類天疱瘡 基本事項

類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドラインを基に基本事項をまとめてみました。

類天疱瘡群は表皮基底膜部に自己抗体が沈着して表皮下水疱を形成する水疱症です。
大きく類天疱瘡と後天性表皮水疱症に分けられます。また類天疱瘡は主な亜型として、水疱性類天疱瘡(主に皮膚に症状)と粘膜類天疱瘡(主に粘膜に症状)に分類されます。
この群の水疱のでき方の特徴は天疱瘡が弛緩性水疱を作り、すぐに破れやすいのに比べて、表皮下に割れ目ができるので水疱蓋は厚く、緊満性で天疱瘡に比べると破れにくい点にあります。従ってニコルスキー現象(擦って皮膚が剥がれ、びらんを生じる現象)は一般的に陰性です。
表皮基底膜部の構造は表皮細胞間よりも複雑で、多くの構造物、蛋白質が関与しています。したがって各々の標的抗原によって疾患亜型が異なっており、ななかな理解するのも難しいです。(また言葉で説明するのは難しく、百聞は一見に如かず、です。)
表皮基底膜付近の構造、構成分子はその道の専門家で「あたらしい皮膚科学」の著者である清水 宏 先生の教科書に明快に解説してありますので図を拝借してみます。引用を断ってはいませんが、この本はインターネットでも公開されていますので誰でもアクセスすればみることができます。ここに記されている構造蛋白質が標的抗原となって水疱を形成します。

表皮基底膜部の構造、構成蛋白は上記の様ですが、水疱性類天疱瘡患者抗体の主な標的蛋白はヘミデスモゾーム構成分子であるBP180(17型コラーゲン)とBP230です。BP180蛋白は膜貫通性蛋白であり透明体を貫通してヘミデスモゾームと基底板を直結しています。BP230は基底細胞内にある裏打ち蛋白でケラチンと結びついています。ラミニン332はⅣ型コラーゲンなどと共に基底板の構成蛋白で、α6、β4インテグリンを受け止めています。基底板の下にはⅦ型コラーゲンで形成される係留線維が半弧状にフックのように存在し、真皮のコラーゲンと基底板を強固に結合しています。これが後天性表皮水疱症の抗原となります。
【水疱性類天疱瘡】
🔷臨床症状・・・全身に多発するかゆみを伴う浮腫性紅斑・緊満性水疱・びらんが特徴。ニコルスキー現象は一般的には陰性。時に口腔粘膜病変を生じるが、ほとんどが皮膚病変なので粘膜病変を認めた場合は後に挙げる亜型を考える。血中の好酸球やIgEの高値の例が多いが病勢との相関ははっきりしない。
🔷最も多い自己免疫水疱症で尋常性天疱瘡の約1.3倍以上。また年齢的にはより高齢者の60-70歳代の例が多い。ただ稀には若年者、小児例や妊娠に伴う例もある。
🔷近年神経疾患(脳梗塞、認知症、パーキンソン病、てんかんなど)の合併率が高いとの報告が相ついでいるが因果関係など詳細は不明である。
🔷薬剤との関係も知られており、降圧剤、利尿剤(特にフロセミド)、抗生剤などとの相関が報告されている。近年、糖尿病治療薬のDPP-4(Dipeptidyl Peptidase-4)阻害薬内服との関連の報告が増加している(詳細は別項で)。
🔷悪性腫瘍との関連・・・同症では悪性腫瘍との関連があるとする報告が多いが、有意な関連はないとの報告もある。また血液系悪性腫瘍との合併率が高いとする報告もある。悪性腫瘍の治療後に水疱性天疱瘡の皮疹が軽快する例もあることから、難治例、高齢者においては悪性腫瘍の検索が推奨される。
🔷病態生理、病理所見・・・IgG自己抗体が表皮基底膜部に沈着する。標的抗原はヘミデスモゾーム構成蛋白であるBP180(COL17)とBP230である。BP180は膜貫通蛋白で、BP230は細胞内接着板蛋白である。主にBP180のNC16a領域(基底細胞の細胞膜に最も近い細胞外領域)に存在するエピトープに対する抗体が病原性を有すると考えられている。
水疱ができる機序は、抗体が抗原に結合した後、補体活性化を介して炎症細胞が局所に集まり、蛋白分解酵素により水疱が形成されるという考えの他に、抗体が抗原に結合することによって抗原が基底細胞内に引き込まれ、基底膜部の接着性がぜい弱化するという考えもある。抗BP230抗体の病原性の詳細は不明である。
またIgE自己抗体が基底膜部に検出され、膨疹や紅斑の程度と相関があるとの報告があるが機序の詳細は不明である。
🔷診断
・病理組織所見では表皮下水疱と水疱内および真皮の炎症細胞浸潤を認める。
・蛍光抗体直接法で表皮基底膜部へのIgGや補体の線状沈着を認め最も感度の高い検査法。
・蛍光抗体間接法で血中IgG抗表皮基底膜部自己抗体を検出する。1M食塩水剥離皮膚の表皮側に反応する。(1mol食塩水に正常皮膚を2日浸す、塩割りともいう。第70回中部学会 教育講演よりーー立石 千晴)
・ELISA(CLEIA)法でBP180,BP230分子に対する血中抗体を検出する。病勢に比例する例が多く診断のみならず治療にも有用であるが、感度、特異度は100%ではないのでこれのみでは診断できない。
・免疫ブロット法でBP180とBP230に様々なパターンの反応がみられる。
🔷治療
早期診断、初期治療が重要である。一般に尋常性天疱瘡よりもステロイドに対する反応は良好であるが、一部では難治である。(詳細は別項で)
【粘膜類天疱瘡】
🔷臨床症状
BP180(COL17)やラミニン332などの表皮基底膜部抗原に対する自己抗体(主にIgG)により、表皮下水疱やびらんが粘膜優位に生じる水疱症である。臨床的には主に歯肉などの口腔粘膜や眼粘膜にびらん性病変を生じ、治癒後に瘢痕を残すことがある。その他外陰部、肛門、鼻、咽頭、喉頭、食道などが侵されることもある。皮膚病変はあっても軽微である。
🔷疫学
比較的まれな疾患で水疱性類天疱瘡よりやや若年で発症する。しかし軽微なものは単なる口内炎、眼疾患として見過ごされている例もありうる。
🔷悪性腫瘍との関連
抗ラミニン332型の粘膜類天疱瘡では悪性腫瘍の発生率が高いとされているので注意が必要である。この型では固形癌も多く、眼、歯肉症状が多いとされる。
🔷病態生理、病理所見、診断
粘膜上皮下水疱を形成し、水疱性類天疱瘡より細胞浸潤が少ない。
・蛍光抗体直接法では粘膜上皮基底膜部にIgGやIgA、補体の線状沈着を認める。
・蛍光抗体間接法では血中に抗基底膜部抗体を検出するが抗体価が低いため検出率は低い。
・1M食塩水剥離皮膚を用いた蛍光抗体間接法で抗BP180型と抗ラミニン332型を簡易的に区別できる(食塩水中では透明層で皮膚は剥がれるために表皮側に反応すれば抗BP180型、真皮側に反応すれば抗ラミニン332型と判定できる)。
・正確にはBP180のC末端やラミニン332のリコンビナント蛋白を用いた免疫ブロット法が必要であるが実施できる医療機関は限られている。
・BP180NC16a領域のELISA(CLEIA)法では約半数が陽性となるが陰性でも否定はできない。
🔷治療
高リスク群と低リスク群に分けて治療方針が決められる(詳細は別項)。高リスク群に対しては尋常性天疱瘡の難治例と同様の対応がなされる。高リスク群では、重篤な眼病変による失明や食道病変による嚥下困難、喉頭病変による呼吸困難などが生じうる。
【後天性表皮水疱症】
🔷臨床症状
係留線維(anchoring fibril)の主成分であるⅦ型コラーゲンを標的とする表皮基底膜部自己免疫水疱症である。臨床的には肘や膝など外的刺激を受ける部分に水疱を繰り返して紅斑に乏しい非炎症型(古典型)と水疱性類天疱瘡に似た紅斑を伴った緊満性水疱を呈する炎症型に分けられる。前者が約1/3,後者が約2/3。上皮化後に瘢痕、稗粒腫を残す。爪の変形や萎縮、炎症後色素沈着、色素脱失を時に伴う。しばしば粘膜疹(口腔粘膜疹)を伴う。この両型は同一患者でも時期によって移行すること、同時に両者の病型を呈することがある。
🔷病態生理、病理所見、診断
・抗Ⅶ型コラーゲン抗体による自己免疫性水疱症である。
・病理組織学的に表皮下水疱を認める。
・蛍光抗体直接法では表皮基底膜部にIgGおよび補体の線状沈着を認める。
・蛍光抗体間接法では表皮基底膜部に対する血中自己抗体が証明される。1M食塩水剥離皮膚を基質とした蛍光抗体間接法では自己抗体は剥がれた皮膚の真皮側に反応する。
・免疫ブロット法では290kDaの蛋白(Ⅶ型コラーゲン)に対する自己抗体が検出される。
・Ⅶ型コラーゲンのNC1,NC2領域のリコンビナント蛋白を用いたELISA法が開発されて特異度も98%以上と高いが保険未収載である(2017年時点)。
🔷治療
症例数が少ないために、治療に関するエビデンスは少ない。水疱性類天疱瘡に類した治療が行われているが、治療反応性は低く、慢性に経過し瘢痕を残す例が多い。

日本皮膚科学会ガイドライン
類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン
類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン作成委員会 
日皮会誌:127(7),1483-1521,2017(平成29)