ミーシャー型母斑、ウンナ型母斑
良性の母斑(ホクロ)の中で、顔面、頭部にみられる多くの母斑がこのタイプに入ります。
◆ミーシャー(Miescher)型母斑
顔面のホクロはほとんどがこのタイプです。直径7mm程度までのドーム状に隆起する柔らかい結節です。表面は平滑で、乳頭腫様の凸凹は目立ちません。1~数本の硬毛を伴っていることが多いです。色調は若年期には青黒色調を呈しますが、年齢が上がってくると、淡褐色、常色へと退色します。これは母斑細胞が成熟化(maturation)するためで、病理組織的には当初、真皮―表皮境界部成分が多い(junction activity)ものが、次第に真皮内のみの母斑細胞成分へと成熟化するのと対応しています。(表皮、真皮からなる複合型母斑から真皮内型母斑へ)
母斑細胞は変性して、神経化、線維化、ムチン化、脂肪化(neuroid, fibrous, mucinous, fattydegeneration)していくので黒色調はなくなって柔らかく盛り上がっていくのです。
【ダーモスコピー像】
1. Typical pseudonetwork(定型的偽ネットワーク)・・・表面に数本の硬毛を伴いますが、その開大した毛包部分が色素沈着を免れるために、そこを網孔とした粗大な網状色素沈着を認めます。
2. Homogeneous pattern(均一パターン)・・・若年など色調が濃い場合は灰青黒色調の所見を呈します。逆に中高年になると黒色調がなくなり、淡い皮膚色の均一パターンになることもあります。
3. Globular pattern(小球状パターン)・・・若年者などで黒褐色を呈する場合には小球が密に集まったパターンをとります。
4. Comma-like vessels(コンマ状血管)・・・時になだらかに曲がった毛細血管がみられることがあります。
同じ黒褐色でも、Miescher型母斑はダーモスコープのプローブをホクロの表面に押し当てると、母斑は柔らかいので押し寄せられて変形しますが、脂漏性角化症(老人性疣贅)では変形しません。
【治療】
治療は主に美容的な目的となります。大きく分けると外科的な切除方法と、レーザーによる治療があります。
手術療法は、部位、大きさなどで異なってきます。顔面の皮膚の余裕のある部位、眼瞼部や鼻翼部などではくり抜き法(open treatment)が良い適応となります。皮膚生検用のパンチを用いて皮膚全層を抜き取り縫合せずに創部を開放にして傷が収縮して自然に治癒するのを待つやり方です。しかし皮膚の張りがある頬や額などでは紡錘型に切除する方法などがとられます。例えていえば、ホクロを黒目とすると、手術創は白目も含めた大きさになるということです。(大原國章)
もう一つはレーザーによる治療法です。種々のレーザーがありますので、詳細は専門家に譲りますが、レーザー専門家の一人である葛西先生のコメントを挙げておきます。
炭酸ガスレーザーが多く用いられるようですが、最近はエルビウムヤグレーザーなどのより良好な結果が期待できる機器もあるそうです。
いずれにしても、術者の技量が大きく結果を左右するようです。(取り残し、瘢痕など)
*顔面のホクロはそのほとんどがミーシャー型である。このタイプは真皮内に逆三角形に楔状に深くまで病巣が達している。
*炭酸ガスレーザー治療を行う場合、特に中央部を深くまで蒸散する必要がある。
*術後瘢痕形成を防止するために周囲を広く滑らかに仕上げると良い。
*蒸散が不十分であった場合のホクロの再発は、若年者の平坦なホクロの方が起こりやすく、中高年の大きく隆起したホクロの場合はむしろ少ない。
*ミーシャー型母斑は発生直後の小さい時期は浅いが、成長に伴って、どんどん中央部が深くなる。20~30歳くらいの女性の直径2~3mmで、平坦からわずかに隆起した程度のホクロが最も深いと考える必要がある。高出力ですばやく仕上げることが重要である。
*中高年になるとホクロは大きく盛り上がって目立つようになりますが、色素産生能や被刺激性は低くなってくるので深部の母斑細胞を残しても再発しにくくなり、治療はより容易になる。
*頭部にもミーシャー型母斑はよくできるが、他の疾患との鑑別はより注意を要する。
このタイプの母斑の場合はやや浅めに削って少し細胞が残っても構わない。がっちり削って瘢痕性脱毛を生じるよりも多少の残りは毛髪で隠れるので、浅めの方が仕上がりは良い。
◆ウンナ( Unna)型母斑
ミーシャー型と比べると、少ないタイプですが、頚部、体幹部などに桑実状に盛り上がった軟らかい有茎性の結節としてみられます。
表面は凸凹になる場合と平坦な場合があります。色調は淡褐色から常色のことが多く、黒い場合は少ないようです。
【ダーモスコピー像】
1. Globular pattern・・・淡褐色、褐色の顆粒が規則的に散らばってみられます。
2. Strucureless pattern・・・淡褐色から淡紅色の無構造な色にみえることもありますが、褐色の小球やコンマ様の血管もみられます。
3. Exophytic papillary structure・・・表面が乳頭腫状に凸凹を示します。
4. Comma-like vessels・・・ひらがなの「つ」「く」「し」のようななだらかに曲がった毛細血管がみられることがあります。
Unna型母斑は組織学的には真皮内型の母斑で、大きく盛り上がっていますが、ミーシャー型と比べると母斑細胞は真皮の浅い部分に留まるのでレーザー治療はより容易になります。
これらのホクロは視診やダーモスコピー所見などから比較的確実に診断できますが、やはり中には基底細胞腫や悪性黒色腫との鑑別を要するものもあります。疑わしいものは病理組織で確認する必要性があります。
特に白人などの色の淡い人では基底細胞癌などとの鑑別が難しいこともあるそうです。
これらのホクロで、急激な変化をきたした場合は毛包からの細菌感染、出血、梗塞、機械的刺激、湿疹などが多いのですがいずれにしても皮膚科医の診断に委ねるのが肝要です。
参考文献
斎田俊明【編著】 ダーモスコピーのすべて 皮膚科の新しい診断法 南江堂 2012
葛西健一郎、酒井めぐみ、山村有美 炭酸ガスレーザー 治療入門 文光堂 2008
Miescher型母斑、ダーモスコープのプローブを押し当てると母斑は柔らかいので圧排し移動する.( wobble test)
数本の硬毛を有している.
半球ないし有茎性に隆起して、この例では表面は平滑、所々に褐色のglobuleを伴う.