トキシックショック症候群

 黄色ブドウ球菌の増殖部位があり、そこで産生される毒素TSS(toxic shock syndrome) toxin-1, SE(staphylococcal enterotoxin) B,Cなどによって引き起こされる毒素関連性全身感染症です。インフルエンザ症状で始まることが多く、全身の紅斑を伴い、ショック、多臓器不全など重篤な症状を引き起こします。
 非常に稀な疾患で、英国では1年間に約40例の報告があるとされ数名が亡くなっています。死亡率は約2.5%といわれます。原因としては、約半数が生理時のタンポンの長時間使用などの誤用によるもの、他には産褥期、手術後、熱傷、傷の悪化などが挙げられます。近年はタンポン使用法の周知などで以前より、これによる頻度は減少傾向にあります。
 上記の毒素は、直接的な細胞障害性はありませんが、特異抗原と比べて非常に多くのT細胞を活性化するスーパー抗原と呼ばれています。TSST-1は抗原呈示細胞上のclassII分子に結合し、さらにT細胞受容体(TCR:T cell receptor)のVβ領域に結合することで、特定のVβを発現する膨大な数のT細胞を一気に活性化させます。これにより大量のサイトカイン(IL-1,TNF-α,IL-2,IFN—γなど)が産生され、さらにその他の免疫担当細胞にも影響を及ぼし、サイトカイン産生が暴走してサイトカインストームの状態となり、症状を増悪させます。
 皮膚症状はびまん性紅斑で猩紅熱様、日焼け様と表現されます。時には丘疹、膿疱、点状出血を伴う場合もあります。いちご舌や眼球結膜の充血がみられます。高熱と全身の発赤で突然始まり、病巣感染部位の明らかでないことも多く、ウイルス感染や薬疹などを考えて精査を始めていくうちに、嘔吐や下痢、ショック症状、失見当識、多臓器不全が急速に進行することもあり、極稀な疾患ながら臨床現場では常にこの疾患を念頭においていないと手痛い目に会うこともあるといわれます。
 発赤は1,2日で消退し、1週間程度で落屑を生じて治癒に向かいます。手掌足底は膜様落屑を生じ軽快までに2週間程度を要します。
 新生児にも発症することがあり、新生児TSS様発疹症(NTED:neonatal toxic shock syndrome-like disease) とよばれますが、黄色ブ菌の産生するTSST-1によって、一過性に全身に潮紅をみとめますが、成人に比べると軽症とされます(母体の抗TSST-1抗体の低下がNTEDの増加の一因と考えられています。)
 検査所見では白血球数、CRP、プロカルシトニンの上昇、血小板減少、凝固系因子の異常、DICなどを認めます。米国CDCではTSSの診断基準が発表されていますが全ての基準に合致しない例もみられます。(発熱、発疹、落屑、血圧低下、多臓器障害、除外検査)
 実臨床では、術後、熱傷などでは創部の浸出液、女性ではタンポン使用の有無、膣からの帯下の塗抹染色、細菌培養を心がけることが肝要です。
 治療は全身症状の改善、感染巣の治療、抗菌薬の使用を総合的に行う必要があります。近年は黄色ブ菌の中でMRSAの占める頻度が上昇してきており、その対応が必須となってきています。