菌状息肉症(Mycosis fungoides:MF)は皮膚に原発するT細胞リンパ腫で最も多い病型で、その50〜60%を占めます。
【臨床】
菌状息肉症(Mycosis fungoides:MF)は、典型的には、境界が明瞭で明らかな隆起のない類円形から楕円形または馬蹄形の落屑性紅斑から始まります。臀部から、下肢、体幹に生じることが多く、頭頸部などの露光部に生じることは稀ですが、稀に顔面にも生じます。この場合は予後が悪い可能性があります。多形皮膚萎縮を伴うこともあります。これを紅斑期と呼びます。5〜10数年かけて一部の例では徐々に増数、拡大して盛り上がりや浸潤のある病変を生じてきます。毛包一致性の丘疹を伴うこともあります。この時期を扁平浸潤期と呼びます。紅斑期、扁平浸潤期を含めて一般的に早期MFと呼びます。
一部の例では、更に1cm以上の結節性病変または深部への増殖を示す潰瘍を形成します。これに伴って疼痛、局所感染を合併してきます。この時期を腫瘍期と呼びます。無治療で腫瘍期に至った場合は、紅斑や扁平浸潤局面、色素沈着などが混在し皮疹の多様性を呈することが特徴です。腫瘤で初発し、紅斑落屑など他の皮疹のない場合はMFと診断せず、他の疾患を考えるべきです。さらに一部の例では、全身の80%以上の紅斑や浸潤性局面を呈し、また腫瘍や潰瘍を形成する場合があります。これを紅皮症型菌状息肉症と呼びます。強い痒みや疼痛を伴います。腫瘍期、紅皮症症例を一般的に進行期MFと呼びます。さらに白血化し内臓にも腫瘍細胞が浸潤した場合は内臓浸潤期と呼びます。
セザリー症候群(Sezary syndrome:SS)は体表面積80%以上の紅皮症を呈し、全身性のリンパ節腫脹と、皮膚、リンパ節および末梢血に10%以上の腫瘍細胞を認める(B2基準)ことを主徴とするCD4陽性T細胞皮膚悪性リンパ腫です。de novoに生じる場合とMFに続発して生じる型があり、これを続発性セザリー症候群と呼び、この両者を病期の異なる一連の疾患とみる考え方もありましたが近年では臨床経過や予後の違いからも異なる疾患とされています。またMFは皮膚に留まるTRM(resident memory Tcell)でphenotypeは(CD69+、CD103+)で、一方SSは流血中とリンパ節を循環するTCM(central memory Tcell)でphenotypeは(CD62L+,CCR7+)で両者のサブタイプは異なっているとされています。
早期のMFは類乾癬との鑑別は困難であり、全ての類乾癬がMFに進行するわけではなく、約10%がMFに進行していくとされています。またMFの大部分の症例が早期に留まりあるいは緩徐に進行し生命予後も比較的によく、ごく一部が進行期MFになることは患者説明として周知しておくべき事象です(一般的に10年の経過で約10%が次のステージに進行して行くとされます。)
【病理】
紅斑部では、真皮浅層に軽度の核異型を伴うリンパ球様細胞が血管周囲性または帯状に浸潤し、表皮向性(epidermotropism)を伴います。個別にリンパ球が入り込ものから数個が集塊を作って膿瘍(Pautrier微小膿瘍)を形成するものまであります。真皮でのクロマチンに富む異型リンパ球は息肉症細胞(mycosis cell)と呼ばれます。病期が進行するに従って、異型リンパ球様細胞の数、密度が増えて、真皮深部へと浸潤し、異型も強くなる傾向があります。表皮向性はむしろ弱まる傾向が見られます。特に紅皮症の時期では表皮向性は認めないことが多く、注意を要します。腫瘍細胞は時に大型化して、通常のリンパ球の4倍以上の大きさになることがあり、大細胞転化(large cell transformation)と呼ばれます。
(大型リンパ球が浸潤細胞の25%以上みられるか、顕微鏡的に小結節状に増殖している状態)。腫瘍細胞は一般的にCD3,CD4が陽性でCD8が陰性であることが多いので(CD8+の例外もあり)、CD4とCD8の偏りは重要な所見です。
【診断】
臨床症状、経過と病理組織検査によって判断します。成人型T細胞白血病・リンパ腫(Adult T cell lymphoma/leukemia:(ATCL)を否定するために、採血して抗HTLV-1抗体の有無を調べておくことは必要です。病理組織では、表皮向性とPautrier微小膿瘍が特異度の高い所見ですが、これを認めない場合もあります。その際は免疫染色も有用です。腫瘍細胞は一般的にCD3,CD4が陽性になりますので、CD4とCD8比の偏りが参考になります。一方CD7は陰性のことが多いです。さらにT細胞受容体遺伝子再構成検査が役立つこともあります。しかし初期の菌状息肉症では陰性のこともあり、これのみで診断は決定できず、総合的に判断する必要があります。
【治療】
MFは、多くの場合ゆっくりと進行する疾患ですので、基本的に病気と共存していく考え方が重要で、治療方針は、できるだけ副作用が少なく持続可能なものを選択し、主として腫瘍期までは、ステロイド外用、ナローバンドUVBやPUVAなどの紫外線療法などが行われます。
治療抵抗性の浸潤局面や腫瘤に対しては、電子線、X線が使用されることが多く、近年は8~12Gy程度の低線量の電子線が多用されます。
全身療法では、インターフェロンγやビタミンA誘導体レチノイドのベキサロテンがよく用いられます。ベキサロテン(タルグレチン150~300mg/m2,分1)は紫外線に奏功しない例で繁用されますが、脂質代謝異常、甲状腺機能低下などの服作用に注意が必要です。
さらに進行期では(ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬(ボリノスタット)や抗CCR4抗体(モガムリズマブ、ssに奏功)古典的抗がん剤を使用する治療法が選択されますが、詳しくは血液内科の専門書を参照してください。唯一、同種造血幹細胞移植のみが長期寛解を期待できる治療法であり、進行期の若年者に対しては考慮するべき治療法です。
参考文献
日本皮膚科学会ガイドライン
皮膚悪性腫瘍ガイドライン第3版 皮膚リンパ腫診療ガイドライン2020 皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン改訂委員会 皮膚リンパ腫診療ガイドライングループ 委員長 菅谷 誠 日皮会誌:130(6),1347-1423,2020(令和2)
皮膚科臨床アセット 13 皮膚のリンパ腫 最新分類に基づく診療ガイド 総編集◎古江増隆 専門編集◎岩月啓氏 中山書店 東京 2011
菅谷 誠 Ⅱ 各論 18 菌状息肉症の臨床と病理 pp84-89
今日の皮膚疾患治療指針 第5版 編集 佐藤伸一 藤本 学 門野岳史 椛島健治 医学書院 東京 2022
菅谷 誠 25 リンパ・造血組織系皮膚腫瘍 B 悪性腫瘍 菌状息肉症、Sezary症候群 pp830-832
標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃 医学書院 東京 2020
戸倉新樹 第Ⅳ編 腫瘍・母斑性皮膚疾患 第23章 皮膚悪性腫瘍 D 悪性リンパ腫とその類症 pp382-399
宮垣朝光 皮膚T細胞リンパ腫 pp253-254 皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 南江堂 東京 2023
JDA eSchool eLecture 特別講座
岩月啓氏 皮膚T細胞リンパ腫の病型と診断