ばち状爪

ばち状指とは、指趾の末端に限局して、軟部組織の肥大が生じて爪甲の根元の窪みがなくなって、指先が太鼓撥のように膨らんだものをいいます。爪甲の膨らんだ様子が時計皿のように凸面になっているので時計皿爪ともよばれます。
紀元前5世紀にヒポクラテスは膿胸の患者さんでばち状爪がみられることを認知していたそうで、そのためにこの状態はヒポクラテス爪ともよばれています。
【症状】
定常の爪では爪の根元はやや窪んでいます。目の前に指を水平にかざすと、爪と末端の指の関節部との間にわずかな窪みがみえます。この角度は正常では160度だそうです。ばち状指になると180度(水平)、あるいはそれ以上になって上に彎曲して凸面になってきます。
これを簡単に確認する方法としてSchamrothの方法があります。左右の同じ指の爪同志を背面でくっつけるように合わせます。正常では爪の根元部分(爪郭部)に細長い菱形の隙間ができるはずです。ばち状指になるとこの隙間がなくなってきます。
一般的に第1指趾に始まりますが、次第にその他の指にも進行していくそうです。症状は足趾よりも指のほうに顕著にでやすいようです。
【病態】
どのような機序で、ばち状指ができあがるのかについては諸説あり、結論はでていません。ただ、初期には爪の根元の皮膚とその下の骨の間の軟部組織に浮腫が生じ、後には血管、線維の肥大が起きてきます。上から圧すると爪が上下に動く感触があります。
先天性に生じる場合を除けば、各種内臓疾患に伴って生じます。発症機序には諸説あり、組織低酸素説、血管拡張作用物質説、迷走神経刺激説、中毒物質説などが考えらえています。
中でもPDGF(platelet-derived growth factor)の関与によって上記のような組織の変化を生じるという説が有力です。肺循環に異常があれば大きな血小板が形成され、指先でPDGFを放出するそうです。またIL-6の関与、肝硬変に伴ってHGF(hepatocyte growth factor)が増加して症状を引き起こすという報告もあります。
【分類】
1)先天性
pachydermoperiostosis
常染色体優性遺伝性疾患で、男性に圧倒的に多いとされます。末梢の長管骨すなわち、腕、下腿や手足の骨の骨膜肥厚があり、四肢は太く関節腫脹と痛みを伴い、ばち状指を伴います。頭部、顔面特に額に皮膚の肥厚と皺の形成(脳回転状皮膚)、脂ぎった顔を認めます。この場合は心肺に異常はなく、従って血流量にも異常はみられません。
ばち状指だけがみられる先天性の変化もあるそうです。
2)後天性
様々な全身疾患に伴って生じてきます。
有名なものは慢性の肺疾患に伴うものです。膿胸、肺結核、塵肺、サルコイドーシス、喘息、気管支拡張症などなどです。病気が進行すればばち状指も進行するといわれますが、肺癌に伴ったものでは比較的早期から生じるケースもあるそうです。IL-6が原因になっているという報告もあります。肺癌に伴う場合は二次性肥大性骨関節症を生じ易いとされます。長管骨の骨膜性肥大、関節炎、関節痛、筋力低下等が認められます。肺癌を切除すれば症状も軽減するそうです。ただし、迷走神経切除のみでも軽減するという報告もあります。これは心不全などに伴う場合もあります。
心疾患ではチアノーゼを伴う先天性の心疾患では2歳頃からすでにばち状指を生じるそうです。うっ血性心不全、心内膜炎などでも生じえます。
その他、様々な全身疾患での報告があります。
甲状腺機能亢進症、肝疾患、消化器疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病、消化器がんなど)、全身性エリテマトーデス、ホジキン病、Crow-Fukase症候群、また職業性に塩化ビニールに曝露して生じた例もあるそうです。
【治療】
治療は原因となっている疾患の治療によるしかありません。逆にいうと後天性のばち状指には必ずその原因となる疾患があるということです。

参考文献

東 禹彦: 爪 基礎から臨床まで. 金原出版 第1版第7刷 2013

Mark Holzberg:The Nail in Systemic Disease. Baran and Dawber’s Diseases of the Nails and their Management, Fourth Edition. Edited by Robert Baran, David A.R.de Berker, Mark Holzberg and Luc Thomas.2012 John Wiley and Sons,Ltd. p316-362

ばち状指3

ばち状指1