少なくともRAのような第1選択薬にはなりえません。海外においては、重症の尋常性乾癬、中等症でも関節炎を伴った乾癬などには第1選択薬の一つと位置づけられていて、国内でもそのようになっていくでしょう。また生物学的製剤、アプレミラスト(オテズラ)などと比較しても安価なことは医療経済的にもその選択順位はあがっていくかもしれません。
すでに述べたように生物学的製剤(特にTNF阻害薬)との併用で有効かつ、抗薬物抗体の産生が低下し、長期投与に寄与することは明らかでさらに併用が進んでいくものと思われます。大槻は乾癬治療におけるMTXの位置づけについて簡略アルゴリズム(私案)を呈示しています。中等症で末梢関節炎を伴った乾癬に対するMTX内服を中心に、生物学的製剤との併用、移行を考慮した図となっています。また「これまでの内服療法の中では、MTXとアプレミラストの併用が、安全性の面でもコストの面でも有用な組み合わせになるのではないかと考えている。」と述べています。
上記のような位置づけで乾癬に対するMTXの使用例は今後増えていくものと思われます。しかしながら副作用の項でみたようにMTXは必ずしも安全な薬剤でもありません。RA領域においてもレミケードなどの生物学的製剤、JAK阻害薬、ステロイド剤などとの併用で重症感染症のリスクが増えているそうです。重篤な肝障害による死亡例の報告もみられます。また今まで乾癬領域では少なかったMTX関連LPDの増加も危惧されています。またときに思わぬ誤内服や高齢者などの汎血球減少症の報告などもあります。有用で安価な薬剤だけに更なる慎重な使用が求められる所以です。

皮膚科で使うMTXの完全マニュアル 責任編集 大槻マミ太郎 Visual Dermatology Vol.18 No.1 2019 参照