膠原病を一言で定義することは難しいですが、全身の結合組織を系統的に侵襲し、フィブリノイド変性を生じる疾患群で、それぞれの疾患に特異的な自己抗体が出現することから、自己免疫疾患の要素が強いと考えられています。膠原病では特定の臓器だけを侵さずに疾患または患者個人それぞれによって主病変の部位が異なってきます。それで診断は診断基準に基づいてなされています。最近、新たな自己抗体もみつかり国際的な診断基準も見直されてきているそうです。その中には皮膚症状も組み込まれていますが、改定された基準では皮膚症状の重要性がより強調されているようです。近年のダーモスコピーの普及によってより詳細に皮膚病変を観察できるようになったことも寄与しているように思われます。
膠原病の皮疹は全身に現れますので、全身の皮膚をくまなくチェックしないと見落とす危険性はあります。しかし、顔面や手などの露出部に特徴的な皮疹がみられることが多く、短時間の外来診療でもそこを注意深くみることで多くの情報を得ることができます。
膠原病の代表的な疾患である、強皮症、皮膚筋炎、エリテマトーデス(紅斑性老狼瘡)の皮膚症状を指、爪の部分に絞って調べてみました。
【強皮症】
皮膚が浮腫から繊維化、硬化し、萎縮していく原因不明の疾患で種々の内臓臓器に病変を合併する汎発性強皮症と皮膚のみに限局する限局性強皮症があります。
◆レイノー(Raynaud)現象・・・寒冷刺激によって手指の色調が白→紫→赤の三相性の変化をとる現象です。発作性の指足趾の血管のれん縮による色調変化です。基礎疾患を伴わないものを一次性とよび、基礎疾患を伴うものを二次性とよびます。二次性レイノー現象はさまざまな疾患で生じますが、膠原病とりわけ強皮症の初発症状としてみられる頻度が高いです。全身性強皮症の約半数はレイノー現象で発症し、約9割は経過中にレイノー現象を経験するそうです。また皮膚硬化の10年前にレイノー現象のみをみる例もあるそうですので、レイノー現象のある患者さんでは常に強皮症を考えておく必要性があります。(スコア3)
◆手指皮膚硬化・・・全身性強皮症の最も特徴的な皮膚症状ですが、当初は硬いというより浮腫、手指のむくんだ感じで始まることが多いとされます。徐々に中枢に向かって進行します。それで硬いというよりも、指が腫れぼったくないか、指輪が入りにくくなってこないか、などの確認がポイントとなってきます。皮膚の硬化が進んでくると、手指が硬く引き締まってきて、皮膚表面が光沢をもち、屈曲拘縮をきたしてぴったり両手が合わさらなくなってきます。
手指の硬化は強指症(sclerodactylia)とよびますが、皮膚硬化の範囲が肘をこえるものをび漫性全身性強皮症(diffuse cutaneous systemic sclerosis: dcSSc)とよび、肘までに留まるものを限局性全身性強皮症(limited cutaneous SSc: lcSSc)と分けています。
自己抗体のタイプと病型は関連性があり、dsSScだと抗トポイソメラーゼI抗体が、lsSScだと抗セントロメア抗体が陽性にでやすいそうです。(自己抗体 最大スコア3)
2013年の米国リウマチ学会と欧州リウマチ学会の診断基準(2013 ACR/EURAR Classification Criteria)によると、中手指節関節を超える両手指の皮膚の硬化があれば、スコア9でそれだけで強皮症の診断は確定します。(強指症 スコア4、手指腫脹 スコア2)
◆爪上皮の変化・・・強皮症では爪上皮の延長、点状出血、爪囲紅斑などが認められます。正確には毛細血管顕微鏡で確認されますが、これは限られた施設にしか設置されていません。しかし、ダーモスコピーによってもかなり詳細に観察できるとのことです。4つのステージに分けられます。(爪上皮毛細血管異常 スコア2)
stageI: U字型にカーブした拡張した毛細血管が少数みられます。
stageII: 毛細血管の環の数が減少し、正常な血管の中に巨大毛細血管がみられるようになります。
stageIII: 上記の状態が進行し、毛細血管の環は減少し、逆に巨大毛細血管は多くなります。背景はもやがかかったようになります。萎縮した血管もみられます。
stageIV: 多くの無血管領域が出現し、巨大血管も減少し、背景はさらにもやがかかったようになります。
◆指尖部虫喰状瘢痕・潰瘍・・・強皮症の診断基準にも入っているように、本症に特異性の高い所見です。全身性強皮症の約半数にみられ、末梢循環障害を反映しているとされます。必ずしも外傷や皮膚潰瘍が先行するとは限りません。寒冷刺激や喫煙が悪化因子になりますのでこれらを避けることが重要です。(指尖部潰瘍 スコア2、指尖部の陥凹性瘢痕 スコア3)
◆毛細血管拡張・・・爪上皮出血点や毛細血管拡張は病初期から出現することが多く、診断の手助けになります。
Osler病型、斑状型、クモ状血管腫型に分けられます。(毛細血管拡張 スコア2)
肺高血圧症か肺線維症(最大スコア2)
2013年のアメリカリウマチ学会と欧州リウマチ学会の新たな診断基準では上記の臨床、検査項目を点数化して合計点数が9点以上を強皮症と診断する、としています。
参考文献
皮膚科臨床アセット 7 皮膚科膠原病診療のすべて 総編集◎古江増隆 専門編集◎佐藤伸一 中山書店 2011
Visual Dermatology Vol.8 No.10 2009 手と顔から見つける膠原病 責任編集 佐藤伸一
東 禹彦: 爪 基礎から臨床まで. 金原出版 第1版第7刷 2013
茂木精一郎. 膠原病update 新しい診断基準 日皮会誌:124(13),2603-2607,2014
Luc Thomas, Myriam Vaudaine, Ximena Wortsman, Gregor B.E. Jemic and Jean-Luc Drapé. Imaging the Nail Unit. Baran and Dawber’s Diseases of the Nails and their Management, Fourth Edition. Edited by Robert Baran, David A.R.de Berker, Mark Holzberg and Luc Thomas.2012 John Wiley and Sons,Ltd. p101-182