円形脱毛症の鑑別

円形脱毛症と鑑別を要する脱毛症は、全ての後天性の脱毛症になるかもしれません。従って全ての脱毛症の分類を羅列することになります。
これは、細かいもの、稀な原因をも含めると煩雑なものになりますので大まかなところを列記します。
色々な脱毛症の分類法がありますが、佐藤は次のように分類しました。
1)瘢痕や皮膚病変を伴わないもの
*円形脱毛症
*男性型脱毛症・・・後述します。
*休止期脱毛・・・
1961年にKligmanが提唱、Headingtonはこれを5型に細分類しましたが、成長期即時終了型が大部分を占めるそうです。
出産、心理的・身体的な様々なストレス、薬剤、種々の内蔵疾患、内分泌異常、急性熱性疾患などが引き金となり本来ならば数年間続くべき成長期毛が急に全体的に休止期に移行して発症します。これらのイベントがあってから2~3ヶ月後に頭部全体にびまん性の脱毛がみられます。これらの誘因が取り除かれれば、何もしなくても数ヶ月後には自然に軽快します。
円形脱毛症と異なり、休止期毛の割合が増加し、トリコスコピーでは円形脱毛症にみられるような黄色点がみられないでそうです。
薬剤性には成長期脱毛と休止期脱毛があり、前者の代表が抗がん剤で、後者にはヘパリン、インターフェロンα、エトレチナート(レチノイド)、リチウム、バルブロ酸、カルバマゼピンなど、この他にも多くありますが特定が困難な場合もあります。まず大切なことは発症2~4ヶ月前の薬剤を疑うことだといいます。確定診断は再投与試験ですが実際的にはまず無理です。
近年開発の進んでいる分子標的薬はほぼ全てが脱毛を生じうると考えていいそうです。
*外傷性脱毛症・・・
牽引によるもの、圧迫によるもの(術後脱毛症)、トリコチロマニアなど

2)皮膚病変、病的皮膚にみられる脱毛
・炎症によるもの・・・全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚筋炎、毛のう性ムチン沈着症など
・感染によるもの・・・梅毒、ハンセン病、白癬(トンズランス感染症、ケルズス禿瘡など)
・腫瘍によるもの・・・乳癌転移、菌状息肉症など

3)瘢痕性脱毛症
様々な原因や疾患によって毛包が破壊、消失して永久脱毛が生じます。
原発性と続発性に分けられます。
続発性は、熱傷、外傷、放射線、腫瘍、感染、種々の疾患(SLE、モルフィア、サルコイドーシスなど)で生じます。
原発生瘢痕性脱毛症は毛包自身が標的になる原因不明の疾患群です。日本ではこれらの報告数は少ないそうです。
欧米では浸潤する炎症細胞の種類によって4つに分けられているそうです。
1.リンパ球性 2,好中球性 3.混合性 4.分類不能
これらの疾患を診断するのには臨床、経過と共に病理組織検査が必須になってきます。
この中で幾つか特徴的な疾患について書きます。
・膠原病に伴うもの、円板状エリテマトーデス(DLE)、深在性エリテマトーデス(LEP)、剣創状強皮症などでは瘢痕性脱毛を生じます。症状、自己抗体、組織検査などで診断します。
・frontal fibrosing alopecia
近年報告されたものですが、前頭部から側頭部の生え際に、帯状に左右対称性に生じる毛孔のない瘢痕性脱毛症です。当初は閉経後の女性にのみ生じるとされていましたが、閉経前の女性や男性にも生じることがわかってきました。これは組織学的にlichen planopilaris(LPP)に似た像をとります。それで北米毛髪学会ではこれをLPPの一亜型と分類しています。
病初期の炎症がある時期にステロイド、フィナステリド、クロロキンなどが使用されます。瘢痕性になると永久的な脱毛となります。
・pseudopelade of Brocq
1885年、Brocqによって報告された脱毛症ですが、初期は毛包周囲に紅斑落屑を認めますが、後期になると、表面が平滑で少し陥凹した萎縮性の小脱毛斑(footprints in the snow)が残ります。中高年の女性に多いそうですが、明確な原因は分からないとのことです。最終的には明らかな毛包炎や炎症所見はみられません。LPPやDLEなどの炎症疾患の末期像だとする意見もあるようです。
・頭部乳頭状皮膚炎、膿瘍性穿掘性頭部毛包周囲炎
中高年男性の後頭部に毛包性膿疱が集まって多発します。好中球性の炎症で、黄色ブドウ球菌などもみられることもあります。抗菌剤と共にステロイド剤、レチノイドなどが使われますが難治です。
その他にも種々の瘢痕性脱毛症があるそうですが、体質、人種なども関連があるようですが、真の原因が不明なものが多いようです。

参考文献

Visual Dermatology 毛髪の疾患ーー後天性脱毛症 責任編集 勝岡憲生
勝岡憲生 総論 後天性脱毛症の疾患カテゴリーとその内訳 p.126-129

皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略
総編集◉古江増隆 専門編集◉坪井良治 中山書店 2011
Ⅳ その他の脱毛症
26 瘢痕性脱毛症 保坂彩子、坪井良治 p.150
27. 休止期脱毛症 中村元信 p.158
29. 薬剤投与に伴う脱毛症 橋本 剛 p.165
33. 膠原病に伴う脱毛症 新井 達 p.192