成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma: ATLL)はT細胞の悪性新生物であり、菌状息肉症やセザリー症候群と共に皮膚T細胞/NK細胞リンパ腫に分類されています。ヒトT細胞白血病ウイルス(human T-lymphotropic virus type 1: HTLV-1)が原因として発症します。九州・沖縄地方を中心とした西日本に患者が集中しています。ただ、近年は人口移動によるとみられる大阪や東京などの大都市圏でのHTLV-1キャリアの増加傾向があります。本邦でのキャリア数は100万人程度と推定されています。 。ATL患者の約半数に皮膚病変を生じます。現在は対策がとられていますが、過去には母乳を介した垂直感染が主要な感染経路でした。60歳台に発症のピークがあります。ATLLはHTLY-1が感染したT細胞が腫瘍化し発症しますが、60~70年もの潜伏期間のあいだ多段階の要素が蓄積されて5%程度がATLLを発症すると考えられていて、キャリアからの発症数は年間1000人に対し、0.6~0.7人と推定されています。
海外では、カリブ海諸島、南アメリカ、中央アフリカなどに多くみられます。
西日本では30数年前から抗HLTLV-11抗体陽性の妊婦に対し、母乳中止、制限措置がとられ、HTLV-1キャリアが減少してきました。しかし、関西、関東圏でのキャリアの増加傾向を受けて、国は2010年から全妊婦に対して、抗HTLV抗体検査を開始し、対策をとるようになりました。今後は母子間の垂直感染よりも男女間の水平感染が問題化されてきています。
【臨床症状】
臨床症状は多彩です。約半数に皮膚症状を認めます。皮膚症状はT細胞腫による特異疹とそれ以外の非特異疹があります。
特異疹としては菌状息肉症を思わせる斑や局面から腫瘍をも形成します。大きく以下の6つの型に分類されています。すなわち、紅斑型、局面型、多発丘疹型、結節腫瘤型、紅皮症型、紫斑型です。型によって予後に違いがあり、全生存期間は紅斑型が最もよく、次いで局面型、多発丘疹型、結節腫瘤型、紫斑型の順に悪くなり、紅皮症型が最も予後不良となります。
非特異疹としては免疫不全に伴って日和見感染症としての医動物、真菌、細菌、ウイルスなどによる皮膚感染症、乾皮症、後天性魚鱗癬、掌蹠角化症などが認められます。
病態の特徴や生命予後不良因子などを基に下山分類により急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型の4病型に分けられています。
1)急性型・・・血液や主要臓器で腫瘍細胞が急速に増殖している状態
2)リンパ腫型・・・リンパ節を中心に腫瘍細胞が増殖している状態
3)慢性型・・・血液や主要臓器で腫瘍細胞が比較的ゆっくり増殖している状態
この型は予後不良因子(LDH、アルブミン、BUNのうちいずれか1つ以上が異常値をとる)を持つ型と持たない型に2分されます。
4)くすぶり型・・・血液・皮膚・肺のいずれかに腫瘍細胞を認める状態
1)2)および3)の予後不良因子を持つ型は総称して「aggressive ATL」と呼ばれ急速に悪化する経過をとることが多く、一方、慢性型で予後不良因子のない型とくすぶり型は合わせて「indolent ATL」と呼ばれ比較的緩徐な臨床経過をとることが多いとされます。しかし中には急性転化することもあり注意を要します。
【病理組織】
皮膚病変では表皮ないし真皮に時に菌状息肉症を思わせる表皮向性の多形又は分葉化した核を持つ中型から大型の異型リンパ球の細胞浸潤を認め、Pautrier微小膿瘍を形成します。他のT細胞リンパ腫との鑑別のために特異疹にクローナルなHTLV-1プロウイルスDNAの組み込みを確認することが必要です。一般的に浸潤細胞はCD3+,CD4+,CD8-の表現型をとり、CD25は高頻度に陽性です。また大型腫瘍細胞がCD30陽性になる事もあります。腫瘍細胞のほとんどはCCケモカインレセプター(CCR4)を発現し、これは有意に予後不良と関係しています。
【診断・検査】
全身症状、皮膚症状、リンパ節腫大などでATLを含むリンパ腫を疑う場合は、血液検査で抗HTLV-1抗体と血液検査で異常リンパ球の有無を確認します(特に花細胞の有無が重要)。慢性型の予後不良因子の確認のため、LDH,アルブミン、BUNのチェック、カルシウム、可溶性IL-2レセプターを検査に加えます。(sIL-2R値; 低リスク群:1000以下、中リスク群:1000~6000、高リスク群6000超)
リンパ節を多数蝕知したり、血液検査で異型リンパ球を検出した場合は造影CTやFDG-PETを追加して皮膚外病変の検索を行います。血液ではフローサイトメトリー法によって腫瘍細胞の表現型を確認します。サザンブロット法による腫瘍細胞へのHTLV-1プロウイルスの単クローン性取り込みを確認します(妊婦保険適用)。
【治療】
治療方針はaggressive ATLとindolent ATLによって大きく異なります。
indolent ATLの治療方針の基本はaggressive ATLに移行するまでは、積極的な全身療法などはしないで経過観察するのが基本になります。
皮膚病変(特異疹)に対しては、皮膚を標的にした局所療法がなされますが、必ずしも生命予後を改善するわけではありません。
ステロイド外用、紫外線照射や放射線療法を中心とした局所治療が行われ、これらに抵抗性の場合にはレチノイド内服、インターフェロンγ療法、エトポシドを中心とした内服化学療法を追加ないし併用します。免疫低下に伴って生じる日和見感染症などに対する対策も重要です。
aggressive ATLに対しては、多剤併用化学療法や同種造血幹細胞移植などが適応となるために主として血液内科などの専門医による治療が主となります。詳しくは専門書を参照ください。
VCAP-AMP-VECP療法、CHOP療法など。抗CCR4モノクローナル抗体モガムリズマブ(商品名ポテリジオ)(同種造血幹細胞移植前のモガムリズマブの使用は移植片対宿主病(GVHD)などの移植後合併症のリスクが高まる可能性があるので注意。)
参考文献
皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
天野正宏 成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL) pp255-256
今日の皮膚疾患治療指針 第5版 編集 佐藤伸一 藤本 学 門野岳史 椛島健治 医学書院 東京 2022
濱田利久 成人T細胞白血病・リンパ腫 pp832-836