ハンセン病・症状、治療

【臨床症状】
Ridley-Joplingは細胞性免疫の働きの多寡より、本症のスペクトラム分類をしました。すなわち細胞性免疫が全く働かない型をらい腫型(lepromatous leprosy;LL型)と位置づけ、他方細胞性免疫が亢進している型を類結核型(tuberculoid leprosy;TT型)と位置づけ、その中間に種々の程度に細胞性免疫が低下している境界型(borderline group; B群,BL,BB,BT)を置きました。またこれらのいずれにも相当しない初期の病型を未分化群(interminete group;I群)と呼びます。この分類はハンセン病の病態をよく反映しているとして流用されています。
 一方WHOでは治療面で簡略になるように、病変部が6か所以上の多菌型(multibacillary;MB)と5か所以下の少菌型(paucibacillary;PB)の2型に分けています。多菌型はLL,BL,BBで、少菌型はTT,Iが相当します。またBTは両者の型で認められます。この分類は病理検査が不要で開発途上国向きです。PBではスメア検査が陰性でMBでは陽性のことが多いです。

🔷皮膚症状
●LL型
1)初期紅斑期・・・淡い浮腫性紅斑が多発します。知覚鈍麻や発汗低下は伴わないことが多いです。
2)浸潤期・・・紅斑に浸潤を伴うようになり表面に光沢があります。
3)後期結節局面期・・・進行すると浸潤性紅斑に丘疹、結節を形成するようになり、獅子様の顔貌となることもあります。
口唇の丘疹や口蓋の結節が生じる事があり(時に穿孔する)、舌や歯肉、口蓋垂、鼻粘膜なども侵されることがあります。鼻出血はよく見られます。これらは主な感染源となり得ます。

●TT型
境界明瞭な円形ないし楕円形の比較的大きい淡紅色から黄褐色のわずかに隆起した局面を形成します。数は1個から数個と少数です。中心治癒傾向の輪状局面で発汗低下、知覚・運動麻痺、病変部近くの神経肥厚を伴います。表面は乾燥して落屑を有し、軽快後は不完全脱色素斑となります。顔面では神経の分布が多いために知覚低下は確認しがたいです。

●B群
TT型とLL型の中間型で慢性に経過します。境界の不明瞭な紅色浸潤局面が多発します。中に健常皮膚を残すことがあります(punched-out appearance)。皮疹は非対称性に分布します。らい菌に対する免疫状態が不安定で種々の病像を呈します。この型が一番多くみられ、不安定な病態のために、LL型へ(down-grade)またTT型へ(upgrade)移行することがあります。T型に近づくにつれ、数は少なく、乾燥し、より脱毛、発汗低下は進行し知覚鈍麻も進行します。らい菌の数は減少していきます。
・BT型 知覚鈍麻を伴う好色局面で、T型に似ますが、より数は多く、小型で周辺に小衛生病巣を有します。
・BB型 TTとLL型の中間型で、中央に脱色素斑を有し(punched-out appearance)、周囲に紅色の板状硬結あるいは環状紅斑を有します。この型は不安定で各型に移行し易いとされます。
・BL型 多発する紅斑局面で、浸潤が強く中心治癒傾向があります。丘疹、結節、浸潤紅斑など多様な皮疹形態がみられます。末梢の神経肥厚が見られます。

●I群
初期病変で、T,B,Lいずれの群へ進むか未確定のものです。自然治癒する場合もあります。数cmの境界の不明瞭な単純な紅斑、不完全脱色素斑で知覚鈍麻と発汗障害があることが多いです。顔面、四肢伸側、躯幹に多くみられます。

T型、L型両極の臨床症状の特徴
          T型             L型
数        1-10            多数、融合
分布       非対称性、どこでも   対称性、ただし、一部を除いて
境界、色調    明瞭、脱色       不明瞭、軽度脱色素
知覚障害     早期、高度、限定的   晩期、徐々に、広範囲に、
                     身体の低温度部位に
自律神経     早期、皮膚や神経部位  晩期、広範囲
神経肥厚     明瞭、一部神経     軽度ただし広範囲
粘膜、全身症状  無し          普遍、2型反応時は高度
らい菌      検出されず       多数

その他の稀な病型
・histoid leprosy:皮膚線維腫様の結節が多発する
・pure neuritic leprosy:皮疹は伴わず、末梢神経の肥厚、疼痛、圧痛、知覚鈍麻を認める。インド、ネパールに多い。(患者の5-10%)
・Lucio’s leprosy:全身のびまん浸潤が主症状で結節は生じない。進行すると血管炎による皮膚潰瘍が多発(主に下肢)、Lucio現象とよばれる。原因菌はM.lepraeではなく2008年に発見されたM.Lepromatosis.による。 メキシコ、中央アフリカに多い。

🔷ライ反応
境界群(Borderline)では免疫学的に不安定で時にらい反応を生じます。1型反応は遅延型免疫反応(IV型アレルギー反応)で、ライ菌に対する、皮膚、神経でのらい菌抗原に対する過剰な反応によります。発熱、発赤、浮腫、神経麻痺など。すでに存在する部位の皮疹の増悪が主ですが新生疹も生じることがあります。急な知覚、運動障がいもきたします。治療開始1年以内に生じることが多いと報告されています。発症には治療薬剤、ストレス、BCG接種、妊娠、分娩などがリスク因子となりえます。
2型反応はらい性結節性紅斑(erythema nodosum leprosum :ENL)でBL,LL型(主にLL型)でみられます(LL型50%、BL型15%)。発熱、発汗、頭痛、関節痛を伴い、急激にEN様の紅褐色局面、皮下結節を生じます(熱瘤)。細胞性免疫は働かず、一方で多量の抗体産生があり免疫複合体が組織、血管壁に沈着することによるArthus型反応と考えられています。慢性期になると潰瘍形成や二次感染を生じます。ENLは全身反応で末梢神経症状とブドウ膜炎や緑内障などが重症な合併症となります。
 ライ反応に対しては、軽症では鎮痛消炎剤、神経炎を伴う重症例にはステロイドの全身投与を行います。2型反応に対しては保険適用のサレドカプセル(サリドマイド)が奏功します。
ステロイド内服(PSL30~60/mg/day 20w漸減)などがおこなわれますが、途中で免疫再構築症候群が生じて悪化する事もあります。
Lucio反応はびまん性LL型に限定してみられます。ENLに比して発熱、圧痛、白血球増多は生じません。下肢に多く、出血、痂皮、潰瘍形成を繰り返します。免疫複合体が原因と考えられています。血管の虚血から閉塞、出血性梗塞、血栓がみられ、ライ菌が多く認められます(現在では別種の菌)。

🔷神経症状
1)知覚障害
主に知覚神経が早期に、強く侵されます。しかし運動神経優位、それのみの例もあります。自立神経障害は重度の神経障害にはみられます。皮膚では知覚、痛覚、温度覚、触覚障害に伴って、毛、脂腺、汗、色素障害もみられます。末梢神経では後脛骨神経の障害が最も頻度が高く、次いで尺骨、正中神経が侵されます。
2)発汗障害、病変部、非病変部にも生じます。
3)末梢神経肥厚
大耳介神経、尺骨神経、橈骨神経、正中神経、総腓骨神経、腓腹神経などが紡錘状、数珠状に肥厚し、圧痛を伴うこともあります。
4)運動神経
尺骨神経、正中神経、橈骨神経麻痺などで、手指は特徴的に屈曲し鷲手、猿手となります。下肢、足部の神経障害は麻痺、拘縮、外傷などにより重篤な障害に陥ります。

🔷眼症状
眼の障害は神経障害、また細菌感染症から起こってきます。MBの患者では2.8%の人が、また将来的には11%の人が失明すると予想されています。神経障害(顔面神経、三叉神経)は閉眼を困難にし、角膜、結膜の麻痺は乾燥、外傷、感染症の繰り返しから角膜潰瘍、緑内障を引き起こし、失明にいたります。

🔷予後
抗菌剤は有効ですし、再発はすくないですが、治癒までに長期間を要します。border lineの患者は、未治療のままではL型にdown-gradeする恐れもあります。そしてL型の患者はらい菌の進展に伴い、様々な合併症に苦しむことになります。またborder lineの患者は1型のらい反応を引き起こしやすく治療にも関わらず、不可逆的な神経障害を残すこともあります。その発症の予測は困難です。

【診断】
@臨床診断
1.皮疹部位の神経障害(知覚神経)、皮疹の分布
2.末梢神経の肥厚、特に好発部位の
3.特徴的な皮膚症状

@らい菌の証明
1.皮膚スメア検査
らい菌は真皮に多く存在するので、耳朶、前額、前腕尺側、下腿外側などを指でつまみ、数㎜メスで刺し(長さ5mm、深さ3mm)、90度回転させ、血液がつかないように組織液を掻き出し、スライドグラス上でZiel-Neelsen染色を行い、1000倍視野で菌数を数える。
菌指数(bacterial index;BI)(6+:毎視野1000個以上、5+:100~1000、4+:10~100、3+:1~10:2+:10視野1~10、1+:100視野1~10)
2.抗phenolic glycolipid-1(PGL-1)抗体
多菌型で80%以上、小菌型で30%の陽性率
3.病理検査 
皮膚生検、神経生検(特にpure neural leprosy) (Fite染色)
4.PCR検査 らい菌遺伝子の繰り返し構造をターゲットとして行う。

【治療】
1940年代後半にダプソンの有効性が発見され、単一療法が続けられてきました。それにより、多くの耐性菌が出現してきました。現在ではWHOの推奨する多剤併用療法(MDT:multidrug therapy)が行われています。
リファンピシン(RFR、リファジン)(150mg) 1回4cap 月1回 朝食前
クロファミジン(CLF、ランプレン)(50mg) 1回6cap 月1回、それ以外の日はⅠ回1cap
1日1回
レクチゾール(DDS,25mg) 1回2T 1日2回
この上記薬剤を多菌型(MB)では1~3年、少菌型(PB)では6ヶ月内服する。
上記の他に、オフロキサシン(保険適用)、ミノマイシン、クラリスロマイシンが奏功します。

【現状での問題点】
⚫︎新規患者に対しては上記治療がなされますが、実際には国内では日本人の発症はなく、在日外国人では、青年層で年間数名の発症のみです。ハンセン病への知識、認識の不足により診断が遅れる可能性があります。知覚異常に伴う皮疹、ステロイド剤に反応しない、繰り返す外傷などの皮疹をみた場合には、ハンセン病もその鑑別に考えておく必要があります。
⚫︎「らい予防法」は廃止となり、療養所外の回復者では、一般外来での治療となりました。国内(日本人)でのハンセン病の患者は高齢化し治癒後も後遺症に悩まされています。特に眼と末梢神経障がい、それによる、変形、皮膚潰瘍などの治療と予防が重要です。

これらを踏まえてハンセン病の知識が実地医家、一般皮膚科医にも求められています。

参考文献

皮膚科学第9版 著・編 大塚藤男 原著 上野賢一 金芳堂 2015
第28章 皮膚抗酸菌感染症(大塚) 3.ハンセン病 pp820-827

今日の皮膚疾患治療指針 第5版 編集 佐藤伸一 藤本 学 門野岳史 椛島健治 医学書院 2022
27 細菌性疾患 Hansen病 山崎正視 pp914-918

皮膚疾患 最新の治療 2021-2022 編集 高橋健造・佐伯秀久 南江堂 2021年
XVI 感染症 A 細菌 9 Hansen病 野上玲子 pp196

ハンセン病の現状 石井則久 臨床皮膚科 73:660-661,2019

Hansen病の現状 尾崎元昭 臨床皮膚科 61:138-139,2007

Rook’s Textbook of Dermatology 8th Edi. Vol.4 WILEY-BLACKWELL
Edited by Tony Burns Stephan Breathnach Neil Cox Christopher Griffiths
Chapter 32:Leprosy D.N.J.Lockwood