頭部白癬

頭のフケを見た場合、シラクモや頭虱も鑑別に考えておく必要があります。皮膚科診断を極める(宇原 久 著)では、皮膚筋炎、HIV感染症、天疱瘡、ランゲルハンス組織球症、脂漏性皮膚炎、接触皮膚炎(シャンプー、毛染め、化粧品)が鑑別に挙げてあります。脂漏性皮膚炎、接触皮膚炎、頭部白癬などは多くみられますが、それ以外は極稀れで、専門医試験レベルでしょう。それでも頭の片隅において置く必要があり、絶対に見逃してはいけない疾患と書いてありました。
それでcommon dideaseの一つである頭部白癬について一寸調べてみました。

頭部白癬とは頭の毛に白癬菌が寄生した状態です。一方、白癬菌の寄生した毛包を中心とした急性化膿性病変を生じた場合はCelsus禿瘡(ケルススとくそう)と呼ばれます。
【臨床症状】
臨床型はシラクモ型(gray patch ringworm)、黒点型(black dot ringworm)、ケルスス禿瘡(Celsus 禿瘡)に分けられます。
🔷シラクモ型
頭部に境界明瞭な類円形で灰白色の鱗屑をつけた炎症症状の少ない脱毛斑がみられます。毛は表面から3,4mmで折れやすいです。近年では動物(ペットのネコなど)からうつるM.canisが多いです。
🔷黒点型
脱毛病巣内の毛が断裂し捻じれて鱗屑の中にあるので、毛包に一致して面皰(黒にきび)様の黒点がみられます。脱毛斑が明確でないこともあります。菌種としてはT.violaceum, T.tonsurans、時にT.rubrumがみられます。とくに近年は格闘技(柔道、レスリングなど)選手間でのT.tonsurans感染が流行し社会問題にもなっています。
シラクモ型、黒点型と明確に分類できず、脂漏性皮膚炎に似た臨床型を示す場合もあります。これらは浅在性白癬ですが、いわゆる深在性白癬として、白癬菌が毛包から真皮に炎症をおこしたケルスス禿瘡があります。(この分類は日本独自で深在性真菌症とはまた異なります)。
🔷ケルスス禿瘡
上記に続いて、あるいは治療中に毛包に化膿性炎症を生じたものを呼称します。
初期では紅斑、膿疱がみられ、進行すると腫脹、結節、膿瘍を形成、脱毛局面を作ります。痛みがあり所属リンパ節腫脹がみられます。脱毛は治療後再生しますが、時に永久脱毛を残すこともあります。
【診断】
容易に抜ける毛をなるべく多く取り、鏡検します。菌種により毛内性、毛外性に増えるパターンが異なります。
菌の種類を同定するにはトンズランス感染症などではヘアブラシ法といって、シャンプーブラシで頭部を10~15回頭部をブラッシングした後、平板培地(サブローデキストロース寒天培地)に押しつけて培養する方法があります。
【治療】
原則として内服抗真菌薬を使います。以前はグリセオフルビンが使われていましたが、今は使われていません。
テルビナフィン(ラミシール)、イトラコナゾールの内服が国内外で行われています。
使用期間は毛髪が毛包から排泄される2~3か月が目安とされています。近年はホスホラブコナゾール(ネイリン)が爪白癬に有効で安全で多く使われるようになってきましたが、同剤は頭部白癬には適用がありません。
外用薬については、従来内服と併用するという意見と、むしろ炎症症状を悪化させる、また局所を湿潤させるために使用しないほうが良いとする意見がみられました。
基本は内服治療ですが、最近の論文では、外用が禁忌とする明らかなエビデンスはなく、軽症の浅在性頭部白癬では外用剤が有効であったとするものもあります。(マルホ皮膚科セミナー「第70回日本皮膚科学会中部支部学術大会➂ シンポジウム3-3
皮膚真菌症ガイドライン改定委員会で学んだこと」 東京医科大学 原田 和俊 2020.7.20)
合併症などの制約のために内服できないケースでは外用薬や抗真菌剤入りシャンプーなどを用いる場合もありますが、当然治療に時間がかかり、経過中に炎症症状が悪化することを事前に説明しておく必要があります。

*トンズランス感染症の問題点
本邦では格闘技、特に柔道選手間でのトンズランス感染症が問題点として指摘されています。
元々この菌は中南米における頭部白癬の原因菌として知られ、1990年代には欧米・韓国の格闘技選手間での発症報告がありました。海外から持ち込まれた菌がわが国では2001より報告され始めました。その後柔道クラブ内での集団感染が急増しました。全日本柔道連盟もパンフレットを作成し予防啓発活動を行っていますが、集団競技であり、日々選手間接触が避けられない事、入学、卒業で常に人の流入、流出があること、また無症候キャリアが存在することなどで根絶が難しい事が指摘されています。
地道な啓発活動と継続的な集団検診、医療機関との連携が必要とされています。

参考書

皮膚科臨床アセット4 皮膚真菌症を究める 総編集◎古江 増隆 専門編集◎望月 隆 中山書店 東京 2011