先日の千葉県医会では埼玉県済生会川口総合病院の高山かおる先生の接触皮膚炎の講演会がありました。先生は2009年版の日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン委員会の主要メンバーの一人でその作成に尽力されました。(現在改訂版のガイドライン修正作成中)
当日は、最近の接触皮膚炎の動向、接触皮膚炎、パッチテストの概要について解説していただきました。また最近発売された簡便なパッチテストパネル(S)についても解説されました。
接触皮膚炎は時代と共に、そのアレルゲン(抗原)は変わっていきますし、ある意味その時々の時代、社会生活を反映する鏡のようでもあります。
講演の中からポイントとなる点をピックアップしてみます。
またガイドラインの内容も加味して書いてみました。
【接触皮膚炎の検査】
接触皮膚炎は原因物質のアレルギー、一次刺激によって生じます。アレルギーの有無を調べる方法がパッチテストです。テストにはFinn chamberやトリイのパッチ絆創膏が用いられています。国際的には前者が標準とされています。T.R.U.E.TESTではユニットにあらかじめアレルゲンが付着されていて、より簡易にパッチテストを実施できます。最近本邦でもready to useの簡便なパッチテストパネル(S)が発売され(2015.5)、ジャパニーズスタンダードアレルゲンに対応する多くの原因物質の検査が簡単にできるようになりました。
今までのパッチテストでは、それぞれの披検物質をチューブだと5mm、液体だと15μlろ紙につけて準備します。それを上背部や上腕外側に貼付します。48時間後に剥がして、48、72、96時間後、更には1週間後に判定します。非常に手間がかかる割には保険点数は低く、患者さんにも数度の受診など負担がかかる検査です。しかも判定に偽陽性、偽陰性が一定の確率であり(1割程度)広く一般の皮膚科診療で行われているとはいえません。
しかし、接触アレルギーの原因究明において、パッチテストより確実かつ有用な原因解明方法はありません。一旦原因がパッチテストで解かり、それを除去できれば接触皮膚炎は治癒に向かいます。従って非常に重要かつ有用な検査です。
今回発売されたパッチテストパネルは高価ではありますが、レディーメイドの検査薬を背中に貼るだけで簡単に手技の巧拙に関係なく、標準化されたアレルギー検査ができます。
パネル2枚で各々11種類、全部で22種類のアレルゲンが検査できます。(ジャパニーズスタンダードの25種類のうち、21種類を含んでいます。比較の表をあげてみました。)
薬剤料15875.2円(1588点)+検査料350点=1938点(19380円)3割負担だとその3割、
【パッチテストの注意点】
◆excited skin syndrome
非常に強い陽性反応がでると、その周囲にも多くの陽性反応を引き起こすことがあります。これを上記のように呼びます。またはangry back syndromeと呼びます。このような場合は、非特異的な反応を否定するためにより少ない数や特定のパッチテストのみを再検査します。
◆偽陰性、偽陽性
上にも書きましたが、検査の結果と臨床症状が合わないときがあります。例えば毛染めではオープンパッチテストを行いますが、1剤、2剤を混ぜたものを施行しても、かなりな割合で偽陰性にでるそうです。その際に同時にパラフェニレンジアミンのパッチテストを行っていると陽性に出ることもあるそうです。
時には、再テストをおこなったり、接触皮膚炎を起こした部位で施行したり、テープで角質を剥がして施行したりして陽性に出る場合もあります。
また、眼瞼周囲部ではマスカラ、シャドーなどが原因になりえますが、パッチテストでは陽性にでず、使用テストで初めて陽性に出る場合もあります。
逆に金属抗原では刺激反応が出やすいともいわれます。
◆化粧品不耐症cosmetic intolerance
明らかな皮疹を欠くにも関わらずあらゆる化粧品で刺激感、灼熱感を訴えるケースがときにあります。特に乾燥肌、酒さの人に多くみられるようです。
【近年の接触皮膚炎の動向】
皮膚に接触するあらゆる物質が原因となりえますが、大きく以下のように分けられます。1.日用品 2.化粧品 3.植物、食物 4.金属 5.医薬品 6.職業性
それぞれについて留意点をあげます。
1.日用品
シャンプー、化粧品類に含まれる界面活性剤、衣類、文具、台所用品の抗菌製品、ゴム製品、衣類の染料、眼鏡のセルに含まれる着色剤など。
髪の生え際から額、耳介、項部にかけての湿疹では洗髪剤を考えます。フルフルシャンプーに含まれるラウロイルメチルβアラニンNaによる報告もあります。
イソチアゾリン系防腐剤であるケーソンCGは本邦ではシャンプーのような洗い流す製品にのみ使用可能でしたが、平成16年からは低濃度であれば洗い流さない製品にも使用が可能となったために陽性率の増加が懸念されます。外国製品に多く含まれます。美容パック、冷感タオル、BBクリームなどにも含まれていることがあります。眼鏡のセルでは寒河江の製造が外国製品に押されて輸入物が多くなってより着色剤solvent orange60によるものの増加があります。近年抗菌デスクマットによる前腕のかぶれが多く報告されました。ゴム製品は加硫促進剤をはじめとして、接着剤、樹脂成分などなどかぶれの報告は多いです。(履物、手袋、ベルト、テープ、マーカーペンなど)
2.化粧品、毛染め
毛染めによるものは増加傾向にあります。日本ではしっかり黒髪に染めるためにパラフェニレンジアミンの陽性率が諸外国より高いです。これは接触皮膚炎症候群など重症なアナフィラキシーに発展するなど注意を要します。先に述べたようにオープンパッチテストでは偽陰性に出やすいので注意が必要です。化粧品では免疫的機序のない刺激性接触皮膚炎や光の関与する接触皮膚炎もあります。茶のしずく石鹸や美白剤ロドデノールや口紅色素のコチニールなど使用頻度と共に急に製品被害が明らかになるケースもあります。
3. 植物、食物
イモ類はシュウ酸カルシウムによる刺激性の接触皮膚炎をおこします。アレルギー性ではプリムラ(西洋サクラソウ)、銀杏では激しい皮膚炎をおこします。銀杏は、うるし、マンゴー、カシューナッツと交叉過敏性があります。キクは光線過敏性皮膚炎に似た症状を呈します。葬儀屋、花屋勤務者では注意を要します。セリ科、ミカン科、クワ科の植物では光接触皮膚炎をおこします。含まれるフロクマリンによります。レモンパックなどは注意を要します。空中の花粉類との接触で生じる空気伝播性の接触皮膚炎もあります。スギではストッピングパッチテストが有用とされます。
4.金属
本邦のJCDRGによるパッチテストの陽性率の上位は金属が占めています。1位 塩化コバルト 2位 硫酸ニッケル 4位 重クロム酸カリウム 5位 塩化水銀アンモニウム
近年ピアス装着率は上昇、臍出しルックなど直接金属を肌につける生活習慣も定着しています。また、スマートフォン、iPADなどに含まれるニッケルアレルギーも増加しています。より頻度は少ないものの歯科金属、骨接合金属、血管内ステントによる金属アレルギーの報告もあります。チョコ、ココア、豆類、香辛料、貝類、胚芽に金属が含まれていることは意外に知られていません。また皮製品(皮なめし)、セメント、顔料、塗料、陶器うわぐすり、絵具、写真、灯油などにも含まれています。金属アレルギーは掌蹠膿疱症、汗疱性湿疹、扁平苔癬、貨幣状湿疹、痒疹、全身性接触皮膚炎症候群などに関与しているとされます。
最近簡単にニッケル、コバルトを検出するキットが発売されているそうです。
“Detecting Nickel or Cobalt is a Snap!” SmartPractice ネットで検索できます。
5. 医薬品
多くの医薬品がかぶれをおこします。抗菌薬ではアミノグリコシド系の硫酸フラジオマイシン、ゲンタマイシンなどがあります。リンデロンA、ネオメドロールEEは硫酸フラジオマイシンを含み、時にかぶれを起こします。眼瞼のかぶれの治療によく使われる薬ですので特に注意を要します。本邦では諸外国に比べて、フラジオマイシンの感作率が高いとされています。
アミノグリコシド系以外でもクロラムフェニコール、バシトラシンなど多くの抗菌薬の報告があります。抗真菌薬ではイミダゾール系で多く報告があり、また同系統では交叉反応を起こすために数種類の水虫薬でかぶれる場合もあります。
消炎鎮痛外用剤も多くの報告があります。ブフェキサマック(アンダーム)は時に激しいかぶれをおこします。ウフェナマート、インドメタジンもときにかぶれをおこします。
ケトプロフェン(モーラステープ)は光毒性が高く光接触皮膚炎をおこし易いので注意を要します。
局所麻酔薬の塩酸ジブカイン、塩酸リドカインもかぶれをおこします。また痒み止めの塩酸ジフェンヒドラミン(レスタミン)、クロタミトン(オイラックス)もときにかぶれをおこします。これらの薬剤はOTC(市販薬)の痒み止め、水虫薬などに多く複数含まれているためにかぶれの原因になっていることがあります。
接触皮膚炎の治療に用いられるステロイド薬そのものでかぶれることも稀にありますので注意を要します。ステロイドの消炎作用によって1週間近くたたないとパッチテストが陽性に出ないこともあります。
消毒薬、潰瘍治療薬もかぶれを起こすことがあります。、ポピドンヨード(イソジン、ユーパスタ、カデックス)、塩化ベンザルコニウム(オスバン)、グルコン酸クロルヘキシジン(ヒビテン)など。創部の悪化として現れるので原因が判りにくく、慢性化することもあります。
坐薬、膣錠には抗菌薬や局所麻酔薬が含まれていることも多く、粘膜部より吸収されて接触皮膚炎、ときには全身性の接触皮膚炎をおこします。
5.職業性
職業性皮膚炎の原因となるものは化学物質が多いですが、わが国の産業分野で使用されるものは数万種類といわれ、毎年新規の物質が導入されています。接触皮膚炎にはアレルギー性と一次刺激性のものがありますが、アレルギー性のものが60%とされています。危険性のある化学物質に対しては、化学物質等安全データシート(Matearial Safety Data Sheets: MSDS)を添付して販売するように義務づけられています。様々な原因物質がありますが、以下のものがあげられます。
・金属・・・ニッケル、クロム、コバルト
・合成樹脂・・・エポキシ樹脂、アクリル樹脂、空中に浮遊して症状をおこします。工場現場以外に歯科衛生士にも発症します。
・切削油・・・機械油
・ゴム・・・ラテックス(I型アレルギー)
・中性洗剤
・皮革
・セメント
・農薬、殺菌剤
・化学熱傷・・・酸、アルカリ、フッ化水素、灯油、セメント
・植物
頻度では理容・美容師が多く、メッキ、金属工場、化学系工場従事者、調理、飲食関係者、医療従事者、清掃業務者などがみられます。
参考文献
日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン委員会 高山かおる、横関博雄、松永佳世子 ほか:接触皮膚炎診療ガイドライン.日皮会誌.119(9),1757-1793,2009(平21)
パッチテストパネル(S)とジャパニーズスタンダードアレルゲンの対比
パネル(1)(2)の内容
パッチテストパネル(S)