ハンセン病、病因・病態・病理

 ハンセン病は皮膚と末梢神経に病変を生じる慢性の抗酸菌感染症です。先に述べたように近年では日本では年間数名程の発症で、しかも日本人の発症は沖縄を含めここ数年みられません。アジア、南米などの多発地域からの在日外国人にみられる程度です。らい菌に対する細胞性免疫反応の強弱によって、菌数、臨床症状も大きく異なってきます。
【病因】
らい菌(Mycobacterium leprae)による感染症で主に皮膚と末梢神経が侵されます。らい菌は長さ1~8μm,幅0.3~0.5μmの好酸性桿菌で、細胞内に寄生・増殖します。マクロファージ内で松葉状に集合し、あるいは「らい球globi」を形成します。感染経路は多数のらい菌を有している患者の膿汁・鼻汁・唾液からの呼吸器感染と考えられ、幼少児期の濃厚で頻回のらい菌曝露で感染が成立します。大部分が家族内感染と考えられています。長期間(数年から数十年)の潜伏期を経て発症します。ただ、感染力は弱く発症には栄養状態、衛生状態など、さらに個人のらい菌に対する細胞性免疫の強弱なども関与します。
【病態】
Ridley-Joplingは細胞性免疫の働きの多寡より、本症のスペクトラム分類をしました。すなわち細胞性免疫が全く働かない型をらい腫型(lepromatous leprosy;LL型)と位置づけ、他方細胞性免疫が亢進している型を類結核型(tuberculoid leprosy;TT型)と位置づけ、その中間に種々の程度に細胞性免疫が低下している境界型(borderline group; B群: BL,BB,BT)を置きました。またこれらのいずれにも相当しない初期の病型を未分化群(interminete group;I群)と呼びます。この分類はハンセン病の病態をよく反映しているとして流用されています。
 一方WHOでは治療面で簡略になるように、病変部が6か所以上の多菌型(multibacillary;MB)と5か所以下の少菌型(paucibacillary;PB)の2型に分けています。多菌型はLL,BL,BBで、少菌型はTT,Iが相当します。またBTは両者の型で認められます。この分類は病理検査が不要で開発途上国向きです。PBではスメア検査が陰性でMBでは陽性のことが多いです。

 病態も臨床症状も次に述べる4つの組織の障害の状況によって異なってきます。
1)先に述べたように細胞免疫(cell-mediated immunity :CMI)の多寡により、LL,TT型が決まってきます。LL型では、細胞免疫は働かず、ライ菌は増殖し、全身に拡がります。活性化リンパ球、マクロファージが働かないため、神経障害は緩徐です。一方TT型では、細胞免疫が強く働くために、感染は1か所乃至数か所に限定されます。リンパ球浸潤により早期に神経障害をきたします。
この両者の間にあって、種々のタイプのB型を生じます。
2)らい菌の増殖、拡大の程度。
LL型ではらい菌は血行性に拡大し、特に低体温部位(らい菌の至適発育温度は30~31度)、表在部位に散布されます。眼、上気道粘膜、睾丸、手足や顔の皮膚、末梢神経などが侵されます(MB)。
TT型ではらい菌の増殖は制限され、また菌の検出はわずかになります(PB)。
3)免疫学的組織障害(らい反応)
境界群(Borderline)では免疫学的に不安定で時にらい反応を生じます。1型反応は遅延型免疫反応で、ライ菌に対する、皮膚、神経でのらい菌抗原に対する過剰な反応によります。発熱、発赤、浮腫、神経麻痺など。
2型反応はらい性結節性紅斑(erythema nodosum leprosum :ENL)でBL,LL型(主にLL型)でみられます。発熱、発汗、頭痛、関節痛を伴い、急激にEN様の紅褐色局面、皮下結節を生じます(熱瘤)。免疫複合体によるArthus型反応と考えられています。サリドマイドが奏功します。
Lucio反応はびまん性LL型に限定してみられます。ENLに比して発熱、圧痛、白血球増多は生じません。下肢に多く、出血、痂皮、潰瘍形成を繰り返します。免疫複合体が原因と考えられています。血管の虚血から閉塞、出血性梗塞、血栓がみられ、ライ菌が多く認められます。
4)神経障害と合併症
皮膚と末梢神経に生じます。
皮膚では皮膚の感覚神経と自律神経が傷害を受け、その部位の発汗が見られなくなります。末梢神経では表在性、または線維骨性トンネルが傷害を受けます。神経の径が大きくなることにより、圧迫を受け、虚血となります。それで末梢の知覚神経、運動神経の障害をきたします。神経障害は無感覚、筋肉萎縮、拘縮をきたします。結果、外傷、火傷、切傷などを繰り返し、長期に亘る不適切な手当で、潰瘍、感染症(蜂窩織炎、骨髄炎など)を繰り返し、変形、歩行不能をきたします。
【病理組織】
らい菌は神経組織に親和性があります。L型にしても、T型にしても初期は神経伝導障害を認めます。ターゲット細胞はSchwann細胞とされます。
TT型・・・類上皮細胞が神経周囲に浸潤し、周囲をリンパ球が取り囲みます。ラングハンス型巨細胞を含みます。一般的に乾酪壊死はみられません。抗酸菌染色ではまず菌は認められません。
LL型・・・大型で明澄なマクロファージが、血管、付属器、神経周囲に稠密に浸潤します。進行すると真皮全層に浸潤します。マクロファージ内には多数のらい菌とらい球(globi)を含み、古くなると泡沫状になります。黄色腫細胞に似ますが、抗酸菌染色(Fite法)でらい菌が認められます。表皮は菲薄化し、真皮最上層には侵されない層を残します(subepidermal clear zone, grenz zone)。リンパ球は見られず、代わりに形質細胞がみられます。
B群・・・LL,TT型の中間像を示します。
BL: LLとの違いはリンパ球がより多く、一部マクロファージの活性化があり、肉芽腫を形成してくるようになります。神経周囲の線維芽細胞が増殖していわゆる”onion skin”像を呈します。
BB: リンパ球浸潤は減少し、かわりにマクロファージが活性化し、類上皮細胞がみられ肉芽腫を形成してきますが、明瞭なものは見られず、また巨細胞もみられません。
BT: より肉芽腫形成が目立ってきます。神経、血管に沿って伸び、汗腺、立毛筋などを侵します。

参考文献

皮膚科学第9版 著・編 大塚藤男 原著 上野賢一 金芳堂 2015
第28章 皮膚抗酸菌感染症(大塚) 3.ハンセン病 pp820-827

今日の皮膚疾患治療指針 第5版 編集 佐藤伸一 藤本 学 門野岳史 椛島健治 医学書院 2022
27 細菌性疾患 Hansen病 山崎正視 pp914-918

Rook’s Textbook of Dermatology 8th Edi. Vol.4 WILEY-BLACKWELL
Edited by Tony Burns Stephan Breathnach Neil Cox Christopher Griffiths
Chapter 32:Leprosy D.N.J.Lockwood

Lever’s Histopathology of the skin 11th Edi. Editor-in-Chief:David E.Elder
Wolters Kluwer 2015 21 Bacterial Diseases Leprosy pp663-672